悪魔の現れるTRPG世界に転生してしまった   作:いかのしおから

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第29話「ガルグイユ」後編

「こっちを見ろー! バカトカゲー!」

「!」

 

 先行したのは、数人の武闘派エクソシスト。

 彼らはガルグイユへ接近し、声を張り上げて挑発する。

 そして、その手には、『使い終わった免罪符』が握られていた。

 

──「エクソシストTRPG」には、レベルというシステムが存在していた。

 

 レベル。

 TRPGに馴染みのない人間でも、一度は耳にしたことがあるだろう。

 敵を倒し、経験値を得る。

 一定値へ到達すればレベルが上がり、能力が向上する。

 身体能力。知能。技能。

 人は積み重ねによって、より強い存在へ至っていく。

 

 「エクソシストTRPG」もまた、このシステムが採用されていた。 

 レベルを上げれば、人は悪魔と渡り合える。

 限界を超えた力を手にできる。

 

 現実となったこの世界で、今なおその法則が機能しているのかは分からない。

 だが、もし従来通り存在しているのなら──人は、人のまま悪魔へ届きうる。

 理論上は、俺だってそうなれたのかもしれない。

……もっとも、前世の感覚が染み付きすぎていた。

 身体を思うように動かせなかった俺は、早々にその道を諦め、悪魔知識の収集へ舵を切ったのだが。

 なにはともあれ、今まさに戦場を縦横無尽に駆ける武闘派エクソシストたちこそが、その証明だった。

 

 しかし……忘れてはならない。

 『エクソシストTRPG』の本質は、オカルトホラーだ。

 悪魔から逃げ惑い、恐怖と不条理を味わう、それこそが本懐。

 決してレベルを上げて物理で殴り倒すゲーム性ではない。

 鍛え続ければ、悪魔を武力で祓えるようにはなるだろう。

 だが一定水準を越えれば成長は鈍化し、やがて頭打ちとなる。

 唯人は武力だけでは、大悪魔は倒せない。

 仮に武力だけで大悪魔を超えうる才能があったとしても、悪魔事件は常に死と隣り合わせだ。

 志半ばで倒れるのは目に見えている。

 

 ──だが、その机上論を、その不可能を。

 積み上げた鍛錬のみで踏み越えた英雄が、今ここにいる。

 

 「それでは、竜殺しを始めましょうか」

 

 ジョル爺はガルグイユの近くに降り立ち、ゆっくりと歩みを進めた。

 ガルグイユは彼を一瞥した後、興味を失ったように視線を外す。

 そして埃でも払うような無造作な仕草で、尾を振るった。

 ガルグイユの尾が、ジョル爺に迫る。

 世界を滅ぼす力を備えた怪物の一撃が、矮小な人の身に襲い掛かる。

 

──しかし、

 

「ガアアアアアアアアア!!!」

 

 悲鳴を上げたのは──ガルグイユの方だった。

 どしんと、何か巨大なものが地面に打ち付けられる音が響く。

 音の聞こえた方には、ガルグイユの尾が転がっていた。

 真っ赤な血を流し、真っ二つに両断された竜の尾が。

 

「やれやれ、気が逸れていたとはいえ、この醜態ですか。

 竜というのは、どれもこれも傲慢が過ぎる。

 初見の相手を侮らなければ気が済まないらしい」

「グルルルルルル……!」

「そして、一度痛い目を見てようやく警戒を始める。

……さて、ここからが竜殺しの本番ですね」

 

 ジョル爺の槍には、真っ赤な血が滴っていた。

 竜の尾を──両断したのだ。

 鍛え抜かれた腕と、その槍刃だけで。

 

「では──参りますよ」 

 

 彼の動きは俺如きとは比べ物にならないほどに鋭かった。

 しかし益田のような奇跡者と比べれば数段劣る。

 それも仕方がないだろう。

 彼は奇跡を持たない唯人だ。

 しかも全盛期から遠のいたご老体。

 もしかすれば一般的な天草教会の戦闘員にすら敵わないかもしれない。

 

