薄い赤色灯のついた廊下を、私は歩いていた。
服のあちこちに、液体が染み付いて、臭いも取れない。
しばらく歩いて、私は「電算室」と書かれた札の付いた扉に手をかけて、開いた。
部屋の中はやはり赤色灯がついており、入口には青い制服を着た妖精が居た。
電算室の機器は、光を出していなかった。
「ネットワークを使いたいのですが……、稼働していないのですか?」
私は入口に居た妖精に聞く。妖精は手元の懐中電灯をチカチカと点灯させて、私に発光信号を送ってきた。
ゲ ン ザ イ テ ン ケ ン チ ユ ウ
私はため息をつく。
「ありがとうございます」
ド ウ イ タ シ マ シ テ
私は妖精に一礼してから部屋を出る。私は足早に廊下を進み、エアロックにつく。
「護衛艦あまぎりの外出を許可、現在時刻2122、規定された帰還期限は本日2152です」
私はエアロックに付いたカメラを見つめる。内側の扉が開き、中に入る。入ると内側の扉が閉まり、外側の扉が開く。
私は外に踏み出した。
音はしない。ただ、夜空を走り回る光点と、廃墟があった。
私は目の前のコンクリートの地面を見ながら歩く。
時折、足元のおぼつかない妖精たちが通り過ぎる以外に、動くものは無い。
波の音もせず、物音1つしない。
しばらく歩いて、私は表面が荒れた桟橋の上に座る。
桟橋のあちこちには、穴が空いていた。
収容ドックに並列した工廠だけが、煌々と光っている。
私は工廠に向けていた目線を、海面に移した。
海面は小さく揺れ動き、星空は映らない。
ただ、赤く錆びた酸化鉄の塊が、底に沈んでいるのが見えただけだった。
視界の片隅に、2人の妖精たちが何かを抱えてこちらにやって来た。
彼らは私を指差して何かを言っていたが、少しすると私の方にやって来た。
すると、私の膝の上に乗ってきた。
膝の上に乗ってきた妖精たちは、将棋盤を置いて対局を始めてしまった。
しばらしくして、私が立ち上がろうとすると、妖精たちは懐中電灯で、
ウ ゴ ク ナ
イ マ イ イ ト コ ロ
「いや、そもそも私の体の上でしないで下さいよ」
私がそう言うと、妖精2人は首を振る。
ザ ブ ト ン ノ カ ワ リ
ア タ タ カ ク テ ヤ ワ ラ カ イ
「……、何言ってるんですか」
私は手で払い除けようとすると、涙目になって将棋盤を庇う2人が目に入り、動作をキャンセルした。
「はぁ、あと15分で終わらせてください」
オ ニ ヒ メ シ ン カ イ セ イ カ ン
キ チ ク ベ イ エ イ
「あんたたちは私を何だと思ってるんですか!」
即座に返事が来る。
ノ リ モ ノ
ナ マ モ ノ
ム ネ ハ ヤ ワ ラ カ ク ナ イ ガ
フ ト モ モ ハ ヤ ワ ラ カ イ
ネ ド コ
「私は出力54,000馬力だって知ってましたか?」
結局、私は彼らを海に投げた。
オ ニ
将棋盤と駒を脇に置く。波間で泳ぐ馬鹿2人を無視して、私は空を眺めた。
空を走り回るものと、そうではない光点しか見えなかった。
「こんな所に居たか」
声のした方向を見ると、花守が立っていた。
「いや、司令。人間なら防護服を着てくださいよ」
「私みたいな人間には必要なくてね」
そう言うと、花守は私の隣に座った。
「てるづきに関しては、明石が処置をしてくれた。14日には動けるようになる」
「あの症状のトリガーは私だと思います。再び顔を合わせて大丈夫でしょうか」
花守が眉を寄せる。
「それ、明石の目の前で言ったら殴られるぞ」
「……、すいません」
「それに関しての処置もしてある。あそこまで酷くはならない」
「分かりました」
「てるづきは過去に囚われている。奴に未来を見るように促せ」
「それは司令のやるべきことでは」
「上官命令と認識されて面倒くさいことになるだろ。知り合いで同僚のお前の方が適当だ」
「そうですか」
「そういうもんだ」
とりあえず戻るぞ、と言われて、私は花守に付いて基地の中に戻った。
花守と一緒に除染室に入り服を脱ぐ。部屋中から除染液を吹きかけられる。
除染が終わると、私は新しい寝巻きに着替えた。
「明日は電算室で交換作業をしなければならない。よく寝ておけ」
私は答える。
「私たちに睡眠は必要ないですよ」
「身体はな。ただ、残念ながら、お前の精神と人格は人間の延長線上にある。寝なければ狂うぞ」
私は頷く。結局、その日は寝た。