悪魔の現れるTRPG世界に転生してしまった 作:いかのしおから
ここまでお付き合いいただいた読者の皆様へ感謝の舞を……!
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サキュバスの悪魔事件が片付いてから数週間、何事もなく新学年を迎えることができた。
制服に袖を通したばかりの新入生は初々しく、桜は満開、空は雲一つなく真っ青で、まるでこれからも平和な日々が続くのだと象徴しているかのような景色である。
「先輩! 進級おめでとうございます!
これで最上級生の三年生になりましたね。
尊敬すべき先輩に相応しい学年です」
「学年に相応しいも何もないと思うけどな。
それはともかく柊も進級おめでとう」
「ありがとうございます!
私もこれで二年生、去年の先輩と同い年ということになります。
私も先輩を見習って、後輩に頼られるような立派な二年生でありたいものですね」
「なれるさ、俺なんかよりも立派な二年生にな」
「あーやっぱり今のなしです。
流石に先輩の頼もしさを目指すのは私にはハードルが高過ぎました」
「そんなことはないと思うが」
頼られると言っても悪魔絡みでしか役に立てない俺と違って、社交的で明るく優しい柊であれば、きっと色んな人から頼られ、その分支えられることだろう。
「しかし、最近は本当に平和な日々が続いているな。
あの頃の慌ただしさが嘘みたいだ。
多分一生分の災難が、あの期間に凝縮されていたんだろう。
今年度からは気楽に過ごせそうだ」
「……え、ええっと」
気まずそうに眼を逸らす柊。
おいまさか。
「──わ、私の通学コースにしている湖に謎の怪魚が現れたと噂が立ちまして、管理人さんが困っているみたいなんです。
悪魔が現れたなんて悪評が広がるのは避けたいと。
……助けてくれませんか、先輩……?」
「……とりあえず、話を聞いてからだ」
……どうやら俺達は新年度に入っても、悪魔事件に関わっていくことになりそうだ。
柊の誘蛾灯ぶりは相変わらず健在だった。
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「──おお、君が小夜子ちゃんがよく話してくれる先輩かい? 聞いてた通り男前だねぇ、俺も若い頃はお兄さんみたいな男前だったんだけど」
「えー? 泉さんが先輩似ですか? そうは見えませんけど」
「人間誰しも若い頃はあったのさ」
「……柊、紹介してもらっていいか?」
「おっとごめんなさい。
こちらが今回の依頼人の小泉さん。
そしてこちらがメールでお伝えした荒木先輩。
人知れず邪悪な悪魔を祓い人々を助ける正義のエクソシストです」
会話の内容や雰囲気から分かるが、湖の管理人と柊は随分仲がいいらしい。
聞いた話によると、柊はこの湖を通学のコースにしており、湖の管理人である彼とは顔を合わせる機会も多く、よくお喋りをしているのだとか。
外見年齢は60前後の男性、こんな年上とまで交流を持つとは、相変わらずの人脈強者である。
「ご紹介に与りました、荒木明です。
本職ではありませんが、悪魔祓いの知識なら多少蓄えていますので、お役に立てれば幸いです」
「これはどうもご丁寧に、私はこちらの湖を管理している小泉五郎です。
小夜子ちゃんから話は伺っているよ、彼女の相談事を何度も解決してくれたんだって? 今回は頼りにさせてもらうね」
「解決できるかどうかは状況次第になりますので、一先ず話を伺わせてもらえますか?」
ヤバそうだったら逃げよう。
柊が心配だったのでここまで来たが、無理に祓おうとして危害を加えられては元も子もない。
いざとなれば身内に注意喚起をして、柊には登下校コースを変えるよう言いつけ、尻尾を巻いて逃げるまでだ。
「……あれはそうだねぇ、一週間前ぐらい前のことだ。
漁師さんから湖の底に、妙に大きな魚影を見たという話を聞いたんだ。
それからというもの近隣の住民から、怪物を見た、怪魚を見たといった噂が出始めて、人が立ち寄らなくなりはじめてね……。