「グラアアアアアアア!!!」

 

 しかし、戦場を支配しているのは彼だった。

 激流。炎のブレス。牙。爪、巨躯による蹂躙。

 それら全てを完璧に躱し、的確に竜の急所を突き続ける。

 

 天草教会最強の戦力である、『剛力の奇蹟』を宿した益田時史。

 そんな彼が命懸けで足止めをするしかなかった五体のイフリート。

 更にそんな魔人の群れを瞬く間に殺し尽くしたガルグイユ。

 

 そんな化け物に、どうして唯人のジョル爺が渡り合えているのか。

 これは幾つもの要素が複合した結果だ。

 ガルグイユの弱点の一つである聖職者階級を彼が持っているのも理由の一つだろう。

 だが、それでも、敢えてこう言おう。

 

──彼が竜を殺すために人生を捧げてきたからだ。

 

「──我が生涯、我が鍛錬は、この瞬間、この時のためにあり。

 見せてやろう、竜祓いの本懐を」

 

 対竜戦争。

 かつてこの世界の裏側で、エクソシストと悪魔の戦争が行われた。

 長きにわたる戦いは、数多のエクソシストの命を奪った。

 そんな戦争の時代、立ち上がった一人の男がいた。

 それこそがジョルジュ。

 彼は生き残ったエクソシストを率い、敵の首魁である竜へと挑み、見事討ち滅ぼしたという。

 この功績をもって彼はエクソシストの世界では知らぬ者のいない英雄となり、畏敬の念を込めて『竜祓い』と呼ばれるようになった。

 竜殺しの英雄の長年の研鑽は、老い如きで失われるものではなかったのだ。

 

「竜よ、恐ろしいか? この身に纏う神聖なる鎧と槍が」

 

『ゲオルギウスの鎧』『ゲオルギウスの槍』

 ジョル爺が身に纏う聖遺物もまた、この優勢を生み出した理由と言えよう。

 聖ゲオルギウスとは言わずと知れた竜殺しの聖者である。

 彼の遺した聖遺物には、彼の歩みそのもの──すなわち竜殺しの奇蹟が宿っていた。

 

 竜祓いジョルジョとはすなわち──

「エクソシストTRPG」を象徴する、最高峰の対竜特化ユニットだった。

 

「はははは……やったぞ。

 そうか、こう戦えばいいのか……!」

「……ほう」

 

 それは恐る恐る振るわれた一撃だった。

 時史の放った一撃が、ガルグイユの肌を傷つける。

 とはいえ浅い、与えた傷はかすり傷のようなもの。

 だがそれでも確かに時史の刃はガルグイユへと届いた。

 

 時史は「エクソシストTRPG」においてジョルジョと同じく単体でも高位悪魔とも渡り合える特記戦力として扱われている。

 とはいえ装備の面で劣り、技量の面でもまだ未熟。

 相手が竜ともなれば苦戦は必至だろう。

 しかし彼にはジョルジョにはない強みがあった。

 それは剛力の奇蹟か? 確かにそれもある。

 だがそれ以上にこの戦場で際立ったのは──若さだった。

 

「あと一歩深く踏み込みましょう。

 あなたならそれができます」

「はい!」

 

 若さ故の学習能力。

 時史はジョル爺の戦いぶりを観察し、自らの一部として取り入れていた。

 その足さばきは、その太刀捌きは、戦いが続くにつれて洗練されていく。

 ジョル爺の至った頂へと近づいている。

 一歩ずつ、だが確かに、彼は前へ進んでいた。

 彼もまた、この神話の舞台に登壇することが許された英雄の一人だった。

 

「オレ達はあの戦場には交じれねえ! 支援に徹するぞ!

 結界の補強を急げ! 聖歌隊は追儺の祈祷を合唱しろ!

 機動隊はそのまま冤罪符を持って気を惹き続けろ!

