僕と先輩の恋ラスト   作:牧葉

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恋石とイラスト

 「ここは、こうやってあげると…いい感じになります」

 

あれから2週間程経ち、その間僕は、先輩に絵を教えていた。ただ……

 

「……先輩って昔、絵描いてたりしました?」

 

「?ど(恋石)したの急に?」

 

先輩は基礎的な事、例えば人体の構造や頭身といったものを、説明する前からできていた。僕が教えていることといえば、絵の構図や光のあたり方とか、そんなものだ。

 

「いや、最初から人体とかをしっかり描けてるなと思って」

 

「そう(恋石)かな〜?」

 

「えへへ」と先輩は笑った。

 

「はい、実際僕が教えてるのって、構図とかそれぐらいなので……昔…今描いてるようなイラストとは別の絵を描いてたんじゃないかなと」

 

「おぉ(恋石)!…すごい!探偵さんみたいな推理だね」

 

「そんなことないでしょ」

 

「ナイ(恋石)スツッコミ!!」

 

「うー(恋石)ん、……まぁ、そうだね。昔…といっても3、4年くらい前のことだから、そんな昔でもないけどね。」

 

「ちょ(恋石)っとだけ描いてたよ」

 

………"ちょっとだけ"、ちょっとだけでここまで描けるようになるのか?と、そんなことを考える。普通、人体構造などを理解して描くには、それなりの時間がかかるし、練習だって相当しないとできない。なら、先輩も、それなりに絵を描いてたんじゃないのか?…だったらなんで、一度辞めたんだ?

 

「先輩は、なんで一度……絵を辞めたんですか?」

 

僕がその質問をすると、先輩の肩がピクッと動いた。先輩は動かしていた手を止め、僕を見た。睨む……とまではいかないけど、冷たい目で。そして、トーンの下がった声で言った。

 

「それ(恋石)……言わなきゃダメかな?」

 

今までと違う。先輩の高い声が、聞いたことのないくらい低い声になって、表情も、いつも笑ってる顔が、見たことないくらいの無表情になっている。瞬間、聞いてはいけないことだったのだと悟り、先輩の質問を否定した。

 

「いえ、気になっただけなので、先輩が嫌なら答えなくて大丈夫です」

 

「…そ(恋石)う?じゃあ秘密…ってことで!」

 

そういうと、いつもの、高い声とニコッとした笑顔を見せて先輩は、また絵を描き始めた。

 それから、しばらくしてからだった。

 

「私、(恋石)今日はもう帰るね」

 

そう言って、ノートとスケッチブック、筆記用具を鞄に直して先輩は美術室から出ていった。……どうやら、先輩にとって、昔絵を辞めたという話は地雷らしい。いつもは最終下校時間ギリギリまで描いているのに、今はまだ16時過ぎ、いつもより2時間ほど早い。

 

「明日、……謝るか」

 

自分の下校準備をして、美術室を出た。

 

 「ただいま」

 

家に帰ってすぐ、部屋で着替えてベッドに寝転ぶ。

 

「今日はやらかしたな…」

 

仰向けになり天井を見ながら反省をしていた。すると、「ガチャ」とドアが開く音がした。

 

「おか(冬歌)えり、今日は早かったね」

 

部屋に入ってきたのは妹の夜野(やの)冬歌(ふゆか)だった。

 

「ただいま」

 

「最近(冬歌)18時くらいまでずっと学校いるけど、何してるの?」

 

と、帰りが遅い理由を聞かれる。何故遅くまで学校にいることを冬歌が知っているかというと、冬歌は双子の妹で、冬歌も同じ学校に通ってるからだ。別のクラスでそこまで学校で話すことはないけど。

 

「……」

 

(別に、何も隠すことないか)

 

「先輩に絵を教えてって言われたから教えてるだけだよ」

 

「先輩(冬歌)?私が知ってる人?」

 

名前を言うかどうか迷ったが、冬歌が先輩と関わることがあるかを考え、無いなと判断して隠さず言った。別に知られて不都合なことがあるかと言われれば、特に無いし。

 

「兎希先輩」

 

「……(冬歌)…え?」

 

先輩の名前を聞いた瞬間、見事に冬歌は固まった。僕の口から兎希先輩という言葉が出てきたことに余程驚いたようだ。

 

「兎希(冬歌)先輩って……あの?」

 

どうやら信じてないらしい、それか別人だとでも思っているんだろうか?

