悪魔の現れるTRPG世界に転生してしまった   作:いかのしおから

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第10話「パズズ」

「今回の依頼人は、柊の友達だったか」

「え、ええ……正確には私の友達のお父さんですが。

……当初は断ろうとしたのですが、嘆願され断り切れず……申し訳ありません」

「お前が謝ることじゃない。

 前にも言った通り、依頼を受けるかどうかは俺が決めることだ」

 

 それにしても久しぶりの悪魔事件だ。

 ルサールカの一件から、何カ月ぶりになるんだろうか。

 

「しかし依頼内容が悪魔祓いとはな。

 初めから対象が悪魔だと明言されているのは珍しい、それほど明確な要素があったんだろうか」

「それは分かりませんが、このみちゃんのお父さんはリゾート地開発会社の社員さんだそうで、今は遊園地建設の責任者を務めているそうです。

 依頼内容もそれに関係するようでして。

 この先にこのみちゃんのお父さんの会社の社員さんたちが泊っているプレハブ小屋があった筈なので、そこでお話をお聞きしましょう」

 

 この不景気な日本で、よくやるものだ──

 

「──せ、先輩! あれ!」

「なんだぁ? ──!」

 

 柊の指さした方向には、驚くべき景色があった。

 ここは災害大国の日本。

 この国に住んでいて、災害に遭遇しなかった者は少ないだろう。

 噴火、津波、地震、台風など。

 だがしかし、日本には存在しない災害もある。

 

「……なんじゃ、そりゃ」

 

 竜巻──ハリケーンが砂塵を纏って吹き荒れていた。

 その砂塵の竜巻の中心には、翼を持った人型の悪魔が飛行している。

 悪魔は竜巻と共に凄まじい速度で移動し、地の果てへと消えていった。

 

==

 

 悪魔と竜巻に遭遇してから10分ほど。

 一先ず俺と柊は、リゾート開発会社の社員や依頼人がいるという、プレハブ住宅へと向かった。

 

「……これが、遊園地の開発予定地か、酷い有様だな」

「ですね……」

 

 作りかけの遊園地は、看板が剥がれ、鉄骨が曲がり、砂埃に塗れる、酷い有様だった。

 被害があったのは遊園地の開発地だけではないようで、少し離れた場所にある一部プレハブ小屋は屋根どころか壁すらも剥がれ、中から見える鉄骨すら捻じ曲がっている。

 とてもただの自然災害による被害とは思えない有様だった。

 

「あ、お父さん! あの二人です!

 あれが小夜子ちゃんと、荒木先輩です!」

「おお、ということは、こちらの彼がエクソシストの……!

 ようこそお越しくださいました! ひとまず中にお入りください!

 少々手狭ですが、先日窓を補強しましたので、外にいるよりかは安全かと思います!

 ほらこのみちゃん! 今すぐ冷蔵庫にある飲み物用意したげて!」

「かしこまりました!」

 

 なんというか、そそっかしい奴らだな。

 プレハブ小屋に入り一心地つけたので、一先ず俺から話を振らせてもらう。

 

「──とりあえず、一息吐けましたので自己紹介しませんか。

 俺は荒木明、こちらは知っているでしょうけど柊小夜子です。

 お二人の名前は?」

「畑健司です! この遊園地開発に携わっております!」

「畑このみです! お父さんの娘で、小夜子ちゃんとクラスメイトで友達です!」

 

 畑健司の外見は、如何にもな中間管理職のサラリーマンといったもの。

 媚びるようなもみ手に必死さが溢れる営業スマイルを浮かべている。

 畑このみの外見は、背丈が低く茶髪の三つ編みで、母親が美人だったのか、まあまあ可愛らしい顔立ちだが、媚びるようなもみ手と必死さが溢れる営業スマイルなど、仕草は完全に父親譲り。

 胡散臭いという感じはしないが、なんとも小者感あふれる親子だった。

 

「ここにくる道中、竜巻を纏って高速で飛行する魔人を見つけました。

 もしやあれが今回依頼された悪魔祓いの対象で?」

「! まさしくその通りでございます! 流石はエクソシストの荒木さま! 慧眼恐れ入ります! いやー荒木くんを呼んで良かったなあ!」

「……悪魔祓いの依頼と聞いて、あんなものを見れば誰でもあれが犯人だと思いますよ。

 とりあえず、経緯を説明してくれますか?」

「かしこまりました!

