想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

23 / 24
想起「戦士への選別」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

 ジーク君。君に、この本を貸し出します。

 貴方の手に負えない、そんな事件が起きた時は、躊躇なく使用してください。

 込められた術は3つ。

『魔力弾』『障壁』『通信』

 前者二つは、ご存じの通り。魔力の塊を生み出します。

 後者は、この本自体にかけられた術で、記載した内容が、別の本に転写される機能になります。

 何かがあれば、コチラに書いて連絡してください。

 

 ──────

 

「そんなぁ……魔導士さん、ついてこないの?」

「ええ、私にはやる事がたくさんありますから」

 

 暗い表情で言葉を紡ぐのは、我らが『勇者』。

 あたりには崩れかけた家屋が散見し、ソレを支える様に育った不思議な植物が共存している。

 非常に興味深く、奇妙な現象だ。

 コレにより、周囲の魔力も稀薄になっており、『魔族』の人々が、疲労を感じやすくなっていることも興味深い。

 しかし、ソレよりも優先するべきことが一つ。

 

「……うん。わかったよ。マオちゃんの事は任せるね」

 

 現在は、ローザスの家で眠る幼子。

『魔族』の少女マオ。ここ数日を経ても目覚める事がなかった彼女を思い。少女が頷く。

 

 しかし、その表情は暗く、いつもの元気が感じられなかった。

 

「ええ……そちらも。『忍』……アサハさんの里へ無事に届けてあげてください」

 

 そんな少女の、隣に立つ男の方を見る。

 

「あぁ……」

 

 ひどい顔だ。

 まるで、自分の全てが悪いとでも責めるような。暗い影を負った表情。ソレに比例して一切感情を感じさせない平坦な返事。

 全くもってらしくない。

 

 戦士として、別れは初めてじゃ無い筈だ。

 なんなら、男自身が奪う側だった事だってあっただろうに。

 自分と、仲間たちは特別だと。

『英雄』に別れは無いのだと、そう勘違いでもしてたのでは無いだろうか? 

 

「……。失礼。彼を借りていきます」

「え? う、うん」

 

 いつも男がしてくる様に、肩に腕を回して強引にその場から連れて行く。

 足は目立つ黒木の方へ、覇気もないただの男を連れて、その歩みを進めていった。

 

 ──────

 

「ふぅ……。ジーク。その……。……をやめなさい」

 

 俯いてる俺に対して、男が何か言っている。

 どうやら責めているらしい。

 当たり前だ。戦況も見定められず、無為に仲間の命を散らした俺なんて。責められて当然。

 むしろ、今まで責められなかったのがおかしいんだ。

 

「……。ダメか……」

 

 情け無い俺を見て、男が深くため息をする。

 ここ何日かでよく見た光景だ。

 いつも、代わる代わるで話しかけては、何かを言って去っていく。

 唯一。蝙蝠少女の言葉は明確で、俺に何が足りないか。視野の狭さを教えてくれたが。

 アイツには感謝しても仕切れない。

 

「『変換』『装填』『火球』」

 

 男の周囲に火が浮かぶ。

 どうやら怒らせてしまったらしい。

 大した火力もない、こけおどしだ。躱すまでもない。とりあえず喰らって、悪かったとでも言って置こう。

 

 そう考え、目を瞑り……

 

 焦げ臭い匂いが、背後から流れて鼻腔をくすぐる。

 

「……?」

 

 ゆっくりと目を開き、背後を見る。

 小石をぶつけた様な小さなコゲ跡。

 ソレが一発。背後にあった黒木の幹に深々と刻まれている。

 

 ソレに気づいた俺は。何も考えられず。

 叫び声を上げながら、目の前の『敵』に切り掛かる。

 

「ァアアアアア!!」

「『障壁』」

 

 ガキン、と剣と壁がぶつかり合う音が鳴り響く。

 奴の盾は正面のみ。なら、回り込めば! 

