想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「ファスト村の昔話」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

 この村は遠い遠い昔。勇者様が住んでおった。

 勇者様は各地でその剣を振るい。

 次々に悪者を成敗しておった。

 しかし悪者は尽きる事なく。

 戦いもまた、尽きる事なく。

 いつしかこの地へ戻り、その剣を収めたそうじゃ。

 故に若者よ、あの祠を開けてはならんぞ

 

 ──────

 

「な〜んだ。なんもないじゃん!」

「ホントだ〜!」

「脅かしただけじゃん!」

 

 7〜8歳ほどの子供たちが、古びた祠の前で悔しげに騒いでいた。

 彼らはこの片田舎『ファスト』の村に住む子供達である。言いつけを破っている彼らではあるが、魔物も比較的少ないここは人間領。

 その中でも、水切りとかけっこ程度しか娯楽がないこの村では、当然と言うべきか定期的にこの様なちょっとした冒険が行われていた。

 

 要は、村を出て魔物に襲われない様に。ちょっとした冒険心を満たす為。ただそれだけの為にここには祠が置かれているのだ。

 そう学び、大人になってから自分の子にも言い伝える。ソレがあの奇妙な昔話。そう、誰もが思っているのだ。

 

 ──だからこそ。

 

「えー!? みんな見えないの!? アレ!」

「わ!? なんだよ」

「〇〇ちゃん? 何にも無いよ?」

 

 彼女もそうである。と認識するべきだったのだ。

 ソレがたとえ、旅芸人から伝え聞く『勇者の剣』ソレに類似した、光り輝く『剣』だったとしても。

 

「えー!? 剣だよ! きっと勇者様の剣!!」

「〇〇ちゃん?」

「なんだー? 嘘つきかー?」

 

 少女が拗ねた様に頬を膨らませる。

 

 明らかにおかしい。あんなに凄そうな物があるのに、誰も信じてくれない。

 そもそもこの冒険を始めたのはあの子だ! それでも、嘘つき呼ばわりなんて、みんなでからかってるに違いない!! 

 

 そうして、少女が少年を押し退けてその手を剣に翳し、一気に引き抜いた。

 

 瞬間。視界を奪うほどの強力な閃光。

 自分の中に何かが流れ込んでくると共に激痛が走り、堪らず少女は意識を失った。

 

 少女は幸運だっただろう。すぐ近くで発生した連続する破裂音も、辺り一面を揺るがす割れる様な轟音も、一切聞く事は無かったのだから。

 

 ──────

 

「ん……んぅ……ふあ……」

 

 何か嫌な夢を見た。そんな気がする。

 モヤモヤとした不快感が、目覚めたあとも消えておらずソレを祓い飛ばそうと思い切り背伸びをする。

 

「あ、人間さん! 起きました?」

 

 そこに声をかけるのは、長いヒレのある特徴的な尻尾。そして青い髪にエプロンを付けた女性。

『魔族』の里の茶屋で看板娘を務める。魔族アーシアだ。

 

「あー、ごめんね。なんか疲れてたみたい」

「いえいえーほんとは。もっと休んでて欲しいくらいなんですよ? ここは、私たちの里ですからね!」

 

 このやりとりも慣れたものだ。

 と言うのも、数日前。この里に『魔物』の襲来があったらしいのだ。

 

 ……らしい、と言うのも。私はその戦闘で頭を打ったか何かしたらしく。ほとんど覚えていないのだ。話を聞くに、『忍』ちゃんが、命をかけてまでここを守ってくれたらしく。その証が、視界の端に見える黒木らしい。

 さすがにそんな状態で何もしない訳にもいかず、夜間の見回りを受け持った結果が、先程のうたた寝という訳だ。

 

「ジークは……相変わらずかぁ……」

 

 アーシアが持ってきてくれた煮汁を飲み、腹と喉を潤わせながら、視界を向ける。

 

 そこにはボーっと木に手を預けながら俯く男の背中。そこに蝙蝠羽の少女が話しかけに行っては、騒がしくしている様子が目に入り。なんとも言えない気持ちになる。

 

 ……本来なら、声をかけるのは自分の役割なのだろう。実際、今までだって、何かが起きれば話は聞いてきた。

 しかし、今回はそうもいかない。自分は仲間が乗り越えた死闘をどういう訳か覚えていない薄情者だし、『忍』と『戦士』は特に仲が良かった友人同士だ。

 いまさら、外野がとやかく言ったところでどうにもならないし、ましては今の自分が行った所でトンチンカンな事を口にしてしまうだろう。

 

「はぁ……魔導士さんも、頼るわけには行かないしなぁ……」

 

 帰ってくるなり、ローザスと言う魔族の屋敷に引っ込んでしまった仲間を思い出す。

 

 グッタリとした幼子を背負った彼が、この里に戻ってきたのは、その戦闘が終わった日の日没であったと言う。

 珍しく冷静さを欠いた彼は、背負った幼子を誰にも任せる事なく。唯一の書館があると言うローザス邸に閉じ籠り、ここ2.3日は姿を見ていない。

 

 そんな様子であるからには、マオちゃんに何かがあったのは明白であり、どうにも頼るわけにはいかないだろう。

 

「あと、数日。ソレでもダメなら……旅にでよう」

 

 荒療治かもしれないが、ここで腐っていても始まらない。幸いにも『忍』の隠れ里周辺は敵も少ない安全地帯だ。その先でどうにか気を取り直してくれれば御の字だろう。

 

「……何か、間違ったのかなぁ」

 

 ポツンと落とした呟きは、木々の擦れる音に消えていった。

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