••••••我々は望む、七つの嘆きを
••••••我々は覚えている、ジェリコの古則を
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────「シッテムの箱」へようこそ、先生────
まず私が最初に目にしたのは心臓部を撃ち抜かれ、赤黒い血で染まった白い制服を着た一人の少女だった。だが私は慌てる素振りも見せず辺りを見渡した。電車の中だろうか、乗員は私と彼女の二人だけのようだ。
目の前に怪我人がいるのに、自分でも不思議なくらい落ち着いている。これが夢だと認識しているからだろうか。だが妙に現実味もする、なんとも言えない感覚だ。
「••••••私のミスでした」
沈黙を破り少女が語り始める。対して私はただ黙って話を聞く。
「私の選択、それによって招かれたこの全ての状況」
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るなんて••••••」
「••••••今更図々しいですが、お願いします 先生」
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから••••••」
「ですから••••••大事なのは経験ではなく、選択」
「あなたにしか出来ない選択の数々」
「責任を負う者について、話したことがありましたね」
「あの時の私には分かりませんでしたが•••••••今なら理解できます」
「大人としての、責任と義務 そして、その延長線上にあった、あなたの選択」
「それが意味する心延えも」
「ですから、先生 私が信じられる大人である、あなたになら」
「この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を••••••」
「そこへ繋がる選択肢は••••••きっと見つかるはずです」
「だから先生、どうか••••••」
彼女が何を言っているのか私にはよく理解できなかった。だが一つたしかなことがある。それは彼女が私を信頼しているということ。ならばその信頼に応えてあげなければいけない。
それがおそらく、彼女の最期の願いなのだから。
私が決意をした時、逆光で見えない彼女の顔は微笑んでいるように感じた。
そして次第に意識が遠退いていき────
「•••••••い」
脳が働きを取り戻すにつれて声が聞こえてくる
「•••••••先生、起きてください」
「先生!!」
•••••••誰かが私を呼んでいる。脳を無理矢理起こし目を開けると、そこに立っていたのは眼鏡をかけた一人の女性だった。寝ぼけ眼越しに見えるのは童話のエルフのようなツンと立った耳に端正な顔立ち。なにより目をひくのは彼女の頭の上に浮いている輪っかだった。天使の輪だとすると、私は死んでしまったのだろうか•••••••?
「•••••••」
「•••••••?」
二人の間に短い沈黙が流れる。寝惚けているのもあるせいか、私は状況がいまいち呑み込めず困惑するばかりだ。
「少々待ってくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね なかなか起きないほど熟睡されるとは」
「•••••••夢でも見られていたようですね ちゃんと目を覚まして、集中してください」
彼女の言う通りよほど疲れていたのだろう。ぐっすりと眠っていたらしい。自らの頬を両手で叩き、目をしっかり覚ます。
•••••••夢。さっきまで確かにそんなものを見ていたような気がするが、全く記憶に無い。忘れてはいけないものを忘れている感覚がするのだが、どうにも思い出せない。
ふと顔を上げると、彼女がなにやら話したい事があるようなので、夢の事は後回しにして話を聞くことにした。
「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします」
「私は七神リン、学園都市キヴォトスの連邦生徒会所属の幹部です」
「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生•••••••のようですが」
「•••••••ああ 推測形でお話したのは、私もここに来た経緯を詳しく知らないからです」
七神リン、第一印象は真面目な子。スラッとしたスタイルに眼鏡と相まって、仕事が出来そうな雰囲気を感じる。ちなみに彼女はまだ高校生だそうだ。だがそうなると気になるのは、彼女の腰に掛かっているモノ。なにやら拳銃らしき形に見えるのだが•••••••まさかそんなはずがないと結論を出し、考えるのをやめた。
それにしても、学園都市キヴォトス、連邦生徒会、どれも初めて聞く名だ。それになぜ私はここにいるのだろうか?見知らない場所に忽然といる、おかしな話だ。
それにどうやら、彼女も私が来た経緯を詳しくは知らないらしい。もう少し話を聞いてみることにしよう。
「•••••••混乱されてますよね 分かります」
「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください」
「どうしても、先生にやっていただかなくてはいけない事があります」
「学園都市の命運をかけた大事なこと•••••••ということにしておきましょう」
彼女はそう言うと、ドアへ歩き始める。分からないことだらけだが、ここに居ても何も変わらない。私は軽く頷き彼女の後を追った。
