悪魔の現れるTRPG世界に転生してしまった   作:いかのしおから

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第19話「ヴィイ」

 本日、志望校への入試を受けてきた。

 志望校の模擬判定はA、つまり合格確率は80%以上。

 テストの手応えも十分で、解答欄を一つずらすなどの凡ミスをしていない限り、おそらくは合格するだろう。 

 唯一ネックなのが内申書、悪魔事件に巻き込まれたせいで学校を休みがちだったことぐらいか。

 合格発表は3月頃なのでまだ喜ぶには早いが、結果がどうであれ、やれるだけのことはやりきったし、なにより嬉しいのが当分の間勉強をせずに済むこと。

 受験のために趣味も遊びも封印して過ごしていたからなぁ。

 これでようやく日常を謳歌できる。

 

……ん?

 

 校舎の外に、えらく人目を惹く美少女がいた。

 周囲にいる受験生も興味の視線を向けている。

 彼女は何かを探すように、キョロキョロと首を動かしていた。

 こんな子、受験会場にいたっけか。

 

「あ! 先輩! お受験お疲れ様です!」

 

 誰かと思ったらお前か。

 

「受験終わりでさぞやお疲れなことしょう。

 ささ、私に荷物をお預けください、家までお運びします」

「そんなパシリみたいなことはしなくていい。

……せっかく貴重な冬休みの最終日だってのに、態々俺を出迎えるために浪費するとはな」

「私にはそれをするだけの意味があると思っての行動ですよ。

 それで荒木先輩、受験はどうでしたか? 合格できそうですか?」

「手応えはあった。

 合格発表は三月頃になるから、果報は寝て待てになるが」

「ふむふむ……それは残念ですね」

「は?」

「先輩が受験に失敗すれば、同級生になれたかもしれないのに」

「……おい」

 

 またみょうちくりんなことを言いやがって。

 

「だって、もうすぐしたら同じ学校に通えなくなっちゃうんですよ?

 私、寂しいですよぉ……」

「……」

 

……言われてみれば、そうなるのか。

 トラブル体質の柊のことだ、またオカルト事件に関わって、俺に助けを求めることは容易に想像できる。

 今後も完全に縁が切れることはない。

 だとしても、休憩時間の余暇を使って世間話をするような学校生活には戻れないんだろう。

 

……受験勉強中は柊からの遊びの誘いも断っていた。

 冬休みは終わってしまったが、今度埋め合わせにどこか連れていってやるか。

 幸いにして金と時間はあるのだから。

 

「……ん? なんだあれ、警察……?」

「何か事件でもあったのでしょうか……?」

 

 虎ロープに三角コーン、複数の警察車両と警察官。

 現在俺たちが歩いている反対側の歩道に面したビルには、物々しい警備が敷かれていた。

 見た感じ、警察官は二人や三人どころではなく、確実に十人はいる。

 見えているだけでこれだけいるのだ。

 ビルの内部を含めれば、もっと沢山の警察官いるかもしれない。

 いったい何があったんだ?

 

==

 

 次の日、俺は学校に登校した。

 うちの高校だと大学受験を終えた三年生は、学校に通っても通わなくてもいいとされている。

 にもかかわらずどうして俺が学校に通っているのかというと、悪魔事件で休みがちがった分の出席日数を稼ぎ、少しでも内申書を良くするためだ。

 既に俺の内申書は大学に送付された後かもしれないが、やらないよりはいいと考えた。

 別に寂しがっていた柊のためではない。

 ……まあ、それもちょっとぐらいはあるかもしれないが。

 

 昇降口に足を踏み入れると、下駄箱の近くに見知った奴がいた。

 柊ではない、天下原だ。

 

「あら、荒木じゃない。

 あんたが冬休み明けに学校に来てるなんて思わなかったわ。

 どうせ家に引きこもって、よく分からない多人数用のボードゲームを一人で寂しく遊んでいるものだと思っていたけど」

「よく分からないボードゲームじゃなくてTRPGだ。

 そういう天下原こそどうして学校にいるんだよ。

 一応言っておくが、冬休み明けの三年生は学校に登校しなくてもいいんだぞ」

「そのぐらい知ってるわよ。

 受験が終わったら雄吾とデートでもしようと思ってたんだけど、雄吾が大学に通っている時間帯なのを忘れていてね。

 授業が終わるまで、暇つぶしに授業でも受けようかと思って」

「ふーん……そういやどこの大学の入試を受けたのか聞いてなかったな。

 やっぱり彼氏さんと同じところか? 金持ち御用達の裏口入学で有名な」

「人聞きの悪いこと言わないでよ! それは根も葉もない噂よ! 噂!