 近づきすぎて踏みつぶされないように気を付けながらな!」

 

 時史を除く天草教会の面々は、ガルグイユの戦いに近づけなかった。

 鬼塚達のような非戦闘員は勿論、武闘派さえ入り込めない。

 だがそれでも自分のできることを探し、最善の行動をとり続けた。

 一人では届かずとも、積み重ねれば力になる。

 彼らの献身は確かに影響を与え、戦場の主役を務める二人の助けになった。

 

……とはいえ。

 

「まずいな……このままだと爺さんの体力が限界を迎える」

「え……?」

 

 俺の呟きに、隣で戦いを眺めていたルチアが反応した。

 

「見てみろ、ガルグイユの負った傷が次々に塞がっている。

 再生力が強すぎるんだ。

 このままだと奴を仕留めきる前に、爺さんが疲れ果てちまう」

「お、お待ちください。

 わが師ジョルジョの持つ槍、あれは『ゲオルギウスの槍』です。

 聖ゲオルギウスが竜の皮膚に槍を突き刺した際、芯から竜の毒が伝わり手放さざるを得なかった代物。

 当然ながら、当時の状態のままでは扱えないので、扱いやすいように加工したものになりますが、それでも幾ら竜に優れた再生力があるとはいえ、あの毒から逃れることなど……」

「おそらく、やらかしたのは俺だ。

 想定していたよりガルグイユが強すぎる。

 召還に利用した儀式の性質が奴と噛み合いすぎた」

「……確か、池島の竜伝説に纏わる雨ごいの儀式でしたか」

「ああ」

 

 今更後悔したところで後の祭りだが、それでも後悔が募る。

 

「あの戦場を渡り歩き、生き残れる力が私にあれば……」

「……」

 

 自らの未熟さへ憤り、悔しそうに歯噛みするルチア。

 確かに治癒の奇蹟を持つルチアが戦場に赴けば、勝利は盤石なものになる。

 とはいえ彼女はエクソシストとしても奇跡者としてもまだまだ未完成。

 目の前で繰り広げられる激戦に無暗に近づけば、命を落としてしまうかもしれない。

 そうした事態を見越して、ジョル爺や教会の人間から、戦場に近づきすぎないよう耳にタコができるほどに言い含められているに違いない。

 

「……」

 

 そんなルチアを見て、柊は思索するように俯いた。

 その後、何かを思いついたように顔を上げる。

……おい、まさか。

 

「ルチアさん、一つ提案があります。

 私と一緒にルドルフさんのソリに乗って、二人を助けに行きませんか?」

「あなたと? そしてルドルフさんとは……え、まさか『金貨』に続いて……?

 先ほどから何かいるなとは思ってはいましたが、本当に……?」

「はい、聖ニコラウス様からお借りしました、赤鼻のトナカイのルドルフさんです。

 彼には空を駆ける力があるので、ガルグイユの起こした高波に浚われる心配はないでしょう。

 その気になればヘリコプターよりも速く飛べるので、ガルグイユの攻撃も避けられると思います……どうでしょうか?」

「……願ってもない提案です! 是非、今すぐ向かいましょう!」

 

……案の定、こうなったか。 

 

「先輩、何を言われても私は行きますからね」

「ああ行ってこい」

「! ……止めないんですか?」

「あいにくと俺には、お前ら二人を止められる合理的な理由はない。

 ガルグイユを祓い、全員を救う目標を達成するためには、この選択が一番正しい」

「……意外です。 

 先輩なら、私が行くぐらいなら自分が代わりに行くとおっしゃられるのではと」

「その選択も考えたが、俺よりお前の方がルドルフの手綱を握り慣れてるからな」

「……」

 

 こちらに訝し気な視線を向ける柊。

 今までの言動から推察して、俺が何かを企んでいるとでも思っているのだろう。

 だがこれは嘘偽りのない俺の本音だった。

 

「まあ、なんというか、ありがとよ柊。

 俺と違う答えを選んでくれて」

「なんですかそれ」

「さてな」

「……先輩はずるいです。

 勝手に前へ進んで、勝手に納得して」

「別にお前からすれば困ることじゃないだろ? ほら、行ってこい」

「あ、あの、私からも一ついいですか?

