悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】 作:高々鷹々
デパートに買い物に来たら、魔法少女たちと遭遇した件──この部分だけならば私も大喜びなのだが、顔が割れている悪の組織のメンバーと共にいるなら、話は別だ。
一刻も早くこの場を去らなければ。そう思って振り返った私の耳に、今だけは聞きたくない声が響いた。
「あれ? お兄さん? お兄さんですよね!?」
『このまえのひと! またあった!』
どうして今になってバレるんだ! さっきまでは気付く気配も無かったのに!
笑顔で駆け寄ってくるユスラ。私は呼ばれて気付いた、といった風にゆっくりと振り返った。
「ユスラか。奇遇だな」
「はい! でも、こんなところで会うなんて珍しいですね」
このデパートは、以前ユスラと遭遇したのとは隣の街にある。故に、私も彼女たちに
私に地球人の知り合いがいると思わなかったのか、はたまた単純に自分の知らない相手だからか。私の隣にいたシュヴィーが、眉を寄せつつ私を見る。
「お姉様? こちらの方は?」
「彼女はユスラ。何と言うべきか──そうだな、同じ趣味を持つ同志、か?」
友人と言えるほど関わりがあった訳でも無いし、他人と言うには繋がりが薄くも無い。故にそう形容するしかなかった。ユスラは私を黒騎士ではと疑った後ろめたさがあるのか、「そうですね、あはは・・・・・・」と困り顔だ。
私はシュヴィーの正体がバレないうちに離れようと、挨拶もそこそこに「ではまた」と切り出そうとしたのだが──
「あ、そうだ! 私、今日は友達と来てるんです! 葵ー! きぃちゃーん!」
どうして二人を呼ぶんだ!? 知ってる人に友達を紹介したくなったのか!?*1 そういう明るい性格は好ましいが、今回は勘弁して欲しかったなぁ!
「急に走り出したから何事かと思ったけど、どうしたのかしら」
「
遠巻きに眺めていた二人も合流し、マギアカリーナが勢揃いしてしまう。どうやらシュヴィーに気付いた様子は無いが、それもいつバレるかわからない。
私が内心で冷や汗をダラダラと流しているとはつゆ知らず、ユスラは私たちに二人を紹介する。
「こっちが葵──
軽く会釈し合う我々。残念ながら、お互い苦笑いだ。イエロー──キミと言ったか。彼女だけは、ユスラを微笑ましく思っているようで、普通の笑みに見えるが。
「それで、この人が黒木さん! お兄さんとは前に本屋の前で会って、この前はお茶もしたんだ!」
「お茶、ですか・・・・・・」
キミのこちらを見る目が剣呑になる。何故だ、私への疑いはもう無いはず──まさか、
「あ、ああ。喫茶店で少しな。同じ趣味を持つのもあって、雑談しただけだ」
「お姉様と、お茶!?
隣から、すっごい視線を向けられる。ただでさえ意味の分からない状況だと言うのに、まだ混乱は続きそうだ。
「お姉様、ですか?」
「でもさっきアナタ、お兄さんって・・・・・・どういうこと? もしかしてアナタ、変態?」
「ちょっと葵! 失礼だよ」
わかっていたものの避けられなかった展開に、私は一つ
「構わない。説明していなかったのはこちらだ。
私に性別は無くてな。故に、どちらの呼び方も間違ってはいない。正しくも無いのかもしれないが」
この国の魔法少女文化は心から好きだと言えるが、こういうところは面倒だ。私を呼称するのに、的確な言葉が無いのだから。コレに関しては、私がレアケース過ぎるのかもしれないが。
「すみません、デリケートな話題でしたよね。無遠慮でした」
「気にしていない。少々呼ばれ方に困る程度だ」
実際、そういった観点で悩む地球人も居るらしいが、私は生まれたときからこの状態なのだ。悩むも何も無い。
「そう・・・・・・でも、悪かったわ。ごめんなさい。
それで、そっちは?」
この場において、まだ名乗っていない人物が一人──そう、シュヴィーだ。
彼女に視線が集まるが、魔法少女たちがその正体に気付いた様子はない。もしや、彼女の装備には認識阻害の機能が付いていたのか?
