旅する狼達よ、鋼鉄の城にて吠えろ(シャングリラ・フロンティア×ソードアート・オンライン)   作:しらすの番人

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死なせたくなかったから

 

『ドラゴン』という言葉は日本語で漢字にすると「竜」と「龍」の二つがある。これは西洋と東洋と表していると言われているのだが(諸説あり)、四つ足べったり地面についているのが竜、体が蛇のように伸びていて前足二本が龍、みたいに。

例えば我等がシャンフロが誇る黄金『ジークヴルム』、アイツは龍。色々あった黒竜『ノワルリンド』、あっちは竜のように。

 

何が言いたいか?俺達が現在進行系で戦っているアギエラ君は『竜』だってことさ。

 

 

 

「『威圧』来るぞ!レベル20以下は下を向け!」

 

キリトがそう叫ぶ。俺達旅狼+森エルフ三銃士は全員レベル20以上なんで無視してアギエラに突っ込み、威圧最中で動かない竜の足を各々ソードスキルで切り刻む。

 

第七層フロアボスこと『アギエラ・ジ・イグニアス・ウィルム』。全長十メートルを越える巨躯の赤竜を相手に、俺達はレベル20以上のプレイヤーを主体に戦闘を行っていた。

 

その理由として、先に竜が放った『威圧』が関係している。というのもこの威圧、レベル20未満のプレイヤーが威圧発動中の竜の目を見ると即スタンするとかいうクソ仕様な技なのだ。

レベル20を超えているプレイヤーは現在参加中のレイドでは俺達旅狼全員、森エルフ三銃士、キリト・アスナ・キズメル・アルゴ。ARKからはディアベル・キバオウ・リンド。エギルパーティからはエギルのみ。キオも20は超えていて、戦闘に参加こそしているものの二ルーニルの防衛がメイン。

 

つまるところ、圧倒的にARKやキリト達よりも旅狼勢力の方がレベルが高い。よって『威圧』を喰らう条件が『レベル20未満のプレイヤー』だと判明した瞬間、俺達はARKと役割を交換。竜の目の前を旗で強化された旅狼が担当、ARK達は竜の側面となった。ガリウスやキリト達はレベル20を超えているので、基本俺達と連携して動いている。

 

 

「『ホリゾンタル・スクエア』!『バーチカル・スクエア』!!」

 

クッソ楽しいなんだこれ!基本アギエラは威圧中目を見開いたまま動かないからこうやってタコ殴りに出来る!!四連撃×2とか普段出来ないから新鮮だな!!

 

 

「一本消えた!この調子で行こう!!」

 

この威圧中でやっとアギエラのHPバーが一本消えた。行動パターン把握のため慎重に戦っているからとは言え、一本削るのに十分もかかるんじゃ遅すぎる。

 

だが、結局俺だけが削るぞーつっても一人じゃ何も出来やしない。かと言ってスクエア系の技以上に火力の出せるソードスキルは今のところ取得出来ていないので、ちびちびと削るしかないのだ。

 

とか考えてたら、正面でアギエラが首を曲げ口を閉じたことに気づいた。そしてその口からちらちらと溢れる赤い炎の粉。

 

 

「これがブレス攻撃だ!!盾持ちの後ろに密着しろ!!」

 

 

「・・・・・・カッツォ!」

「あいよ!」

 

キリトの指示でプレイヤー達は盾持ちの後ろへ。俺達の半分はカッツォとモルドを先頭にして二人の後ろに密着した。

 

「ゴアッ!!」

 

アギエラが首を横に振り同時に口を開ける。空気が震え、吐き出されたオレンジ色の炎が扇形に広がりフロア全体を明るく燃やしていく。

 

 

俺達の残りの半分は横から来るブレスを()()

 

 

「3、2、1・・・今!」

 