 

「『射出』」

 

 視界の端で火球が空を舞う。

 愚かにも、攻撃を選択した俺を無視して。えらくのろまな動きのソレはゆっくりと黒木に近づき、その傷跡を増やしていく。

 

「『解放』『旋風』」

 

 そして、視線を逸らした愚か者は、砕けた壁より発生した突風を受け、そのまま木へと叩きつけられる。

 

「が、は」

「……弱い。弱すぎる」

 

 火球を従え、見下ろす『魔導士』が失望した様に口を開く。

 

「そんな様で、誰が救える。迷った剣で、何を為せる」

 

 男の言葉に歯噛みする。

 そんな事はわかっている。だからこそ、戦い方を思い悩み、あの場面でどうすれば良かったか。何度も思い悩んできた。

 

「うるせぇ……!」

「何?」

「うるせぇってんだよ! お前に何がわかる! あの場に居なかったお前に!」

 

 そして、だからこそ思考はいつも行き着いてしまう。ここに『魔導士』がいれば全て上手くいっていたのに。と。

 

「お前さえ、お前さえ居てくれれば! あの変な空も! 大量の魔物だって一瞬で消し飛ばせた!」

「……そうでしょうね」

「空から『鮫』が降ってきた時だって。お前ならきっと傷一つ無く防いで見せた!」

「……かもしれませんね」

「なのに! お前は。お前は!」

「そこにはいなかった。居たのは……貴方だ」

 

 男の冷静な言葉に、信じたくなかった現実を直視させられる。片腕に持った『忍』の刀が、重さを増し、立っているのも辛くなっていく。

 

「現実は思い通りになんてならない。都合の良い事ばかりではない。君だって、『勇者』と会う前はそうだった筈だ」

「ぁ」

「不幸を呪い、誰かを憎む。そんなありふれた人間であったはずだ。……断言しよう。ジーク。君は、都合の良い物語の『主人公』ではない」

 

 その言葉に、力が抜ける。

 そうだ。勘違いをしていた。全て上手くいくと、自分達なら。『勇者』パーティなら、何でもできると……そう、思っていた。

 

「勘違いしてはなりません。貴方はただの人間です。『勇者』が守るべき弱い存在です」

 

 そうだ、俺は力が人より強いだけ。頭も並以下で、どうしようもない馬鹿野郎だ。

 都合の良い事なんて村ではなくて、バケモノとすら呼ばれていた。

 だからこそ、助けてくれたアイツと旅に出て……

 

「ソレでもなお、『勇者』に着いていくつもりなら……迷いは捨てなさい。押し通すべき信念を抱いて。ただ実直に、突き進んでやりなさい」

 

『勇者』なんて、一線引かれてるアイツを、支えてやりたいと、そう思っていたんだ。

 

「は、ははは。そう、だよな。悪いな……慣れない頭使って、ボケてたらしい」

「……そうですか。なら、頭を使うのはやめておきなさい。貴方にはそっちの方が合っている」

 

 焦げ付いてしまった幹を撫でる。

 悔しいが、最初から、俺の剣は護るための物では無かったんだ。

 隣に立つのはいつも、自分以上の使い手で、後ろからは頼もしい仲間がサポートしてくれていた。

 

「悔しいな……」

「でしょうね。でも、ソレが言葉にできたなら合格です」

「ウンウン、人間くんさ〜。うじうじしすぎ〜」

 

 いつの間にか現れた蝙蝠少女が、肘で脇をついてくる。

 思えばこの少女も、気にしてくれていたのだろう。仲間だけじゃなく、一時共闘しただけの相手に心配されていたなんて、よほど情け無い顔を晒していたに違いない。

 

「ありがとな」

「お、おう。気にしなくていいかんね〜?」

 

 羽をパタパタさせる少女に笑顔を向ける。

 照れくさそうにそっぽを向いた彼女に、感謝の念を送ると、改めて。『魔導士』の方を向く。

 

「俺は迷わないよ。きっと、アンタの分も、『勇者』を支えてみせる」

「ええ、頼みます。彼女は、優しい子ですから」

 

 そうしてようやく見れた男の顔は、心配そうな笑みを浮かべていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。