ウィィィィィィンという機械音だけが響く、全く揺れを感じさせないガラス張りのエレベーター内に私と七神リンは乗っていた。外には様々なビルが建ち並び、街を横切る巨大な川。そして真っ青な空に浮かぶ•••••••
「?」
空に何か浮かんでいる•••••••。雲、ではないだろう。雲や煙にしては形がハッキリしているし、塔から出ているらしい。今まであんなものは見たことがない。彼女に尋ねると天使の輪も含め、これから説明してくれるようだ。
「キヴォトスへようこそ 先生」
「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です これから先生が働くところでもあります」
「きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが」
「でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう」
「あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」
「•••••••それはあとで説明することにして」
見ず知らずの私を受け入れる辺り、彼女は随分連邦生徒会長のことを信頼しているようだ。
それにしても数千の学園が集まっている学園都市とは•••••••もはや一つの国家と言っても良いくらいだ。そんな学園都市を管理する連邦生徒会長とは一体どういう人物なんだろうか。一回話してみたいものだ。
───チン
などと考えている内にエレベーターは目的の階に着いたようだ。エレベーターを降りリンの後ろを付いていき、「レセプションルーム(応接室)」と書かれた部屋に入る。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を連れてきて!」
部屋に足を踏み入れると、最初に聞こえてきたのはやや怒り気味の、ツーサイドアップの髪型をした少女の声だった。どうやらリンに対して言っているようだ。連邦生徒会長を呼ぶ辺り、なにやら大きなトラブルでも抱えているのだろうか。
「•••••••うん?隣の大人の方は?」
チラリと目を動かし、リンの隣に立っていた私に目を向ける。•••••••見間違いだろうか。彼女の手には軍隊が使うような中型の銃が握られていた。しかも二丁も。見た目は可愛らしい少女なのだが•••••••とりあえずリンに急用があるそうなので銃については後回しにしよう。
「首席行政官 お待ちしておりました」
次は長身黒髪の少女。背丈は私よりやや高いくらい。180cm近くはありそうだ。制服を着ている辺りこの子も学生なのだろう。だがそれ以上に目を引いたのは、いわゆるスナイパーライフルと呼ばれる銃だった。あまり銃に詳しくない私でも分かる。だがこれも普通は軍隊とか狩猟で使われるものではないのか?
ふと長身の少女の後ろに目をやるともう一人いるようだ。銀色の美しい髪が特徴の少女。制服は違うが知り合いなのだろうか?彼女も銃を持っている。
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
最後は風紀と書かれた腕章を付け眼鏡をかけた少女。
やはり彼女も銃を所持している。変わった形の銃ではあるが、先ほどのと比べると最早驚くことはなかった。順応というのは恐ろしいものだ。
「あぁ•••••••面倒な人たちに捕まってしまいましたね」
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」
「そんな暇そ•••••••大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています」
リンが今まで私に見せなかった面倒臭そうな表情で三人に対し、物腰柔らかくはあるが言葉の端々に刺々しさを感じる口調で話し始める。•••••••いくつになってもこういう雰囲気にはなれないものだ。お腹の辺りがキリキリしてくる。とはいえ私は先生なのだからこの場を静めるべきだろう。意を決し喋ろうとすると───
「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!」
「数千もの学園自治体区が混乱に陥っているのよ!この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました 治安の維持が難しくなっています」
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%増加しました これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
ツーサイドアップの少女、眼鏡の少女、銀髪の少女、長身の少女の順でリンに捲し立てる。ちなみに銀髪の少女ももちろん銃を所持している。
それに対しリンは沈黙を貫いたままだ。それもそうだろう。彼女たちが話している内容が本当の事だとしたら大問題だ。というか学生がなんとかするレベルを超えている。戦車やヘリコプター、武器の不法流通。ここは思った以上に殺伐とした都市なのかもしれない。そうなると彼女たちが所持している物もやはり本物なのだろう。とんでもない所に来てしまったものだ。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」
ツーサイドアップの少女の問いに対し、ついにリンは沈黙を破り話し出す。
「連邦生徒会長は今、席におりません 正直に言いますと、行方不明になりました」
「え!?」
「•••••••」
