悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】   作:高々鷹々

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おのれ、お盆・・・なぜ親戚で集まらなければいけないのか・・・


夏だ! 海だ! 水着回だ!①

「う~~~み~~~!!」

 

 目の前に広がる、雄大な海原(うなばら)を前にした志由(しゆ)は、歓喜の声と共に駆け出した。途中で自身の鎧の機能を使って靴を収納し、波打ち際に素足で突っ込む。足をくすぐるさざ波に、更にテンションを上げた。

 

「お姉様! 皆さん! 海ですよ海! ほら早く!」

 

「・・・・・・どうしてあの子はあんなにはしゃいでいるのかしら」

 

「お話が出た時も興奮していましたし、好きなんでしょうか。海」

 

「志由さん! そのままだと濡れちゃいますよ! 先に着替えないと!」

 

 青い空に青い海、白い砂浜。(まご)うこと無き、海である。

 

 ここは黄美(きみ)の家、塚井沢(つかいざわ)グループが所有するプライベートビーチ。関係者以外は立ち入ることの出来ない、特訓にはもってこいの場所だった。

 

「ほう、地球の海は青いのか。美しいな」

 

「そちらの海は、違った色なのですか?」

 

「ああ。海の中に含まれる微量のエネルギーによって、色が変化する。基本は緑だな」

 

「緑の海って・・・・・・なんだか汚そうね」

 

「君が想像しているよりも鮮やかな色だ。そうだな、エメラルドグリーンと言えば伝わるか?」

 

「そっちの海も、すっごく綺麗なんですね!」

 

「まぁ、今はエネルギーの暴走で酷い色合いだろうが。恐らく、何十色もの色が混じり切らずに渦巻いているような状態だ」

 

『それこそ、きたなそう・・・・・・』

 

「あっ、これはクラゲですか!? きゃっはー痛い! 本当に刺すんですね!?」*1

 

 一人だけはしゃぎ回ってる志由を一旦放置し、黒騎士たちは雑談していた。が、彼の口から聞かされる母星の現状に、桜桃(ゆすら)は目を伏せる。

 

「わぁ、すごいですよお姉様! すっごい(しび)れますコレ! ちょっと動けそうにないくらい!」

 

「ちょっと誰かあの子(だま)らせてくれないかしら」

 

「無理ですよ(あおい)ちゃん。志由ちゃん、私たちよりも強いですし・・・・・・」

 

 IQの(いちじる)しく下がったかつての宿敵の姿に、葵と黄美は(あき)れるばかりだ。そんな光景に、桜桃はちょっと苦笑する。

 

『・・・・・・くろき、しゆのてんしょん、へん。なにかした?』

 

「ふぁーたん、なぜ真っ先に私を疑うのかはこの(さい)触れないでおこう。

 ・・・・・・恐らく、彼女なりに考えての事だ。自分が積極的に遊ぶ事で、桜桃たちもリラックスしやすくしているのだろう」

 

「あ、魚いましたよ魚! 食べられますかね!? 小さすぎて栄養なさそうですが!」

 

『ほんとうに・・・・・・?』

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 何も考えていなそうな志由の奔放ぶりに、黒騎士も思わず口をつぐんだ。この状況で頷くには、あまりに説得力が足りない。

 

「・・・・・・志由が落ち着くのを待つ間に、先に紹介しておこう。そろそろ来るはずだ」

 

「? 来るって、なにが・・・・・・」

 

 桜桃がそう言い切らないうちに、遠くから凄まじい足音が(とどろ)いてくる。人間のものとは思えない速度感に、思わず三人がコンパクトを構え、志由もまた素早い動きで体勢を作り、ふぁーたんはしれっと黒騎士の背中に隠れる。

 

 ずざーっ! と砂をまき散らしながら彼女たちの前に現れたのは、美しい銀髪を揺らす、水着の女性だった。

 あれだけの速度で走っておきながら、汗一つ流していなければ目元のサングラスもズレていない彼女は、桜桃たちの様子に首を傾げる。

 

「ん? もしかして、驚かせたか。だったら悪い、何分(なにぶん)急いで来たんでな」

 

『えっ』

 

「えっと、貴方は・・・・・・?」

 

「!!!???? !!??!!??」

 

 志由が声にならない声と共に口を開閉させるのには気付かず、桜桃は尋ねる。

 

「こちらは、今回(きみ)たちを鍛えるのに呼んだ、助っ人だ。実力に関しては、いま見た通りだ」

 

「おう。くろきs──黒木から頼まれてな。詳しい事情は知らねぇが、特訓するんだろ? 身体を動かす事に関してなら、私も力になれると思うぜ」

 

 そう言いながらかけていたサングラスを額にまで上げ、微笑む女性。その姿は、とても絵になっていた。

 

 言うまでもなく、黒騎士たちの上司──ボスである。クールなフリをしているが、魔法少女たちに会うために全力で仕事を片付け、全力疾走で移動し、内心では狂喜乱舞している、ボスである。

 

「助っ人って・・・・・・アナタの知り合いって事? ならどう考えても、悪の組織の──」

 

「今回(きみ)たちを鍛えるのに呼んだ、助っ人だ」

 

「あっあの、お姉様? 勘違いでなければ、というか勘違いのしようも無いのですが、そちらの方はどう見てもボs──」

 

「君たちを鍛えるのに呼んだ、助っ人だ」

 

「答えるつもりは無いみたいですね・・・・・・」

 

『くろきはいつもそう・・・・・・』

 

 機械のごとく同じ事しか言わなくなった黒騎士に、黄美とふぁーたんは半眼を向ける。しかし、彼はまるで(こた)えていない。

 

