アメイジング・グレイス   作:にゅーとん

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地獄
レクイエム


 第三次特別学力試験、結果――

 

 ハナコ――100点、合格。

 アズサ――97点、合格。

 コハル――95点、合格。

 ヒフミ――94点、合格。

 アリア――100点、合格。

 

 

 

 あの後の展開は、ほとんど原作通りだ。とはいえ、やっぱり私は格が違った。銃で撃たれても、爆発しても、これといった負傷もなく堂々としている私という存在は、訓練されたアリウスの生徒たちにとって、寧ろよく訓練されていたからこそ、恐ろしく見えたことだろう。

 途中で参戦してきたミカちゃんを相手にしても、私はまだ余裕があった。

 

 ミカちゃんはある程度本気で戦っていた様子だったけれど、セイアさんの無事を聞かされて引き下がった。

 

 朝には試験を受け、結果、補習授業部全員の合格が決まった。

 

 

「というわけで、喧嘩は完全に私の勝ちですね……ねえ、ナギちゃん……ごめんだから、機嫌直さない?」

「まさか初めての喧嘩でここまでのことをされるとは、夢にも思っていませんでした」

「あはは、まあ、許してよ」

「あ、あはは……? うっ……」

「あっ、ご、ごめん!? ワザとじゃないんですよ?」

 

 ナギちゃんに謝り倒しているのだが、しばらく拗ねたままだ。と言っても、ナギちゃんなりの仕返しをしているのであって、それほど本気で怒ってはいないようだった。

 

 ミカちゃんとも何度か面会したけれど、前みたいには話せなくなってしまった。踏み込もうとすると引かれると言うか。

 

 

 でも、これも時間の問題だろう。

 

 

 

 

 

 

 

トリニティ内の、ナギちゃんが利用していたセーフハウスの一つ。そこを教えて、来てもらえないかと先生にモモトークを送る。

 

 返事を待つ間に、バイオリンの調弦をする。合宿に行っている間全く触っていなかったわけだから。

 G(ゲー)線が特にズレていて、半音近く下がっていた。こういった音感も、なぜだか生まれた時から持っていた。

 

 教育を受けていないのに最初からそれが分かると言うのは、なんとなく奇妙な感じがした。

 

 

 先生からモモトークが返って来て、すぐに来てくれるとのことだ。というか、先生って相当忙しそうなんだけれど、こんなメッセージ一つで来てくれるなんて、もしかして私のことが好きなのでは?

 

 

 まさかね。たまたま暇だったのかな?

 

 

 

 先生が来るまでの間に練習がてら何曲か弾いて、思っていたよりもずっと早く先生がやってきた。別の用事でトリニティにいたのかもしれない。

 

「早かったですね……突然呼び出してすみません」

「うん。少しトリニティに用があってね」

「えっと、モモトークでも伝えましたが、よろしければ私の演奏を聴いてほしくて」

 

 まあ、当然と言うべきか、快諾してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 楽器の演奏は好きだ。ピアノでもバイオリンでも、ギターもベースもなんだって。空気が振動して、いつか溶けてなくなる。音というのは儚いものだ。それに美を感じているのは、人間の美しさの表れだと思った。もしくは全く逆の考えだけれど、醜さかもしれない。

 

 どっちでも嫌いじゃない。

 

 どのような楽器でも、一番演奏を楽しめるのは演奏者だ。

 そういう意味では、私は自らの才能を愛せた。

 

 

 

「すごい……」

 

 他人に褒められるのは、未だに慣れない。

 

 難易度としては高くないが、一番好きなアメイジング・グレイスを聴いてもらった。

 

 

 

 

 

 

 先生を呼び出したのは、いよいよ明後日に、エデン条約調印式があるから。私は結局、誰にもこれから起こることを話さない事に決めた。

 

 エデン条約調印式に巡航ミサイルが飛んでくるのも見逃す。それでナギちゃんのヘイローが壊れかけるのも見逃す。先生が撃たれてしまうのも見逃す。補習授業部の皆が大変な思いをするのも見逃すし、さらにその後ミカちゃんが深く傷つくのも、見て見ぬふりをする。

