悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】 作:高々鷹々
私は、魔法少女と戦う悪の──いや、今回は
食事の乗ったトレイを持って、私は組織の拠点内の一室へと向かっていた。トレイを片手に持ち、空いた手で扉を開けて部屋に入る。
室内は、誰も居ないかのように静まりかえっていた。しかし、私の五感が鎧
「セニオ、邪魔するぞ」
部屋にあるのは、大量のトレーニング用具や戦術の本。その他には簡素なテーブルに飾り気の無い壁や照明。
そう、ここはセニオの部屋だ。
「・・・・・・黒騎士か」
「食事、置いておくぞ」
そう言いつつ、トレイを彼のテーブルへと置いた。しかし、セニオはそれに手を付けようとはしない。空腹はあるのに、食べたいという感情が無いのだ。
「ああ・・・・・・」
セニオは無気力にそう言って、表情一つ動かす事は無い。まるで以前とは別人だ。
「また来る。しっかり食べておけ」
「ああ・・・・・・・・・・・・」
まるで生気の無い返事に、私は少々もの悲しさを覚えながら、セニオの部屋を後にした。これ以上
感情を失った人は、皆ああなってしまう。無気力で自ら動こうとせず、生きる事への執着すら薄れてしまう。最低限の食事などはするが、本当に最低限だけだ。そのままではゆっくりと体力や筋力が落ちていき、衰弱していってしまう。精神が死ねば、肉体も死んでいくのだ。
私が故郷を思い出していると、廊下から足音が響いてくる。甲高いヒールの音に、私は聞き覚えがあった。
「おや、セニオの様子を見に来たのかい? 君がそんな無駄な事をするだなんて、珍しい。
それとも何か、用事があったのかな」
「・・・・・・レイン」
飄々とした態度の彼女に、私は確信を持って告げる。
「セニオに感情エネルギー変換装置を仕込んだのは、お前だな」
「うん? おかしな事を言うね。当たり前じゃないか」
まるで悪びれる事なく、レインは頷いた。
「セニオの感情は、元から欠けていた。最初は問題なかったけど、段々とその歪みは大きくなっていった──それは、君もわかっていた事だろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
「それに、研究用のエネルギーがまるで足りなくてね。だと言うのに、セニオの奴、またコワガーレを作るのにエネルギーを使おうとしたんだ。その分を彼から取り立てるのは、至って自然な事だよ」
そう言ったレインの態度は、普段と何ら変わりない。世間話をするかのように、軽いものだった。いや、彼女にとってはそうなのだろう。
「・・・・・・私もお前も、同じだろう」
「うん? ああ、感情の事か。確かにそうだね、私も君も、感情の一部を失っている。最近の君は、随分と安定しているようだけど」
そう言う彼女の私を見る目は、実験対象へ向けるものと同じだった。こちらを生物として見ているかも怪しい、どこまでも無機質な瞳。だから彼女は苦手なのだ。
「出来れば、君の事も調べさせて欲しいんだけどね。今更セニオの身体を調べたところで、何の面白みも無いから」
「・・・・・・断る」
良い訳ないだろう。彼女に体を預けたが最後、便利だからという理由でロボットアームでも付けられかねない。
そうで無くとも、今の私は以前までの私とは精神面がまるで違っている。それを悟られれば、しつこく問い詰められるだろう。
私はいつものようにマントを
「ふふふ。今はそれで良いさ・・・・・・今はね」
しれっと不穏な事を言わないで欲しいのだが!? 聞こえているから!*1
▼△▼△▼△
レインとの会話から危機感を覚えた黒騎士は、早々に午後休暇を取って拠点を後にしていた。
向かった先は、マギアカリーナたちと話し合うための場所──マギアイエローである
「お待ちしておりました」
「お邪魔させてもらおう」
もはや顔見知りとなった『じいや』に会釈し、黒騎士は屋敷へと入る。彼以外のメンバーは、既に揃っている様子だった。
「すまない、待たせたな」
「いえ、少しも!」
部屋に入るなり飛びついてきた
彼の入室に気付いた
「黒木さんっ! ・・・・・・あの、セニオっていう人、どうなったんですか」
恐らく、ずっとそのことが気がかりだったのだろう。彼女の目元には、うっすらと
「言っただろう。命に別状は無い」
