悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】 作:高々鷹々
「・・・・・・はァーっ、負けた負けた。もう指一本動かせねぇな、コレ」
マギアカリーナたちに敗北し、タマノマカミ──ボスは、人間に近い姿で瓦礫の中に倒れ込んでいた。それも、全裸で。
というのも、
「いやしかし・・・・・・可愛かったなぁ、マギアカリーナ」
身体が動かないともなれば、彼女に出来る事は先程の戦いを思い返す事のみ。久しぶりに思い切り暴れられた上に、相手が推しの魔法少女だったのだ。もうニヤニヤが止まらない。
「ずぅっと黒騎士には先を越されっぱなしだったが──マギアカリーナの新しい姿とマギアクォーラを最初に見たのは私だ! しかも、
視界に映るのは、どこまでも続く晴天。敗北したにも関わらず、ボスの心は空模様と同じく晴れ渡っていた。
「・・・・・・・・・・・・ところで、まだか黒騎士! いつまでイチャついてンだ!
さっさと負けて私を回収しに来い! 風邪ひいたらどうすんだよ!」
ボスの叫びは、誰も居ない空へと
▽▲▽▲▽▲
ん? いま何かボスの声が聞こえた気がしたが*1──気のせいか。*2 もし本当にボスの声がしたとしても、今は後回しだ。
「お姉様、いま他の女の人のことを考えましたね!?」
「・・・・・・どうしてわかる。ボスの気配がしただけだ」
何故かこちらの内心を察し、その上で理不尽な怒りを乗せた斬撃を、私は回避し、そのまま反撃。しかし、こちらの振るった大剣もまたマギアネーロは避けて見せる。
・・・・・・今の避け方、良かったな。ノールックで背中越しに剣を回避するとは・・・・・・楽しませてくれる。
「っと、そこ!」
「思考の揺れを狙い始めたか。出来るようになってきたな」
「お姉様相手にしか、出来ません! するつもりもありませんが!」
戦士としてそれは勿体ない気もするが、
・・・・・・以前、レインやミケルにバトルジャンキーのように扱われたが、あながち否定できないのかもしれないな。いや、ネーロが特別なだけか?
「お姉様!? また他の女性のことを──」
「いや。もしや
「──!!!??? え、あのその、えっ!?」
攻撃を回避しながら会話すれば、迎撃するまでもなくネーロは顔を真っ赤に染めて空を転がっていく。器用なものだ。
「お、お姉様? その、それはどういった意味で・・・・・・」
「言葉通りの意味だが」
「言葉通りの意味!!!???」
パニックになったのか、ネーロは赤い顔を両手で覆い、更に翼も展開して顔を隠している。
「えっと、
つまり、結婚ですか!?」
「何故そうなる」
参ったな。ネーロは私の思考を読めるようになってきたようだが、私にはネーロの考えがサッパリ読めない。
こちらに多大な好意を向けてきている事は確かなのだが。*3
「そんな!? じゃあ離婚ですか!?」
「両極端が過ぎるな」
翼で防御姿勢(?)を取ったまま、ネーロは悲鳴じみた声を上げた。
「っ!!?? あ、あにょ、お姉様・・・・・・? お顔が、近い・・・・・・」
「戦いに集中しろ、マギアネーロ。お前は私を倒すのだろう?」
私がそう言えば、ネーロはスイッチが切り替わったように真面目な顔になる。
いや、これは・・・・・・真面目というより、怒りの顔か?
「・・・・・・お姉様にだけは、言われたく無いのですが!!!」
「おっと。良い蹴りだ」
音すら置き去りにした蹴撃を、反射神経だけでガードする。やるようになったじゃないか。
「さっきから
その、
お姉様の方が! 戦いに集中するべきだと思うのですが!!」
「参ったな。返す言葉が見当たらない」
どうやら私は思ったよりも伸び伸びと戦いすぎて居たらしい。最終決戦だからと、浮かれて気が緩んでいたのか。
ならばもう少し、意識を戦いの中に置こう。
「──シッ!」
「ッ!?