 

 補習授業部の皆で試験を合格できたように、私がいても変わらず原作通りにストーリーが進んだように。

 私は先生の導くハッピーエンドまで、待つことにした。

 

 

 そのあとで全部話そう。知っていて見逃したことも、言い訳にしかならないけれど私なりに考えがあったこともすべて、話そう。

 

 結果として、私は全てを失うかもしれない。そうはならないという、醜い打算もあるけれど、怖いのは本当だ。

 裁かれたいと思っている。裁かれたいのは、楽になりたいからかもしれない。それなら裁かれなくてもいい。一生禍根が残ってもいい。

 

 

 私は先生と、この世界を信じてみることにしたのだ。

 私なんかが、余計なことをしない方が、良い未来が待っているのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 エデン条約調印式当日

 

 

 

 

 

 

「……騒がしいな」

「今日はついに、あのエデン条約が締結される日ですからね! 特別に学校も休日扱いですし、街も人でいっぱいです!」

 

 アズサちゃんとヒフミちゃんの言う通り、お祭り騒ぎと言った雰囲気だ。

 

 前世を平和な日本で過ごしてきた私としては、銃声が響いたり、時にはロケットランチャーがぶっ放されたり、それが普通の喧嘩感覚で行われているキヴォトスは常にお祭り騒ぎだけれど。

 

「せっかくのお祭り騒ぎなので、先生も一緒だったらよかったのですが……どうやら条約の方でお忙しそうです」

「……で、どうして私はここに呼ばれているわけ?」

「それはもちろん、私たちはまだ補習授業部の仲間だからですよ……それに、アリアちゃんだっていますし」

 

 ハナコちゃんとコハルちゃんの会話が私の方に飛んできたので、ひとまず苦笑を返して。

 

「補習授業部の卒業パーティーですから。重要なのはこっちだよ。あぁ、それとも、コハルちゃんは私たちと一緒にいるのが嫌だった?」

「べ、別に嫌とは言ってないでしょ!? み、みんなで頑張って乗り越えたわけだし……それに、これで全部終わりってわけじゃないし。私はずっと正義実現委員会にいるから、押収品の管理室にでも来てくれれば大抵……」

 

 

 

 

 そんな会話をしながらも、私は外の様子が気になって仕方がなかった。

 

 今からでも私には巡航ミサイルの被害を減らすことが出来る。

 簡単な話だ。私が飛んできたミサイルに突っ込めばいい。ある程度空中で爆発すれば、少しは被害も減るだろう。蹴り上げれば、もっとだ。

 私はミサイルが直撃しても服が消滅するくらいの損害だろう。

 

 アズサちゃんが大切に持っているぬいぐるみを見て、これからのアズサちゃんのことを思う。苦しい思いをする。けれど、結果として物語は良い方向へ進む。この現実だってそうに違いない。

 あの先生ならきっと。

 この補習授業部の皆ならきっと。

 

 これから起こることを知らずにのんきに騒げている人たちが、少しだけ羨ましい。

 

 いや、私は自分なりに、考えた。

 サオリと先生が最初に出会うのは調印式のはず。そこで先生は撃たれてしまうわけだけれど、そのあとアリウススクワッドを先生が救い、結果としてミカちゃんも救える。

 

 この流れはエデン条約調印式の襲撃が必要だろうし、やっぱり介入するべきじゃないんだ。

 

 私は私なりの覚悟を持って、何もしない。

 

 

 あともう少しで、全部終わる。

 エデン条約編さえ終われば、私はそのあとの話を知らない。もう気にしなくていい筈なのだ。

 

 

「アリアちゃん? どうかしましたか?」

「え? いいえ。なんでもないよ」

「そう……ですか?」

 