 娘からは伺っているとは思いますが、わたくし畑健司はリゾート開発会社に勤めておりまして、この度社員たちと共に遊園地の開発を行っていたのです。

 あと三カ月もすれば完成というところで──あの悪魔が現れたのです」

 

 竜巻を纏う、翼を持った魔人が、か。

 

「三日前、奴は竜巻を纏い、遊園地の開発予定地を横断していきました。

 もしかすれば悪意はなかったのかもしれません。 

 ですがたった一度の往来は遊園地の施設は吹き飛んでしまい、姿を頻繁に見るようになってからは、安全のため工事ができなくなり、開発は滞ってしまい、更には奇妙なことに社員が続々と熱を出して倒れてゆき……」

 

 ふむ。

 

「俺達が悪魔と遭遇した時、距離が遠く分からなったのですが、見た目は分かりますか?」

「ええっと、こちらに写真があった筈です」

 

 そうして見せてくれたのは、一枚の写真。

 頭は獅子で、手は獣のように毛むくじゃら。

 背中の翼は四枚、あと尻尾がサソリで、その、股間には蛇が生えている。

 

「……これはあれしかありえませんね」

「荒木くんはあの悪魔の正体を知っているのですか!?」

「はい、多分ですけど……パズズです」

 

 そんな見た目で、こんなことを仕出かすのは、パズズしかいないだろう。

 

「パズズは、アッカド地方では悪霊の王とも言われる大悪魔です。

 獅子の頭と腕を持ち、背中には四枚の翼、尾はさそり状で、股の間には蛇。

 干ばつや風と熱、一説によると蝗害すらも操り、更には熱病を操るとされています。 

 社員の皆さんが熱を出したのは、パズズの熱風を浴びたせいでしょう」

「な、なんと!?

 なぜそのような悪魔が日本に……」

 

 ここがそういう世界だからとしか言えない。

 悪魔と遭遇せず天命を全うできる者もいるだろうが、畑健司の元に悪魔が現れたのは、ただただ彼が不幸だった、それだけだろう。

 しかし、よりにもよってパズズとはな……。

 

「既に体感しているでしょうが、パズズはとても恐ろしい悪魔です。 

 自然災害の化身、意思を持った天災。

 あのように目に見えた災害を現世で起こせる悪魔は早々いません。

 一説によると、彼以上の悪魔はいない魔王だとも。

 俺達も今まで色々な悪魔に遭遇してきましたが、あれほど脅威的な悪魔と遭遇したのは初めてです」

 

 「エクソシストTRPG」における戦闘力で言えば脅威度5(天災)。

 今までこの世界で出会った悪魔の中では、ぶっちぎりの最強である。

 一応攻略法は存在するが、その手段が取れるか分からない。

 今まで何度も助けてくれた『金貨』の魔除けも一切通用しないだろう、ニコラウスは大聖人とはいえ、相手はあの魔王パズズだ、『金貨』ではなくニコラウス本人が顕現するならまだしも、『金貨』だけでは対処は困難だろう。

 ぶっちゃけこれが柊の頼みでなければ、恥も外聞もなく尻尾を巻いて逃げ出していたところだ。

 くそう、なんだあの竜巻、ビデオゲームの方のRPGの最終奥義の演出かよ、本当に逃げちまおうかな。

 

「お。お願いします! 私達を見捨てないでください! 私にできることは何でもします! ですのでどうかあの悪魔を! ……ほら、このみちゃんも頭を下げて!」

「お願いします荒木先輩! お父さんが事業に失敗して首になれば、家のローンが返せなくなります! この年で身売りはしたくありません! 私達にできることならなんでもしますので! 助けてください!」

「ちょ」

 

 そんな俺の逃げ腰の思考を察知したのか、畑健司と畑このみは土下座して、俺の足を掴んできた。

 二人は俺が頷くまで絶対に離れないという態度を取っている。

 おいやめろ、靴を舐めようとするんじゃない。

 

「あ! そうだ! 娘は少々性根に卑しいところはありますが、母に似た器量良しです! 悪魔祓いをしてくださった暁には、娘を恋人にいかがでしょうか!」

「え!? お父さん!?

……で、でも、知らないおじさんを相手にするぐらいなら……」

「娘を売るんじゃねえよ!

