悪魔の現れるTRPG世界に転生してしまった 作:いかのしおから
天気は清々しいまでの快晴。
周囲は雑多な声で溢れている。
人込みはあまり得意ではないが、今日はそれほど気にならなかった。
なにしろ俺達が訪れたのはテーマパーク『ホーリーフレンズランド』。
かねてから予定していた一日が、ようやく始まったのだから。
「先輩、誘った手前で言うのもあれですが、本当に良かったのでしょうか?
受験勉強中だったんですよね?」
「たまには息抜きも必要だと思ってな。
……それにせっかく二つしかない参加枠に俺を誘ってくれたわけだし」
そう、柊は雑誌のハガキ応募で手に入れたペアチケットの相手として、俺を選んでくれたのだ。
あの老若男女問わず大人気の、幾つ人伝いにオカルト絡みの依頼を招き入れたか分からないほど広い交友関係を持つ柊がだ。
「そっちこそ本当に俺で良かったのか?
お前なら誘える相手はいくらでもいただろう」
「私には先輩以上に一緒行きたいと思える相手なんていませんから。
私は先輩と遊びに来れて、この上なく最高の気分ですよ、えへへ」
……嬉しいことを言ってくれるな。
「お! いました!
あれです! あの子です! あれがラッキーくんです!」
「……あれが柊の一押しか」
「先輩先輩! ラッキーくんと一緒に写真を撮りましょうよ!
ラッキーくんなら頼めば応えてくれる筈です!」
「……まあいいが」
「ありがとうございます!
ラッキーくーん、一緒に写真撮ってくださーい!」
「……にゃ」
柊の向かった先にいたのは、三頭身の三毛猫の着ぐるみ。
眉間にしわを寄せた三白眼で目つきの悪いブサ猫だ。
そいつは俺達に何の不満があるのか、ため息でも吐くように相槌を打った。
……遠路はるばる遊びに来た客に、ずいぶんな態度だな。
見た目だけでなく態度も悪い、こんな奴が柊の一押しなのか。
「お客様、もしよければ私が写真をお撮りましょうか?」
「あ、スタッフさん、是非お願いします!
さあ先輩、このラッキーくん猫耳をつけて、一緒に写真を撮ろうではありませんか!」
「はぁ? それを俺が……?」
柊の手に握られていたのは猫耳のカチューシャが二つ。
「先輩、ラッキーくんとスタッフさんをお待たせしてはなりませんよ!
さあさあ早くつけてください!」
「ぐっ」
ええい、仕方がない……今回だけだぞ。
「1+1は?」
「にー!」
「にゃー」
「に、にー」
「もう一枚お願いします」
「はーい」
二度目のシャッター音が鳴った後、俺はすぐさまカチューシャを外した。
ブサ猫もまた、ようやく面倒事から解放されたとでも言いたげに、そそくさと去ってしまう。
そんな俺達の態度に柊は不満一つ言わず、いつもの人好きする笑みを浮かべてスタッフからカメラを受け取った。
「ありがとうございます! 荒木先輩、スタッフさん、ラッキーくん!
一生の宝ものにしますね!」
「にゃ」
「どういたしましてー」
「……なあ柊、なんであんな奴が一押しなんだよ、クソ愛想悪かったぞ」
「ふふふ、そこに着目しますか、流石は先輩、お目が高い」
「はあ?」
……何を言っているんだこいつは。
「一見冷徹に見えるラッキーくんですが、実は困っている相手を見捨てられない優しい猫ちゃんでして。
主人公のホーリーちゃんも、作中で何度かラッキーくんに助けられているんですよ。
彼がああなってしまったのには、やむを得ぬ事情があるんですけど……そこはやっぱり本編に目を通していただきたいですね。
いやぁーそれにしても着ぐるみも可愛いかったですねぇラッキーくん。
クールな鋭い目つきに孤高でミステリアスな佇まい。
……でも人気投票はあまり振るってないんですよね。
友達からも可愛げがないとか言われがちですし。
そのせいでグッズも中々製造されなくて。
もっとラッキーくんの魅力が分かる人が増えるといいんですけど」
「はいはい、お前のラッキー愛は十分伝わったよ……」
蓼食う虫も好き好きってことなのかね。
「これでまた一人ラッキーくんのファンを増やせました。
ふふ、布教成功です。
では先輩、ファンになられた記念に一枚をどうぞ」
「? ……ああ、すぐ現像されるタイプのカメラだったか」
「はい! 今日のために買ってきました。
おーとても綺麗に写っていますね。
流石はホーリーフレンズランドのスタッフさんです、撮影がお上手です。
うちに帰ったら玄関に飾りましょう、先輩はどこに飾ります?」
「飾らねえし、頼むから玄関はやめてくれ」
貰った写真に視線を落とす。
右側には面倒くさそうにそっぽを向くブサ猫。
真ん中には猫耳カチューシャをつけて満面の笑みの柊。
左側には同じく猫耳をつけてぎこちない笑みを浮かべる俺。
持ってるだけでもこっぱずかしい写真だ。
……そういえば部屋に一つ、ずっと使っていなかった写真立てがあったな。
いやいや……別に飾る気はないんだけど。
==
「最後尾はこちらです!