この湖はボート観光もしているから、これ以上お客さんがいなくなるのは問題だと考えて、漁師さんに捕獲をお願いしたんだ。
だけど依頼した漁師さんは、何も捕まえず帰ってきた。
彼曰く、大きな口に幾つもの牙を蓄えた、凶悪な顔つきの巨大な怪魚だったそうだ。
それから彼は怯えきって怪魚の出たとされる水域には近づかなくなった」
単純に巨大魚を見た、ってわけではなさそうだな。
湖の漁師とはいえ、鯨やダイオウホオヅキイカといった巨大海洋生物の存在は知っているだろうし、川や海から流れ着いた見たことのない魚と出会うこともあっただろう。
あれは単なる海洋生物ではないと、直感的に何かを感じ取ったのかもしれない。
「その後、お上の方に相談して近隣の大学から調査団を派遣してもらったりもしたんだけど、最初のうちは興味津々だった彼らも、一度湖に出るとまるで魔法にでもかかったように怪魚に対する興味を失って帰っていってね」
精神干渉系の魔術も使えるのか……。
「これはもうお手上げだとほとほと困っていた時、小夜子ちゃんから荒木君を紹介されたんだ。
もちろん成功すれば報酬は出させてもらう、20万円だ、お願いできないかい?」
20万……プロのエクソシストならともかく、アマチュアの学生に対する成功報酬としては結構な値段かもしれない。
それだけ湖の悪魔に困らされているというわけか。
とはいえ、これは報酬がなくても受けるしかない案件だ。
「……俺も命が惜しいので必ずやり遂げると断言はできませんが……今は夕方、霊的存在が活性化する時間帯ですので、次の休日の朝から調査に取り組んでみたいと思います」
「それで構わない、ありがとう、よろしく頼むよ」
「承りました。
調査が終わるまで、湖の悪魔を刺激しないようお願いします」
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俺達は小泉の依頼を受けた後、帰路を歩いていた。
「どうですか先輩、解決できそうですかね」
「まだ悪魔の名前も分っていないから何とも言えないが……水生の悪魔はマズイな」
「? 水生の悪魔だとなにか問題があるんですか?」
ある。
陸上の悪魔と比べれば二段三段は上回るほどに。
「まず前提として、俺達人間は陸上歩行生物だ。
泳ぐこともできるがこの身体は水中での行動に適した作りではない。
そんな俺達人間が水中に生息している水生悪魔に挑むのは不利というわけだ」
「おお、意外にも現実的な理由ですね」
「それに加えて、水生の悪魔は陸上の悪魔と比べて厄介な性質を持つ者が多い。
小泉さんも言っていたが、今回の悪魔は精神干渉系の魔術を使えるらしい。
更には巨大な怪魚ときたもんだ、漁師さんの反応からしておそらく人間の体長を優に超えた大きさだろう、なんなら乗っていた船すら上回るかもしれない、こういった巨大な怪物系の悪魔は格が高い傾向にある」
リヴァイアサンやクラーケンとかな。
「不幸中の幸い、今のところ人死には出ていないようだが、怒らせればただでは済まないだろう」
「ただでは済まないって……?」
「最悪を想定するなら、町一つ水底に沈ませるぐらいはやってくる筈だ」
「ひ、ひえぇ……」
水生の悪魔は危険なものが多く、また水場とは人間が自由に動くのが難しい環境。
まじないも使える怪物ともなれば脅威度は3(有害)を超えて、4(天敵)や5(天災)に足を踏み入れるかもしれない。
そんな奴が暴れ出せば、俺の家まで沈んでしまう、今回の依頼は受けるしかなかった。
とはいえ戦闘勝利を目指すつもりはない、当然だが交渉一択だ。
基本的にエクソシストTRPGにおいて、悪魔祓いの知識や聖遺物、魔導書があれば脅威度3までの悪魔なら対処可能だが、脅威度4を超えると途端に難しくなり、脅威度5の悪魔になると、いかにして逃げ延びるかを主軸に置いたシナリオになってくる。
湖に潜んでいる悪魔が脅威度の低い悪魔であることを願うばかりだ。
「家に帰ったらいつでも逃げられるよう家財を纏めておけ。