 そして、娘の方も真に受けるな!」

「……もしかして荒木先輩は、私よりお父さんの方がタイプなんじゃ」

「え? 私? でも私には愛する妻が……」

「お前も真に受けるな!」

 

 とんでもねえ親子だ。

 最近悪魔事件を避けがちな柊が、何故今回悪魔事件を持ってきたのか、その苦労が伺え知れる様子だった。

 それだけ切羽詰まった状況なんだろうが、ああもう。

 

「……はぁ、分かりましたよ。

 お金は勿論とりますし、危険なうえに成功は確証できませんが、一応対策があるので、やれるだけやってみましょう──」

「──待ってください先輩、この依頼は断るべきだと思います」

「……柊?」

「さ、小夜子ちゃん!?」

 

 止めたのは柊、彼女は毅然とした表情でこう続ける。

 

「だって、先輩は成功の確証はないと考えているんでしょう……?

 なら断るべきです、ここに留まって、あの悪魔に死ぬかもしれない危険を加えられるぐらいなら」

「で、でも小夜子ちゃん、こ、このままだと私、お母さんと一緒に……」

「それでも命には代えられません。

 今回は損を承知で逃げるべきです、生きてさえいれば人生いつかは巻き返せます」

「え、ええ……」

「そんな……」

「……」

 

 畑親子は愕然とした表情を浮かべていた。

 確かに今までの柊なら、俺を引き留めるどころか率先して背を押していただろう。

 おそらくは畑親子も今までの話を聞いて、柊は味方してくれると考えていたのかもしれない。

……お前やっぱり、未だに旅先での出来事を気にしてたんだな。

 

「なあ柊、お前はまだ前回の一件を引きずっているのか。

 気にするなって言っただろ」

「……先輩が、とても友達を大切にしてくださる方なのは分かっています。

 だから今まで私の紹介した悪魔事件の解決に尽力してくださったことも」

「……」

「確かに今回このみちゃんたちを紹介したのは私です。

 ですが先輩に死ぬ危機に瀕してまで、私の顔を立ててほしいとは思いません」

 

……心配してくれたことは嬉しい。

 逃げるように提言してくれたことも。

 俺としても悪魔は怖い、特にパズズは怖い、奴は今まで出会ってきた悪魔と一線を画す悪魔だ、逃げられるものなら逃げ出したい、死にたくない。

 彼女の発言は全てが俺の望み通りなものだった。

 

「……」

 

 だが、同時にこうも思ってしまうのだ。

……今までの柊なら俺を頼ってくれた筈なのに、と。

 

「──畑さん、その依頼、受けようと思います」

「……え?」

「おお……! ありがとう! 本当ありがとう……!」

「ありがとうございます荒木先輩!」

 

 本当は対策だけ教えて、逃げるつもりだったが気が変わった。

 ここに残って彼らと共に、パズズを迎え撃つ。

 動揺する柊と向き直り、言葉を続ける。

 

「柊、お前は逃げろ、さっきも言ったが、今回は本当に無事に終わるか分からない」

「……いいえ、先輩を置いて逃げるわけにはいきません。

 できることは少ないかもしれませんが、精一杯協力させていただきます」

 

……まあ、お前ならそう言ってくれるよな。

 

==

 

「──パズズは邪悪な冥界の魔王と恐れられる一方で、人々の信仰を受ける守護神でもあります」

 

 俺は現状病にかかっていない社員を集めて、説明会を行った。

 内容はパズズの正体と、その対策について。

 

「パズズの護符には、疫病をもたらす西風や、流産や死産をもたらす女魔神ラマシュトゥから人々を守る力があるとされており、護符を用意して身に着ければ、邪悪な魔神としての性質ではなく、人々の守護神としての性質をパズズから引き出せるかもしれません」

「おお……解決策があるのか!」

 

 そう言って盛り上がる社員たち。

 しかし、その喜びは長くは続かない。

 

「ただ一つ問題があるのは、俺がパズズの護符の作り方を知らないということです」

「な……」

 

 そう、そうなのだ。

 俺はエクソシストといっても、所詮はTRPGを遊ぶために身に付けたにわか知識しかない。

 悪魔全ての対処法を羅列することはできていなかった。

 

「なので次善策を二つ取ります。

 一つは周辺を探り、パズズの護符を見つけること。

 ここにパズズが現れたのが偶然でなく、何者かの意思が介入しているのなら、周辺で護符が見つかるかもしれません。

 おそらくそれが最も成功の可能性が高い攻略法になるでしょう」

 

 この世界は「エクソシストTRPG」だ。

 もしかすれば神の見えざる手が働いているかもしれない。

 もしGMがいるなら、何らかの攻略法は絶対に用意されているだろう。

 

