悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】   作:高々鷹々

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日常──日常? 回。


邂/逅

 私は、地球への侵略を目論む悪の組織──その幹部の一人である。組織の中では、『黒騎士』と呼ばれている。

 先日、我々の地球侵略を(はば)む魔法少女たち、マギアカリーナと交戦した私だが──今日は休みを取っている。戦いで傷を負った訳でも、風邪を引いた訳でもない。これには理由がある。

 

 というのも、日曜朝にやっている魔法少女モノのアニメ、『プリティキュアーズ』のブルーレイボックス発売日だからである。

 第11期に突入したこのアニメは、1年(ごと)に主人公、というか登場人物が交代していくタイプのアニメで、今回発売されたのは十周年を記念したメモリアル版だ。けっこうな値段はするが、これまでのプリティキュアーズの活躍全てが記録されている。

 

 ネット通販とやらを使えば簡単に手に入るとのことだが、あいにく私は異星人。この星の住民票──戸籍などは持っておらず、組織が用意した偽の戸籍で今の住居も借りている状態だ。当然、クレジットカードなどもまだ持っていない。

 即ち、店頭で購入するしか無いということ・・・・・・!*1

 

 訓練によって目覚ましいらずな私は六時きっかりに意識を覚醒させ、お店(せんじょう)(おもむ)くべく身支度を始めた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 魔法少女・マギアカリーナ。彼女たちは宇宙からやってきた妖精『ふぁーたん』に託された魔法の力を使い、悪の組織と戦う少女たちである。

 しかし、彼女たちにも日常はある。マギアマゼンタに変身する少女──真仲(まなか)桜桃(ゆすら)は、休日を満喫するべく、近所の本屋へと訪れていた。

 魔法少女として戦う日々も大切だが、同じくらい日常も大切なのだと、ふぁーたんは言っていた。彼女はそれが何故なのかまでは考えが至らなかったが、持ち前の素直さで頷いたのだった。

 

『ゆすら、何を買うの?』

 

「今日はね、毎月買ってる漫画の発売日なの!」

 

 肩の辺りに乗っているふぁーたんの言葉に、桜桃は答えた。普段は周囲の視線を気にして小声で会話するようにしている彼女だったが、高揚しているのか無自覚に声が大きくなっていた。

 慌てて周りを見回して、変に視線を集めてないことを確認する。そして、ホッと胸を撫で下ろした。

 

 ふぁーたんは、魔力を持たない一般人には見えず、声も聞こえないらしい。だから、ふぁーたんと会話する時は気をつけなければいけないのだった。

 

『ゆすら、楽しみ?』

 

「うん。先月ね、一番好きな漫画が、すっごく良いところで終わって──」

 

 改めて、ボリュームを落としてふぁーたんと会話する。桜桃が今ハマッているのは、『魔法少女レディ・ガール』という少女漫画だ。中学生の主人公が、魔法少女となって変身し、戦う。初めて読んだ時は、まさか自分も同じような状況になるなんて、思ってもみなかった。

 

「レディ・ガールはね、変身すると大人の姿になるんだ。それで、子供のままだと出来ないことをして、事件を解決していくの」

 

 それは魔法少女と呼べるのか、本末転倒なコンセプトだが、表紙を飾るくらいには人気らしい。桜桃が手に取った漫画雑誌には、レディ・ガールが大きく描かれていた。

 

『ゆすら、とってもステキ! 好きが溢れてる!』

 

「えへへ、そうかな?」

 

 嬉しそうなふぁーたんに、桜桃も小さく微笑む。そのままレジまで持って行って、代金を支払った。

 

 自動ドアを出た桜桃は、店の外に並んでいるガチャガチャのコーナーを見に行った。限られたお小遣いをやりくりしなければならない中学生の身ではガチャガチャはちょっと勿体なく感じてしまって控えているが、やはり気になるものは気になるのだ。

 

(きぃちゃんなら、こういう節約とか、しなくても良いんだろうけど)

 

 幼馴染みで、今では同じ魔法少女の一人である親友の顔を思い浮かべる。彼女が貰っているお小遣いの額は、桜桃とは文字通り桁が違うのだ。ちょっぴり、(うらや)ましい。

 

「あ」

 

「ん?」

 

 ガチャガチャのコーナーには、先客が居た。真っ黒いコートを着た、大人だ。まだ春とは言え、日差しはそれなりに強い。だと言うのに、その人は涼しい顔をして筐体を眺めていた。