……そういうあんたはどこの大学の入試を受けたのよ」

「俺は」

「ああ、そうだった、小夜子から聞いていたわ、あそこの大学ね。

 となると学部もそうなるわけか……いいんじゃない? あんたらしいわ」

「……人の言葉を遮るなよ」

 

 そうこう話しながら校舎の階段を登っていくと、学校が妙にざわついていることに気づいた。

 どうしたいったい。

 

「やっぱりあの噂でもちきりのようね」

「あの噂って?」

「あんた知らないの?

 うちのクラスの連絡網の間じゃ、この話題一色だってのに。

……ああ、そうだったわ、あんたクラスに友達が一人もいないんだったわね。

 すっかり忘れてたわ」

「……どういう噂が立っているのか教えてもらってもいいか」

「う~ん……嫌~」

 

 うざ。

 

「知りたいなら友達にでも聞きなさい。

 ほら、あんたの数少ない友達がやってきたわよ」

「__先輩ここにいましたか! 

 あ、それに天下原さんも、おはようございます!」

「おはよう小夜子、荒木に用があるんでしょう?

 私はもう行くから、そこの荒木なら貸してあげるわ」

「ではありがたくお借りさせていただきます!

 早速ですが先輩に見てほしいものがありまして!」

 

 柊は俺にあるものを見せてきた。

 それは地元で発行されている新聞紙。

『原因不明の怪死事件、暴力団全滅』……?

 

「『……地元指定暴力団の組員21名が事務所で死亡したことが確認される。

 しかしながら遺体に外傷は存在しない……?

 死因は分かっておらず、現在警察は鋭意調査中とのことで……』」

「せ、先輩は受験の帰り道、私と一緒にお巡りさんが大勢集まってたのを見ましたよね……?

 あそこのビルって、とある暴力団の事務所だったみたいなんです」

「てことは、この新聞に書かれている内容は」

 

 あのビルのことか……。

 

「先輩この事件について、どう思いましたか……?」

「……おそらく悪魔や悪霊絡みだろう。

 これほど大量の死傷者が出ておきながら、死因もわからないなんて、常識外れしすぎている」

「……やっぱり、私もそうだと思いました。

 荒木先輩、今回の事件、どう立ち回るべきだと思います……?」

「……この凶暴性や殺傷性の高さは脅威だ。

 おそらく今まで出会ってきた中でも飛び切り危険な奴が潜んでいるに違いない。

 当分の間は家の中に引きこもって__いいや」

 

 その時警鐘を鳴らしたのは、TRPGプレイヤーとして培ってきた勘。

 この世界にはGMが存在する。

 となれば今回の悪魔事件も裏でGMが糸を引いており、そして今回も例にもれず俺達に携わらせたいと考えている筈。

 そんなGMの思惑を無視して、プレイヤー枠の俺たちがサボタージュを決め込んだとすればどうなるのか。

 

「……この事件を放置していれば、俺たちの与り知らないところで、対処できない領域に問題が発展してしまう恐れがある。

 それに前回の悪魔事件でサブナックの言っていた「主」とやらの存在が気がかりだ」

 

……なによりアスタロトの『死の予言』。

 最低限イニシアチブを取るための情報は集めておきたい。

 

「犯人と敵対するかは別として、情報は持っておきたい。

 俺は放課後、足取りを調べに行く。

 柊、一応お前にはほとぼりが済むまで大人しくしておけ……と、言っておきたいが」

「私も手伝います。

 先輩が心配なのもありますが、犯人がこの町に潜んでいるなら、私の家族や友人、私自身にとっても、他人事ではありませんから」

「そうか……分かった、今回もお前の人脈に頼らせてもらうぞ」

 

==

 

 そうして俺と柊は、聞き込み調査を行った。

 今回の調査で役立ったのは、事前の予想通り柊の豊富な人脈。

 俺一人で調べていればいったい何日かかっていたことやら。

 所感ではあるが、既に必要な情報の半分は集められた気がする。

 

「__犯人と思わしき存在は集団で行動しており、この林に生息していることが分かりましたが……先輩、こちらの林について覚えていますか?」

「確か……あー、名前を言ってはならない悪霊が逃げ込んだ林だよな。

 町内会がクシキのハンドサインを流行らせて追い込んだっていう」

 

 悪霊の名前はアンチェトカ。

 だいぶ前にルチアやジョル爺と協力して森に追い払った悪霊だ。

 別に魔王でも闇の帝王でもない、どこにでもいる木っ端の悪霊だ。

 

「あの悪霊が暴力団襲撃事件の犯人なのでしょうか……?