「もう一つはパズズの像を作ること。

 パズズの像にもまた、悪魔を寄せ付けない魔除けの力が宿っているとされます。

 とはいえこちらもまた作り方は分かりません。

 像というだけあって、パズズの姿を模した物であることは分かりますが、分かるのはそれぐらいです。

 作ったところで作り方が間違っており、魔除けの力が宿るかどうか。

 そもそもパズズの魔除けの像がパズズに通用するのか。

 これらはある種の賭けになります」

 

 ごくりと、硬唾を飲む声が聞こえる。

 成功すれば生、失敗すれば死。

 会社を首になる覚悟で逃げるという選択肢もある。

 俺はそれを止めるつもりはない。

 だが、それでもというのなら。

 

「──もし失敗すれば、今度こそ遊園地を粉々に砕いてしまうでしょう。

 ここに残っていれば、あなたたちも仕事を首になるどころか命を失うかも分かりません。

 それでも皆さんに……困難に立ち向かう勇気はありますか?」

「……構わねえ! 今までは賭けすらできなかったんだ! このまま何もせず路頭に迷うよりずっといい! やってやるぞ!」

「おおおおおお!」

 

==

 

「結局護符は見つけられなかったが、像の方は結構な数作れたな……」

「ええ、一夜漬けにはなりましたけど……」

「うう、眠い……」

 

 俺はあくびをして、柊は霞む目を擦り、畑このみは船を漕ぐ。

 結局、護符は見つけることができなかったが、変わりにブルーシートの上には、パズズを模った像が幾つも置かれていた。

 木彫りの像、石像、銅像、小さな像、大きな像、抽象的な描写をした像、写実的な像など。

 その一部は俺や柊、畑このみの作品もある。

 

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの考えで作ってもらったが……この中から一つでも当たればいいんだが」

 

 何故パズズの像をこんなにもたくさん作ったのかというと、パズズの魔除け像が、どんな形なのかを知らなかったからだ。

 パズズの魔除け像は、像というだけあって、パズズの姿を模ったものなのは想像できるが、もしかすれば材質や様式に法則があるのではと考え、皆で製作したのだ。

 もっと時間がかかると思っていたが、社員の多くは普段工事をしている人々だけあって素早く仕事は片付いた。

 

「パズズにこの魔除け像が通用されることを祈るばかりだ──」

「おいおい、こんなところに人間がいるぜ」

「せっかくだから食っていこう、俺腹減っててさ」

「──っ」

 

──気が回らなかった。

 地中から割れたのは、人間の身体に鎖骨からへそまで縦一列の顔を5つつけた四体の怪物。

 遊園地の開発地周辺にいる悪魔はパズズだけではなかったのだ。

 パズズという未だかつてない大悪魔の脅威を前に気が動転し、他の悪魔がいる可能性が完全に頭から抜けていた。

 失敗した、これは初歩的な過ちだ。

 

「ひ、ひぃっ」

「せ、先輩」

「全員ここから逃げろ! 俺はここで悪魔の足止めをする!」

 

 数は4体、どいつもこいつも同じ姿の量産型。

 おそらくは大して名の知れない下等な悪魔なのだろう。

 だがそれは気休めにはならない、名の知れないということは、正体が分からないということだ。

 正体が分からなければ、弱点や攻略法を見つけられない。

……くそ、パズズの魔除け像は、その他の悪魔を寄せ付けないんじゃなかったのかよ。

 失敗した……!

 

「あ、荒木先輩、ご、ごめんなさい、わ、私、足が竦んで、動け……!」

「くっ……柊! 畑を引きずってでも向こうに──」

「──逃がすわけねえだろ、全員今から俺達の飯だ」

 

 取り囲まれた、まずいまずいまずい……!

 ただでさえ悪魔が相手で、更には一対四、その上守らなくちゃいけない非戦闘員が大量に背後にいる。 だが戦わなければならない、そうでなければ皆が──

 

「──おいてめえら、オレサマのシマでなにやってやがる」

「ぱ、パズズ……」

 

 終わった、そう確信するには十分だった。

 竜巻を纏って現れたのは、魔王パズズ。

 四体の悪魔に、パズズが加わった。

 状況は既に俺の制御下から離れた、もう俺にはどうしようもない。

──そう思っていた。

 

「──先輩」

「っ、まだいたのか、さっさと逃げろって──」

「成功しました……!」

「成功って、何が──」

「『ニコラウスの金貨』が運命を覆したんです……決定的な成功です!」

 

 なに……?