「やはりあの噂は•••••••」
リンの言葉に皆様々な反応を見せる。私は表情にこそ出さないが内心驚いていた。続けてリンは話し出す。
「結論から言うとサンクトゥムタワーの最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」
「認証を迂回できる方法を探していましたが•••••••先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか?首席行政官」
長身の女の子が質問する。サンクトゥムタワー、もしかしてさっき見たあの不思議な塔のことだろうか?さっきエレベーターから見た光景を思い出しているとリンが長身の女の子に対して返答する。
「はい この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
「え!?」
「!」
「この方が?」
皆は一様に私を見る。私はというと•••••••
「へ?」
いきなり話をふられ反応出来ずに、なんとも情けない間の抜けた声を出していた。
「ちょっと待って そういえばこの先生はいったいどなた?どうしてここにいるの?」
ツーサイドアップの女の子が質問する。それは私も聞きたい内容だ。未だになぜここにいるのか、どうやってキヴォトスに来たのかすら覚えていないのだから。
「キヴォトスではないところから来た方のようですが•••••••先生だったのですね」
「はい こちらの先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
長身の少女の問いに対しリンが答える。
「行方不明になった連邦生徒会長が指名•••••••?ますますこんがらがってきたじゃないの•••••••」
ツーサイドアップの女の子だけでなく、他の子も疑問に思っている事が多いらしい。無理もない。情けない話ではあるが、張本人である私でさえよく理解していないのだから。
丁度良い。随分遅れてしまったが、とりあえず私の事を知ってもらう為に挨拶するとしよう。思い返せば急なことでリンにも自己紹介が出来ていなかった。
「ん"ん"っ•••••••」
私が咳払いをすると皆一同に私を注視する。
「え~、私はこの度キヴォトスに転任してきた先生です 名前はー•••••••ん?」
「先生?どうされましたか?」
銀髪の女の子が真剣な眼差しで見つめる。
「あ、その~•••••••自分の名前忘れちゃった•••••••」
•••••••おそらくこんな自己紹介は後にも先にもこれが最後だろう。
「え!?」
ツーサイドアップの女の子は良いリアクションをしてくれるな。なんて下らないことを考えつつフォロー、になっているかは分からないが補足をすることにした。
「忘れているといっても名前とここに来た経緯と手段だけだから•••••••仕事する分には問題ないよ」
「名前は仮名を使えば良いし、それにいずれ思い出すさ」
実際勉強に関する記憶等は覚えているのだし、影響はないはずだ。
「先生 直近で頭に強い衝撃を受けたりしませんでしたか?あと持病とかあったりは」
眼鏡をかけた女の子が詰め寄る。頭を打った覚えも痛みもないし•••••••持病も覚えている限りは抱えていないはずだ。
「そうですか•••••••とりあえず後で病院にでも行った方がよろしいかと 最悪脳に腫瘍があるかもしれませんし」
•••••••彼女の忠告通り後で病院に行くことにしよう。
「と、とりあえず私の自己紹介は終わり!今度は君たちの名前を教えてくれないかな?」
私の自己紹介にもならない自己紹介を終え、彼女たちに尋ねる。
「こ、こんにちは、先生 私はミレニアムサイエンススクールの•••••••」
「い、いや、挨拶なんてどうでもよくて•••••••!」
ツーサイドアップの女の子が最初に挨拶をしてくれた。だが彼女たちは色々問題を抱えているのを忘れていた。自己紹介はまた後の方が良いかと考えていると、
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと•••••••」
さっきから話が進んでいないせいか、リンが微笑みつつも怒りが滲み出ている表情で話す。ほぼ私のせいなんだ。ごめん、リン。心の中で謝罪する。
「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」
ツーサイドアップの女の子の名前は早瀬ユウカ。忘れないように何度も頭の中で繰り返す。自分の名前はどうでも良いが、彼女は私が受け持つかもしれない大事な生徒だ。名前を覚えるとユウカに握手を求める。
「よろしく、ユウカ」
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!先生!」
ユウカと握手をすると嬉しい気持ちが込み上がる。握手をすると距離が縮まったり、意思が伝わると言われているらしい。彼女の緊張で強張る顔とは裏腹に、握手は優しくも力強かった。おそらく不器用な子なのだろう。彼女とは今後も上手くやっていけそうだ。
「先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。」
「連邦捜査部シャーレ」
「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関 連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが•••••••」