「えっと、お姉さんの事は、なんて呼んだら良いですか?」

 

そのまま『お姉さん』でよろしくお願いしたい──っつーのは、流石に冗談だけどよ。*2

 しかし、呼び方か・・・・・・ん、私は真神(まかみ)だ。好きに呼んでくれ」

 

「じゃあ真神お姉さんって呼ばせてもらいますね!」

 

 屈託のない笑みでそう告げる桜桃に、ボス改め真神は思わず胸元を押さえ、黒騎士へとアイコンタクトする。

 

(オイ黒騎士、もしかしなくてもこの娘、天使か? このまま浄化されそうだ・・・・・・)

 

(あながち間違いでは無い・・・・・・が、ここで成仏するのは早いぞ。まだ水着姿を見ていないだろう

 

(むむ、お姉様がアイコンタクトで会話している気配が! ズルいです、(わたくし)もしたいです!)

 

(馬鹿な、アイコンタクトに乱入だと? やるようになったな、シュヴィー)

 

(お姉様・・・・・・!)

 

(コイツら怖くねぇか?)

 

 まさかのボスの登場に驚いていた志由だが、重すぎる愛で持ち直したようだ。強い日差しの中だと言うのに、ボスは若干の寒気を感じる。

 

「という事で、特訓には真神も参加する。私一人だと、全員を見る事が出来ないからな」

 

「それは確かに、()(かな)ってるけど・・・・・・」

 

「気を許すにはまだ早いですよ、桜桃ちゃん」

 

「でもきぃちゃん、鍛えて貰えるんだから、ここは甘えようよ。

 じゃないと・・・・・・また、助けられないかもしれないから」

 

 桜桃が思い浮かべるのは、先日の戦い。自分たちと全力で戦い、そして感情の全てを失った、悪の組織の幹部の事だ。

 彼は自分たちの敵であり、街をメチャクチャにした存在だが──それでも、助けたかった。真仲(まなか)桜桃(ゆすら)は、そういう少女だった。

 

「そのためにも、特訓だ。一先ず、水着に着替えて来ると良い」

 

「お姉様は着替えないのですか?」

 

「着替える。が、君たちと一緒には着替えられないだろう? 私は男性では無いが、女性でも無いからな」

 

 などと言っているが、黒騎士はただ着替えにネタバレされる事なく水着を楽しみたいだけだ。

 そんな心情を知る(よし)も無く、桜桃と黄美は申し訳なさそうな表情だ。

 

「ま、当然よね。アナタって見た目はほぼ男性だし」

 

「・・・・・・? お姉様はお姉様ですよ?」

 

「ねぇ。もしかして性別の基準ってそっちだと違ったりするのかしら。それともこの子がおかしいだけ?」

 

「種族によって異なる、としか言いようが無いが・・・・・・志由の種族は地球人とほぼ変わらない外見的特徴のはずだがな」

 

「そんな!? それじゃ(わたくし)が変みたいじゃないですか! だってこんなに美しい人いままで出会ったこと無いんですよお肌は白くて綺麗ですしツヤツヤしてて本当に羨ましくてでも最近(わたくし)もお姉様と暮らすようになってからお肌のツヤが増してきててあっちょっと引っ張らないでください葵さんーーー!」

 

 呆れた表情の葵に引っ張られていく志由と、更衣室へと案内する黄美についていく桜桃。四人を見送ると、ふぁーたんが黒騎士の耳元へと近づいてくる。

 

『くろき! なにかんがえてるの! そしきのぼすをつれてくるとか!』

 

「問題ない。彼女は敵では無いからな。

 ・・・・・・というか、彼女がボスだと知っていたのか、ふぁーたん?」

 

 黒騎士の指摘に、ふぁーたんはわかりやすく表情を変えるが、角度的に黒騎士からは見えていない。

 

『・・・・・・みればわかる! あのひと、くろきぐらいつよい!』

 

慧眼(けいがん)だな、ふぁーたん。彼女は私と同じくらい強い。戦ったら、勝率は6割を切るだろう」

 

 組織のボスに5割以上は勝利できるという発言の異常さはともかく、ふぁーたんにボスの事がバレてしまった事実をどうするべきか、黒騎士は考え──別に良いかと放棄(ほうき)する。

 

「桜桃たちには黙っておいてくれ。後でややこしい」

 

『もうややこしくなってるきがするけど・・・・・・わかった』

 

「黒木? さっきからどうかしたのか? 独り言なんて、珍しいな」

 

 今は偽装しているが、彼女の本質は獣に近い。会話の内容までは聞かれていないだろうが、何か話しているのはわかったのだろう。

 

「いや、彼女たちの水着が楽しみだなと思ってな」

 

「わかる。ただでさえ(なま)の魔法少女に会えてるっつーのに、これから水着とか・・・・・・テンション上がりすぎて鼻血出しそうだよ、私は

 

『あー・・・・・・てきではないって、そういう・・・・・・』

 

 ふぁーたんの脱力した声を背に、黒木と真神は彼女たちの水着について推察を重ねていく。

 

 かくして、魔法少女オタクたちのプロデュースする、魔法少女の特訓が始まろうとしていた──

*1
彼女は特殊な訓練とか色々受けています。絶対にマネしないでください

*2
十割本気




黒騎士
地球での無性の立場がわからないためやりにくい。

黒木志由
初めての地球の海にハイテンション。黄美に借りた恋愛漫画からの知識で、海で黒騎士と色んなイベントを満喫しようと画策している。

ボス
態度に出していないが内面では嬉しくて踊り狂っている。
ふぁーたんの事は見えていない。
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