「じゃあ、命以外は・・・・・・感情は、どうなったんですか」
「・・・・・・ほぼ全てを失っている」
黄美の問いに、黒騎士は偽りなく答えた。それは彼なりの誠実さであり、礼儀でもあった。彼は本心を隠す事は頻繁にするが、嘘は口にしない。
『くろきでも、なんとかできないの?』
「私は万能では無い。もし私がなんとか出来ていたら、こうして地球侵略をする必要も無かった」
ふぁーたんも、どこかで『黒騎士なら』という期待があったのだろう。しかし、彼は首を振って否定する。その半身に抱きついている志由も、思わず目を伏せた。
「・・・・・・ねぇ。アナタはどうして平気そうな顔をしているの? 仲間が大変な事になってるのよ」
「葵!」
「もしアナタが仲間を大切に思えないような奴なら、今すぐにでも戦うわ。そんな奴と話す事なんて無い!」
葵にとって、桜桃も黄美もかけがえのない友人で、仲間だ。志由も、なんだかんだ友人として接している。そんな彼女たちがもし感情を失いでもしたら、きっと自分は取り乱し、冷静に話す事なんて出来ないだろう。
だからこそ、黒騎士の態度が信じられないのだ。それはそのまま、彼への信用への疑いとなっている。
「・・・・・・・・・・・・平気そうな顔、か」
「お姉様・・・・・・」
「志由、気にするな。
・・・・・・そう見えているなら、私は上手く取り繕えているのだな。それは何よりだ」
「っ・・・・・・ごめんなさい」
彼の言葉で、葵は自分の思い過ごしを悟った。黒騎士は仲間の事で傷付いていないのではなく、こうして話し合いのためにやせ我慢をしているのだと、気付いたのだ。
「セニオは非常にやかましく、私と趣味も考え方も合わない、気に食わない男だった。だが・・・・・・
だが、それだけだ。それでも、仲間だったのだ」
黒騎士、ひいては『アークス』という組織にとって、仲間とはかけがえの無いものだ。母星を救うための同志にして、協力できる相手。セニオとは相容れない部分もあったが、それでも故郷を同じくする仲間だったのだ。
「今回の事で、君たちに非は無い。セニオが暴走し、そして装置に自ら感情を取り込ませた。自業自得、と言うのだったか。君たちが気に病む事は無い」
「そう、言われましても・・・・・・」
マギアカリーナたちからすれば、自分たちと戦ったから、セニオは感情を失う事になったのだという気持ちがある。彼が侵略者だろうと、セニオの事を思いやってしまう。それが彼女たちが魔法少女たる、優しさだった。
「今すぐ飲み込めないのも、気持ちが沈むのもわかる。そこで、だ。
──海にでも行って、気分をリフレッシュさせよう」*2
「・・・・・・えっ?」
『うみ?』
コートの胸元からチラシを取り出した黒騎士は、綺麗な青空と砂浜、そして海の映ったそれを彼女たちへと見せる。
「幸い、ガツンドも今は療養中で、コワガーレが出現する危険も無い。ならば今のうちに遊んで、気持ちを切り替えておくのも手だと思ってな」
「・・・・・・急展開すぎて、ついて行けないのですが」
『くろき! かんがえはわかるけどごういんすぎ!』
「お姉様と、
一名を除いて、乗り気では無い面々に、黒騎士は言葉を重ねる。
「納得できないなら、特訓とでも思ってくれ。これからは、より強大な敵と戦う事になるだろうからな」
「・・・・・・黒騎士と特訓できるなら、アリね。私たちが知る中で、一番強いのはアナタだもの」
「黒木さん・・・・・・そうですね、お願いします!」
桜桃の言葉に、黒騎士は深く頷く。
彼は常々思っていたのだ。──修業パート、無くね? と。
無いならば自ら作れば良い。彼女たちは強くなって気分転換も出来る。自分はそんな彼女たちを見て得をする。正にウィンウィンという奴だ。
そろそろ誰かコイツを止めた方が良いかもしれない。
黒騎士
セニオの事もあって本人も沈んでいたが、落ち込む魔法少女たちを前に無理矢理調子を戻した。
シリアスな空気は壊すもの。
マギアカリーナ
落ち込んでいたが、このままではいけないのもわかっていたので黒騎士の案に乗っかる事に。
段々と彼のペースに慣れてきたのかもしれない。
マギアネーロ/志由
落ち込んではいたが、一晩黒騎士に添い寝してもらったら完全復活した。黒騎士さえいればメンタル最強かもしれない。
ボス
黒騎士から連絡が来たのでこっそり海に着いていくことにした。