合図に合わせて俺とペンシルゴン、レイ氏と京ティメットは右から来るブレスに単発ソードスキルを空撃ち。四通りの武器が来たるブレスを剣風で拡散させる。

 

「うあっちちち!!」

 

・・・・・・ブレスが斬れたとしても火の粉は普通に飛んでくるから熱いんですけどもね。

 

「キリトから対策法教えて貰ってなきゃヤバかったかもな!!」

 

プラスでアルゴがレイド全員に提供してくれた『スノーツリーの蕾』なる物を入れた水の効果も大きい。どこで入手したのかは流石に教えてくれなかったが、何と一定時間『炎耐性バフ』を着けてくれている。

 

 

「A・C・Dはそのまま側面から!Bは下がって回復!残るE・F・G・Hは正面から攻撃!!」

 

ディアベルが指示を飛ばす。今回は何とか八パーティから成る一レイドに人数が収まることが出来たので、ディアベルが全容を把握しながら指示出し出来る。

ちなみにA〜DがARK、E・Fが俺達、GとHがそれぞれエギルとキリト達。

 

 

ブレス攻撃はアギエラの中でも最上位だったらしく、アギエラはブレス後は余韻ていうか反動で十秒ちょい動けない。ボコスカ殴ってる内に二本目の終わりも見えてきた。

 

 

「『ホリゾンタル・スクエア』!!」

 

アギエラの右足を斬る、斬る、斬る、斬る!!ライトブルーに迸る優雅な片手剣は、遂にアギエラに致命の一撃に与えた。

 

「ゴァァ・・・・・・!?」

 

「ダウンしたぞ!チャンスだ!!」

 

足に一定以上のダメージを与えたからなのだろうか。俺のホリゾンタル・スクエアによりアギエラは右足から体勢を崩しダウン状態となった。

 

弱点が判明したのならこちらのもの。起きている間は足を重点的に攻めてダウン状態を作る。そしてダウンになったらとにかく殴る。

 

俺はダウン状態中にクイックチェンジでウォル剣の威力を確かめてみたがこれがまぁ強い強い。当然の如く火力は二倍以上、なんなら旗のバフと重なって俺のソードスキル一撃一撃がとんでもない威力になっていた。経験値減るのは許せないけどな!!

 

 

 

「ゴォア・・・・・・」

 

HPバーも残り二本となった頃、アギエラは首を下げ、テラテラと炎をちらつかせ始めた。

 

「もっかいブレス!」

 

一回やり過ごした後はもう簡単、さっきと同じことを繰り返すだけ。

 

 

「ゴォアア!!!」

 

アギエラが首を横に振り同時に口を開ける。空気が震え、吐き出されたオレンジ色の玉が一直線にフロア全体を明るく燃やしていく。

 

・・・・・・玉?一直線??

 

 

「ッ皆すまん!これはブレスじゃない─『火球』だ!!」

 

キリトがそう叫ぶがもう遅い。パターンチェンジの兆候も何もなかった、つまる所ブレスと火球の攻撃モーションが同一だった。直径1m程の火球は攻略集団のど真ん中に直撃し、超威力の爆発を引き起こした。

 

 

「あっっっぶねぇ・・・・・・」

 

ブレス攻撃だと思って盾持ちの後ろに全員が隠れていなければ、一人くらいはマジで葬れる威力をしていた。盾があったとはいえ直撃したカッツォとモルドは──

 

「・・・・・・やばぁ」

「これは・・・・・・ヤバイね」

 

どちらのHPも五割を下回り50%以下の注意域に突入している。二人とも火球前は八割のHPが残っていたのにである。直撃とは言え盾ありでこの威力。もし盾が無かったら25%以下どころか一割ぐらいにまで減っていたのではないだろうか。

 

 

アギエラとはまだ距離があったので、素早くポーションを飲んでいる時、それは起こった。

 

アギエラが唸り声を止め、翼を大きく開いた。

 

