寝落ちしたVTuberの妹の配信に入ったら有名になった 作:花蘇枋
キャラの振り分け難しかった…
初配信
寝落ちの件が終わってからしばらくしてからのとある休日の昼下がりのことだった。
『紫杏姉様、VTuberになりませんか?』
それは突如として現れた
「……は? 何言ってるの祢々…?」
『私は紫杏姉様が配信業に向いていると思うのです』
「……何がどうなったらそんな発想に至るの…」
年の離れた妹である蒼木祢々(あおき ねね)は現在17歳で高校3年生。
少し目尻の上がった、銀のロングヘアーに赤目のその姿は、その外見の通り可愛くてな自慢の妹ではあるのだけど――
「受験勉強で溜まったストレスをぶつけたい気持ちは分かるよ、でもそれならもう少し分かりやすい嫌がらせを――」
『?何故紫杏姉様にそんなことをしなければならないのですか、紫杏姉様には愛をぶつけようともストレスをぶつけるなどあり得ません』
「……そうだけど…私には無理だよ…」
と言うかいくら姉でも姉様などと呼ぶ妹など聞いたことがないでしょ?私は嬉しいのだけど…
それだけ愛されている自覚はある。
『そうですか…証拠が必要みたいですね…ということでこちらをご覧ください紫杏姉様、』
そう言って見せてきたのはこの前のノーダメ50キルChampionのやつだった
『私は今、輪廻 廻音(りんね ねおん)としてVTuberをやっておりますこの前私の配信に入り込んだ紫杏姉様の行動が反響を呼んでリスナーの方から是非にと言われています』
そう言いながらドヤ顔を見せて来る妹にこう答えた
「やらない。大体仕事で忙しいし、ここ5年はゲームも全然やってないし、こんな一般底辺が配信した所で誰も得なんてしないわ。」
『だからこそして欲しいのです』
「? どういうこと?」『最近の紫杏姉様は元気がないように見えます。休日も寝てばかりで――ゲームをしていた頃はもっと活力があって、楽しそうでしたのに』
「…………」
そりゃ好きでもない仕事を毎日こなすのと、好きなゲームを毎日プレイするのとでは後者の方が楽しいに決まっている。!
だがゲームで遊んで一生飯が食える程現実は甘くはない。
結局社会の歯車として、錆びたら油を差すの繰り返しで生きていくのが宿命なのだ。
「社会人ってのは楽しいだけで生きれる程甘くないの…」
『……では、毎日1時間でいいので、ゲームをしませんか?』
「いやだから人の話を――」
『あの頃のように、また一緒にゲームをしたいのです。私も紫杏姉様も日頃のストレスを解消する気分で、ここは一つどうか』
そう口にし頭を下げた廻音に、私は言葉を噤んでしまう。
(そうか、もう5年も経っちゃうのね…)
祢々は中学生の頃引きこもりだった。
原因は語る価値もないいじめなのだが、両親が高校卒業後のお出かけで多重事故に巻き込まれ 他界ということもあり、当時はホワイト企業だった(現在会社が大きくなりブラック)私が時間がある時ひたすら祢々の相手をしていたのである。
その時にいつもしていたのがゲーム。
(……あの頃は祢々を不安にさせまいと色んなことをした気がするなぁ…)
まあそれでも祢々の復学は叶わなかったけど、その後は地元から離れた私立を受験したお陰で良い生徒達と巡り会え、今は充実した日々を送っている。
『紫杏姉様とのあの時間は、今でも私の中で一番の思い出です』
「馬鹿みたいに沢山ゲームをやってただけよ…」
『しかし紫杏姉様には伝説のノーダメ55キルがありますから』
「あんなの運が良かっただけで、再現しろと言われても出来ない!」
『そんなことはありません。間違いなく紫杏姉様の実力です』
「危うく垢BANされかけたのに…?」
『ふふふ……そんなこともありましたね』
そんな思い出話に花を咲かせていると、ふいに懐かしい匂いが鼻孔をくすぐる。
ふむ……そうね。久しぶりにやってみるのも悪くはないような。