 以前遭遇した時は、それほど凶暴そうには見えなかったのですが」

「その認識は間違っていない。

 あの悪霊はイタズラ妖精や、座敷童系の妖怪とそれほど変わりはない、比較的無害な悪霊だ。

 だがそれはあくまで、単独での話」

「……あ! そういえば単独では無害でも、悪霊の主に仕えることがあると仰られていたような」

「ああ、前回と違い今回は単独ではなく群れを形成しているという。

 群れを形成するとなれば、その群れを従える長が必要になってくるだろう。

 今の悪霊をイタズラ妖精もどきと舐めてかかれば、どんなしっぺかえしを食らうか分からない。

……ジョルジョの提案に乗って追放したが、こんなことになるなら浄化しておくべきだったな」

 

 アンチェトカには明確な攻略法があり、たやすく追放できる相手ではあった。

 とはいえ本腰を入れて浄化するとなれば、アンチェトカは暴れて抵抗しただろう。

 当時の判断を非難するのは簡単だが、こんな展開になるのを予想しろというのも難しい。

 あの当時手元にある情報からすれば、最善の選択をしていたとは思う。

 

「今回の一件は、サブナックの言っていた「主」とやらの話とも繋がっている可能性がある。

……情報が集まるたびに気がかりな点が増えていくが、今日はお前のお陰でかなりの情報が集まった。

 そろそろ黄昏時、悪魔や悪霊が活発化してくる時間帯だ。

 今日はもう切り上げて帰るとしよう」

「そうですね、では帰りま__」

「__へいへいへーい! そこのお嬢ちゃん!

 今日は帰るってんなら、代わりに俺と一緒に遊ぼうぜ」

 

……なんだこいつら。

 声の聞こえた方に視線を向けると、そこには見るからに不良の集団がこちらに近づいてきた。

……まずい、囲まれた。

 早く帰らねえと危険だってのに……。

 

「……何か御用でしょうか」

「ん? ああ、もう行っていいぞ、お前には用はねえから」

「……こんな夜中に連れ回すのはやめてあげてください」

「お前には関係ねえだろ……どけつってんだろ」

「……俺は彼女の友達です。

 心配なので、せめて連れ回す理由を教えてくれませんか」

「どけよ!!!」

「げ、げんちゃん、やりすぎは駄目だかんな……?

 また務所送りにされちまったら」

「うるせえ! 俺に指図するんじゃねえ!

 ああもうどいつもこいつもあそこに入ってからずっとだ……!

 俺をイラつかせやがって……! くそがっ!」

「ぐっ」

 

 男は苛立ちをぶつけるように、仲間の一人を蹴り倒した。

 そのまま何度も何度も蹴り続けている。

 何度も何度も、何度も何度も。

 仲間割れ……?

 いいや……そもそも仲間なのか?

 どうにもこの男だけ毛色が違う。

 ナンパに意欲的なのはこの男だけではないようだが、明確に立場の違いのようなものも感じるし、他の不良たちはこの男が何をやらかさないかと戦々恐々としている。

 それにさっき務所とか言ってたよな? こいつ前科持ちなのか……?

 

「……せ、先輩、私この人知ってます。

 人を殺して少年院送りになったという……」

「!」

「他にも公共物を壊したり、お年寄りを川に突き落としたり、嫌がる女の子に無理やり手を出したり……。

 本当はもっと刑期が長かったそうなんですけど、お父さんが大企業の社長さんで、色々手を回してもらって早々に出所したそうです。

……被害を受けかけた友達から、注意喚起の連絡が回ってきたのを覚えてます」

「……柊、お前は先に帰ってろ」

 

 ああもう、トラブルはオカルト絡みだけでお腹一杯だってのに……!

 

「だ、駄目です先輩! 先輩も一緒に逃げましょう!」

「いいや、逃げるのはお前だ。

 俺が時間を稼ぐから、お前はその隙に__」

「そうではなく! 『金貨』が反応したんです!

 運命を覆せなかったと!」

「……っ」

「こ、この人は人を殺したんです!

 先輩も殺されてしまうかもしれませんよ!」

 

 脳裏に浮かんだのは、アスタロトの『死の予言』。

 まさか、ここなのか?

 殺される時はオカルト絡みだと思っていたが、このイカレポンチに殺されるのが運命だっていうのか……?

……だとしても、ここで柊を見捨てるぐらいなら、死んだ方がマシだ……!

 

__いいや違う。

 

「全員ここから離れろ!」

「はぁ?」

「ここに留まっているとまずいことになる!

 全員死にたくなけりゃ逃げてくれ!」

「……何言ってんだこいつ」

「もうすぐ来るんだよ! ヤバい悪魔か悪霊が!」

「悪魔? 悪霊? 電波かよ」

「頼む! 信じてくれ!

 いいや信じなくてもいい!

