想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「花が彩る感謝の手紙」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

「ゆうしゃさまと、せんしさん、まどうしのおにいさんへ。

 

 おてがみでははじめまして

 おとなりさんのリリーです。

 

 おくすり、ありがとうございました。

 あれから、いたいところはなくなって、

 みんなとたのしくすごしています。

 

 あれから、おねえちゃんとおさんぽしたり、

 おかあさんのおてつだいをしたり。

 いろんなことをしています。

 

 いまがあるのは、まどうしのおにいさんのおかげだってききました。

 ありがとうございます! 

 おれいにおにわでみつけた、きれいなおはなをおくります。

 とってもきちょうなはな、らしいので

 だいじにつかってください。

 リリーより」

 

 ──────

 

「かぁー! こんな時代だからこそ、一回は見とくべきだったなぁ! 花の都!」

「花の都?」

 

 とある街、とある酒場で乱雑にバンダナを巻いた男が大声で隣の客に話しかける。

 花の都。そう呼ばれる街があった。

 

 様々な色の花に溢れ、森から流れる清流に穏やかに過ごす人々。そんな笑顔が溢れる街だ。

 

 しかし今はそのかけらも無く、今はただ花々がその街を覆い隠すのみ。

 ……それは何故か? 

 

「そりゃ無茶ってもんだろ、花がある限り再生しちまい、人をも養分にする魔族って話だ。そんなもんほっといたら『魔王』より危ねぇっての」

「ガハハ! 違いねぇ!」

 

 魔族の襲撃に遭ったのだ、それもおあつらえ向きに『花』を冠する強力な魔族。

 今まで、姿も形もなかったはずのそれは、突然。花の都に現れたのだ。

 

 ニヒルな笑みと共に酒を卓に並べた男の手から、ビールを掻っ攫うと勢いよく飲み干し、ジョッキを叩きつけながら男がさらに言葉を続ける。

 

「にしてもツイてねぇ……アレが現れたのは年に一度の花祭り、街の外からも人が集まり、これから一年楽しもうってとこだったのに……」

「あぁ、だからこそ魔族も現れたんだろうよ……」

 

 暗く表情を曇らせた男に相槌を打つと、遠慮なく椅子を引き同じ卓につく。

 追加で出された串物を乱雑に口に入れながら男は更に言葉を繋げた。

 

「だからってよぉ……何もあの日じゃ無くたっていいじゃねぇか……いや、そもそも俺が変わるに行っときゃアイツだって……」

「巻き込まれちまったのか……?」

 

 まるで自暴自棄の様に酒を飲む男の言葉に思わず顔を顰め、戦士は言葉を続ける。

 趣味が悪いのは分かってるが、情報収集しないわけには行かない。

 それこそ確実に、その敵を叩く為には入念な準備が必要だ。とは、カウンターで静かに盗み聞いている『魔導士』の言葉だ。

 

「ああ、うちの倅だ。商いのついでにいい思い出作ってこい……なんて……俺は、ァ……」

 

 とうとう泣き出してしまった男の背中を摩りつつ戦士は酒を煽る。

 辛い話だ。酒も不味くなる。

 俺たちだって、あの街に訪れた事はあるし、また訪れるのを楽しみにしていなかったわけじゃない。

『勇者』なんてすぐにでも人々を助けに行こうと駆け出したもんだから、なんとか言い含めて宿に押し込んでいるところだ。

『魔導士』だって心中穏やかではないだろう。何せ俺たちパーティに彼が加わったのは、あの街で出会い、その知恵と力を見込んでスカウトしたのがきっかけだ。

 生まれ故郷ってわけじゃないらしいが、それこそ一番腹に据えかねているに違いない。

 そんな状態で情報収集を提案してくれたんだ。少しでも話を聞き出さないと。

 

「あんたは悪くないさ、全部魔族の奴がいけねぇ」

 

 魔族に対する話に戻そうと毒を吐く。

 そうさ、何もかも、人を襲おうなんて思う奴が悪い。

 人だろうが魔族だろうが関係なく、悪い事をする奴が悪いんだ。

 そんな風に軽く考えている俺が癪に触ったのか、逆上した男が立ち上がる。

 

「ッ……く……、そんな言葉で! 割り切れってのか!?」

 

 ……まぁ、そりゃそうだ。悲しみに包まれて、頭ん中ぐちゃぐちゃで、理性なんて働きようがない。土足で踏み入った馬鹿は殴られて当然ってもんだ。

 そう思って衝撃を待つ俺の元に「バシッ」と小さな音が聞こえる。

 

「やめておけ、貴方の手が痛むだけだ」

 

 ローブに身を包んだ男が、殴りかからんとしている男の拳を受け止めている。その細腕から想像もできない力で受け止められた拳は、次第に弱々しく下がっていった。

 

「クソっ! 分かってる! 分かってるんだよんな事は! でも、俺には何にもできねぇ! アイツの仇を取るどころか、弔ってやる事だって!!」

 

 そう吠える男を前に、『魔導士』はその背後に薄く光る光輪を展開し、そして告げる。

 

「その役割は私が受け持つ。私は『魔導士』、魔力を操り人々の『救いの光』となる者だ」

 

 

 

 神々しくも光を背負った『魔導士』の姿に救いを見たのか、その後、涙ながらに話す男から情報を聞き、翌日。俺たちは旅立った。

 目指すは花の都、生命の息吹がかき消え、青に染まった、花の楽園だ。

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