サイドマウンテンコースターに乗りたいお客様はこちらにお並びください!」
「あっちか……結構並んでるな。
お前の言う通り、事前に飲み食いできる物を買ってきて正解だったな」
「遊びに来る前にしっかり調べておきましたから。
といっても祝日ではなく平日であればこんなに並ばずに済んだのでしょうけど」
「仕方がねえよ、俺達は学生だ、サボるわけにはいかない」
まあ、最近は悪魔事件のせいで結構授業を休みがちなんだが。
そうこう喋りつつ俺達は列に並び順番が来るのを待つ。
俺は正直、遊園地なんて殆どの時間を順番待ちに費やされる場所をデートスポットとして崇める世間の風習と、それに追従する思考停止したカップル共に、冷めた視線を向けているところがあった。
とはいえ今ならば彼らの気持ちも分かる気がする。
仲のいい異性と遊園地に行って列に並び、待ち時間にとりとめのない会話をする。
たったそれだけでも、俺は強い充実感を感じていた。
悔しいが、これは一人では決して味わうことのできない感覚だっただろう。
「皆様申し訳ありません!
機械トラブルが発生したため、当分の間サイドマウンテンコースターを停止します!
今のところ復旧の目途は立っておらず……大変申し訳ありません!」
「だ、大丈夫でしょうか……」
「……まあ、こんな日もあるだろう。
他にもアトラクションはあるんだ、そっちから回るぞ」
待ち時間を無駄にしたのは残念だが、一々腹を立てていてはせっかくの楽しい時間を台無しにしてしまう。
寛容な心で許し続いて並んだのは、いわゆる落下系のアトラクションだ。
「ご来場のお客様にご報告があります。
現在テンカちゃんのヒステリックフリーフォールは機材トラブルのため一時稼働を停止させて__」
「またかよ、大丈夫かこのテーマパーク……」
「あ、あれー? こ、こんな筈では」
まあいい、三度目の正直だ。
続いて向かったのはカップコースター。
他のアトラクションと違い列はなく、順番待ちをせずに乗れると思ったが__
「ご来場のお客様にご報告があります、現在ガーデン親子のゴマすりカップコースターは__」
「……これもしかして悪魔の仕業か?」
「えっ」
……まあ、案の定と言うべきか。
柊と遊びに来たからには、こんな落とし穴があるだろうとは思っていたけれど。
「今日はもう遊ぶどころじゃないな」
「そ、そうですね! 今は遊んでいるどころではありません!」
「ああ、帰るぞ」
「ええ、騒動を引き起こす悪魔を祓い__ええ!?」
何を驚いているのやら。
俺のスタンスはお前も知っているだろうに。
「俺の予想だと、今回騒動を起こしている悪魔はそれほど格の高い存在じゃない。
とはいえ。遊園地という大がかりな機械施設に溢れた環境。
そして犯人は機械に細工を施すことを得意としている。
更には来場客という人質候補が多数。
こんな場所でまともに戦えば、俺達も無事では済まないし、被害がどれほど広がってしまうか。
ここは無暗に刺激せず、テーマパーク運営に忠告する程度に留め、嵐が過ぎ去るのを待つように悪魔が立ち去るのを祈るのが賢明だ」
取れる安全策は取るべきだろう。
俺は無駄なリスクを負って死ぬのはごめんだ。
「……そうですか、なら諦めるしかありませんね」
「……お前ならもっと食い下がると思ってたんだが」
「先輩から見れば亀の歩みかもしれませんが、これでも成長しているんですよ。
歯がゆい気持ちはありますが、先輩がそう仰られるなら、諦めるしかありません」
「そうか……」
「はい」
うん、まあ、物分かりが良いのは助かるな……うん。
俺にとって大切のは自分と家族と友達だけ。
身内を守れるなら、他人がどうなろうが知ったことではない。
だからこれは俺の望み通りの展開だった。
ただ、その……予想していた会話の流れと違ったため、少し困惑してしまったというか。
俺は別に、悪魔を無視して家に帰るという決定に何の不満もないんだが__