「
視線を向けられ、シュヴィーは少々面食らった様子だ。彼女は、ユスラの肩の辺り──
どうやら、シュヴィーはふぁーたんの存在に気付いていたらしい。戦いの場にふぁーたんが現れたことはないので、まだユスラたち=マギアカリーナと気付いた訳ではないようだが。
「こちらは
驚いたように私を見るシュヴィーに、アイコンタクトをする。合わせろ、ということだ。
「初めまして、黒木志由です。お姉様の恋人です」
「この通り、少々──いや、かなり思い込みが激しいところがある。気にしないでくれ」
「お姉様!?」
妹だと紹介した直後に恋人を名乗るとか、何を考えているんだ・・・・・・?
戦々恐々とする私を、シュヴィーは恨めしそうに見てきた。どうしろと。
「志由ちゃん、よろしくね!」
「変わった妹さんなのね・・・・・・」
「
三者三様の反応を示すマギアカリーナたち。シュヴィーだからシユ、というのは少々安直な気もしたが、それでも彼女たちが気付く様子はない。どうやら、認識阻害の機能があったと見て間違い無さそうだ。
あるいは、そういうお約束的な物理法則が働いているのかもしれない。*3 ユスラたちも、髪色や衣装は変わっても、顔の輪郭や眉の形、身長や体型などは変化していないにも関わらず、今日まで私以外にバレていないのだから。
そうなると、私は彼女たちの正体を唯一知る存在という事になるのでは!?*4
「あ、そうだ! 黒木さんも志由ちゃんも、良かったら一緒にお買い物しませんか!?」
などと、思考に
「いや、私は──」
「ここで会えたのも、何かの
このままでは、逆にシュヴィーが彼女たちの正体を知ってしまう可能性がある。
だからこそ、私は断るタイミングを逃すまいと口を開いたのだが、それ以上にユスラは勢いがあった。
「また始まったわね・・・・・・」
「桜桃ちゃん、言い出すと聞かないですから」
既に諦めモードに入っている、アオイとキミ。どうやら、ユスラが思いつきで行動するのはいつもの事らしい。正直そういうのメチャクチャ好みだが、今はただ恨めしい。*5
「お姉様、どうしますか?」
私の苦悩をまるで知らないシュヴィーは、純粋な瞳でそう訊いてきた。彼女ならばすぐに断るかと思ったが、どういう風の吹き回しだろうか。
「・・・・・・そうだな。折角だ、私では行かないようなお店も見つかるかもしれないしな」
結局、魔法少女たちと共に過ごす、という誘惑には勝てず、私は頷いた。もしシュヴィーが彼女たちの正体を見抜いても、その時はその時だ。後の事は後の私に任せよう。
そこまでは良かったのだが。
「黒木さん! あっちに『プリティキュアーズ』のガチャガチャがありますよ!」
「お姉様! あちらに、何やら美味しそうなものが! 『クレープ』と言うらしいですよ!」
私は両腕を掴まれ、別々の方向に引っ張られていた。これは、新手の拷問だろうか。
ユスラは純粋な興味や私に共有したいという気持ちからの行動だろうが、恐らくそれに対抗心を燃やしたシュヴィーがわざと反対側に行こうとするので、中間にいる私は綱引きの綱状態だ。
「あの男、思ったよりも悪い奴じゃ無さそうね」
「そうみたいですね。もし桜桃ちゃんに近づく悪い虫だったら、社会的に駆除するつもりだったんですけど」
「黄美、黒いところ出てるわよ」
「あら、すみません」
向こうの二人も、眺めてないで助けてくれないだろうか。鍛えているとは言え、私の身体にも限界はあるのだが。しかし、私が何を言おうとも二人が止まりそうに無かった。
「黒木さん!」
「お姉様!」
『もておとこって、たいへん?』
黒騎士
両手に花。尚その花は敵同士とする。
シュヴァルツ
黒騎士が無性であることを初めて知った。が、『お姉様』呼びを改めるつもりは無い模様。
ボス
後で黒騎士から報告を聞かされて暴れ回った。