想起「戦士の日誌」
コレは記録、遠い世界。どこかの誰かの、記憶のカケラ。
ー◇────ー
うちの村には、定期的に超人が産まれる。
高い身体能力を持ち、背丈の倍にもなる大岩を持ち上げたり、飛び越えたり。
そんな到底、人間とは思えない存在だ。
それにも関わらず。
若干物分かりが悪かった俺は不気味がられて、家族からも除け者にされちまった。
だからこそ、そんな俺と一緒に笑って。村の外にまで連れ出してくれたお前の事は、本当に大切に思ってるんだぜ?
──────
「ジークぅ。買い物行こー! ねぇ! ジーク!」
ドンドンドンと宿の扉を叩くのは、我らが『勇者』さま。なんだかんだで気楽な旅を続ける彼女だが、年相応に着飾ることにも興味あり、定期的に街へ繰り出しては、装備の補充と言う名のファッションショーを繰り広げる悪癖がある。
資金的にも良いとは言えない悪癖だが、その相手に俺を選んでくれる事に、少し嬉しくもある。
「わぁったから扉を叩くな! 迷惑でしょうが!」
お前の方がうるせぇよと言わんばかりに、ジト目で睨みつけてくる『魔導士』を尻目に椅子に引っ掛けておいた上着を羽織る。
さっと腕を通し、扉を出ようとして、背後から飛んできた物をキャッチする。
「忘れ物です……記念日くらい男を見せてやらないと、失望されますよ」
飛んできたのは、それなりに重さを感じる巾着。はて、何の記念日だったかと首を傾げ、思い出す。
「あ、当たり前よ! アイツとの旅が始まった日ぐらい覚えてらぁ!」
「なら、いいです。私は研究がありますので……」
嘘である。クッソ忘れてた。
てか、パーティに入って半年程度の男が全く関係ない記念日を知ってる事にビビっている。なんで知ってんだアンタ。
「……数日前からソワソワしてる連れが居れば、普通、何かあるのには気づきます」
そう言う事らしい。
頭のいい奴は、目の付け根が違った。
感心のあまり立ち止まった俺のもとに、またドンドンと騒がしい音が聞こえ、慌てて部屋から飛び出したのだった。
──────
「フンフーン♩」
「ご機嫌だな?」
鼻歌交じりに街中を歩く少女の隣を、そう歳の変わらない青年が歩いていく。
年は15か16くらいだろうか。
雲の様な菓子を片手に、上機嫌であることを隠さずに街中を散策している。
「ふっふっふ、実は今日は……スペシャルゲストを呼んであるのです!」
「ゲスト?」
男が首を傾げる。
ゲスト、と言われてもピンと来ないのである。
特にこの少女に関しては、行く先々で友好を広げ。時に助けて、時に手合わせを挑まれてと、該当の人物が無数に存在するのである。
その中で自身とも関わりが深い人物と言えば……
「心外。私はその程度の存在だった?」
気づけば背後に立ち、首元に何やら固い物を添えてくる黒装束の少女に、背負い投げを決行する。
「豪胆。そこがイイ」
空中でクルリと一回転し着地する少女の元に、『勇者』がパタパタと駆け寄っていく。
「さっすがアサハちゃん! 身体やわらか〜!」
『勇者』が話しかけて居るのは、『忍』。
もとい、昨年まで共に旅を続け、薬草の見分けや、野営の準備など。様々なことを担当してくれていた同年代の少女。アサハである。
現在は隠れ里に戻り、新たな修行に明け暮れて居ると聞いていた。
「久しぶりだな、アサハ。修行は終わったのか?」
「ん。暇だから抜け出してきた「帰れ」……草」「草じゃないが」
なんだ草って。相変わらず変な語彙をした女である。
とは言え、嬉しくないかと言われれば嘘になる。5年近く共に旅を続けていた仲間だ。久しぶりに会うのが嬉しくない筈はない。
チョップからヘッドロックに移行し始めた俺を他所に『勇者』が口を開く。
「もー! そんなこと言わないの! ほんとはわざわざ予定合わせてきてくれたんだから!」
そんな少女の言葉に視線を向ければ、無表情のまま指を立てる黒装束。
『魔導士』もそうだが、静かな奴ってのは判断に困る反応を返すことが多いが、コイツはその点分かりやすい。
「なら、そう言えよ。まったく……」
ため息と共に身を退けば、「残念」と言う一言。
……旅してた時より変人具合が加速してないか? コイツ。
「よーし! ではでは『勇者』パーティしゅっぱーつ!」
そう言って笑う勇者が、商店街に駆け込もうとして……。
空がパステルカラーに包まれる。
虹色の光が降り注ぎ、ガタガタガチャガチャとひとりでに動き始めるベンチを傍目に。
駆け出した『勇者』は、街中に現れた道化風のマネキンに一発。光り輝く拳を振り抜いた。