 後で一緒に先生からのお説教を受けてほしいんですけど……」

「はぁ……」

「あ、呆れないでくださいよ!

 あなたは知らないでしょうけど、先生を怒らせたら本当に怖いんですからね!」

「はいはい分かったよ、指揮権は俺にある、責任は全て俺が負う。

 だからさっさと行ってこい」

 

 柊とルチアはルドルフのソリに乗ってビルの屋上から飛び立った。

 ヘリコプターは既にここにはいない。

 屋上に残されたのは俺一人だけ。

 もう俺にできるのは、彼らの勝利と生存を祈ることだけだった。

 

「先生! 助けに来ました!」

「……ルチア、後でお説教です」

「うっ」

「それはそれとして助かりました、ありがとうございます」

「は……はいっ!」

 

 ルチアの投入による、戦況の変化は劇的だった。

 体力が減り、怪我を負い、動きが鈍った結果、無理な動きを強いられ余計な体力を奪われ、新たな怪我を負う悪循環に陥っていた彼ら。

 そんな二人の消耗は、ルチアの奇蹟によって全て取り払われた。

 

「グルアアアアア!」

 

 当然、RPGの戦いでは回復役から仕留めるのが定石だ。

 ガルグイユは炎のブレスを放つなどして、ルチアを執拗に狙い攻撃する。

 しかし高速で空を駆け回るルドルフを捉えることはできず、悉く攻撃は外れていった。

 加えて柊にはあれがある。

 

「に、ニコラウス様ぁ! お助けください!」

 

 二人とルドルフは何度か怪しい場面に陥った。

 しかしどんな危機に陥っても、偶然が味方し危険を排除する。

 『ニコラウスの金貨』の加護は、彼女達を完璧に守り抜いていた。

 その上、戦場にいる仲間たちは、積極的に彼女達を守ろうと立ち回っている。

 こうなってしまえばもう彼女達の活躍を止めることは誰にもできない。

 

 ガルグイユはこのまま戦ったところで勝機はないと悟ったのだろう。

 奴は大きく喉を膨らませた。

 切り札を切るつもりだ。

──水を吐き出し洪水を起こしたとされる伝説の一撃が。

 

 竜のアギトから激流が放たれた。

 15メートルを超える高波を起こし、ジョル爺と時史に迫り行く。

 二人がいくら英雄的な武力を備えているとはいえ、その原型は人間だ。

 彼らは荒波に飲み込まれ、戦場から押し流されるしかなかった。

 

──その筈だった。

 

「させん!」

 

 時史が高波へと真っすぐに駆けだした。

 そして跳躍し、蹴りを放つ。

 そんな彼の足には、あるものが装備されていた。

 

 『天草四郎の草履』

 

 それは天草四郎の起こしたとされる、水上歩行の奇蹟が宿った草履。

 柊の『ニコラウスの金貨』や、ジョル爺の『ゲオルギウスの鎧』や『槍』と比べれば、奇蹟の性質も性能も一段劣る。

 天草四郎は列聖されていないため、聖遺物と呼べるのか、その聖性も不確かだ。

 だが、『剛力』の奇蹟者が『天草四郎の草履』で高波に蹴りを放てばどうなるのか。

 

──高波が割れた。

 真っ二つに。

 それはまさしく、モーセの海割りだった。

 

 そして高波が割れた先に、ガルグイユの姿が見えた。

 目を丸め、口を大きく開き、動揺を露にしている。

 まさに絶好の好機。

 

「──フッ!」

 

 ジョル爺の投げた『ゲオルギウスの槍』が、ガルグイユの脳天を貫いた。

 悲鳴を上げてのた打ち回るガルグイユに近づいた二人は、ストラで首を縛り付ける。

 これでガルグイユの動きは封じられた。

 

