悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】 作:高々鷹々
「・・・・・・ん」
随分と、懐かしい夢を見ていた気がする。起き抜けでまだ働かない頭で、私はぼんやりとそう思った。
「んぐ・・・・・・ふがっ」
隣を見れば、ボスが私の肩に頭を乗せて眠っていた。どうやらお互い、力尽きていたらしい。
時間が無かったため、仕事を終わらせた直後からノンストップで14時間ほど。休憩も入れずにぶっ続けだったが、それでも記憶に欠けはないので、何の問題も無い。
確か、昨夜はボスと二人で夜通し魔法少女アニメを見ていたんだったか。せっかくなら、夢の中でも魔法少女に会いたかったものだ。
ボスが起きるまでの間に、思考を整理しておこう。これから私たちは、マギアカリーナと正面衝突することになるのだから。
しかし、意図せず考えは逸れ、昨日ミケルに出された名前が頭を
「・・・・・・ファタル、か」
今でも、克明に思い出せる。彼女とは半年にも満たない短い付き合いだったが、それを感じさせない楽しい時間だった。
なんだか今でも側に居るような気がして、思い出す機会が無かった。無論、私の思い込みだと思うが。*1
こんなにも私は忘れっぽかっただろうかと自身へと嘆息したところで、携帯端末が震える。組織の物ではなく、
確認してみると、その黄美からのメッセージが一つ。他にも色んなメッセージやら魔法少女のソシャゲからの通知なんかが来ていたが、取り敢えず最新のモノを開く。
『あの、志由ちゃんが酷い状態なので、あんな別れ方をした後に申し訳ないのですが、ちょっとお時間いただけると・・・・・・』
「・・・・・・??」
疑問符を浮かべてメッセージアプリを見てみれば、志由から三桁ほどのメッセージが送られていた。一部にだけざっと目を通すと──
『お姉様、本日は遅くなりますか?』
『あの、お姉様? 帰ってきますよね? えだって、帰ってくるつもりでしたよね!?
『ごめんなさいお姉様・・・・・・どうか、せめて一目でいいのでお会いしたく・・・・・・』
これは、私が悪いんだろうか。それ以外に何もせず、ひたすらアニメを見ていたせいで携帯端末への連絡に気づいていなかったのは私だが・・・・・・。
ともかく、一刻も早く帰らねば。志由がドンドン面倒くさい事になる。
焦りを覚えた私は、素早く立ち上がる。その拍子に、肩からボスの頭が落ちた。
「あ
「すまないボス、私用が出来たので帰らせていただく」
短く謝罪して、部屋を出る。
「あ? おぉ、気をつけろよ・・・・・・?」
いまいち事態のわかっていないボスの言葉を背に、私は地球での自宅へと向かった。
▼△▼△▼△
「お・ね・え・さ・ま〜〜〜!!! 20時間ぶりですね、お姉様!
黒木が自宅の扉を開けると、待ち構えていたかのように志由が胸元へと飛び込んできた。彼ならば受け止められるだろうという確信を持った、全力ダイブだ。当然、黒木は難なくキャッチする。
「おっと。すまないな、諸事情で連絡が取れなかった」
『しゆ、こわい。あしおとのじてんできづいてた』
頭をグリグリと削れそうなぐらいに押しつけてくる志由へ、黒木は苦笑する他ない。そんな姿に、ふぁーたんも若干
「志由が飛び出していったからそうだと思ったけど・・・・・・帰ってきたのね、黒騎士」
「すみません、私たちでも志由ちゃんを落ち着かせようと思ったんですけど、上手くいかなくて・・・・・・」
まるで赤ん坊を相手にしているかのような言い方だが、黒木にひっついてスンスン匂いを嗅いでいる志由を前にすると、違和感は無かった。どちらかと言えば、大型犬か。
「・・・・・・・・・・・・黒木、さん」
そして、最後に顔を見せたのは、
「どうした、桜桃。酷い顔だぞ」
「だ、だって! これから、黒木さんと戦わなきゃって思ったら、眠れなくて・・・・・・」
恐らく、