「威圧か!?HPが減って強化されてるかもしれない!レベル20以上のヤツも下を向け!!」

 

ディアベルがそう言う、キリト達やペンシルゴン達も下を向き始めたのでじゃあ俺も──とはならない。誘導されている気がするのだ、こう動けばこうするよなと思考実験をされているかの如く。だから、俺がやるべきことはあえて下を向かないこと。これでまだ未知のパターンを知れるのならば──

 

アギエラの威圧は翼を広げてから三秒後に発動する。そして威圧の時はアギエラは翼を動かさない。だがなんと言うことだろうか、アギエラは翼を動かさないどころか動かし続けているではないか。

 

 

「違う、これは威圧じゃない!!」

「皆さん前を向いて下さい!」

 

俺と顔を下げていなかった秋津茜がそう叫ぶ

 

バサッ、バサッ

 

俺達叫ぶのとバサバサした羽音が鳴るのは同時だった。

 

 

 

「─飛んでる」

 

アギエラは翼を羽ばたかせ、一度フワリと空中に浮くと広間の天井へと上がっていく。

 

今まで飛ぶモンスターは何度だって見た、ハチ系ことワスプ・ホーネットモンスター、七層でもヤリカブトが飛んでいた。

だが、今まで俺達は『飛ぶフロアボス』なんて相手にしたことがない。

 

五層のフスクスは結局腕と足に攻撃出来てたからノーカン、六層の辞書キューブだってあれは数センチ浮いてる程度でほぼ誤差。

 

だがアギエラはどうだ、地上から十数メートルの所を飛翔している。

届かないのだ、攻撃が。片手剣で最長の射程を誇る『ソニックリープ』でさえどう頑張っても高度十メートルが限界。残されたのは──

 

「ペンシルゴン!」

 

「分かってる!」

 

いよいよ必須になってきたな『チャクラム』!!そうだ、剣が届かないのなら飛び道具を使えばいい、これ『投剣』スキルを取ることも選択肢に入れるか?飛ぶのは無理だろ!ソードがアートするゲームなのに肝心のソードが届かないとか欠陥か???

 

 

だが、ペンシルゴンがチャクラムを投げるより早く、アギエラの両目が赤く光った。

 

「今度こそ威圧──!」

 

「ひっ─」

「やっば・・・!」

「うああ!」

 

何が翼を広げてから三秒後だ。元々翼を広げてたら関係ありませんてか?

 

痛くも痒くもない、ただの赤い光。なのに震える、見てはいけないモノを見てしまった時のような、『七つの最強種』を彷彿とさせる悪寒。

 

1デスで即アウトだからか?どうもSAOじゃ強者と認定出来るヤツが多い──!

 

 

「ッ!無効化出来てる!!」

「私もです!」

 

空を飛んで直後の不意打ち威圧。ほとんどのプレイヤーは引っかかり、レベル20以下のプレイヤーの動きが止まる。どうやら威圧のレベル条件は変更されていないようだ、もしかしたら旗のデバフ耐性増のおかげで無効化したのかもしれないが。

 

アギエラの威圧のスタンは三秒程度、それよりもどうやってアギエラを地上に降ろさせるかが───ッ!!

 

 

「とんでもねぇことするじゃねぇか茅場晶彦!!」

 

恐らくアギエラが飛んだ時点でこの行動は確定されていた、いやプログラミングされていたと言った方が正しいのかもしれない。

 

この『威圧直後にブレスもしくは火球を放つ』って行動も、お前がデザインしたんだろ茅場晶彦・・・・・・!!!