「母ちゃん、父ちゃん……これにも乗れないの……?」
「そ、そうみたいね、他に乗れるアトラクションがないか探してみよう」
「ううう……ずっと楽しみにしていて、ようやく遊びに来れたのに……うえーん!」
「ごめんな和樹……」
……。
「ただまあ、せっかくこんな遠出をしていたんだ。
アトラクションの一つぐらいは乗って帰りたい。
それに特殊な能力を持っているとはいえ、所詮は低級悪霊。
上手くやれば最低限の消耗で祓える相手。
つまりは金を稼ぐチャンスだ。
金があれば装備が補充できる、装備があれば今後の悪魔事件の対策にも繋がる。
労働の対価として、テーマパークの管理者から幾らか金をせしめるとしよう」
「私、先輩のそういうところ、好きですよ」
「何の話だか」
「ふふふ……思えばこのくだり、久しぶりのような気がしますね。
まるで実家に帰ってきたような気分です」
どんな実家だよ。
==
「どう説明したもんかと悩んでいたが……ここで畑一家との伝手が役立つとはな」
「ホーリーフレンズランドの建設にも携わっていたみたいですね、あそこの会社」
現在、俺と柊はホーリーフレンズランドに存在するシアター劇場に身を潜めていた。
とはいえ客としてではない、本来関係者しか入れない舞台裏にだ。
事のあらましはこう。
報酬をせしめようにも、悪魔の存在を立証し、俺達が信用を得るのは難しい。
そんな時に役に立ったのが畑健司への伝手。
畑健司とは、かつて俺たちに悪魔祓いの依頼を持ってきた親子の父親だ。
彼はリゾート開発会社に勤務しているのだが、どうにもこのテーマパークの建設にも携わっていたらしく、彼に掛け合ってもらうことで、俺達はこのテーマパークの運営から信用を得ることができた。
そんなこんなで、テーマパークの協力のもと、俺達は人払いを終えたこの劇場の舞台裏で件の悪霊を待ち伏せできるようになった。
「先輩が予想する悪霊の正体は__グレムリン、でしたか」
「ああ、機械事故を起こす悪霊とされている」
「おさらいも兼ねて、もう一度説明を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「……そうだな、まだ作戦は始まっていない。
合図が送られるまでにおさらいしておくか」
「お願いします!」
携帯のディスプレイに記される時計を見るにまだ時間に余裕はある。
これなら説明しても問題ないだろう。
「グレムリンとはイギリスの妖精であり、悪霊ともされてる。
この悪霊は機械にとり憑き機械事故を引き起こす性質を持つ。
比較的現代に登場した怪異であり、最初に発見されたのはミシン機などを取り入れ始めたイギリスの一般家庭とされているが、その知名度を高めたのは英国空軍だろう。
飛行中の飛行機の機械事故は乗り手の死を意味する。
こういった理由から飛行機乗りには特に恐れられていた」
「ふむふむ」
「グレムリンがとり憑く対象は飛行機だけではなく、先ほどにも言ったミシン機。
それに加えて家電や自動車など、枚挙に暇がない。
機械の少なかった昔ならともかく、機械に溢れた現代だと、とり憑ける対象はそこら中にある。
これから時代が進むにつれて、グレムリンの脅威は増していくだろう。
これが低級の悪霊でありながら、遭遇を避けたかった一番の理由だ」
悪霊としての格はインプのような小悪魔とそう変わりはないだろう。
しかし「エクソシストTRPG」での脅威度は3(有害)。
時代の変化によって評価が一変した珍しい悪霊だった。
「そんなグレムリンにも攻略法は存在する。
それは飴玉を供えること。
グレムリンは飴玉を好んでいるため、当時の航空機工場では、グレムリンの気を逸らせすために飴玉を用意する風習があったそうだ。
一説にはビール瓶でも代用できたともされている」
「おお! だから先輩はスタッフさんにランドの飴玉をここに集めてくれと頼んだんですね!
