悪の組織の幹部だけど、魔法少女のオタクやってます【本編完結】   作:高々鷹々

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今回から番外編です。本編に入れられなかった日常回をメインにしていきます。

今話は時系列的に、16話『正しい休暇の過ごし方②』と17話『敵役交代』の間くらいを想定しています。


番外編 いつかあったかもしれない日常
ボス、散歩に出る


 私は、悪の組織の幹部にして魔法少女を推す者──黒騎士。

 先日は出かけた際にうっかり桜桃(ゆすら)たちマギアカリーナと遭遇したり、それでシュヴィーまで変なテンションになったりと、慌ただしい休暇を過ごした。

 そんな私は、休暇明けにボスから呼び出しを受けていた。ボスの部屋に入るなり、人に近い姿で書類仕事をしていた彼女は疲れの(にじ)んだ瞳で私に言う。

 

「午後休を取った。散歩に出るぞ」

 

「・・・・・・そうか」

 

「お前も付き合え」

 

 言うなり、ボスは私に紐──いや、リードか? それを差し出してくる。

 

「・・・・・・これは?」

 

「私の容姿は人目を引くからな、目立つと不都合なンだよ。

 ・・・・・・あと、お前ばっかマギアカリーナと会っててズルい」

 

「それが本音か」

 

 どうやら、相当やられているらしい。普段のボスならば獣の姿で散歩などしないだろうが、今の彼女は癒やしを求めておかしくなっている。毛並みが銀色である事を除けば大型犬に見えるだろうし、手としては悪くないが。

 

「当たり前だろ! なんでお前ばっか魔法少女とお茶したり買い物したりしてんだよ、ふざけんな!

 私だって魔法少女と会いたい! 戯れたい!

 

 プライドすら投げ捨てた暴れっぷりに、私は額を押さえる。まさかボスの地団駄を見る羽目になるとは、思ってもみなかった。仕方ない、ストレス解消に付き合うか。

 シュヴィーにも連絡しておく事にする。流石にボスのこんな有様は見せられない。基地で待機して貰うか。

 

 私が諦めてリードを受け取れば、いつの間にやら服を脱ぎ捨てていたボスが自ら首輪を着け、リードを繋ぐ。*1 そして、獣の姿へと変化した。

 

「・・・・・気が早くないか、ボス」

 

「何してンだ、さっさと行くぞ!」

 

 おかしなテンションのボスに呆れつつ、私は彼女の脱いだ服を片付ける。流石に、部屋に置いたまま出かけてはいらぬ誤解をされかねない。

 そして、ボスを抱えて転移した。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

 数刻後。公園にて、ベンチで休む黒木の姿があった。その足元では、銀色の大型犬──ボスがへたり込んでいる。

 

「なんだよ、遭遇しないじゃねぇか。これじゃ歩き回っただけなンだが」

 

「今回は運がなかっただけだろう。私だって、休暇の度に彼女たちと出会っている訳では無いしな」

 

 公園では何人かの子供たちが遊んでおり、親らしき人たちは同じようにベンチでママ会をしている。黒木たちの会話を聞く人は居ないだろう。それに、例によって黒騎士の鎧の機能で会話が漏れないように対策済みだ。

 

 彼らはまだ知らないことだが、本日は平日──桜桃たちは今、学校に行っている時間帯だ。もう少し後だったなら、下校時間と被ったかもしれないが。

 

「クソ、今更になって恥ずかしくなってきた・・・・・・なんで私はお前に連れられて散歩なんかしてンだ」

 

 とっくに冷静になっていたんだろう、ボスは唸るようにそう言って、半眼のまま顔を逸らす。黒木は小さく笑って、彼女の毛並みに触れた。

 

 黒騎士にとって、ボスは肉親のようであり、姉のような存在だ。人生の半分以上を共に過ごしているが、恥じらう姿を見るのは久しぶりだった。懐かしくなって、黒騎士はボスの毛並みを楽しむ。

 

「やめろよ・・・・・・そうされると、眠くなる」

 

「たまには良いだろう。久しぶりの休みなんだ」

 

「・・・・・・ったく。少し眠る、後で起こしてくれ」

 

 脱力し、静かな寝息を立て始めたボスに、黒木は苦笑してその背中を触り続ける。途中、子供たちが遊んでいたボールが飛んできたが、黒木がノールックで弾いたため特に問題は無かった。

 

 そうして、暫くゆるやかな時間を過ごしていた二人だが、突如として近くの住宅地から爆発音が響く。

 

「・・・・・・何事だ?」

 

 驚いて逃げ始めた子連れたちとは対照的に、黒木は動かない。何が起きても対処できる自負があるし、彼の推察通りなら──

 

「ブッハッハ! さぁ、恐怖するトン、人間共!