 

「火を吐くぞ!!」

 

キリト側黒エルフことキズメルがそう叫ぶのと、アギエラが燃え盛る灼熱の塊を吐くのはほぼ同時。当然、プレイヤーの大半がスタンから解除されたばっかで動けていない。

 

 

「・・・二ルーニルを!!」

 

今一番守らなければならないのが昏睡状態で動けない二ルーニルと従者のキオ。恐らくだがこの世界でも、NPCは一度死んだら復活しない。俺達も死んだら同じだが、心理的にNPCは死なせたくない。

 

戦闘をする内に段々と場所がズレていったのだろうか。今、二ルーニルとキオに一番近いのは、キリトでもアスナでもなく、かと言ってキズメルでもアルゴでもない。俺と秋津茜とレイ氏、カッツォ。

 

この場で状況を理解し、火球が地上に衝突するほんの数秒でキオ達の側に駆け寄れたのは、俺と秋津茜の二人だけだった。

 

「間に合えッ──」

 

キオを奥にし、秋津茜が真ん中、誤差だが火球から一番近くなるのを俺にして二ルーニルを守る。そして俺はHP自動回復の恩恵を受けるためにクイックチェンジでウォル剣を装備。

 

 

直後、火球が地面に衝突し───尋常じゃない威力の爆発を起こした。

 

 

 

光は音より速く、音は炎より速かった。

まず俺達を襲ったのは眩しすぎる閃光、続いて衝撃波と衝撃音。最後に真っ赤な炎。

 

衝撃波の時点で俺達は耐えられず、一直線に吹き飛びフロアの端の壁にぶつかった。

 

 

SAOにリアルな痛みは再現されていない。されていたら今の大半のプレイヤーは怖くてフィールドになんか出やしない。だがそれに近い衝撃は感じる。

体の内部が混ざったような感覚を感じながらも、俺は自分と秋津茜、そしてキオと二ルーニルのHPを確認した。

 

俺のHPは残り四割、ウォル剣のおかげで段々回復傾向。秋津茜は六割、そしてキオが約三割で気絶状態、二ルーニルは・・・・・・残り一割、今も減少傾向。

 

他のレイドメンバーも、無傷は誰もいない。良くて二割削られたくらい。酷いやつは赤の危険域に突入している。俺達の中だとカッツォが残り三割。

 

 

「ゴガァアア!!!!」

 

 

いつの間にか空中から地上に降りてきたアギエラが咆哮を上げる。勝利宣言か、それとも今から潰すぞという意志の現れか。アギエラが見ているのはディアベル達の方、総合的に見て一番被害がデカい所。

 

 

「・・・は、経験値減少、それがどうした。いいぜ、俺がこの剣使って速攻アギエラ潰してやるよ・・・・・・!」

 

恐らく、ペンシルゴンに再度旗を立てて貰い、更に俺が瞑想をしウォル剣での回復速度を上げれば、単騎攻略も夢物語ではない。一度、俺が時間を稼いでる内に、ディアベルやキリト達には体勢を立て直して貰った方が──

 

 

「サンラク、私を─立たせて」

 

「二ルーニル・・・・・・?」

 

かすかな、今にも途切れそうな声が俺の耳に届いた。

聞こえてきた方を見ると、気絶したキオの背中から這い上がるようにして俺を見つめる二ルーニルがいて。真紅の色をした瞳が、俺に何かを訴えかけていた。

 

 

「はやく」

 

か細くて、そこに絶対の命令権限なんて存在しないはずなのに、拒否出来ない。

 

俺はウォル剣を一旦鞘にしまい、倒れているキオを傷つけないように二ルーニルの手を取り、支えた。

 

二ルーニルは俺から手を離すと、一瞬ふらついてから持ち直した。金髪の髪をたなびかせて見やるのはアギエラの方、アギエラ唸り声を上げながら一歩、一歩確実にディアベル達の方へと近づいていっている。

 

 

「サンラク、ファルハリの剣を」

 

 

ファルハリィ・・・・・・?いや、二ルーニルの見ているトコから何となく想像がついた。『ソード・オブ・ウォルプータ』、確かコイツはファルハリが水竜ザリエガなるものを倒す時に使われたと書いてあった。

 