 せめて俺達だけでも__柊だけでも逃がしてくれ!」

「だからさああああ……! 用があるのはお前じゃなくて__

__もういい、飽きたわ、お前の相手すんの。

 てめえらはそのまま囲んでろ、俺がやる、ぶん殴れば少しは大人しくなるだろ。

 安心しとけ、何があろうが俺の親父が何とかする__うおっ」

「きゃっ」

「くっ」

 

 説得もむなしく、間に合わなかった。

 突然、地面が揺れだしたのだ。

 俺や柊、不良連中は家の壁や電信柱に掴まり倒れずに済んだ。

 とはいえ一人だけ倒れてしまった者がいた。

 それは__柊をナンパしていた件の男。

 

「な、なんだったんだいったい……。

 あ、あれ? げ、げんちゃん……?」

「ち、血が……」

 

 男は頭から倒れ伏していた。

 コンクリートに打ち付けた頭からは、真っ赤な血が流れている。

 血溜りが広がっていく、命の雫が零れ落ちていく。

 

「っ」

 

 不幸中の幸いにして、俺たちは助かった。

 地震からも、悪質なナンパからも。

 だが、こんな都合のいい展開が、早々起きていいわけがない。

 なにせ『金貨』は運命を覆すことに失敗したのだ。

 俺はすかさず周囲を見渡した。

 すると林の奥に、何者かの気配を感じた。

 人ではない、人ならざる者の気配。

 それも一つだけではなく、複数の。

 その中の一つからは、とびきり禍々しい気配が放たれている。

 聞こえる足音に悪寒が走る、森の影から現した姿に鳥肌が立つ。

 

 20を超える悪霊たち。

 その中心にいたのは、足下まで垂れ下がった長い瞼を持つ化け物。

 その外見的特徴には思い当たる節があった。

 

 スラブ神話に語られる地底世界の住民にして、全ての悪霊の君臨者。

 ヴィイだ。

 

==

 

「__ご主人様! こやつめです!

 こやつめが我らの先兵を祓い続けているエクソシストです!」

 

 悪霊の中の一人が、俺を指さしながらヴィイの耳元に囁いた。

 そいつには見覚えがあった。

 アンチェトカ。

 秋頃に遭遇し追い払った悪霊だ。

 

「ほう、そいつが荒木とやらか。

 貴様が見つかるまでの暇つぶしとして、不愉快な害虫共を潰し歩いてみていれば、ここに来て本命が見つかるとはのう」

「……先兵」

「くくくく……不思議だとは思わんかったかぁ?

 貴様らがこの短期間で幾度となく怪異と遭遇したことに。

 アンチェトカ、ジャック・オ・ランタン、冬の悪魔、アイニ、アスタロト、サブナック__

 時に力を求める人間に召喚術を教え、時に儂自ら招き入れた。

 地上に蔓延る汚らわしい悪党共を一掃し、儂の手中に収めるためにの。

 それを貴様は悉く祓いおって……!」

 

 こいつがすべての元凶、なのか……?

 いや待て。

 秋前の悪魔事件や、アリオーシュとグレムリンへの言及がない。

 どうやらヴィイの作為があろうがなかろうが、柊のトラブル体質は依然変わりないらしい。

 違う、そうじゃない、今はそれどころではない。

 

「こうして巡り合えたからには貴様らの命運もここまでじゃ。

 そこの悪党共々、死をくれてやる」

「っ! 全員逃げるぞ! こいつの目には見たものを殺す邪視が宿っている!

 絶対に視認されるな! 姿を隠せ!」

「瞼を持ち上げろ、見えないぞ……!」

 

 邪視。

 それは邪眼とも魔眼とも呼ばれる力だ。

 伝承で聞く限りではヴィイの邪視は超一級。

 その力をもって都市や村を壊滅させたという伝承もある。

 長い瞼は自力では上げられないとされているが、配下の悪霊が持つピッチフォークによって、その封印は今、解かれようとしていた。

 せめて壁の裏にでも隠れられればと思っていたが__しかしここで余震が来た。

 

「きゃっ」

「ぐおっ!?」

 

 俺たちは膝をついて崩れ落ちた。

 立ち上がる余裕はない。

 ヴィイの瞼は高く持ち上げられ、今にもその邪視の力を発揮しようとしている。

 ここで、ここで死ぬしかないのか?

 こんなところで__

 

「__なんじゃ!?」

 

 これは……カラスの群れ?

 突然現れたカラスの群れが、ヴィイに纏わりつき視線を覆った。

 カラスの多くは邪視を受けて失墜している。

 夥しい数のカラスの死体が、ヴィイの足元に溢れかえっている。

 しかしその遮蔽のお陰で、邪視の力は俺達のいる場所には届かない。

 なんだいったい、どうしてカラスが俺達を助けた? しかもこんな命懸けで。

……何者かの作為があるとしか思えない。

 俺は改めて周囲を見渡した。

 すると工事現場の屋上にあるクレーンの上に、腕を組んで俺達を見下ろす者の姿を発見する。

 

 あれは横山……?

 ……いいや、マスティマか!?