「薪とガソリン持ってきたぞ!」

 

 駆けつけた鬼塚達は、ガルグイユの身体にガソリンをぶちまけ、火と薪をくべる。

 見立ての儀式は最終局面に辿り着いた。

 もうすぐ戦いが終わる。

 せめて最後の瞬間は皆と一緒に見届けたいと、現地に駆け付けた。

 

「……ああ」

 

……やっぱりか。

 一寸の希望を抱いていた。

 もしかすれば竜の亡骸から、あいつが姿を現して動き出してくれるのではないかと。

 廃村落の焚火でガルグイユの呪いを浄化した、あの時のように。

 

 だけど、そうはならなかった。

 

「……今までありがとよ、ガーゴイル」

   

 砕かれた石片は身動ぎ一つしない。

 その身に宿る聖霊は、完全に消失していた。

 

 誰の命も奪わせないと立てた誓いは、果たされた。

 しかし、何一つ失いたくないという思いは、届かなかった。

 

==

 

「それでは悪魔事件の解決を祝って、乾杯!」

「「「乾杯!」」」 

 

 事件解決を祝う宴が始まった。

 場所は天草教会の縁があるというバイキング形式の食事処。

 参加者は天草教会の面々とジョル爺とルチア、そして俺と柊だ。

 店は貸し切りにされており、彼らは盛大に勝利を喜んでいた。

 

「お二人の御手に触れさせてはいただけないでしょうか……?

 ぜひともその祝福にあやかりたく……」

「ええ、構いませんよ」

「え……わ、私もですか?」

 

 宴会の主役となったのは、ジョル爺、益田、ルチア、柊の四人。

 特に戦闘員から絶大な支持を集めていたのはルチアと柊だった。

 

 ルチアは慣れた態度で握手に応じる。

 対して柊は動揺を隠せない。

 学校一の人気者としてアイドルのように扱われていた彼女ではある。

 しかし、本物の聖女のように崇められたのは初めてだったのだろう。

 

 命懸けの戦場で、英雄たちへ奇跡と加護を振りまき続けた二人。

 その姿が彼らの目にどう映ったのかなど、想像に難くない。

 

「……これうめえな」

 

 そんな宴会場の端で、俺は一人、黙々と食事をしていた。

 周囲の人間は、どこかこちらを遠巻きにしていた。

……まあ、あんなことをやらかしたのだ、それも当然だろう。

 と、思いきや、こちらに近づいてくる物好きがいた。

 鬼塚だ。

 

「よっす荒木、少しは気持ちに整理がついたか?」

「ああ、これのお陰でな」

 

 そう言いつつ、鬼塚へフォークに刺した肉を見せつける。

 

「……悪かったな、ガーゴイル、助けられなくて」

「鬼塚が謝ることじゃない。

 それに俺としても、この悪魔事件が終わったらガーゴイルを封印しようかと考えていたんだ」

「そりゃどうして」

「あいつが便利すぎるせいで、最近は頼り癖ができちまってな。

 今回の悪魔事件に関しても、今思えば別の解決方法があったのかもしれない」

「……あったか?」

「……いいや、ないな」

 

 それにこのままガーゴイルを所持していれば、またGMがヤケクソシナリオをぶつけてくるかもしれない。

 なんにせよ、まだ駆け出しに過ぎない俺には、あまりにも過ぎた力だったのだろう。

 

「……なあ荒木、お前はあいつらみたいに皆に褒められなくて悔しくないのか?」

 

……。

 

「確かにあいつらは頑張ってた、それは戦場での活躍を見ての通りだ。

 だけどお前の頑張りを隣で見てきたオレとしちゃあ、同じぐらい評価されるべきだと思ってよ」

「そういうもんだろ、あいつらは命を張って戦った、正当な評価だ」

「だけどよぉ、お前の策がなければ全員を救うことはできなかったんだぞ」

「──千夏の言う通り、この絵を描いたのはお前だ。

 お前がいなければ、この結末は迎えられなかっただろう」

 

