アメイジング・グレイス 作:にゅーとん
ミレニアムに滞在している間に、私も出来る限りのことはしてみた。
ユウカさん、ノアさんの捜索は進まず、目撃情報もない。失踪した……ひっそりとどこかへ行ったみたいだ。
その事実にミレニアムの生徒たちは強いショックを感じていた様子だったが、そもそもあの二人がミレニアムを見捨ててどこかへ行くということもあり得ない。何かしらのトラブルがあったことだけは確かだ。
「いま、アリアさんの個人的な理由だと思われる行動はとれないですね」
トリニティに戻って数日。
ハナコちゃんはティーパーティーの生徒会長になっていた。
この非常時に的確な指示を出し続けたハナコちゃんは必然的にその地位に着けたのだろう――いや、着かされたのか。
「いえ、冷戦に考えてください。だって、あの二人が急に失踪だなんて」
「はい。何かが起きている可能性はあります。それに、ミレニアムには借りがありますから。ただ、情報統制されている以上は……大規模な捜索はユウカさんとノアさん、それにミレニアムの生徒会長調月リオの失踪を宣伝するに等しいですから」
「難しい……と」
これに関しては私が個人的に頑張るしかなさそうだ。
それと――
「セイアさんはまだ眠っているんですか?」
「……はい。ですからあくまで私は仮の生徒会長になりますね」
「複雑ですね。私はホスト代理だったナギちゃんの代理だし。いわばホストの代理の代理。そんな本来のホストの代理として今度はハナコちゃん」
正直ハナコちゃんがホストをやった方が何倍もいいと思うけれど。
私はティーパーテーの幹部たちを弾劾するような真似をして立場が悪いが、それでも代わりはいないらしい。ミレニアムで何をしていたのか執拗に聞かれたが、何とか躱して、今は一応形だけでもホストだ。
それと、ミカちゃんは今でもまだ生徒会長としての地位は失っていないらしい。
私なりに調べてみたのだが、ゲヘナで大きな事件は起きていない。先にアリウスを潰しに行ったのかも。
「それと、やはりアリウスの殲滅は必須でしょう……何とかゲヘナとの全面戦争は避けられましたが、アリウスは……他の学校からも何人か派遣されるでしょうが」
「そうだよね……他の学校もアリウスだけは絶対に許しては置けないといった空気だけど……余計な介入をしてほしくないと言うのもあるね」
私とハナコちゃんが話し合っているのは、トリニティの今後について。
山の様に来る苦情の数々。どれも先生を危険に晒したトリニティの監督責任を追及するものだ。
その矛先をアリウスに――まあ、本当に実行犯だけれど――向けるしかなくて。トリニティは責任を持ってアリウスを壊滅させることを約束した。
キヴォトス中でアリウス憎しが叫ばれている以上、トリニティが率先して動かなければ別の自治区からの大規模な介入が起きかねない。
「何か、出来ることはあると思う?」
「……アリウスの生徒たちの助命は、簡単ではないでしょう……率先してヘイローを破壊しようとする人はいないと思います。ですが、感情的になってやり過ぎる生徒は多いかと」
「……ハナコちゃん嫌味が下手になりました?」
「あ……いえ……そんなつもりではなかったんです。本当に」
申し訳なさそうにするハナコちゃんに、私も謝った。
トリニティに戻ってきたその日のうちに、私はハナコちゃんに私の前世の話をした。
私は前世においてこの世界をゲームとして認識していたこと。そのストーリーを全部は知らないが、エデン条約編と呼ばれるストーリーだけは見たこと。
その知識から、古聖堂にミサイルが飛んでくることも先生が撃たれることも知っていたが、それぞれ死者は出なかったこと。だから、私はその流れに任せてしまっていたこと。
ハナコちゃんは信じてくれたし、恨み言も言わなかった。最低だと詰られた方がずっと楽だったから、もしかしたらハナコちゃんはそれも理解して私を赦したのかもしれない。
賢くて、仲間思いで、優しい。でも、厳しいから。
「……トリニティとして表立ってアリウス生徒たちを救うのは無理ですからね……また、後で補習授業部のみんなで話し合おう」
ユスティナ聖生徒会は、ゲーム通りの方法で封じ込めたらしい。タイトル回収のあった、あのシーンだ。私がいなければ、やはりうまくいくようだ。
例えば、今からでも私がいなくなれば軌道修正できるのではないか。失った命が戻るとは思わない。もう二度と、ナギちゃんとは会えないのだ。
でも、ミカちゃんは救われるかもしれない。私なんかが消えることによって、全部うまくいくのなら、それほどいい話はない。