 

 マスティマにはカラスを操る力があるという。

 だが、だとしても何故俺達をマスティマが助ける。

……考えている暇はない、とにかく今は逃げるのが先決だ。

 

「逃げるぞ! 全員俺についてこい!」

「だ、だけどげんちゃんが!」

「そいつは置いていけ! もう死んでる!」

「っ」

「……先輩! 逃げると言ってもどこに!?」

 

 悪霊に追われて逃げ込む先など一つしかない。

 

「__教会だ!」

 

==

 

 柱にもたれかかり、肩で息をしながら呼吸を整える。

 そんな俺と同じように、柊や不良連中もまた、泥のように壁や柱、長椅子や床に身体を沈めて身を休めていた。

 

「……先輩、横山くんからマスティマ様の伝言です。

『これで借りは返した、助けるのは一度きり、二度はない』と」

「借り……?」

「おそらく、横山君が更生するよう、説得を手伝ったことだと思います」

「……」

 

 借りは返した、か。

 そして二度はない。

 マスティマとヴィイをぶつけられないかと思案していたが、当てが外れた。

 

「荒木君、柊君、水を持ってきた。

 悪いけど容器が足りないから皆で飲み回してくれ」

「ありがとうございます戸塚さん……ふう」

「……さ、さっきね、こっそり外の様子を伺ってみたんだ。

 すると悪霊たちが教会の周囲を取り囲んでいて……。

 し、敷地内には入れないみたいだけど……」

「俺達を逃がすつもりはないみたいですね……ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「い、いや……本当は僕たち教会の人間が対処しなきゃいけない案件なんだ。

 君を責めるつもりはないよ」

「ありがとうございます。

 先程も説明しましたが、今回の悪霊の親玉は邪視を宿しています。

 これ以上は興味本位でも窓の外に視線を向けるのは止めておいてください」

「わ、分かった」

 

 水を飲み、渇きに飢える柊にコップを渡す。

 

「ふう……。

 先輩は……あの悪霊の正体を知っている様子でしたね。

 あの悪霊は何者なんですか?」

「ヴィイだ。

 スラブ神話に語られる地底世界の住民にして、全ての悪霊の君臨者とされている」

「す、全ての悪霊の君臨者……」

 

 肩書だけでも分かるだろう、この悪霊の強大さが。

「エクソシストTRPG」でも脅威度は5(天災)。

 パズズに引けを取らない格を持つ大悪霊だ。

 

「ヴィイは二つの強大な力を持っている。

 一つは『死の邪視』。

 視認した者を殺す超一級の邪眼だ。

 自分では長い瞼を上げられないため、配下に持ち上げてもらわなければならないが、あれだけの数の悪霊を連れているのだ。

 妨害するのはまず不可能だと考えるべきだろう」

「……」

「そして二つ目、『災害』。

 伝承によると、この世界で起こる災害は、全てヴィイが引き起こしていると語られている。

 俺たちはこうして悪魔や悪霊の侵入を防ぐ教会に入れたが、日本の建築物特有の耐震性がなければ、今頃地震で教会ごと潰されていただろう」

 

 脅威度5(天災)のパズズですら、嵐と熱病を操るだけで精一杯だったのだ。

 地震、津波、噴火、嵐。

 おそらくヴィイは地上に起こりうる全ての災害を操れる。

 そこに見た者を殺すという、圧倒的な殺傷性を持った能力が加わるとなれば。

 俺たちが今まで出会った中で間違いなく最強クラスの悪霊だと断言できる。

 

「じゃ、弱点は存在しないんですか?

 これほど格が高い悪霊なら、なにかしらの伝承が残っていたり……」

「最悪なことに、ヴィイはスラブ神話の悪霊だ。

 知っての通りスラブ神話は口伝。

 その格の高さに反して口伝えなので後世に残る情報が少なく、俺の知る限りでは弱点は存在しない」

「……じゃ、『邪視』はどうなんですか?

 確か他の神話にも『邪視』を持った怪異が登場していましたよね?

 有名どころでいえばキリスト教の大天使ウリエル様や、ギリシャ神話の怪物メデューサさん。

 これだけ知名度が高い権能なら、対策は講じられていても」

「……そうだな。

 キリスト教では四大天使のサリエルが、ヴィイと同じく『死の邪視』を持っていると語られている。

 そしてサリエルの名が記された護符を持てば、『死の邪視』を退けられるそうだが……俺にはサリエルの護符を作る知識はない。

 調べようにもヴィイ達に教会を囲まれている現状、それは許されないだろう。

……戸塚さんは」

「ご、ごめん、僕も知らないんだ」

 

 戸塚神父によるとヴィイは教会の周囲を囲んでいる。

 今から図書館に行って調べに行くことはできないだろう。

 

「なら、メデューサさんは!」

「お前も知っているだろうが、メデューサを倒したのは大英雄ペルセウスだ。

 ペルセウスは『邪視』が鏡越しには作用しない性質を利用し、鏡のように磨かれた盾を持って、鏡越しにメデューサを打倒したそうだが、これはペルセウスの英雄的な武力ありきの策だ。

 俺達には真似できそうもない」

 

 ジョル爺がいれば、できたかもしれないが……。

 