 決定的な成功、つまりはクリティカルということになる。

 なんの判定に……?

 

「ん……?」

 

 パズズはきょろきょろと視線を動かし、ある場所に視線を留める。

 それはパズズの魔除け像が置かれていた場所だった。

 

「ああ、なるほど、そういうことか」

「な、なんだてめえ、いきなりでてきて。

 こいつらは俺達が最初に唾をつけて──」

 

──悪魔の首が飛んだ。

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 振りぬかれたパズズの拳は、ソニックブームを纏いながら悪魔の首を捩じり飛ばしたのだ。

 凄まじい勢いで飛んでいった悪魔の首は、遥か先にあるコーヒーカップの中に入り込んだ。

 

「ふん!」

「ぐああ!?」

 

 続けざまにパズズは拳を振るい、次々に悪魔の首を吹き飛ばしてゆく。

 残ったのは首のない悪魔の死灰と、その中心に悠々と佇むパズズただ一人。

 クリティカルを引けたのは分かった。

 それによって、俺達が危機を免れたのも。

 だがパズズの動機が分からない、何故パズズは俺達を助けた。

 

「おい、この住処に置いてある像は、オレサマを模った像だよな?」

「……は、はい、その通りです」

「妙な形のもあるが、これなんかは結構いい線いってるな。

 オレサマに似て中々の色男ぶりだ」

 

……悪魔の美醜なんて分かんねえよ。

 

「はぁ……オレサマの信者だってんなら、さっさと言ってくれよ。

 そしたらお前らの住処を荒らさないよう、多少は気を使ってやったのに」

「え、ええと……パズズ様は、我々があなた様の信者であると考え助けてくださったのでしょうか」

「ああ? 当たり前だろ?

 俺の信者なら俺の物だ、誰とも知れねえ余所者にくれてやる理由はねえ。

……もしかしてお前ら、俺の信者じゃなかったのか?」

「い、いいえ! 信者でございます! 我々はパズズ様の信者でございます!

 悪魔の脅威から助けていただきありがとうございます!」

「うむ、感謝しろ感謝しろ、そしてオレサマを崇め奉れ」

 

 パズズの魔除け像を見たパズズが、他の悪魔を打倒した──これってもしかして、像の魔除けの効果が働いたってことでいいのか……?

 それともただ単純に、パズズのご機嫌伺いに成功しただけなのか。

 

「も、もしよければ供え物を受け取ってはくださらないでしょうか。

 パズズ様のために用意したものがあるのです」

「ほう……? いいだろう、今すぐもってこい」

 

 社員たちは急いで用意していた供え物を、パズズのところへ持ってくる。

 中身は果物を中心とした食料類。

 パズズは供え物を送ることで、病を撥ね退けてくれるという伝承がある。

 もしかすればパズズの病にかかった社員も救えるのではないかと考え、事前に用意するよう言っていた。

 

「これほどの供え物を用意するとは、中々やるな。

 今度からはお前らの住処を荒らさないよう進路には気をつけてやろう」

「あ、ありがとうございます!」

「あばよ」

 

 パズズは供え物を脇に抱えて飛び去った。

 常識外れの脚力で地面を蹴り、巨大なクレーターを作って、砂埃をまき散らしながら。

 俺達は全員砂埃に塗れてひっくり返り酷い有様だが、死傷者はいない。

 俺達は無事に生き残れた。

 

==

 

「先輩、このみちゃんから聞いたのですが、病気にかかっていた社員の皆さんは全員元気になり、その後無事遊園地は完成し、このみちゃんのお父さんは首を免れたようですよ」

「知っている、俺も畑から聞いた、最近畑のやつが付きまとってくるもんでな」

 

 場所は学校の校舎外にあるいつものベンチ。

 俺と柊は後日談を話していた。

 

「むむむ、遂に先輩の魅力が周りの人にバレ始めてしまった、ということでしょうか。

 いつかはこうなるとは思っていましたが、今まで先輩を独り占めしていた私としては、少々寂しい話ですね」

「親子そろってゴマすり気質なだけだろ。

 今は花の高校生、俺みたいな根暗野郎に長々と付き合う奴はいないさ」

「そんなことはありませんよ。

 今回の先輩はいつにも増して、かっこよかったのですから。

 私が今回このみちゃんの立場であれば、きっと先輩に惚れていたことでしょうね」

 