同時に三つ放った斬撃を、ネーロは翼剣と黒剣で防いだ。
「くっ、まだ!」
間髪入れずに更に五連撃を叩き込めば、それすらもネーロは防御してみせる。
「──ッ」
ならばと彼我の距離を繋ぐ
「あっぐ!?」
体勢が崩れたところへ、更に剣での連撃。どうにかネーロは黒剣を間に合わせて防いだので、左手で直接
「っ! だったら!」
この間合いが危険だと悟ったのだろう、ネーロはむしろ前へと踏み出し、私の腕よりも内側に入ってくる。
なるほど、上手い手だ。これで私は剣を振るえない。
だが、それはネーロも同じ事。ここからどう動くか、互いに視線を逸らさず睨み合い──緊張が、互いの間に流れる。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
私が距離を離そうと動けばネーロがそれを妨害し、逆にネーロが間合いを作ろうとすれば私がそれを妨げる。
文字通り、一進一退の攻防が繰り広げられていた。
これは、ある種の達人同士の戦いだ。得物はお互いに同じで、当然間合いもほぼ同じ。ならばこそ、相手の筋肉や眼球の動きすらも見逃さず、牽制し合っていた。
──端から見れば、空中でずっと二人で見つめ合っているように見えるかもしれないが。
「~~~ッ!」
急に顔を赤くしたネーロが、翼剣を使って強引に互いの距離を離した。
「・・・・・・私は真面目に戦っていたのだが」
「すみません・・・・・・その、ごめんなさい・・・・・・」*4
気まずくなったのか、顔を逸らすも戦いの中であるが故に私から視線を離さないネーロ。
キリがないと判断した私は、ネーロへと一つの提案をすることにした。
「・・・・・・ネーロ。いま出来る最高の攻撃を、私に打ち込んでこい。
私はそれを全力で防ぎに行く」
「・・・・・・! 防がれた場合は、どうなるのでしょうか」
「私の全力の攻撃を受けてもらおう。防げるものなら防いでみろ」
「えっなにそれご褒美・・・・・・なんでもありません。
わかりやすくて良いですね。その提案、乗りました」
なんだかネーロの欲望が漏れたような気もするが、気にしていては話が進まない。
私は空を踏みしめたまま、ネーロへと両腕を広げてポーズを取った。
「さぁ、どこからでもかかって来るといい」
マギアネーロは表情を引き締め、両手で黒剣を正眼に構える。
ドレスの裾が風に揺られ、我々の間を一枚の木の葉が通り過ぎた瞬間──
「────行きますッ!」
ネーロが、動いた。
まず真っ先に向かってきたのは、一対の翼剣。片方は視界の隅に、もう片方は死角を狙っている。先の間に、移動させていたのだろう。
更に、同時ではなく微妙にタイミングをズラしている。なるほど、雑に防御すればどちらかは食らう羽目になる、か。
「だが、甘い」
その程度のフェイントならば、見切るのは容易だ。私はその場で回転し、剣圧でもって翼剣を弾いた。
「ネーロは・・・・・・」
「ハァッ!」
「下──と見せかけて、上か」
声がしたのは、背後から──だが、それは鏡の魔法で作られた虚像だ。
攻撃そのものは、頭上──太陽を背に、黒く輝く鎧が目を眩ませる。
「ッ!」
だが斬撃は防いだ。振るわれた黒剣を私は難なく受け止め──その重みが、先程までとは異なる事に気付く。
「──これすら、囮か!」
そう、私が防いだのは、シュヴァルツの──ネーロが
真の本命は、声のした方向──鏡の魔法の裏側に潜んでいた、マギアネーロだ。
「星よ、
私に攻撃できる直前まで、魔力を悟らせないためにギリギリまで溜め込んでいたであろう魔力を解放し、ネーロは詠唱を言祝いだ。
「クラヴァッタ・アモーレ・ネーロ!」
振るわれる、紫電と蒼光を纏った巨大剣。
「・・・・・・見事だ」
私は満足して攻撃を受け、同時に敗北を受け入れた。
黒騎士
もし詠唱を短縮していたら気合いで防いでいた。最後なのに詠唱を略されては満足できないため。
仮に最後の提案をせずに戦い続けた場合、互いに鎧からのバックアップがあるため理論上は一年ほど拮抗した勝負を繰り広げられる。
だが最後は悪の組織の幹部としてきっちり負けた。
マギアネーロ
詠唱を短縮でもしたらお姉様怒って防ぐだろうな、と思ってちゃんと詠唱もした。
仮に黒騎士から提案されなかった場合、年単位でも
最後はあくまで『マギアカリーナの敵』としての黒騎士を倒しただけ、と理解している。
ボス
その真下から
黒騎士はさっさと回収しに来い。