「っ、で、ではマスティマ様にまた助けてもらうのは__」

「奴は借りを返したと言った、二度はないとも念押しして。

 縋るには細すぎる光明だろう」

 

 マスティマの本分は、サタンの監視。

 それに加えて横山の更生の手伝いなんてことをやっているのだ。

 俺たちの救出に手を貸していれば、明らかに手が足りなくなる。

 救援は期待できない。

 

「……そういえば、強く正しい者は、ヴィイと遭遇しても生き残れるという伝承を聞いたことがあるが……」

「! な、なら」

「……これも無理だろうな」

 

 不良連中に視線を向けたが、奴らは気まずそうに眼をそむけた。

 あのナンパ野郎とつるんでいたのだ。

 多少は喧嘩慣れはしているのかもしれないが、正しさという部分には、思い当たる節はあるだろう。

 俺も自分の弱さは自覚しているし、自己保身を第一に考えているのだから、正しいなんて口が裂けても言えはしない。

 柊や戸塚神父は正しい側の人間かもしれないが、それでも強いとは言うには相手が悪すぎる。

 この伝承は、攻略法足りえない。

 

「で、でも」

「無理だよ、ここに英雄はいねえ。

 現状、俺たちが取れる選択肢は三つある。

 一つ目は外部のエクソシストに救援を頼み、助けが来るまで教会に身を潜めること」

 

 相手が飽きれば幸い。

 とはいえこの案は食料の備蓄が尽きれば破綻する策であることを忘れてはならない。

 

「二つ目は、俺や不良共をヴィイに生贄に捧げるか」

「っ!?」

「なっ!?」

 

 どうやらあの悪霊が標的にしているのは、「悪党」と「俺」だけだ。

 俺たちが犠牲になれば、柊と戸塚さんは守れる可能性がある。

 

「そ、それは駄目です! 先輩が犠牲になるのは!」

「そうだよ荒木君! 君が死んでいい筈がない!」

「お、俺だってまだ死にたくねぇ……!」

「さ、さっきのことは悪かった! 謝るから助けてくれ!」

「頼むよ! あんたエクソシストなんだろ!?」

 

 柊や戸塚神父だけでなく、不良たちまでもこの案に拒否感を示している。

……ヴィイを連れてきたのは俺とお前らだってのによ。

 そもそもお前らが足止めしなきゃ、俺達だって今頃家に帰れてたってのに……!

 俺だって死にたくはない、だがこのままでは全員死ぬ可能性がある。

 ヴィイを引き寄せた責任を取って、身を捧げる覚悟はしておかなければならない。

……とはいえやはりこれは最終手段だ。

 

「三つ目、それはヴィイと対峙すること。

 とはいえ無策で挑んでも敵いはしない、策を練る必要がある」

 

 策を練ると言っても、相手は脅威度5の交渉不可能な大悪霊。

 それに加えて神話に語られる攻略法もない。

 更にヴィイは俺や不良連中に明確な殺意を抱いている。

 パズズのように偶然が折り重なって敵対を回避することは期待できない。

『金貨』の運命の逆転は、あくまで起こり得る可能性を掴み取るものだ。

 1%もない可能性を手繰り寄せる力ではない。

 どうしたものか。

 

……あれ?

 

 これ、もしかしてキャンペーンシナリオなのか……?

 

__キャンペーンシナリオとは、TRPGにおいて一話完結型の独立したシナリオではなく、複数回のシナリオに何かしらの関連を持たせて継続的に行なうことを指す。

 ヴィイはこれまでの悪魔事件の元凶が自らだと語っていた。

 つまりはラスボスだ。

 そしてキャンペーンシナリオの最初の敵と思わしきアンチェトカは、現在ヴィイに仕えている。

 そしてこの二体はどちらもスラブ神話出身。

 ラスボスの配下が、第一話にお目見えする__

__物語としては使い古された展開だ。

 

 今思えばアンチェトカの一件。

 『金貨』がファンブルを訴えておきながら、ルチアとジョル爺が撤退したのはおかしい。

 『金貨』の所有者は柊であり、あいつは悪魔事件の対処役を俺からあちらに移ることを嫌がっていた。

 ファンブルを引いた以上、本当なら柊が嫌がる展開になるのが正常だろうに。

 おそらくルチアとジョル爺が仲間になるのがキャンペーンシナリオの正常な流れだったのだろう。

 それをあのファンブルが捻じ曲げてしまった。

 

 となるとあの偽エクソシスト。

 キャンペーンで長期に渡って登場する予定の敵キャラだったんじゃないだろうか。

 ありえる。

 偶然とはいえ、あれほどの数の悪霊を召喚してみせた輩が、ただのモブ敵だというのは違和感がある。

 どうにか聖エルモの火に助けられて捕まえられたが、本来なら御厨はあそこで逃げおおせ、キャンペーンを搔き乱すお邪魔キャラになっていたのかもしれない。

 それこそ某ロケッ〇団のような。

 