握手を終えるとリンが先程の話の続きを始めた。連邦捜査部シャーレ•••••••確かに部活といった範疇を超えている。最早、政府公認の軍隊と言っても過言ではないだろう。なぜ私をそんな部活の担当顧問として選んだのか。キヴォトスにいる先生ではダメだったのか。連邦生徒会長に聞きたい事は他にも色々あるが、当の本人は行方不明。原因はシャーレ創設にありそうだ。
「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります 今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下にとある物を持ち込んでいます」
「先生を、そこにお連れしなければなりません」
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど•••••••」
リンがモモカという人物に通信を繋ぐ。ホログラムで投影するタイプのようだ。エレベーターから見た景色からもそうだが、キヴォトスは技術が発展している都市らしい。それにしても学校でヘリを扱っているとは•••••••。
ホログラム映像に現れたのは、ポテトチップスを食べているピンク髪の華奢な少女。•••••••なかなか際どい格好をしている。あまり先生としては感心出来ないな、などと思いつつも目は正直なものだ。
「シャーレの部室?•••••••ああ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?」
「大騒ぎ•••••••?」
モモカは能天気に答える。それに対しリンはハトが豆鉄砲を食ったような顔になる。
「矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの そこは今戦場になってるよ」
「•••••••うん?」
モモカが続け様に話す。とんでもない事件じゃないか!私は流石に驚きを隠せずにいる。それを平然と答えるあたり、キヴォトスでは日常なのだろうか。それか彼女がよっぽど能天気なのか。リンはというとやや曇った表情になる。
「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの 巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?」
「それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?」
「•••••••」
「まあでも、とっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな•••••••あっ、先輩、お昼のデリバリーが来たから、また連絡するね!」
───プツッ
なんということだ。焼け野原にするだけでなく、戦車まで持っているとは•••••••。そこまでの恨みを買うなんて連邦生徒会は何をしたのだろうか。
それにしても困った事になった。これから向かう場所が戦場になっていては近付くなんて出来やしない。早急に地域の民間人を避難させ、警察を呼ばないと。いや流石にもう動いているだろうか。
等と考えていると隣でリンがプルプルと震えている。無理もない、このような事態が起きたのだ。しっかりしているとはいえ、まだ年端のいかない少女。恐怖と不安で怯えているであろう彼女の肩を優しく叩き、安心させる言葉をかけた。
「大丈夫、君一人の問題じゃないんだ」
「なにか私に出来ることがあれば言ってくれ 力になるよ」
「あ、ありがとうございます 大丈夫です•••••••少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
気丈な子だ。だがあまり抱え込みすぎれば、いずれ潰れてしまうだろう。そうならない為にも先生であり、大人でもある私がなんとかしなければ。
───じー
リンがユウカ達を見つめる。
「•••••••?」
「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」
「丁度ここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「•••••••えっ?」
そう、リンは一人じゃないんだ。私だけではなくユウカ達もいる。少し棘のある言い方ではあるが、それに気付けたリンは偉い。私は思わず、うんうんと頷き生徒の成長に感動していた。
ユウカ達はリンの発言に少し困惑しているようだが問題はないだろう。
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です 行きましょう」
「ちょっ、ちょっと待って!?どこに行くのよ!?」
早足で部屋を出ていくリン。突飛な行動に驚くユウカがリンの後を追う。私は他の三人と目を合わせ、意思の疎通を取り皆で後を追うことに決めた。
───D.U.外郭地区・シャーレの部室付近
外に出ると砂を巻き起こす風、そして銃声に爆発音が私たちを歓迎する。初キヴォトスがこれか。印象は最悪といってもいいだろう。
「な、なに、これ!?」
「なんで私たちが不良と戦わなくちゃいけないの!!」
ユウカの言う通りだ。リンからここに来るまでの間色々と説明を聞いていたが、どれも頭の痛くなるような内容ばかりだった。それに本当に彼女たちに戦わせなければいけないのか•••••••?子どもたちが危険な目に合うくらいなら、せめて私だけがやるべきじゃないのか?