そんな桜桃の様子に、
『ゆすら・・・・・・』
「そうか。すまないな、辛い選択をさせてしまって」
それに声色を変えずに謝罪する黒木は、いっそ冷酷にすら見えるだろう。内心では魔法少女の傷付いた姿にメチャメチャ興奮しているが、それを隠すためにいっそう感情を殺した声になっていた。
無論、志由やふぁーたんはそんな黒木の情動を感じ取っていたが、空気を読んで黙っていた。
「黒木さん。今からでも、話し合えませんか? 戦わない道だって、きっとあると思うんです。
私もまだわからないけど、一緒に考えたから、きっと・・・・・・!」
「桜桃・・・・・・」
「桜桃ちゃん・・・・・・」
出来ないと、頭ではわかっているのだろう。けれど、桜桃は理想論を口にする。綺麗事でしかないその発言は、しかし黒木が最も好む姿勢だ。
そうだ。割り切れなくて良い。むしろ割り切れないのがイイ。
その何もかもに手を伸ばす姿にこそ、彼は目を焼かれたのだから。
だからこそ、彼は微笑みと共に口にした。
「・・・・・・三日だ。三日後に、私たちはこの星へと本格的な攻撃を開始する」
「なっ、お姉様!?」
同時に、志由の身体を引き剥がし、コートを翻す。それは決別の意思表示であり、全力の格好付けでもあった。
「これまでのように、コワガーレのみを使った侵略では無い。私と、上司であるボス、更には残った構成員の全てを投入した、文字通り全力の作戦だ。
桜桃──いや、マギアマゼンタ。そしてマギアカリーナ。君たちが止めないのであれば──私たちは、この星の全てを奪おう」*2*3*4
「そんな!? 私たちの星を、母星の二の舞にしたく無いんじゃなかったんですか!?」
「状況は変わるモノだ、マギアイエロー。我々も、手段を選んでいられなくなった。
結局、自分たちの故郷と見知らぬ惑星では、自分たちの方が大事なのだよ」*5
「そう。ならわかりやすくて良いわね。アンタたちを全員ぶっ飛ばせばこっちの勝ち。私たちが負ければアンタたちの勝ち。それぐらい簡単な方が私好みだわ」
「理解が早くて助かるな、マギアシアン。
そうだ、これは生存競争。私たちと君たちのどちらかしか勝者たり得ない」*6
「お姉様・・・・・・楽しみにしています。お姉様と、全力で戦えるのを!」
「・・・・・・その威勢がいつまで続くか
『・・・・・・くろきのばか。くろきはいつもそう。
いつもいっぱいしょいこんで・・・・・・もうしらないっ! かってにしたら!』
「ああ。勝手にするとも、ふぁーたん。
私は、悪の組織の幹部なのだからな」*8
「・・・・・・黒木さん」
「・・・・・・とうとう決心できたようだな、マギアマゼンタ」
「黒木さんとは、戦いたくありません。でも。けど・・・・・・っ!
私が、私たちが守るって、決めたから──」
「黒騎士。あなたたちには、負けません!」
「・・・・・・・・・・・・最高の口説き文句だ、マギアカリーナ。
それでは三日後、また会おう」
そう告げると、黒木は彼女たちの前から去った──
黒騎士
最終決戦エンジョイ勢。
勝つにしろ負けるにしろ、戦いが終わるのは惜しくもあり、しかしいずれ終わらせなければいけないと思っている。
自分が負けるとは微塵も考えていないし、魔法少女が負けるとも微塵も考えていない。
ボス
黒騎士からリアルタイムで映像共有されていた。
モニターの前で思い切り叫んだ。
志由
最終決戦エンジョイ勢その2。
黒騎士との全力勝負にウキウキしている。でも空気は読める子。
黄美
翌日、ポストに「志由を頼む。これは食事代だ」という手紙とずっしりとした紙幣が入っていてちょっと怖くなる。
ふぁーたん
マギアカリーナたちに魔法少女としての力を与えた存在。
少女たちの『想い』を力に変えて戦う。
悪の組織が襲来し、多くの人々の感情が脅かされた事によって目覚めた、らしい。
一体その正体は何タルなんだろうか。見当も付かない。