親には学校で災害対策訓練が行われたから、その復習でもしたいと説得してな」
「わ、分かりました」
調査は土曜日。
鬼が出るか蛇が出るか。
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そして当日、俺と柊は湖の麓にやってきた。
浜には管理人と柊が佇んでいる、調査は俺一人で行うつもり──だったのだが。
「もちろん私も向います。
先輩一人を危険にさらして、私だけ浜辺で待っているわけにはいきませんから」
「……はぁ、どうせ言っても聞かねえだろう、分かった分かった、ついてこい」
「それでは早速湖に乗り込みましょう先輩!」
「待て待て、まずは外周を周ってからだ」
俺と柊は慎重に湖に近づいていく。
とはいえ今すぐ水場に足を踏み入れるつもりはない。
湖の外周をぐるりと回ってみるつもりだ。
「……えらく手すりと湖の距離が遠いな」
「そうなんですよねぇ、中々手すり越しだと湖を近くで見れなくて」
すると分かったのは、この湖が妙に干上がっているという点。
水の中は……普通だな。
少なくとも俺には分からん、水質や生態系を調べようにも知識がない。
困ったな、ここから観測して分かることがほとんどない。
……こうなったらしょうがない、乗り込むか。
「おかえり二人共、なにか分かったかい?」
「いいえ、あんまり。
ただ一つ気になったことがあって。
水場と手すりの距離が妙に遠かったのですが、あれはいったい?」
「ああ、この湖は少しずつ水嵩が減っているんだ。
一応観光地だから、数年おきに手すりなんかは改修しているんだけど、二百年後ぐらいには湖が干上がって消えるんじゃないかって言われてる」
「というと、湖の管理人的には、困った話になるんですかね」
「いいや全然、この湖が干上がれば土地として活用できるからね。
そうなれば次は土地開発さ、高層ビルをバンバン立てて大儲けしてやるのさ」
「はえー、夢のある話ですねぇ」
そう上手くいくもんかね。
元々湖や川なんかがあった場所には、地形的に水害が起きやすいとされている。
それに加えて霊的にも危険地帯になりがちだ。
忠告すべきか?
いいや、余計なおせっかいかもしれないし、この手のことは行政が忠告してくれるだろう。
子供に忠告されるより、大人に忠告された方が角も立たないだろうしな。
それはともかくだ。
「先輩、もしかすると湖に悪魔は昔から存在しており、水嵩が減ったせいで人間と出会いやすくなったのかもしれませんよ」
「それかもしくは湖の悪魔こそが水嵩を減らした元凶か」
「なるほど、そうも考えられるわけか……なんにせよ、湖に怪物がいるのは困るよねぇ。
観光客もそうだけど、漁師さんも近づきにくくなっちゃってるし」
「まあ、そうですよね。
とりあえず、用意をお願いしておいた船を貸してもらってもいいですか?」
「もちろん準備はしているけど、本当に手漕ぎボートでいいの?」
「はい、大きな音の出るモーターボートだと、悪魔を刺激しちゃうかもしれないので……本当についてくるのか柊」
「当然です、先輩を一人にはさせられません」
「無事に帰ってきなよ二人共」
俺だって無事に帰れるなら帰りたい。
なんなら逃げ出したいとも思っている。
だが悪魔の住み着いた場所がうちの町の湖ときた。
家族の命がかかっている状況で、そんなヘタレたことは言えなかった。
岸に取り付けられていた手漕ぎボートに乗り込み、水上を進んでいく。
ある程度進んで周囲を見渡すが、特に変わったところは見当たらない。
「なにもありませんね」
「ここから見ればな。
今からこれで水中を見る、俺が間違って溺れないよう支えておいてくれ」
「分かりました!」
うお、背中におっぱいが。
待て、煩悩に囚われている場合じゃない、目の前のことに集中しろ。
「……ふー」
首にかけていた水泳ゴーグルを頭に取りつけ、水面に顔をつける。
すると見えてきたのは魚や水藻。
生命が活動できる環境は維持されているらしい。
水中も特に変わったことがない……いいや、なんだあれ? 石板?