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから•••••••」
「それは聞いたけど•••••••!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が•••••••!」
ユウカが不満を漏らす相手は、先程の変わった形の銃を持った眼鏡の少女•••••••名はチナツというらしい。彼女も成り行きでサンクトゥムタワー奪還のために駆り出された。
やはりリンから聞いた「あの話」が事実のようには思えない。皆に避難するよう指示しようとした瞬間、
───ユウカが銃弾を受けた。
その光景を目にした時、身体中の血の気が一気に引いたのを感じた。私のミスだ、もっと判断が早ければ───
「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」
•••••••え?今、確かにユウカは銃弾を受けたはずだ。なのに血が出るどころか、怪我一つしていない。強いて言うなら皮膚が少し赤くなっているくらいか。やはりリンの「あの話」は事実だったようだ。
───キヴォトスの住人は銃火器程度では死なない。
にわかには信じられないが、今の光景を見たら否定など出来ないだろう。そこらに落ちている銃の薬莢もどう見ても本物の重厚感がある。
後でリンに疑ってしまった事を謝っておかなければいけないな•••••••
「伏せてください、ユウカ それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません」
「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」
「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう」
ユウカに指示するスナイパーライフルを持つ長身の少女の名はハスミ。トリニティ総合学園の正義実現委員会という部活に所属している。活動内容は違反行為の取り締まりをし治安維持すること。
こういった銃撃戦ならば経験のある彼女の指示に従うのが一番安全だろう。副委員長をやっているだけあって周りの事を気にかけられ、統制も取れる。出来ることならば大人である私がやるべきなのだが、あいにく私は軍の教官でも軍人でもない。ただの非力な一教師なのだ。
私が持つ「切り札」も出来れば子どもには使いたくはない。なによりあれにはリスクが伴うのだ。
「先生を守ることが最優先 あの建物の奪還はその次です」
「ハスミさんの言う通りです 先生はキヴォトスではないところから来た先生ですので•••••••」
「私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります その点ご注意を!」
チナツの言う通り、ただの人間でしかない私が先程のユウカのように銃弾を浴びれば、まず命はないだろう。
「分かっているわ 先生、先生は戦場に出ないでください 私たちが戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね。」
だが本当にそれで良いのだろうか?子どもを危険な目に合わせておいて、私は後ろで見ているだけ。それに彼女たちも痛みは感じるし、怪我だってするはずだ。
せめて私に出来ることをしよう。戦いの指揮は出来ないが、援護をすることくらいは出来るはずだ。
「わ、私も行くよ 指揮は出来ないけど、敵の位置を伝えたり壁になるくらいは出来るはずだ」
正直怖い。声も震え、手だって汗だらけだ。だがなにもしないよりはましだ。
「え、ええっ?先生も行くんですか?危険です!」
「それなら私が先生をお側につきます これなら問題ありませんね?」
ユウカには止められたが、銀髪の少女が私を側に置いてくれるらしい。彼女の名はスズミ。トリニティで自警団をしているらしく、ハスミと同じく正義感が強い子のようだ。
「分かりました 先生、援護をお願いします」
「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね よろしくお願いします」
「ちょ、ちょっと!あなたたちまで!?あ~、もう!分かりました!ただし!危険だと思ったらすぐ逃げること!良いですね!」
ハスミ、チナツに続き、ユウカまでもが許可をしてくれた。四人に感謝の言葉を述べる。彼女たちの足を引っ張らないように行動しなくては。
「先生、これを使ってください お役に立つかと思います」
スズミが渡してくれたのは閃光弾、双眼鏡、通信機だ。
とてもありがたい。双眼鏡に通信機があればスナイパーライフルを持つハスミに敵の位置を知らせて狙撃することが出来る。
「よし、じゃあ行ってみましょうか!」
ユウカの掛け声と共にサンクトゥムタワーに向かって走り出す。
続編未定です