その間にも二ルーニルのHPが少しずつ減少していってる。現在約7%。これでどのくらい持つのかは分からないが、長くはないということは見れば分かる。

 

 

俺はウォル剣を鞘から抜き、二ルーニルの両手に慎重に預けた。

 

その瞬間、柄頭にあった宝石が真紅の輝きを纏った。真紅の光はいずれ剣全体を包みこんでいき、透き通る黒に剣が染まっていく。

 

真紅、黒、成る程、こりゃ確かに──

 

 

「『夜の主(ドミナス・ノクテ)』専用装備、ってとこか」

 

 

本来の色をウォル剣が取り戻した瞬間、二ルーニルは長剣を大きく振りかぶった。

 

 

「ハアアアアアアアアッ!!!」

 

 

達人のような気合と共に、二ルーニルは剣を振り下ろす。目標はアギエラのど真ん中。

 

剣から真紅のエネルギー、ゲームとかでもよく見る剣ビームがウォル剣から放たれた。

だが、アギエラはそのエネルギーに気づいていた。頭からぶつかる直前、アギエラは反射で横に跳んだ。剣ビームはアギエラに当たりこそしたものの、そこは頭ではなく左腕と翼。

 

アギエラの左腕と翼が根本から断ち切られ、HPが減少──残りHP一本に到達し、減少は止まってしまった。

 

 

「・・・仕損じた」

 

「二ルーニルさん!」

 

電池が切れたようにパタリと倒れそうになる二ルーニルの体を受け止めたのは何とか立ち上がった秋津茜。俺は二ルーニルの手から落ちたウォル剣を回収した。

 

 

「─秋津茜、キオを連れて逃げて」

 

「・・・え」

 

「私はいいから。お願い、キオだけは──」

 

「駄目です!二ルーニルさんも一緒に・・・・・・!!」

 

「お願い・・・・・・」

 

秋津茜が必死になって二ルーニルをどうにかしようとするも、俺達にどうにかする手段はない。キリトから聞いたのだ「『夜の主』である二ルーニルには、人が使うポーションを飲んでも効果がない」、と。

 

二ルーニルの残りHPはもう5%も残っていない。それも二ルーニルがさっき無理をしたせいで減少速度は大幅に速くなっている。恐らく、後二、三分。

 

この間にも、目標を二ルーニルに変えたアギエラがこちらに少しずつ近づいて来ている。時間的余裕も、物理的距離も、もう少ししかない。

 

だが、一つだけ──

 

 

「二ルーニルさん!私の血を──飲んで下さい!!!」

 

 

吸血鬼なのだから、血を飲めば回復する。

それは人の血でも出来るのだろう。

 

 

「だめよ秋津茜、それをしたらあなたが──」

 

「私のことはいいんです!今はそれより─二ルーニルさんが消えてしまうことの方が怖い!」

 

「なんで、そこまで」

 

「人を助けるのに理由なんてありません!それに、今、私は助けられるのに、助けられなかったら──私はきっと、後悔してしまう!!」

 

「───」

 

秋津茜は涙ながらにそう訴える。多分、秋津茜は俺とそう歳は離れていないはずだ。なのに、何と言ったらいいのか・・・・・・芯が強い。秋津茜はひたすらに真っ直ぐなのだ、純粋な心の持ち主で、手を差し伸べられるなら、迷わず差し伸べてしまう。

 

 

しばし考えた後、二ルーニルは秋津茜に「ありがとう」と言ってから、秋津茜の首筋に優しく噛みついた。

 

 

二ルーニルが秋津茜の血を吸い出したのか、二ルーニルのHP減少が止まる、というよりこれは右に振れるか左に振れるかでせめぎ合っている。まだ回復量が足らないのだろう。

だが、秋津茜のHPは着実に減っている、とっくに五割を切り、もう四割になろうとしている。

 

ズシン、ズシン・・・・・・

 

 