 こうして考えていると、冬の悪魔の一件も疑わしくなってくる。

 あれは「聖ルチア祭」を行わなければ祓えない悪魔だった。

 柊が『ニコラウスの金貨』という聖人の記号を補強する道具を持っていたからこそ成立したが、それがなければ儀式は成立しなかっただろう。

 本来の流れとしては、『聖ルチアと同名』で、同じく『治癒の奇跡』を持ち、『金髪の白人』であるルチアが儀式に必要な要素を補完し、聖ルチア役を演じていた。

 そう考える方が納得できる。

 

 そして何度か行われた戦闘色の強いシナリオ。

 どうにか潜り抜けたが、おそらくそれらはジョル爺が助けてくれる前提だったのかもしれない。

 彼一人では大悪魔相手と渡り合うのは難しいだろうが、そこにルチアの『治癒の奇跡』が加われば、戦況を維持するぐらいは可能だろう。

 そしてその隙に、俺たちプレイヤーが知恵を絞って悪魔を攻略する。

……「エクソシストTRPG」のセッションとしては美しい流れだ。

 

 つまりこのキャンペーンは、ルチアとジョル爺を仲間に加えた前提の難易度調整になっている……?

 

 だとすればどうする。

 これまでの悪魔事件はどうにか退けられたが、今回ばかりはラスボスが相手だ。

 ルチアはいない。

 ジョル爺はいない。

 御厨は運よく排除できたが、アスタロトは死を予言した。

 サブナックはヴィイという「主」がいることを示唆した。

 今まで何度も助けてくれた『ニコラウスの金貨』でさえ、不吉を警告している。

 マスティマの助けはこれ以上期待できない。

 俺は、ここで死ぬしかないのか……?

 

「少し考える時間をくれ__」

「……えっ、こ、これって……!?

 お、おい ちょ、ちょっと見てくれ!」

「……どうした」

「け、携帯でテレビを見てたんだけど、突然太平洋に竜巻が現れたって。

 しかもうちの町に向かってるみたいで……!」

「まさかヴィイの……!?」

 

 ヴィイの野郎……嵐でこの教会ごと俺達を吹き飛ばすつもりか……?

 くそ、助けを呼ぶ時間もねえ……どうする。

 

……これしかねえか。

 

「柊、お前に貸してほしいものがある__」

 

==

 

 日が沈み切った夜間。

 俺は教会の玄関から姿を現した。

 眼前には待ち伏せていた悪霊とその親玉ヴィイがいる。

 

「! ヴィイ様! エクソシストが出てきました!」

 

 魑魅魍魎。

 まさしくその言葉がふさわしい光景が広がっている。

 どの悪霊一つとっても、自らを殺しうる脅威であると心臓が警鐘を鳴らしていた。

 だが、そんな彼らすらも脇役に変えてしまう存在感が、ヴィイにはあった。

 視界が歪む、吐き気がする、今にも膝をついてしまいそうになる。

 だがそれでも、気力を振り絞り立ち向かう。

 

「ようやく観念したか。

 さあ悪霊共__瞼を持ち上げろ、見えないぞ」

 

 ヴィイの両隣にいた二体の悪霊が、ピッチフォークを持ってヴィイの瞼を持ち上げる。

……チャンスは一瞬。

 早すぎても遅すぎても失敗する。

 失敗すれば死あるのみ。

 

 心臓が高鳴る。

 心拍音の間隔が凄まじい速度で増していく。

 まだ駄目だ、瞼は股の辺り、未だ持ち上げられている途中。

 早すぎればこちらの意図に気づかれて失敗してしまう。

 

 ヴィイの瞼は肘のあたりまで持ち上がった。

 どうだ、余裕をもってここにするか?

……いいや、引き付けろ。

 この策が通用するのは一度だけなのだから。

 

 鼻先まで持ち上がった。

 あと少し、あと少し待てば__

 

「さあ、死ぬがよいエクソシスト」

 

__ここだ。

 俺は目を瞑った後、背中に隠していた物をヴィイに向けて突きつけた。

 それは__手鏡。

 

 俺が縋ったのはメデューサとペルセウスの戦いの伝説__

__をオマージュした、近代に登場した小説の攻略法。

 

 その物語によると、蛇の怪物は見た者を石にする『石化の邪視』を持っており、対峙した英雄は鏡の盾を蛇の怪物に向けることで、『石化の邪視』を弾き返し、蛇の怪物を石に変えたという。

 つまりは俺はヴィイの『死の邪視』を鏡で弾き返すつもりなのだ。

 神話や伝説ですらない、小説の展開に縋って。

 当然ながら、成功の確証はない。

 成功率を少しでも上げるために柊から『ニコラウスの金貨』を借りたが、それでも。

 だが、だとしてもやるしかなかった。

 時間も道具もない俺には、この策しか思いつかなかったからだ。

 さあ、どうなる……?