 ハナコちゃんは鋭い人間だ。確かに今の私はどこか変だろうし、これからエデン条約調印式が滅茶苦茶になって、私が何かを知っていたことに気が付くかもしれない。

 でも、終わったら全部話すのだから、悪いが放っておこう。

 

 

 と、何か不吉な予感。空を裂いて何かが欠ける音。

 

 

「……っ!?」

 

 アズサちゃんも何かに気が付いたらしく、走り出した。

 

「あれ、アズサちゃん……? どこへ行くんですか?」

「聞かなくてもいいでしょ、トイレよ!」

「えっと、ですがトイレはあちらではなく……」

 

「……え?」

 

 

 

 四角く切り取られた外の世界。空の上。

 一発の巡航ミサイルが通り抜けていった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 爆発音と悲鳴。騒ぎの中、私たちはいったんトリニティに戻ってきた。

 混乱している。だが、おそらくゲヘナによる攻撃だろうという流言が広まり、今にも戦争を仕掛けそうだ。

 

 

 状況を理解できている人は一人もいない。私だけはこうなることを知っていたけれど、周りに合わせて不安げな表情を浮かべておく。やはり、罪悪感があった。

 

 

「アリアさん! ハナコさん、補習授業部の皆さん……!」

 

 

 私たちの名前を呼びながら駆け寄ってきたのは、シスターフッドの伊落マリー。橙色の髪に、シスター服。遠目にも気が付ける特徴的な見た目で、私以外の皆もすぐに誰だかわかったらしい。

 

「ま、マリーさん?」

「マリーちゃん! 無事でしたか……!」

 

 

 

 駆け寄ってきたマリーさんが話したのは、一部の過激派が緊急招集令を出したこと。その暴走を止めるためにも、私とハナコちゃんの力を貸して欲しいとのことだった。

 

 私に政治は無理だろう。お勉強は出来ても、地頭は良くないし。実際に役に立つのはハナコちゃんだ。

 けれど、私はナギちゃんの側近的な立ち位置だと思われているし、権威主義的な思想を持った生徒たちには、私の存在も効果を見せるはず。

 

 コハルちゃんも正義実現委員会としての役目があり、どこかへ行ってしまったアズサちゃんを探すのはヒフミちゃんに任せて、私とハナコちゃんはマリーさんについて行く。

 

 

 

 ハナコちゃんが暴走状態にあったトリニティ生たちを抑えている間に、ネットの情報を探ってみる。もちろん、私はおおよその全貌を知っているけれど。

 何か予想外のことが起きていないか探してみるが、そもそも混乱している状況ではまともな情報も集まらなかった。

 

 そんなことをしている間に、ハナコちゃんは的確な指示を飛ばし混乱をある程度落ち着かせていく。さすがだ。

 

 

 私は何もしないのを選んだのだ。何もしないのが最善だと信じて。出来ればどこかへ消えた方がいいのだろうけれど、補習授業部の誰かが私を探し始めたら状況が変わる。案山子に専念しよう。

 

 

「……本当に、ごめんなさい」

 

 

 小さく、誰にも聞かれないように呟いた。

 

 

「あの……! すみません!」

 

 慌てて駆け寄ってきた生徒に、私とハナコちゃんは目を見合わせた。視線だけで私が対応するよと……伝われーと念じると、ハナコちゃんは頷いた。

 

 それが嬉しくて、口角が上がりそうになったのを抑える。私はまだ、ゲーム気分が抜けていない事に気が付いて、やっぱり嫌な気分になる。

 

 このタイミングで慌ててくるという事は、先生が撃たれたことかもしれない。無事なのはわかっているけれど、それでも神妙な顔を作らなければならない。

 

「どうしましたか? そんなに慌てて」

「あの、シャーレの先生が……!」

「先生……? 調印式に出席しているはずですよね……もしかして、何か……」

「は、はい……! 身体に何発もの銃撃を受けて……予断を許さない状況だそうです……!」

 

 

「……え」

 




 書き終えてたつもりでしたが、以降休載します。復帰時期は未定。
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