想起「翡翠の魔導書」   作:風に逆らう洗濯物

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想起「魔物図鑑ー序文」

 

 

 コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。

 

 ー◇────ー

 

 人々が恐れる危険な生き物。それが『魔物』、そんな魔物にも種類があるのはご存知ですか? 

 

 大別するに大きく二つ。

『魔物類』か、『生物類』か。

 そんな風に分けられます。

 

『魔物類』は、皆さんご存知『魔族』の尖兵。ギルドの掲示板でいつも見かける、そう、アイツらです。

 スライムなどと言う変な水饅頭やら、ゴブリンやオークなど、数だけ多く、定期的に被害を出し続ける邪悪達。

 そんな一般的なヤツらが、『魔物類』に属しています。

 

 それに対して。

 

『生物類』は、現存する動物を模したような魔物群です。

 畑を荒らし、木陰で巣を作る事もあれば、気まぐれに動物の群れの中に混じっている事もある──そんな、「生き物に擬態した」忌々しい『魔物』です。

 ヤツらは時に人を襲わず、森の主などとして、信仰の対象になっている事もあります。

 いつか牙を剥くに違いありませんが……

 そんな、潜在的な危険が『生物類』に属しています。

 

 本書では、そんな恐ろしくも不気味な『魔物』たちを見分ける方法が記されています。

 

 ──────

 

「やーだ! この子飼う!」

 

 とある村、とある森の入り口で、少し大人に近づいてきた少女が、駄々を捏ねるように腕を振り回している。

 

「ばっ、おま。何歳だと思ってんだ! 恥ずかしいからやめなさい! メッ!」

「やーだ! 連れてってくれるまでやめない!」

「無理に決まってんだろ! そんなん連れて村入ったら依頼主が卒倒するわ!」

 

 年相応の騒がしさを見せるのは、我らが『勇者』。

 選定の『剣』に選ばれ。魔王討伐という崇高なる使命のため、若くして旅を続ける生ける伝説だ。

 

 ……とは言え、行く先々で関係ない依頼に首を突っ込んでいる彼女が、それを覚えているかはわかりませんが。

 

「仲良しですねぇ……」

 

 しみじみと呟く男を他所に、『勇者』と『戦士』が揉めている原因は少女の足元にあった。

 ふわふわの毛並みに、心なしかションボリと耳を垂らした小柄な動物。いわゆる、子猫と言うヤツだ。

 

「だーめだ! だいたいソイツがいなかったらこの森はどうすんだよ!?」

 

 問題は、その猫の額に翠に輝く紋様が浮かんでいること……。まぁ、要するに『魔物』なのだ。しかも、依頼主に調査を頼まれた森。その『森の主』の幼体である。

 その重要性は計り知れず、生態系を崩しかねない案件である。

 

「もう一匹いたから大丈夫だもん! なんなら……! 結界でも張ればいいじゃん! ──魔導し「却下です」……なぁーんーでー!?」

 

 当然、その要求を通す訳がなかった。

 口出しして無かったのは、何も彼女に同意する為ではなく、二人のやり取りを楽しんでいただけである。紛らしくてすまない。

 

「理由はいくつか、どころか無限にありますが。そもそもの話。この子猫がいなくなったら『森の主』が悲しみますよ?」

「ぐぬぬ……子どもがいなくなったら、確かに悲しい……」

「でしょう?」

 

「でもなぁー」と名残惜しそうにする少女を戦士に任せて子猫に近づく。

 いくら魔物とは言え、被害がないなら退治する必要もない。しかし、この子の様にあまりにも危機感がないのも問題だ。

 そう思い、首を傾げる子猫の前に鍋を置き、手のひらに炎を灯して、ナイフを片手に口を開いた。

 

「さぁて、今日の食事は、コイツにするかぁ……」

 

 意識して低く、平坦な声で。子猫に向けて食器を向けて……

「ダメーッ!」という愉快な声と共に頭に走る衝撃。毛を立てつつ脱兎のごとく逃げ去る子猫を尻目に、スッと立ち上がる。

 

「じゃあ、行きますか」

「ふぇぅ、この人怖いよー……」

 

 何故か涙目の少女に、ドン引きしてる戦士を促しつつ、私達は依頼主に報告するべく、村に向かったのだった。

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