 

「__ぎゃあああああああああ!!!???」

 

 絶叫が響き渡った。

 ヴィイや悪霊のいた場所から、バタバタと何かが倒れる音が聞こえる。

 一瞬で悪霊の気配や息遣いが消えていくのを感じた。

 運よく邪視を免れ生き残っていた悪霊も、足早に逃げていく。

 聞こえていたヴィイの呻き声も、段々と細くなり聞こえなくなっている。

 完全に悪霊の気配が消えた頃を見計らい、恐る恐る目を開いた。

 するとそこには、山のように積もった悪霊の死灰だけが残っている。

 

 死灰は風に乗って、空の彼方に消えていった。

 

==

 

 俺と柊はスコップを片手にある物を作っていた。

 カラスの墓だ。

 命懸けで助けてくれた彼らへのせめてもの手向けとして、墓を作ろうと柊から提案された。

 といっても埋葬するのは一匹だけ。

 現在カラスの死に絶えた場所は警察官が集まっており、それを搔い潜って全ての死体を回収することは難しかった。

 

「……ありがとうございました、おかげで命拾いできました。

 あなたたちのご冥福をお祈りします」

 

 両手を合わせて冥福を祈る。

……ありがとよ、お前らのお陰で死なずに済んだ。

 

「……先輩、弔いを終えた後にお伝えしようと思っていたのですが、生き残っていた配下の悪霊達は、全てマスティマ様が従えたそうですよ。

 今日、学校で横山君から教えてもらいました」

「……俺たちはまんまとマスティマの掌の上で踊らされたわけか」

「?」

「お前も知っているだろうが、マスティマは悪霊の主としての性質を持つ。

 今より勢力を広げるためには、大勢の悪霊を従えるヴィイは目の上のたん瘤だったんだろうよ」

「なるほど……」

 

 腹は立つが構わない。

 どんな作意があれ、奴に助けられたことに変わりはない。

 それにあいつは借りは返したといった。

 つまりは貸し借りなし。

 今回の一件を理由に強請られることがないなら、俺からとやかく言うべき点はない。

 

「そうなってくると、今回被害を受けた皆さんが、マスティマ様に保護された話に繋がってくるんでしょうか」

「え? あの不良共、マスティマに保護されたのか?」

「ええ、どうやらそうみたいです。

 今はマスティマさんの監視下で、横山君を更生団のリーダーに添えて、禊と躾を行っているのだとか」

「……マジで今回の一件はマスティマの一人勝ちなのか」

 

 悪霊の主として勢力を拡張した次は、試練の天使として不良の更生の手伝いか。

 相変わらず物好きな天使様である。

 

「……死人、出ちゃいましたね」

「気に病むな、と言ってもお前は納得しないだろうが、今回ばかりは相手が悪かった。

 多数の悪霊を従え、災害を操る能力に、見た者を殺す邪視。

__いいや、眼が合った者を殺す邪視か。

 邪視には視認しただけで作用するものも多いが、どうやらヴィイの邪視は目と目が合ってこそ効力が発揮されるものだったんだろう。

 あの時目を瞑っていて正解だったな」

 

 分の悪い賭けだった。

 鏡に邪視を反射するなんて、マイナーな神話どころか、近代の物語という不確かな方法に頼らなければならなかったのだから。

 これはある意味、ヴィイがスラブ神話という伝承の少ない出典であるからこそ、手繰り寄せられた勝利なのかもしれない。

 

「なにより俺に対する明確な殺意……。

……生き残れただけでも僥倖だが、よく祓えたものだと自分を褒めてやりたいよ」

「といっても、私はあまり先輩の身を案じてはいなかったんですけどよね」

「?」

「ヴィイと遭遇しても「強く正しい者」は生き残れるんでしょう?

 なんだかんだと言いつつ困っている人を見捨てられない正義感や、

 どんな恐ろしい怪異が相手でも知恵を絞って果敢に立ち向かう心の強さ。

 強くて正しい__それって、先輩のことではありませんか。

 なので私は安心して先輩を戦いに見送ることができました」

「……寝言は寝て言え」

 

 なにはともあれ、一連の騒動(キャンペーン)はこれにておしまい。

 ヴィイは自らを諸悪の根源だと語っていたので、アスタロトの『死の予言』はヴィイの『死の邪視』を指していたに違いない。

 サブナックの「主」がヴィイであるのは言わずもがな。

 遅れて諸々の真相に気づいた時は焦ったが、俺はこうして生きて帰れた。

 受験もひと段落ついている。

 これでようやく何の憂いもなしに日常に戻ることができるわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

200×年 3月12日 荒木明 死亡




 一話完結型(大嘘)


追記 「なぜ荒木が目を瞑っていたのか」に関して描写漏れがあったので追加しました。
   それと誤字、表記間違いを訂正しました。
   皆様のご指摘いつも助かっています……!
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