コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
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ジーク君。君に、この本を貸し出します。
貴方の手に負えない、そんな事件が起きた時は、躊躇なく使用してください。
込められた術は3つ。
『魔力弾』『障壁』『通信』
前者二つは、ご存じの通り。魔力の塊を生み出します。
後者は、この本自体にかけられた術で、記載した内容が、別の本に転写される機能になります。
何かがあれば、コチラに書いて連絡してください。
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「そんなぁ……魔導士さん、ついてこないの?」
「ええ、私にはやる事がたくさんありますから」
暗い表情で言葉を紡ぐのは、我らが『勇者』。
あたりには崩れかけた家屋が散見し、ソレを支える様に育った不思議な植物が共存している。
非常に興味深く、奇妙な現象だ。
コレにより、周囲の魔力も稀薄になっており、『魔族』の人々が、疲労を感じやすくなっていることも興味深い。
しかし、ソレよりも優先するべきことが一つ。
「……うん。わかったよ。マオちゃんの事は任せるね」
現在は、ローザスの家で眠る幼子。
『魔族』の少女マオ。ここ数日を経ても目覚める事がなかった彼女を思い。少女が頷く。
しかし、その表情は暗く、いつもの元気が感じられなかった。
「ええ……そちらも。『忍』……アサハさんの里へ無事に届けてあげてください」
そんな少女の、隣に立つ男の方を見る。
「あぁ……」
ひどい顔だ。
まるで、自分の全てが悪いとでも責めるような。暗い影を負った表情。ソレに比例して一切感情を感じさせない平坦な返事。
全くもってらしくない。
戦士として、別れは初めてじゃ無い筈だ。
なんなら、男自身が奪う側だった事だってあっただろうに。
自分と、仲間たちは特別だと。
『英雄』に別れは無いのだと、そう勘違いでもしてたのでは無いだろうか?
「……。失礼。彼を借りていきます」
「え? う、うん」
いつも男がしてくる様に、肩に腕を回して強引にその場から連れて行く。
足は目立つ黒木の方へ、覇気もないただの男を連れて、その歩みを進めていった。
──────
「ふぅ……。ジーク。その……。……をやめなさい」
俯いてる俺に対して、男が何か言っている。
どうやら責めているらしい。
当たり前だ。戦況も見定められず、無為に仲間の命を散らした俺なんて。責められて当然。
むしろ、今まで責められなかったのがおかしいんだ。
「……。ダメか……」
情け無い俺を見て、男が深くため息をする。
ここ何日かでよく見た光景だ。
いつも、代わる代わるで話しかけては、何かを言って去っていく。
唯一。蝙蝠少女の言葉は明確で、俺に何が足りないか。視野の狭さを教えてくれたが。
アイツには感謝しても仕切れない。
「『変換』『装填』『火球』」
男の周囲に火が浮かぶ。
どうやら怒らせてしまったらしい。
大した火力もない、こけおどしだ。躱すまでもない。とりあえず喰らって、悪かったとでも言って置こう。
そう考え、目を瞑り……
焦げ臭い匂いが、背後から流れて鼻腔をくすぐる。
「……?」
ゆっくりと目を開き、背後を見る。
小石をぶつけた様な小さなコゲ跡。
ソレが一発。背後にあった黒木の幹に深々と刻まれている。
ソレに気づいた俺は。何も考えられず。
叫び声を上げながら、目の前の『敵』に切り掛かる。
「ァアアアアア!!」
「『障壁』」
ガキン、と剣と壁がぶつかり合う音が鳴り響く。
奴の盾は正面のみ。なら、回り込めば!
「『射出』」
視界の端で火球が空を舞う。
愚かにも、攻撃を選択した俺を無視して。えらくのろまな動きのソレはゆっくりと黒木に近づき、その傷跡を増やしていく。
「『解放』『旋風』」
そして、視線を逸らした愚か者は、砕けた壁より発生した突風を受け、そのまま木へと叩きつけられる。
「が、は」
「……弱い。弱すぎる」
火球を従え、見下ろす『魔導士』が失望した様に口を開く。
「そんな様で、誰が救える。迷った剣で、何を為せる」
男の言葉に歯噛みする。
そんな事はわかっている。だからこそ、戦い方を思い悩み、あの場面でどうすれば良かったか。何度も思い悩んできた。
「うるせぇ……!」
「何?」
「うるせぇってんだよ! お前に何がわかる! あの場に居なかったお前に!」
そして、だからこそ思考はいつも行き着いてしまう。ここに『魔導士』がいれば全て上手くいっていたのに。と。
「お前さえ、お前さえ居てくれれば! あの変な空も! 大量の魔物だって一瞬で消し飛ばせた!」
「……そうでしょうね」
「空から『鮫』が降ってきた時だって。お前ならきっと傷一つ無く防いで見せた!」
「……かもしれませんね」
「なのに! お前は。お前は!」
「そこにはいなかった。居たのは……貴方だ」
男の冷静な言葉に、信じたくなかった現実を直視させられる。片腕に持った『忍』の刀が、重さを増し、立っているのも辛くなっていく。
「現実は思い通りになんてならない。都合の良い事ばかりではない。君だって、『勇者』と会う前はそうだった筈だ」
「ぁ」
「不幸を呪い、誰かを憎む。そんなありふれた人間であったはずだ。……断言しよう。ジーク。君は、都合の良い物語の『主人公』ではない」
その言葉に、力が抜ける。
そうだ。勘違いをしていた。全て上手くいくと、自分達なら。『勇者』パーティなら、何でもできると……そう、思っていた。
「勘違いしてはなりません。貴方はただの人間です。『勇者』が守るべき弱い存在です」
そうだ、俺は力が人より強いだけ。頭も並以下で、どうしようもない馬鹿野郎だ。
都合の良い事なんて村ではなくて、バケモノとすら呼ばれていた。
だからこそ、助けてくれたアイツと旅に出て……
「ソレでもなお、『勇者』に着いていくつもりなら……迷いは捨てなさい。押し通すべき信念を抱いて。ただ実直に、突き進んでやりなさい」
『勇者』なんて、一線引かれてるアイツを、支えてやりたいと、そう思っていたんだ。
「は、ははは。そう、だよな。悪いな……慣れない頭使って、ボケてたらしい」
「……そうですか。なら、頭を使うのはやめておきなさい。貴方にはそっちの方が合っている」
焦げ付いてしまった幹を撫でる。
悔しいが、最初から、俺の剣は護るための物では無かったんだ。
隣に立つのはいつも、自分以上の使い手で、後ろからは頼もしい仲間がサポートしてくれていた。
「悔しいな……」
「でしょうね。でも、ソレが言葉にできたなら合格です」
「ウンウン、人間くんさ〜。うじうじしすぎ〜」
いつの間にか現れた蝙蝠少女が、肘で脇をついてくる。
思えばこの少女も、気にしてくれていたのだろう。仲間だけじゃなく、一時共闘しただけの相手に心配されていたなんて、よほど情け無い顔を晒していたに違いない。
「ありがとな」
「お、おう。気にしなくていいかんね〜?」
羽をパタパタさせる少女に笑顔を向ける。
照れくさそうにそっぽを向いた彼女に、感謝の念を送ると、改めて。『魔導士』の方を向く。
「俺は迷わないよ。きっと、アンタの分も、『勇者』を支えてみせる」
「ええ、頼みます。彼女は、優しい子ですから」
そうしてようやく見れた男の顔は、心配そうな笑みを浮かべていた。