何重にも積み重なった石板の山、そこには整った文字が書かれている。
「ぷは」
水面から顔を上げてタオルで拭きながら考える、あれはいったい何なのだろう。
「何か見えましたか?」
「多分石板だと思う」
「石板というと、遺跡などから出土される?」
「ああ」
石板、それは確か、人類が紙を開発する前に使われていた物だった筈。
あの石板には文字が書かれていた。
描かれていた文字は日本語だけでなく、英語や中国語、ヒンドゥー語など様々だった。
あの石板を持ち込んだのが悪魔なら、相当の教養を持った悪魔ということになる。
「……」
「先輩、何か分かったんですか……?」
もしかして、湖に調査に来た大学調査団を帰らせたのは、魔術ではなく別の技術だったのでは?
湖の悪魔が人に危害を加えたという話は聞いたことがない。
死傷者は一人も出さず、水難者すら出していない。
もし湖の悪魔が話し合いという手段を用いて、大学の調査団を撤退させたのだとすれば。
自分の正体を秘密にしておいてくれと、彼らを説得できるだけの交渉力を修めていれば。
水生の悪魔、巨大な怪魚、多言語を読み解く教養、精神干渉能力、もしくは交渉力。
これらの記号から導き出される解答といえば……あれしかない。
「きゃっ!?」
「うおっ」
目の前の水面に巨大な魚影が見えた。
まずい、考えをしていたせいで周囲の確認を怠っていた。
いいや、だが、この悪魔が俺の想定通りの存在なら、危害は加えてこない筈だ。
怪魚は水しぶきを上げ水中から姿を現した。
「せ、先輩、あ、あ、悪魔が」
「……大丈夫だ、安心しろ。
あなたは……フォルネウスさまですね?」
「はぁ……これでバカンスもおしまいか」
湖の悪魔の正体、それは名づけの大悪魔、フォルネウスだった。
==
「よく知っているね、確かに僕こそが地獄の大侯爵、フォルネウスだ。
君は僕のことを知っているようだけど、何者かな?」
──フォルネウス、それは優れた修辞学などの言語能力、命名など文語知識に加え、敵対者を友人同様に愛されるようにする精神干渉系の能力を備える悪魔だ。
『ゴエティア』や『悪魔の偽王国』にも登場し、ソロモンと契約した72体の悪魔の1体、序列30番の地獄の大侯爵。一部は座天使、一部は天使からなる29の軍団を指揮する由緒正しき大悪魔である。
本気で暴れ出せば湖周辺など一瞬で滅ぼせる存在だが、俺の心には余裕があった。
それは「エクソシストTRPGサプリブック第二弾光の指輪」においてフォルネウスは認定脅威度2(交渉可能)であったためだ。
息を整え、失礼な態度を取らないよう心掛けて返答する。
「荒木明と申します。
多少神話に関する知識を齧っており、此度湖に悪魔が現れたと話を聞き、調査を依頼されました」
「なるほど……」
一応柊を手で制しておく。
フォルネウスは脅威度2(交渉可能)、とはいえ配下を持つ大悪魔。
サキュバスのような脅威度は高くても低級の悪魔とは格が違う。
格で言えばそれこそ以前邂逅したマスティマのような存在だ。
マスティマは『ニコラウスの金貨』を恐れてはいたが、あくまでそれはサタンの監視の片手間であったから。
見たところフォルネウスは肉体を持って完全顕現している、発揮できる力に制限はないだろう、敵対は避けたかった。
「フォルネウスさま、お伺いさせてもらってもいいですか?