「――分かったわ。寝る前の1時間ぐらいなら出来なくもないわ」
『紫杏姉様……! では早速配信の準備をしましょう大丈夫です私の絵師(ママ)から立ち絵をもらってます』
「ん?ちょっと待て、VTuberになるとは言ってないんだけど。」
『はい、勿論これ以上我儘を言うつもりはありません。ただ……どうしても画面越しに紫杏姉様が配信をしている姿を見てみたくて……駄目でしょうか?』
「うっ……はぁ」
瞳を潤ませ上目遣いでそう口にする祢々に、私は小さく息をつく。
こう言っては何だけど、私は祢々には滅法弱いのである。
言わばただのシスのコン。
それでも仕事のことを考え何とか断ろうとしていたが――目に入れても痛くない妹にこれ以上薄情でいられる姉に産まれた覚えはない。
ただまあ、祢々はそれが分かってて言っているのだからタチが悪い。
「……、これで受験勉強に身が入るならいいとしましょう」
『はい! これで間違いなく志望校に合格出来ます』
「現金な妹…」
こうして。
四畳半の小さな部屋から、たった1人に向けた配信が始まったのだった。「よし……と、画面は映ってる?」
『はい、問題ありません。声もちゃんと聞こえています』
「ありがとう。しかしまぁ、随分と手軽に配信出来る時代なんだね…」
生配信など一昔前は大金を叩いて機材を揃えるイメージだったが、どうやら今はPCとWebカメラとマイク付きヘッドホン一つあれば出来てしまうらしい。
無論音質はお察しだが、妹と遊ぶ程度なら特に問題はないし…。
因みに利用しているのは『ABBA"s』という動画配信サイト。
てっきりヨソヨソ動画や天下のYouTubeでも使うのかと思っていたが、廻音によれば最近は配信サイトも充実しているらしく、ゲームならABBA"sが一番とのこと。
……にしても詳し過ぎんかこの妹、本当に勉強しているの?。
「ゲームは何にしようかな…やっぱり慣れ親しんだバトロワ系かな…」
『Galaxy starをしませんか? 今一番熱いゲームなんです』
「知らない、どういうゲーム?」
『5対5で戦うタクティカル――爆裂ゲーですね』
「爆裂ゲーは聞いたことあるけど、若干敷居が高そうだね、」
『やってる内に慣れると思いますよ。とはいえ私も最初はキルマッチで慣らしていたので、そういうことでしたらまずはキルマをしましょう』
「貴女!勉強してないでしょ!!!…」
このままでは妹の浪人を私がキャリーするのではないかと一抹の不安を覚えたけど――いざ始めて見ると成程これは面白い。
加えて初めてするのもあるせいか思った以上に撃ち勝てず、ムキになってしている内にあっという間に1時間を過ぎていた。
「ふーもう1時間、ゲームってやっぱり面白いなぁ…でも廻音みたいに人来ないね…」
『ふふふ……』
「何、どうかした?」
『いえその、やはりゲームをしている時の紫杏姉様は楽しそうだなと』
「そうかな? 別に普通にやってただけだと思うけど」
確かにゲームになるとついつい舌が回るタチではある――
まあ祢々が楽しんでくれるならそれに越したことはないけど。
「さて、今日は終わりにしましょう」
『はい。ではまた明日』
「ちゃんと勉強してからね?」
『勿論です、おやすみなさい紫杏姉様』
「はい、おやすみなさい」
そんな風にして、とても配信をしていたとは思えない平凡な内容で初日を終えた私は、配信を切りギシリと背凭れに腰を預ける。
「はぁ……仕事行きたくないなぁ…」
プレイネーム【S-ON-】こと輪廻 紫音(りんねしおん)
本名蒼木 紫杏(あおきしあん)
25歳にして、実家暮らしの冴えない社会人、あと独身。
そんな女性の本日の最高同接は無論0人。
だが。
配信を始めたことが少しずつ人生を変えていることに、今の私はまだ気づいていない。
読んでくださりありがとうございます明日から仕事で多忙になるので
しばらく投稿できないと思いますが気長にお待ち下さい