責任を取ると決めた一方で、そんな考えがずっと頭を埋め尽くしている。
責任を取れば……トリニティを安定させて、今の問題が解決すれば。そのあとは……
☆
事件からもうすぐ三か月。
カフェで補習授業部のみんなと待ち合わせをしていた。
みんなと久しぶりに遊んで、また明日から頑張らなければならない。残酷なまでに、日常が戻り始めている。
アズサちゃんはまだ元気がないし、そもそもみんな前に比べて暗い。それでも、少しだけ笑えるようにはなってきた。
やっぱり前みたいな空気にはならないし、楽しむのを避けてすらいる子もいるようだ。
少しハナコちゃんがふざけて、コハルちゃんが怒って……急にコハルちゃんが大人しくなって、ハナコちゃんも暗くなる。そんな繰り返しが何度も起きた。するとすかさずヒフミちゃんが話題を出して、暗い雰囲気が続かないようにしてくれる。
なんだかんだ、補習授業部で一番強いのはヒフミちゃんなのかもしれない。彼女がいなかったら、もしかしたら会話すら出来なかったかも。
そんなヒフミちゃんも時々悲しそうな顔をしているから、私は自分を生涯許せないと思った。
「じゃあ、また……」
「コハルちゃんは正義実現委員会としての仕事が大変なんですよね……でも、体調優先で気を付けてくださいね」
コハルちゃんは小さく頷いてから手を振って帰っていく。
アズサちゃんはあれ以来精神的に不安定な状態で、ヒフミちゃんがずっと一緒についている。二人は一緒に寄り添いあって帰った。
「私たちはまだ、仕事がありますからね」
「アリアちゃん……大事な話があります。聞いてくれますか」
「ぇ、な、なに……?」
「死のうだなんて、絶対に許しません」
今までに見たことが無いほど真剣な表情で、ハナコちゃんは私に言った。
どう答えたものかしばらく悩んだが、嘘はつきたくないと思った。嘘をつかないとすると、正直に答えるしかないわけで。
「なんでわかったのかな?」
「根拠があったわけじゃないんです。ただ、アリアちゃんがそう考えていそうだと思っただけで」
「ハナコちゃんにしては珍しいですね。そんな勘みたいな。まあ、それで当たってるからすごいね」
「絶対に、許しませんから」
ハナコちゃんらしくない言い方ではある。そもそもこうやって直接的に話したりはしない子だ。
「はぁ……私もね、死にたいわけじゃないんだよ。きっと、この世界の誰よりも死を恐れているし忌まわしく思っている。一回死んでるわけだから。
そうだね、どう話そうかな…………私はずっと、なぜ死がエンタメになるのか疑問だった。なんでわざわざ余命宣告された恋人の話を作るんだろう。実話なら分かるよ。知って欲しいと思うもんね。でも、違う。フィクションでどうしてそんな話を扱うの。なんで平気で人を死なせられるんだろう。アクション映画で出てくる敵だって、本当に悪人の場合もあるけれど、そうじゃないことだってある。家族がいて、明日見たいテレビがあって、来週には楽しみにしている本が発売されて、来年はこんなことをしようと思っている人が、あっけなく死ぬの。気持ち悪い……誰も理解してくれないの。所詮フィクションだろうとか、余計なところに感情移入するねって。
今なら分かる。なぜ死をエンタメにするのか。死をエンタメにしないと耐えられないからだ。
人はいつか死ぬ。それは分っているけれど、自分にいつか死が訪れると知っていても、所詮他人事なんだよ。そんなわけないのに、自分には到底縁のない話だと思っていたいんだ。ショーケースの分厚いガラスの向こうに死があるのを見て安心しているんだ。それが本当は飴細工みたいにもろいのだと知らないで」
私は泣いていた。言いながら、ナギちゃんが死んだということをやっと実感したから。人の死には慣れない。
死は他人事なのだ。
一度死を経験して、今世では死を誰よりも恐れていた私ですら、ナギちゃんが死ぬかもなんて考えてなかった。
「それでも。私はアリアちゃんに生きていて欲しいです」
「……分かったよ……ハナコちゃんが私の友達である限りは……絶対に死なないから」
「……」
ハナコちゃんは何も答えなかったが、私の眼をじっと見て頷いた。
短いですが、今年の投稿はたぶんいったんこれで止まります。これまでの話の修正とかして、今度こそ最後まで書きあげてから投稿にするか。やっぱり評価や感想を頂けたら励みになるので、たまに投稿するかもしれません。
評価色ついて嬉しかったです。あまり万人受けしない作風ですし、ショート動画で可愛らしいナギちゃんやらを見ていると、なんだかこんなの書いてていいのかなって気持ちになりますが。