どうして地獄の大貴族であられるあなたが、現世の湖に住み着いているのでしょうか?」
「何百年前かにこの湖に召喚されたんだよ、魔術師によって」
何百年前──一応魔術には寿命を増やすものがある。
普通の人間なら既に死んでいるだろうが、魔術師となれば否めない。
今回の事件の裏には悪魔召喚者が潜んでおり、そいつを倒すのが真のエンディングか?
だとすれば面倒なシナリオだな……。
そもそもの話、その魔術師は、いったいどんな目的で、何故フォルネウスをここに留め続けているのだろう?
「でもその魔術師が召喚したかった悪魔は別にいたらしくてね。
つまりは間違って呼び出されちゃったわけ。
せっかく意気揚々と呼び出しに応じてやったっていうのに、願いも言わずにこの泉に放置されちゃってさ、まったく酷い奴だよ。
君達もそう思わないかい?」
「え、ええ、そうですね、それでその魔術師は?」
「すぐに追いかけてぶっ殺してやったさ。
こっちがこんな見た目だから水の中でしか過ごせないと思ったんだろうね。 まったく悪魔を舐めるのも大概にしてほしいよ。
しかも僕はあれだよ? ソロモンともマブダチの超有名悪魔だよ?
本当にさ、礼儀ってものを弁えてほしいものだよ。
その点君達はよく礼儀を理解しているみたいだけどね」
「ありがとうございます」
「……なんだか気さくな悪魔さんですね」
ぶっ殺すなどと内容はやっかいだが、親しみやすくて話しやすい性格だ。
……いいや、これはおそらくフォルネウスが得意とする修辞学の効果だろう。
修辞学とは古代ギリシャで流行った学問で、現代風に訳せばレスバ力とコミュ力だ。
そんな能力に加えて、フォルネウスには人を敵から友人同様に愛されるようにする力を持っているともされる。
これらの力を用いて、大学の調査団と友好関係を結び退けたのだろう。
俺も彼らのようにフォルネウスの術中にはまらないよう気をつけなければ。
「まあ、不本意な理由で召喚されてしまったけど、呼び出されたこの湖はとても広くて水質も綺麗でね、当分の間は現世のバカンスを楽しむつもりでいたんだ。
だけど年々水嵩が減って湖が小さくなってさ、そのせいで人間とも接触する回数が増えてきて、こうして君と出会うことになったわけ」
「バカンスもおしまいか、と仰っていましたが、悪事を働いていたわけではないので?」
「人間基準における悪事は働いてないね。
僕のご飯になった魚にとっては違うかもしれないけど。
元々湖が干上がって住めなくなったら、故郷に帰るつもりでいたんだ。
そうなる前に君に見つかったから年貢の納め時だと感じてね。
そんじょそこらのエクソシストに負ける気はないけど、怪我はしたくなかったし。
とはいえ君が正規のエクソシストじゃないなら、撤収はまだ早いのだと思い始めているんだけど」
「今のところ地獄に帰るつもりはないと」
「うん、今のところは……どうする? 戦っちゃう?」
「……戦いたくありませんね。
とりあえず、依頼人にこの内容を打ち明けて相談しに行ってもいいですか?」
収穫はあった。
あとは小泉さんに決めてもらうまでだ。
==
これらの事情を二人に説明した後、俺は小泉さんに問いかけた。
「──それで、小泉さんはこれからどうします?」
「どうするとは……?」
「まず前提として、フォルネウスを祓うのは不可能です。
湖の悪魔は大変格の高い悪魔で、俺達の実力では退治が困難でした」
『ニコラウスの金貨』については語らない。
あれは柊が持つべき物であり、それをおいそれと他人に預けるべきではない。
それに『ニコラウスの金貨』は現実的な値段換算でも価値がある、この依頼人が魔が差してしまう可能性も考え、奪われてしまわないよう情報は秘匿するべきだろう。
「そこで提示するのが三つの案です。