 相変わらずのぼせたことを。

 終始知識が足りず後手に回り、最後は柊の持つ『ニコラウスの金貨』に尻を拭われた俺なんかに、態々惚れたりはしないだろう。

 それこそ、余程のもの好きでもない限り。

 

「それに対して今回も私は、先輩を悪魔事件に巻き込んだだけでした。

 こんな私なんかが先輩と一緒にいていいのか、不安になりますよ」

「だけってことはないだろ、パズズの像を作るのは手伝ってくれたし、護符だって一緒に探してくれた、なにより最後に決着をつけたのは、お前の持っている『金貨』だ。

 そう自分を卑下することはない」

「でも……」

 

 確かに、柊は面倒事ばかり運んでくる女だ。

 自ら望んで悪魔事件に首を突っ込むくせに、悪魔に関する知識は備えておらず、更には俺を正義の味方だと勘違いして頼ってくる。

 こんな奴と付き合っていれば命がいくつあっても足りやしない。

 冷静に考えればさっさと縁を切った方がいい。

 それは確かに俺の本音だ。

 本音だった。

 

 だけど、そんな柊と過ごす日々を、居心地よく感じている俺も確かにいたんだ。

 

「──柊。

 確かに俺は、問題ばかり運んでくるお前に呆れていた。

 なんでお前と友達を続けているのか、疑問に思う時もあった。

 だけどさ、やっぱり俺は、お前と送る冒険を楽しんでもいたんだ」

 

 かつては気のせいだと思い込もうとした。

 そう心に蓋をして、自分の身を守ろうとした。

 今まで否定していた自分の本心を認めることに、気恥ずかしさもあったのだろう。

 

「俺一人でいれば、多分一生悪魔と関わることはなく、この知識を活用する機会にも恵まれなかっただろう。

 だからこそ、いつも面倒事を運んでくるお前には、呆れつつも楽しみにしていたんだと思う」

 

 友達は一人もいない。

 まともに交流があるのは家族だけ。

 刺激のない日々だが、悪魔と遭遇して死ぬぐらいなら、それでいいと思っていた。

 だけどやっぱり寂しくて、退屈で、そんな灰色の青春を、彼女は彩ってくれた。

 

「そして、なにより──俺を正義のエクソシストと呼ぶお前の期待に、俺は応えたいんだ」

 

 子供の頃に憧れた、特撮ヒーローたち。

 前世の記憶が蘇った時点で、彼らの生き方が如何に過酷で困難なものだと理解してしまい、早いうちに夢を追いかけることを諦めてしまったが、柊と過ごす日々は、あの日憧れたヒーローにでもなったような気分になり、心が満たされた。

 だからこそ、ルサールカ事件での失敗によって、柊が俺を頼らなくなったことに、強い悔しさを感じていた。

 俺は柊の信頼を、取り戻したかった。

 また、俺を正義のエクソシストと呼んで、頼ってほしかった。

 

「だから、これからも今までのように──」

「──でも、先輩は私のお胸に興味がおありのようですし、同年代に私ほど大きな胸を持った女の子はいなかったと思います。

 これまで悪魔事件を介して色々な種類の綺麗な方に会ってきましたが、先輩のお眼鏡には適わなかったようですし……」

「……」

「あ、先輩、何か言ってましたか?」

「なにも言ってねえよ、なにもな」

 

 うん、全て気のせいだ。

 こいつの期待に応えたい? 正義のエクソシスト?

 なにを世迷言をのたまっているのやら。

 

「もう一回言ってくださいよ」

「言わない」

「えー? なんで教えてくれないんですか先輩」

「……」

 

 俺はもう二度と悪魔なんかには関わらねえ、そう決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ありがとうございます、やっぱり先輩は正義のエクソシストです」

「? ……お前、今」

「なにも言ってませんよ、なにも、ふふ」

 

 

 第一章 完




 これにて一旦完結となります!
 ご覧くださりありがとうございました!
 投下中のお気に入りやコメント、高評価など、とても励みになりました。
 皆様の応援のおかげで小説を書く意欲が湧き、現在は「格闘ゲームの競技シーン」を題材にした物語を構想しております。
 「悪魔の現れるTRPG世界に転生してしまった」はここで一区切りとさせていただきますが、執筆活動自体は続けるつもりですので、いつかまたお会いできることを祈っています。
 それではまた会う日まで!
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