……あれ? 供え物で解決できるなら、こんな風に待ち伏せをする必要はなかったのでは……?」
「それは根本的な解決にはならない。
供え物でやり過ごした場合、それ目当てにグレムリンがここに住み着く可能性があるからだ」
「あっ」
そう、一般家庭に住み着かれても面倒な悪霊だというのに、こんな大規模な機械施設に溢れるテーマパークに住み着かれては、商売あがったりどころか廃業待ったなしだ。
お供えは延命治療にしかならず、解決策にはなりえない。
事件解決を目指すなら、追い払うなり浄化しなければならない相手だった。
「とはいえ悪霊としての格はやはり低い。
グレムリンの持つ能力と時代の流れが妙に嚙み合っているだけで、対等な環境での勝負に持ち込めば、聖水だけでも祓うには十分だろう。
そこは安心していい__」
『__現在多発しているトラブルを改善するため、〝一部〟のアトラクション施設を除き、全ての施設の電源を停止させていただきます。
後ほど復旧しますので、ご来場のお客様はご安心してお待ちください』
「……来た」
ピンポンパンポンという効果音の後に、園内のスピーカーから流れたアナウンス。
「約束通りスタッフさん達は、この〝劇場〟を除いた全ての機械施設の電源を切ってくれたみたいですね」
「みたいだな……おそらくグレムリンは愉快犯だ。
お前もスタッフからの話を聞いていただろうが、機械トラブルで慌てふためく人々を見て、笑い声をあげて去っていったという。
つまりは機械を壊すことではなく、人間に嫌がらせをすることを目的としている。
……現在稼働している機械施設はこの劇場だけ、他の施設は停止中。
園内で売られていた飴玉もこの一か所に集めている。
グレムリンはきっと、供え物や嫌がらせのために、この劇場にやってくる筈だ」
不安はある。
グレムリンのプロファイリングが間違っていれば、奴はここにはやってこず、無駄にテーマパークの営業時間を浪費させただけになってしまうだろう。
それに客の携帯電話にまでは手が届かなかった。
そちらに矛先が向いてしまえばどうにもならない。
だがそれでも、最も被害を抑えてこの悪魔事件を解決できる方法の筈だ。
「先輩、今しがたメールが送られてきました。
どうやら悪魔と思わしき謎の小動物は、こちらのお化け屋敷に向かって、一直線に近づいてきているようです」
「よし、ならおしゃべりはここまでだ。
標的が来るまで隠れるぞ」
「はい……!」
そうして待つこと5分ほど。
15cmほどのネズミのような悪魔が、出入り扉の隙間から入り込んだ。
「えっ__」
悪魔は、グレムリンは、少し歩いた後に足を止めた。
いいや、止めさせられたのだ、足元に敷かれた絨毯の下にある結界に。
「かかりましたね先輩」
「ああ、俺はブレーカーを落としてくる。
柊はドアを閉めておいてくれ」
「わかりました!」
「な、なんだお前ら」
柊はすぐさま出入り扉を閉めに行った。
俺は機械を操られてしまわないよう劇場のブレーカーを落とす。
電灯は切れたが、非常用出口に灯る蛍光灯だけで明かりは十分。
俺達はバックから聖水鉄砲を取り出し、グレムリンに照準を定める。
「お、おい、この俺様に何をするつもり__う、動けねえ。
まさかこれが結界………!?
ってことは、お前らまさかエクソシストか!? 待て待て!
お前らは俺を別の何かと勘違いしている!」
「機械事故の悪霊グレムリンだろう、このテーマパークを荒らして回っている」
「ち、違う! 俺は悪霊なんかじゃない、ただの妖精だ!
ここを荒らしてもいない!」
「お前が悪霊かどうかは、この水鉄砲に入っている聖水で撃ち抜けば分かることだ。
言い逃れに付き合うつもりはない」
「くそっ……!」
聖水鉄砲に撃ち抜かれたグレムリンは、灰となり消えていった。
……そういえば結界や聖水鉄砲が決め手になったのは、これが初めてだったな。
==
空は赤く染まり、夕日が沈みかけている。
まだ閉館の時間ではなく、夜間に行われるパレードとやらも気になったが、悪魔祓いの気疲れもあったので、今日のところはこの辺で帰宅することにした。
「……先輩ごめんなさい」
「?」
「せっかく勉強時間を割いて遊びに来てくれたのに、またしても悪魔事件に巻き込んでしまって」
「ああ……お前のせいじゃないだろ、今回は偶発的な遭遇だった、謝る必要はない」
……まあ、また柊のトラブル体質が働いたのだろうと思いはしたが。
本人にはどうにもならない部分を責めたところで仕方がない。
「でも……」
「……こんなことを言うのは、自分でも柄じゃないと思うんだがな」
「え……?」
「俺はお前に感謝してるんだ」
「か、感謝ですか?」
「ああ、高校生活の間、彼女一人できなかった俺だ。
こういった思い出一つ作れず高校を卒業するのは、ちょっと寂しくてな。
お前のおかげで卒業前にいい思い出ができた、ありがとよ」
「せ、先輩……」
柊は目じりに涙を滲ませつつ、頬を赤らめ喜びの表情を浮かべている。
痛いほどに好意が伝わってくる反応があった。
「……思えば俺たちの関係は、お前が一人でいる俺を憐れんで声をかけてくれたのがきっかけだったな」
「そうですねぇ……ん? ……べ、別にそういった理由で話しかけたわけではありませんが……?」
「いいっていいって、俺に友達がいなかったのは事実だ。
当時のお前が俺に話しかける理由なんて他にないだろうし」
「いえ……ありますけど」
「え? あるのか?」
「ま、まあ……」
外見だけでもなく愛嬌にも恵まれ、誰からも愛される柊が、俺なんかに話しかける理由なんて憐みぐらいしか思いつかない。
にもかかわらずそれ以外にも理由がある?