 やれ、棺桶コワガーレ!」

 

 ブダーンと、棺桶に四肢が生えたようなコワガーレ、『棺桶コワガーレ』だ。

 コワガーレは逃げる人々を虚空から出現させた棺桶に閉じ込め、そこから恐怖を回収しているのだ。

 

「・・・・・・せっかくの休みだと言うのに」

 

 ボスはまだ、眠ったままだ。もし危険が迫れば否応なく目覚めるだろうが、コワガーレ程度は二人にとって危機でも何でも無い。気持ちのいい寝入りようだ。

 

 黒木は眼前に出現した棺桶を無音のまま取り出した大剣で斬り捨てると、そのまま剣を収納して観戦モードに入った。これだけ、騒ぎになれば、そろそろ──

 

「そこまでだよ、コワガーレ!」

 

「これ以上、好きにはさせないわ!」

 

 来た。マギアカリーナだ。

 マギアマゼンタとマギアイエローが、跳躍と共にステッキを振るってコワガーレへと激突する。

 

「この棺桶、開けられません・・・・・・!」

 

「無駄トン! その棺桶はトンな攻撃、いやドンな攻撃も通さない、壊れない!

 助けたかったら、このコワガーレを倒してみるトン!」

 

 いち早く棺桶から一般人を助けようとしたのは、マギアイエローだ。しかし、それをブダーンが嘲笑う。

 

「言われなくても、そのつもりよ! ラーマ(刃よ)!」

 

 シアンが跳ね、ステッキから出現させた刃をコワガーレへと叩き付ける。しかし、強固なその身体には傷一つ無い。

 

「くっ、硬い!」

 

「隙ありだトン!」

 

 ブダーンの鋭い声と共に、棺桶コワガーレの振るった腕がマゼンタとシアンを捉えた。

 

「うぐっ、この!」

 

「あぅっ!」

 

 シアンは反射的に足元に刃を出現させ踏み留まったが、攻撃をモロに受けたマゼンタは吹き飛ばされ──

 

()たたたたた・・・・・・えっ、くろ、えっ!?」

 

 公園の中央、何もない空間に不時着した彼女は、背後のベンチに座ったままの黒木に気付いた。

 

「君、大丈夫か?」

 

 内心でテンションを上げながらも、『黒木』としてはマギアマゼンタと初対面のため、素知らぬふりをする黒木。リードは手放さず、しかし駆け寄った。観戦ついでに疑いを晴らしておこうという魂胆だ。*2

 

「あ、えっと! 大丈夫です!

 それより、早く逃げてください! 危ないですから!」

 

「ああ、そのようだな。

 だが、あの怪物──棺桶なら、棺桶としての突破口があるんじゃないか?」

 

 黒木の言葉に、マゼンタは目を見開いて驚いた。そして、何かを決意したような顔つきになって頷いた。

 

「ありがとうございます、黒木さん!

 ぁ、名前言っちゃった・・・・・・!

 

 コワガーレの元へと走って行くマゼンタを見送って、黒木は不敵な笑みを浮かべる。彼女たちならばそのうち気付いた活路だろうが、こうしてアドバイスするのは中々に美味しい役回りだ。

 そして、その場から逃げた事にするために鎧の機能である光学迷彩を自分とボスにかけて、ベンチに戻る。無論、そのまま観戦を続行するためだ。

 

「ぐッ、予想以上に硬いわね・・・・・・」

 

「うくっ、あぅ!?」

 

「ブハハハハハ! 今日こそこのブダーン様の勝ちだトン!」

 

 棺桶コワガーレの猛攻に、シアンは反撃の隙を見いだせず、イエローは防御するも突破される。

 

「シアン、イエロー!

 ここでは、あんまり使いたくないけど・・・・・・炎よ(フラム)!」

 

 マゼンタの繰り出した炎が、コワガーレに直撃した。これまでシアンの攻撃を弾いてきたその肉体は、嘘のように炎によってダメージを負っていく。

 

「な、どういうことだトン!?」

 

 コワガーレの異変に焦るブダーン。その間に、三人が合流する。

 

「なるほど、火葬ってコトね。考えたじゃない」

 

「流石です、マゼンタちゃん!」

 

「さっき、教えてもらったんだけどね・・・・・・

 二人とも、今のうちに決めるよ!」

 

 頷いた二人とマゼンタが杖を重ね、魔法陣が展開されていく。それは砲門となって、コワガーレへと向けられた。

 

セレスティア・セレーネ!!!

 

 放たれる、極大の光。光線は燃えるコワガーレを穿ち、その恐怖を浄化した。

 

「ぐっ、ぬぬぬぬぬ・・・・・・!