・・・・・・少しは待てないのかあのクソドラゴンは?目標が二ルーニルに変わったと言え、今のままでは俺が盾になったとしてもあまり意味がない。なんせあっちにはブレスぶっぱとかいう禁じ手があるのだから。

 

 

「・・・・・・ッ!皆!タゲを取れ!!竜をサンラク達に近づけさせるな!!!」

 

俺が単身突っ込むことも考え始めた時、動いたのはキリトだった。キリトの声がけにより、膠着していたプレイヤー達が動き出す。

 

そしてキリトはわずかに俺の方を見た。「頼んだ」と託すような眼で。

 

 

──なんとなく察しはついていた。二ルーニルは今こうやって秋津茜の血を吸っている、だが、さっきの一瞬、ほんの僅かに二ルーニルは秋津茜の血を吸うことをためらった。

それも「()()()()()()()()()()」というセリフ付きで。

 

ヴァンパイア・二ルーニルの態度・言動、そして──血。

ここから導き出せる結論は一つだけ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

正確には『夜の主(ドミナス・ノクテ)』になると言った方が正しいのだろうが、概ねこれで間違いないだろう。

 

 

秋津茜はそれを分かった上で──いや多分分かってないな。あれは単純に心の底から出てた行動だったし。それでも秋津茜なら迷わず飲んでと言っただろうが。

 

 

俺はこれを理解した上で──覚悟は出来た。

俺は別に秋津茜みたいに純粋な善人じゃないってことは自分でも分かってる。

だが──

 

目の前で死にかけの人がいて、見てみぬふり出来る程腐ってもないな!!

 

 

 

「二ルーニル!」

 

見れば秋津茜のHPはもう少しで二割を切ろうとしている。流石の二ルーニルも少し躊躇っていて、HPが少しずつ減少し始めている。

 

「俺の血を飲め!!」

 

「「!」」

 

そりゃ元々秋津茜のHPは六割くらいしか無かったんだ、足りなくても無理はない

 

ただ、俺はさっきウォル剣を少し持ってたことでHPが五割まで回復している。今の秋津茜よりかはマシだろう

 

 

「サンラク、でも、私は」

 

「大丈夫、分かってる。でもまぁ何とかなるだろ」

 

「分かって、るの?じゃあ尚更なんで──」

 

 

「秋津茜も言ってたけどな、」

 

「人を助けるのに理由はいらない。別にだからって積極的に人助けする程道徳心があるわけでもないが──」

 

「目の前で困ってる人がいたら少しでも力になりたい。それくらいの良心は持ってる」

 

 

「──ほら、なるはやでしないとタイムリミットが迫ってきてる」

 

「──うん」

 

「秋津茜もお疲れ、ポーション飲んで少し下がってろ」

 

「はいっ!」

 

秋津茜から両手で二ルーニルを受け取る。

一瞬の間を置いてから、二ルーニルは俺の首筋に噛みついた。

 

血が吸われているのが分かる。これなんだっけか──そうだよ採血!キューと引き締まり血が流れてんなぁと感じるこの感覚!注射されて採血されてる時の感覚とおんなじだわ!

 

今みたいに、いざ吸血!となっても俺に恐怖心はわかなかった。これからどうなるのだろうとかはまた後で考えればいい。ただ、あるのはHP持つか?という一点のみ。

 

 

そんな俺の思いを察したのかは知らんが、俺のHPが残り三割程になった時、二ルーニルのせめぎ合っていたHPがわずかに増加し始めた。

 

俺のHPが二割に到達した時、二ルーニルは首筋から口を離し、俺に囁き声で言った。

 

 

「もう、大丈夫。──ありがとう」

 

苦痛に耐えているような表情を浮かべながら二ルーニルは言う。だが、先程と比べても、明らかに血の気が肌に戻っていることが分かる。

 

「サンラク、あの竜を。いまのあなたなら出来る」

 