1別のエクソシストを雇うか、2交友関係を築くか、3不干渉を貫くか」
「……」
「まずは1の別のエクソシストを雇うについて。
俺にはフォルネウスを祓うのが不可能と判断しましたが、人によって見解は異なるかもしれません。
どうしても祓いたいのであれば、俺以外の実力のあるエクソシストを雇用してください。
といってもエクソシストを騙る詐欺師は多いので、本物を見つけられるかは分かりませんし、例え本物の実力派を見つけられたとしても大金を要求してくるかもしれません。
それに実力が足りず悪魔祓いに失敗すれば、フォルネウスから無用な恨みを買い、この町が水底に沈みかねないので、やってほしくはありませんがね」
フォルネウスなんて大悪魔を祓えるエクソシストなんて早々捕まりはしないだろう。
それができるとすれば、何十回も高難易度セッションに参加し生き残った高レベルプレイヤーか、公式チートモードの奇蹟者ぐらいだ。
俺はやめておいた方がいいと思うけどな。
「……に、2番目は?」
「2は交友関係を築く──俺の所感からして、フォルネウスは礼儀を弁えて接すればまず敵対することはありません。
更には修辞学や言語に長け、召喚者が貢物を渡して頼めば、素晴らしい名づけを行ってくれるそうです。
これらの性質を理解して、上手く付き合っていくのはどうでしょう」
漁師や大学の調査団を退けたのも、魔法ではなく話し合いだったようだし。
一体どんな言葉で説得したのか少々気になるところだ。
「3は不干渉、この湖が干上がれば地獄に帰るそうなので、それまで不干渉を貫くか──俺から提示できる案はこのぐらいです。
あとは小泉さんたちで話し合って決めてください」
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「──結局小泉さん達は、フォルネウスさんと仲良くやっていくことに決めたそうですよ。
彼が地獄に帰るまで、礼儀を怠り怒りを買ってしまわないよう文献に認め、後世に脈々と伝えていく方針にしたのだとか」
「その対応には納得できるが……どうして新聞に載っているんだ……?」
柊が家から持ってきたという地元新聞には、地元の湖に怪魚が現れたという内容が掲載されていた。
見出しには「『地元の湖に巨大魚の影が! 新手のネッシー出現か!?』という文章が書かれており、紙面を飾るのは件の依頼人である小泉。
彼は具体的な記号は出さず曖昧にぼかしつつも、それでも湖には何か得体のしれないものがいると確信的に語っている。
「遠のいた観光客を呼び戻すため、新手のネッシーとして売り込ませてくれないかとフォルネウスさんに交渉をかけたそうです。 するとフォルネウスさんは快く受け入れてくださり、正体は分からないが湖に何かが実在するという確信を抱かせる絶妙の塩梅で、人前に姿を現してくれているのだとか。
お陰で観光地としての客入りは、怪魚騒ぎが起きる以前より活性化しているようです」
「なんじゃそりゃ」
「あと先輩が言っていたように、最近子供の生まれた漁師さんがフォルネウスさんに頼んで子供の名前を決めてもらったそうですよ」
「……確かに提案したのは俺だが、後で痛い目に遭っても知らないぞ」
「その時は大丈夫ですよ」
「なんでだよ」
「また先輩が助けてくれますから」
「……お前は俺を買いかぶりすぎだ」
なんにせよ、したたかというか、図太いというというか。
彼らとフォルネウスは案外上手くやれているようだ。
お読みいただきありがとうございました!
もしよろしければコメント高評価お願いします!
ちなみにですが、あらすじを追加しました!
=追記=
誤字報告助かりました!
第五話は誤字や修正点が多そうなので、今から修正作業に入ります!
=追記の追記=
一通り誤字修正が終わりました!