 切れ長の瞳に、美術品のように整った顔立ち。コートと同じくらい真っ黒な髪は、背中にまで伸びている。なにより、嫉妬すら浮かばないほどにサラサラだ。

 立っているだけで絵になるような人だった。思わず桜桃は、ぼうっとしてその人を見つめてしまう。

 

「どうかしたのか、お嬢さん。(ほう)けているぞ」

 

『ゆすら、だいじょうぶ?』

 

「えっ!? あ、ごめんなさい! 急にじっと見ちゃったりして・・・・・・」

 

 目の前の人と、更に肩の妖精にも心配され、桜桃は再起動した。コートの人は謝罪する彼女に、緩く微笑んだ。

 

「問題ないなら良かった。熱中症にでもなったら大変だ」

 

 綺麗な笑みだった。芸術品めいているのに、作り物感が無い。どこまでも自然体で、それでいて惹き付けられる、不思議な雰囲気があった。

 

「お、おかまいなく・・・・・・!」

 

 このままでは日差しではない別の暑さによってやられてしまう。思わず顔を逸らしながら、桜桃はぶんぶんと顔の前で手を振った。

 

「そうか? 水分はしっかり摂るんだぞ」

 

 そう言って、視線をガチャガチャへと戻すその人の横顔は、やはり絵になる。もう少しだけその顔を見ていたくて、桜桃は思わず口を開いた。

 

「あの。お兄さん・・・・・・お姉さん? は、ガチャガチャ好きなんですか」

 

 目の前の大人は、男性にも女性にも見える。態度や言葉使いは男性的だが、声はどこか女性的で、桜桃の混乱も仕方の無いことだった。

 

「どっちでも構わない。お兄さんでもお姉さんでも。

 ガチャガチャが好きというより、好きなものがあったから見ていたんだ」

 

 どちらでも構わない、という言葉の意味に首を傾げながら、桜桃は彼──便宜上そう呼ぶ──の指した筐体を見た。驚くべきことに、それは『魔法少女レディ・ガール』のガチャだった。

 

『ゆすらの好きなやつ!』

 

「え、お兄さんも好きなんですか!? 『レディ・ガール』」

 

 意外だった。彼のように浮世離れした雰囲気を持つ人が、魔法少女だなんて。よく見てみれば、彼の持っているビニール袋からのぞいているのは、『プリティキュアーズ』のブルーレイのようだった。桜桃も昔見ていた。

 

「ああ、好きだ。魔法少女は良い、疲れ切った身体に元気をくれる」

 

「そ、そうなんですね・・・・・・!」

 

 朗らかな笑みで自然とそう言うものだから、桜桃は一瞬、自分が告白されているかのように錯覚し、顔を朱に染める。

 

「君も、好きなんだろう? 『レディ・ガール』

 良かったら、貰ってくれないか」

 

 差し出されたのは、いま話していたガチャのラインナップの一つ。レディ・ガールの変身に使うアイテムの一つである鍵を模した、ストラップだった。

 

「え、良いんですか?」

 

「ああ。さっき回したんだが、被ってしまってね。置き場にも困るし、知り合いにこういったものが好きなタイプもいないんだ」

 

 両手で受け取ってから、気付く。いま桜桃には返せるものが何もない。慌てて何かなかったかとポケットやポーチを探すも、出てくるのは変身するためのコンパクトや、ハンカチ・ティッシュなどの必需品のみ。漫画を買うだけだからと、最低限の荷物で家を出たのが裏目に出た。

 

「それじゃ、私はこれで。暑さには気をつけるようにな、お嬢さん」

 

「え、あの! ちょっと待って!」

 

 慌てて呼び止めると、歩き出していた彼は足を止める。振り返った顔に浮かんでいるのは、疑問だ。

 

『ゆすら?』

 

「その、お礼を、したいんですけど・・・・・・」

 

「気にする必要は無い。私は持て余していたものを押しつけただけだ。むしろ私がお礼を言いたいくらいだ」

 

 そう言って、彼はヒラヒラと手を振りながら再び歩き出す。桜桃は何も言えず、その後ろ姿を眺めるしかなかった。

 

『ゆすら? かえらないの?』

 

「あ、うん。そうだね、ふぁーたん。帰ろっか」

 

 ふぁーたんに声をかけられ、桜桃が我を取り戻したのは、既に三分が経過した後だった。

*1
コンビニ決済はやり方がわからない




黒騎士
ふぁーたんのことガッツリ見えていたが、持ち前のポーカーフェイスで乗り切った。
まさか本物の魔法少女に会えると思わなくて内心では狂喜乱舞。

魔法少女になった順番は、マギアマゼンタ→マギアシアン→マギアイエローの順。
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