 人ごみをかき分けやってきたのは、本日の主役の一人、益田時史。

 彼は俺の座る席の向かいに腰掛け、こう語る。

 

「切った張ったと視覚的に分かりやすいものに評価基準を置いてしまうのは、我々の未熟さが原因だ、すまない」

「別に未熟とかじゃ」

「いいや、我々は未熟なんだ……ここにいるのは若い連中ばかりだろう?」

 

 そう言って益田は天草教会の面々に視線を向ける。

 確かに彼らは30歳以前ぐらいの若者しかいなかった。

 

「悪魔祓いに関わる以上、どうしても死傷者が出てくるのは避けられなくてな。

 かつて大悪魔と戦った際、親世代の殆どが亡くなってしまった。

 生き残った大人もいたが、肉体的にも精神的にも悪魔祓いを続けることができず。

 結果として、俺のような若造に天草教会代表の立場が回ってきたという流れだ」

「……」

 

 知っている。

 それは「エクソシストTRPG」をゲームとして遊んでいた時代に、設定資料を読んで知った内容だ。

 しかし文字ではなく、設定ではなく、実在する当事者から聞くのとでは、やはり感じる重みに大きな違いがある。

 

「今だからこそ言うが、俺はお前に嫉妬していた。

 天草教会の代表という立場を引き継いだにもかかわらず、右も左も分からず失敗続きの日々を送っていた俺とは違い、お前はたった一年と少しで燦然と輝く実績を築き上げた。

 お前たちの助けを断ったのは、確かに組織人としての面子もあった。

 しかし、その根底に嫉妬があったのは否定できない」

 

 まあ、なんとなくは察していた。

 ここまで実績を残しておいて、周囲に何の影響も及ぼさないと思うほど、俺も自分の評価に無自覚ではない。

 

「だが今はこう思う。

 たとえ相手が何者であろうとも、自分より優れた点があるのなら、自らの未熟さを認め見習うべきだと。

 特にお前のあらゆる手段を用いて事件解決を目指す柔軟な思考。

 ただ一つの目標へ全力を尽くす姿勢は、組織の長として学ぶべきものを感じた」

「ほう」

「俺はお前からエクソシストとしての在り方を学びたい。

 そして今回助けられた恩を返す機会も見逃したくない。

 つまり……縁を結び──いいや、違うな。

 こういうのは、もっと単純な言葉を使うべきだろう。

 俺を助けると思って……友達になってくれ」

「……おう、いいぜ」

「ありがとう、今後ともよろしく”明”」

「よろしくな、”時史”」

 

 こうして、俺の携帯電話の連絡帳に新たな名前が登録された。

 益田時史。

 天草教会代表直通のコネである。

……代償に見合った報酬は得られたか。

 

「それはそれとして、恋人に色仕掛けをさせるのはやめておけ。

 あんな事ばかりさせてたら、いつかどこかで報いを受けるぞ」 

「恋人じゃねえけど……そこに関しては反省してる」

 

 言い訳はいくらでも思いつくが、連ねたところで後悔は拭えない。

 今後は避けたいところだが……

 

 ん?

 背後から服を引っ張られた。

 後ろを振り向くと、そこにいたのは柊。

 彼女の表情には僅かに険がある。

 今になって色仕掛けへの不満を言いに来たのか?

 俺自身も後ろめたい気持ちはあるし、反省もしている。

……しているんだが、正直、便利すぎてな。

 いいや……ここは大人しく柊の怒りを受け止めるとしよう。

 

「先輩。

 だだでさえ小さい子ってだけでも危ないのに、流石に男の子はヤバいですよ……!」

「……はぁ」

 

 窓の外へ視線を投げる。

 空は雲一つない快晴だった。

 どこまでも透き通るような青空が広がっている。

 吹き荒れていた嵐の気配は、もうどこにも残っていなかった。

 

 どうやらいつもの日常に戻ってこれたらしい。




GM「おいは二人なら乗り越えられると信じとったばい」
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