そう二ルーニルが言うと同時に俺の体に変化が現れる。

 

まず、全身の肌・内部から熱が失われた。いや別に俺は寒くはないんだが、ひんやりとした感覚がある。そして口がむず痒くなり、犬歯、要は一部の歯が伸びた。そして視界がめっちゃ明瞭になった。多分視力2くらい上がってる。

 

 

「サンラクさん」

 

ふと秋津茜に声をかけられる。そこには歯が伸びて肌も少し青白くなった秋津茜がいて、ヴァンパイアになったんだなと改めて実感する。

 

「・・・頑張って下さい!」

 

「おう」

 

 

「はい」

 

「ありがと・・・ってうお、重くなってる」

 

 

──真明解放──

 

『ドールフル・ノクターン』

 

 

先程まで『ソード・オブ・ウォルプータ』だったはずの剣を二ルーニルから受け取ると、真明解放なるメッセージと共に名前が表示された。

 

『ドールフル・ノクターン』。ドールフルの意味は存じ上げないが、ノクターンは流石に分かる。『夜想曲』。まぁ夜の主専用装備っぽいしこの剣の名前も夜の主を表しているのだろう。

 

 

「じゃあ、行くか」

 

一歩走り出す、ペンシルゴンが再度旗を立ててくれていた影響か、移動速度アップの効果も相まって何か不思議な感覚になる。

 

 

正直、ヴァンパイアになったが、不思議と楽しんでいる自分がいる。ウォル剣ならぬノクターンをデメリット関係なしに使えるようになったからだろうか。

 

 

「悪い、遅くなった!」

 

仲間達と合流するついでに『ソニックリープ』でアギエラの足を斬りつける。

 

「ゴギャァアア!?」

 

・・・・・・今の一撃だけでアギエラのHPバーが20%程削れた。ヤバイ、今の俺無敵かもしれない。

 

 

「また上に行くぞ!!」

 

アギエラ君は今のでラストのHPバーも残り50%を切り、同時にまた翼を羽ばたかせ空中に飛んだ。

 

今度は威圧無しで火球を撃とうとしているのが分かる。

 

 

「総員、防御陣形!!」

 

ディアベルがそう指示する、が──その前に倒す。

 

十数メートル上空のドラゴンをどうやって倒すのか?

答えは一つ、さっき二ルーニルがやってた剣ビームを直撃させればいい。

 

やったこともないのに、そもそも出来るかすらも分からないのに、不思議と今は「出来る」というある種確信めいたものが俺の心を満たす。

 

 

剣を下に構え、姿勢を低くする。貯めて、貯めて、貯める──

 

どうせなら、剣ビームよりもカッコいい技名をつけてやりたい。

 

なら今の状況、これが最適だろう。俺が知る竜に関係する英雄で最も有名な『竜を撃ち落とした』英雄の剣。

 

ドイツ神話『ニーベルンゲンの歌』に登場する英雄『ジークフリート』が持っていたとされる名剣。

 

 

「『バルムンク』!──なんつってな」

 

 

勢いよく上に振り上げた剣からは、予想通り真紅のエネルギーが放たれた。

 

その塊はアギエラが火球を撃つよりも速くアギエラに到達し、アギエラの体を縦真っ二つに切り裂いた。

 

 

────【 You got the Last Attack!! 】────

 

 

SAOで初めてのドラゴン戦は、最終的にヴァンパイアもどきがラストアタックを取るとかいう人外決着で幕が下りた。

 

 

 

 




少しサンラクをかっこよく書きすぎたような気もするけど・・・・・・ヨシ!(何が?)

次話でエピローグ的なものを書いて七層は終了となります。

最初はサンラクもしくは秋津茜のどっちか一人だけをヴァンパイアにする予定だったのですが、色々考えた結果めんどくなったので二人ともヴァンパイア化させました。

これにてヒロインレースは光属性が首位に躍り出ました、やったね()
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