「教えてもらっても、いいか?」
「い、言わないとダメですか?」
「……言いたくないなら無理に詮索する気はないが」
「……」
「……」
「……せ、先輩が」
俺が?
「先輩が___かったからです」
「? もう一回言ってくれ」
「せ、先輩がかっこよかったからです……」
「……は?」
俺がかっこいい……?
「……それって、何がだ? ……悪魔祓いができたことか?
いやでも、最初に話しかけてきた時のお前は、俺が悪魔祓いをできるなんて知らなかった筈だが」
「が、外見に決まってるじゃないですか」
「……ファッション?」
「違います」
「空気感?」
「それもありますが……顔ですよ。
先輩だって、美人がいればお近づきになりたいと思うでしょう?
それと同じです」
「……え、ええ……?」
……確かにインコの一つ覚えのようにかっこいいかっこいいと言ってくれてはいたが、それはあくまで人付き合いを円滑に行うための処世術だと思っていた。
もしくはエクソシストへの強烈な憧れから、認知が歪んで俺の顔が亀梨〇也の顔に見えるようになっただけかと。
だが悪魔祓いのあの字もしていなかった頃の俺が、柊から興味を持たれ声をかけられるのはやはりおかしい。
まさか本当に初対面の段階で、俺をかっこいいと思っていたのか……?
「も、もちろん先輩と接していくうちに、その人柄が素敵なこともわかってきましたよ?
顔だけを見ているわけではなく、その人柄にもちゃんと惹かれて__
……も、もう先輩はいじわるです。
あんまり分かり切ったことを私に言わせて恥をかかせないでくださいよ。
なんだか顔が火照ってきました、先に駅に行って待ってますね」
柊は赤らめた顔を手で仰ぎ、駅の方へと小走りで去っていった。
「……」
柊に言われた言葉を振り返る。
もしかして、俺って見た目がいいのか…?
今日撮った記念写真を取り出し、そこに写った写真を観察する。
右側には面倒くさそうにそっぽを向くブサ猫。
真ん中には猫耳カチューシャをつけて満面の笑みの柊。
左側には同じく猫耳をつけてぎこちない笑みを浮かべる俺。
……かっこいいのか? この顔が。
そうは見えない、見えないが。
……自己認識というものは曖昧なものだ。
ならば信じるべきは客観的な意見なのかもしれない。
俺ってイケメンだったのか……。
……いいや待て待て。
そもそもからかわれているだけの可能性があるのだから、決めつけるのはまだ早い。
ふぅ、危うく変な勘違いをして赤っ恥をかくところだったぜ……。
……だが、もしも。
もしも本当に俺がイケメンであるならば。
万が一、億が一、イケメンであるのなら。
……他の異性からも好意を寄せられていてる可能性はあるのではないだろうか。
例えばそう、少し前まで俺につき纏っていた畑このみとか。
ゴマを擦っていただけだと思っていたが、あいつ実は俺に気があったんじゃないだろうか。
天下原も怪しい。
事件解決以降、ちょくちょく話しかけてくるようになってきたし。
といっても会話の内容はほどんど天下原の彼氏に対する一方的な愚痴ばかり。
……もしかして彼氏と別れて俺と付き合いたいっていうアピールか?
まずいぞ、明日からあいつらとまともに顔を合わせられる気がしねえ。
どうしよう、どうすればいい。
くっ、これがモテる男の辛さってやつか__
「……あれ」
……なんかこのブサ猫、俺に似てね……?
追記 誤字報告ありがとうございます!