 覚えておくトン!」

 

 コワガーレが撃破され、ブダーンが撤退する。ベンチの黒騎士も満足気に頷いていた。

 

「──気を抜くには、まだ早いですよ」

 

「くぅっ!?」

 

 しかし、ここでマギアカリーナに襲いかかる者がいる。大剣を携えた、際どいスーツ姿の戦士──シュヴァルツだ。咄嗟にマギアイエローの展開した防御魔法が間に合ったが、間一髪だった。

 

「今日はお姉様と話せていないどころか、お姿も見れていない・・・・・・。

 少々、憂さ晴らしに付き合っていただきます」

 

「なんか、凄い理不尽を感じる!?」

 

 待機命令をガン無視したシュヴァルツに、黒騎士は頭を抱えた。確かに今日は出勤早々ボスの部屋へと向かったが、シュヴァルツと会っていないのは偶然だ。というか、このあと帰還したら会うつもりでいた。

 

「くっ、ふざけた連中ね! こっちは授業で疲れてるっていうのに!」

 

「今日のマラソン、大変でした・・・・・・」

 

 持ち前の聴力で話を聞き取っていた黒木は、なるほどと頷いた。だからマゼンタとイエローの動きが悪かったのか、と。

 学校についての把握も必要だなと、黒木は後で調べる事にした。

 

 ならばこれ以上戦わせるのは良くないだろう。黒木は端末を取り出し、シュヴァルツへと連絡を入れる。『そろそろ帰るから、待っていてくれ』といった内容だ。

 

「くっ、こうなったら──!」

 

「──少々お待ちを。

 ・・・・・・お姉様からのメッセージ! こうしてはいられません、部屋で待っていなくては!」

 

 自身の鎧の機能でメッセージを確認したシュヴァルツは、そう言うなり動きを止め、転移によって姿を消した。

 

「えっと・・・・・・帰った、のかな」

 

「なんだったんでしょう・・・・・・」

 

「本当に、ふざけた連中ね。良い迷惑だわ」

 

 不意に去った脅威に、マギアカリーナは周囲を警戒しながらも、その場を後にする。これでよし、と黒木は頷いた。

 

「ボス。そろそろ帰ろう」

 

「・・・・・・・・・・・・んあ? ァー、悪ぃな。随分と寝ちまったみたいだ」

 

 黒木が声をかければ、ボスは寝ぼけ眼のまま身体を起こし、犬の口をかっ開いてあくびする。

 どうやらかなり深く眠っていた様子だ。恐らく、黒木という最強の護衛にして身内がいたので安心出来たのだろう。

 気付けば、空は赤らんでいた。

 

「ァ? なんか、人の気配が少ねぇな。なんかあったか?」

 

「あぁ。レイン辺りが出撃命令を出したのだろうな。

 ブダーンがコワガーレを暴れさせ、マギアカリーナが退治して、さっきシュヴィーとも戦っていた」

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

 あまりの情報量に、ボスは大口を開けたままフリーズする。まるで遠吠えでもしているようだ。

 

「テメッ、起こせよ! なに自分だけ楽しんでんだ!?」

 

「いや、よほど疲れていたのだろうな、と・・・・・・」

 

寝るより魔法少女摂取した方が回復するだろうが!?

 クソ、生マギアカリーナ、私も見たかった・・・・・・!」

 

 本気で悔しがり、歯を食いしばるボスに、黒木は申し訳なさそうに言った。

 

「取り敢えず、帰るか。後でデータを送っておく」

 

「直ぐに送れよ。なんならいま送れ、今!」

 

「足を殴るな、足を。ボスの攻撃は地味に痛いんだ」

 

 明らかに風を切る音が出ているボスの前脚蹴りに、黒木は苦笑するほかない。

 ボスの猛攻をどうにか宥めた黒木は、帰還するべく彼女を抱えて転移した。

*1
すごくアウトな絵面

*2
このタイミングでは黒木=黒騎士と疑われている




黒騎士
親孝行とも言えるし、姉に付き添ったとも言えるし、上司の無茶振りに応じたとも言える。ペットとの散歩でも可。
休暇明けとは思えないほど和やかに一日を過ごした。ちなみに散歩は『ボスの世話』という仕事の範疇である。

ボス
黒騎士とは家族みたいなものなので、別に裸を見られようと恥ずかしくはない。
でも全裸で首輪にリードは流石に羞恥心を覚えた。先に獣フォルムになれば良かったのに、気が逸ったらしい。
マギアカリーナを見る機会を逃したので、基地に戻ったあと全力で暴れた。黒騎士が今回の映像を再生した瞬間大人しくなった。

シュヴァルツ/シュヴィー
休暇でたっぷりと黒騎士と過ごしたが、それでも朝からずっと会えないのは寂しい。ので、マギアカリーナに八つ当たりに行った。
メタ的な話をすると、光堕ち前の戦闘が少なかったので出番を増やした。


日常回(ガッツリ戦闘してる)。
ボスとのやり取りが足りなかったので。いやまぁけっこう本編で話してはいますが。
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