悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】 作:高々鷹々
私は、魔法少女たちを影から支える者──黒騎士。*1
長いようで短かった特訓も終わり、私は帰りの車を運転していた。無論、鎧の機能を使っているので、実際には運転というより操作の方が近いのだが。
「そろそろ街ですね、お姉様」
「そうだな」
助手席に座る
合宿の間はほぼ毎日
「ふふ、これは実質的にお姉様と二人きり・・・・・・あ、道の駅に寄りませんか?」
「構わないが・・・・・・」
少々不穏な発言は気になるが、反対する程でもない。私は駐車場へと車を
まばらに停められた車の中から、空いているスペースを探しつつ進んでると、目の前に歩行者が飛び出してきた。
「ッ!?」
「お姉様!!」
なんとか急ブレーキが間に合い、人を
「ちょっと、危ないじゃありませんか!」
「・・・・・・ああ」
自身の命の危機だったと言うのに、歩行者は大きな反応を見せず、立ち去る。
「な、何なんですか!? 今の人!」
「どうか、したんですか?」
志由が声を荒げると、状況を把握しきれていない桜桃が驚きつつ訊いてくる。
「どうしたもこうしたもありません! 人が飛び出してきて、危うく事故になるところだったんです!
なのに、謝りもせずに・・・・・・!」
「落ち着け、志由。こちらの不注意だった側面もある」
「確認していましたが、あちらはこっちの車を見た上で止まりませんでした!
歩行者優先だとか、それ以前の問題です!」
「志由、怒り過ぎじゃない? どうしたのかしら」
「夏休み前に、交通安全の授業がありましたから・・・・・・」
随分と交通ルールに詳しいと思ったら、そういう事か。
「いつまでも文句を言っても仕方ないだろう。
桜桃たちも、目が覚めたのなら丁度いい。休憩にしよう」
「すみません、黒木さん。行きも帰りも運転して貰って」
「気にするな。休暇を取る口実になった」
「悪の組織にも、休暇とかあるんだ・・・・・・」
雑談しながら車を降りて、道の駅に寄る。とは言え、わざわざ買うような物も無い。小休憩したらすぐに出発だろう。
「お姉様、道の駅限定のお菓子がありますよ! 塩豚骨しょうゆラーメン味だそうです!」
「何なのその意味の分からない味。初めて見たわ」
「・・・・・・気になるなら買ってみるか」
正直、私も気になるな。折角の機会だ、ここでしか手に入らない物を買うのも良いだろう。*2
「あっ、こっちにはフライド辛味チキン南蛮味がありますよ!」
「さっきから、どこのメーカーがそんなキメラみたいなお菓子を・・・・・・嘘、
ショックを受けている
最終的に私たちは、けっこうな量の菓子類を買い込む事となった。
▼△▼△▼△
明らかな異形の姿に、人々は悲鳴を上げ、逃げ惑う──そのはずだった。
しかし、ソレを見た人間は、魂でも抜けたかのように表情を失い、何事も無かったかのように元の動きに戻る。
「どうやら、実験は成功のようだね。良かった良かった。
その怪物を遠巻きに観察しているのは、『アークス』の幹部、レイン。彼女は微笑みながら、暴れ回る事も無くただその場に存在する異形を、満足そうに眺めている。
道行く誰もが、『恐怖』を
『テラー・コワガーレ』。恐怖そのものの具現──ではなく。ただ
しかし、それは確実に人々を狂わせていった。そこに存在しているだけで、街の人々は壊れていった。
どこかで、衝突事故が起きた。事故を『危ない』と思えず、車と車が衝突したのだ。
どこかで、強盗事件が起きた。逮捕される事への『恐怖』を失った異端者と、奪われる事への『恐怖』を失った被害者による、普段ならあり得ない事件だった。
どこかで、乱闘事件が起きた。相手からの反撃への『恐怖』を、他者を傷つける事への『恐怖』が消え、暴力への抵抗感が薄れた結果、起きてしまった殴り合いだった。
精神の均衡が崩れた人々は、その異様な状況にすら、『恐怖』を抱けない。違和感を感じつつも、対策もロクに取れないまま、日常を過ごすしか無い。
「さあ、テラー・コワガーレ。この星の『恐怖』を全て頂こうじゃないか。
地球人は恐怖を感じる事が無くなり、私たちは母星を救える。完璧な作戦だ、そうだろう?」
マギアカリーナたちが特訓を終える二日前。出現したテラー・コワガーレは、街の人々の恐怖の
▽▲▽▲▽▲
「ねぇ。あんなところに、あんなデッカい塔、あったかしら」
「・・・・・・そうだな。つい一週間前まで、無かったはずだな」
『まちのひとたち、あきらかにようすがおかしいんだけど』
「・・・・・・そうだな。ちょっとビックリするくらい変だな」
「幹部が欠けて痛手を負ったから、暫く動きは無いはず──だから、私たちに特訓を提案したんですよね」
「・・・・・・そうだな。組織のボスも、下手に動くなという指示を出していたからな」
街に戻ってきた私たちは、即座にその異変に気づき──私はアスファルトに頭を擦りつけ土下座をしていた。完璧に私の判断ミスである。弁明の余地も無い。
土下座する私の腕を、桜桃が引っ張って起こそうとしているが、無駄だ。全身の筋肉を使って身体を地面にめり込ませている私は、テコでも動かせないだろう。
「頭を上げてください、黒木さん! それより、あれを何とかする方法を考えましょう!? 黒木さんってば!」
「お姉様が、地面に、頭を・・・・・・な、何でしょうこの感情。すごくドキドキして、なんか、イケナイ感じがします!」
「志由ちゃん!? へ、変な感情に目覚めちゃダメですよっ!?」
『どげざじゃたりない。ひあぶり? むちうち? それともうちくび?』
「・・・・・・ねぇ。今って非常事態の筈なのだけど」
普段ならばいの一番に怒りを
あとふぁーたん、流石の私も打ち首は耐えられないのだが。
「はぁ・・・・・・取り敢えず、アレが悪の組織の仕業なのは確実なのよね。
ならやることは変わらないわ。そうでしょう?」
「ああ。詳細はわからないが、恐らくアレもコワガーレだ。私の方でも分析してみる」
「あ、やっと起きてくれた・・・・・・じゃなくて!
じゃあみんな、特訓の成果を見せるときだよ!」
「「「「マギア・リナッシェレ!」」」」
桜桃たちの姿が、光と共に変わっていく。どこにでもいるような少女から、誰かを守るための魔法少女へと。
うん、良いな──名乗りは省略される事はあっても、変身バンクは基本的に毎回見る事が出来る。何度見ても良いモノだ。
さて、あの謎のコワガーレだが、街の様子を見るに精神や感情に直接
『みんな、だいじょうぶかな・・・・・・』
「そうだな。今回のコワガーレは見るからに特殊だ」
心配そうに見送るふぁーたんに、私も頷いておく。
まぁ、合宿の最中にこっそりコンパクトに手を加えておいたので、問題ないだろう。
変身の有無に関わらず、精神干渉は全て無効化できるようにしておいた。*4
さぁ、マギアカリーナ。特訓で鍛えたその力を、私に見せてくれ。
黒騎士
今回の戦犯。そしてMVP。
相変わらずのダブルスタンダードっぷり。
真神/ボス
帰還早々に問題は発生してるし構成員の過半数が感情失ってるしで阿鼻叫喚。
休んだ日数以上の連徹が確定した。
マギアカリーナ
自分たちの気持ちの強さによって魔力の出力が変わるので、本来は精神干渉や感情の強奪が弱点だった(過去形)
黒騎士ーズブートキャンプによって心身共に鍛えられたため、一人で一般コワガーレを圧倒できるくらいには強くなっている。