 

「お前が想像してるのが兎希恋石先輩ならあってる」

 

「何で(冬歌)!?」

 

「うるっさい!声がでかい!!」

 

あまりの声量に耳を塞ぐ。僕の声が小さいからか、はたまた冬歌(こいつ)の声が大きすぎるのか、うるさいと感じることが多い。

 

「言っただろ、絵を教えてって言われて教えてんの」

 

「二人(冬歌)で?」

 

何だその質問……。二人きりではあるけど………なんか答えにくいな……。

 

「………」

 

「……(冬歌)…」

 

……冬歌がジーと見てきて、そのまま十数秒の沈黙が流れる。沈黙を破ったのは、冬歌だった。

 

「まぁ(冬歌)良いけどさ。」

 

グッと冬歌が距離を詰めてくる。

 

「勘違(冬歌)い、しないようにしなよ」

 

??…勘違い?何のだ……?

 

「….何の?」

 

 

「だか(冬歌)ら!『先輩と特別な関係!』だとか、『俺のことが好きなんだ!』みたいな痛いやつ!ただでさえ釣り合ってないのに」

 

言い過ぎじゃないか???

冬歌は似てない……であろう僕の声真似を全力でして心をボコボコに殴ってきた。

 

「待って何でこんな急にボコされてんの?」

 

「唯月(冬歌)が勘違いしないようにしっかり言っておこうと思って」

 

だとしても言い過ぎだろどう考えても。

という言葉が喉のそこまで上ってきたが言わなかった。

 

「しないよ、そんな勘違い」

 

「僕も先輩も、ただ絵を描くのが好きだから描いてる、それだけ」

 

「ふー(冬歌)ん………」

 

そう言った後、冬歌は部屋を出ていった。と思えば一瞬扉が開き、

 

「今日(冬歌)の夕飯係、唯月だから早くお願いね」

 

「はいはい」

 

この日はそのまま、夕飯を作って、お風呂に入って、そうして…寝た。

 次の日学校に行き、教室に入ると桐谷が話しかけてきた。

 

「おは(桐谷)ー」

 

「おはよ」

 

朝の挨拶を交わし、席に荷物を置く。

 

「昨日(桐谷)はどうだった?」

 

先輩に絵を教え始めてから、桐谷は毎日、朝にこの質問をするようになった。

 

「昨日はやらかしたよ…」

 

それからホームルームが始まるまで、昨日あったことを全て話した。

 

「うー(桐谷)ん……難しいな」

 

と、話の内容に対しての返事が返ってきた。難しい?どういうことだ?

 

「どう(桐谷)いうことだって顔だな」

 

……桐谷はたまに、心を読んでいるかのように感じる。桐谷が心を読めるのか、僕が顔に出過ぎなのか、どっちだ?

 

「まぁ(桐谷)、先輩が濁そうとした言葉を、聞きすぎたお前も悪いけど、それが地雷かどうか分かるかと言われれば分からないだろうし」

 

「つまり?」

 

「取り(桐谷)敢えず謝っとけ、ちゃんとな」

 

「謝りはするよ、そりゃ」

 

「これに関しては、聞きすぎた僕が、圧倒的に悪い」

 

「……(桐谷)

 

僕と桐谷の間に、少しの沈黙が流れた。それを破ったのは、桐谷だった。

 

「まぁ(桐谷)唯月がしっかり謝れば、許してくれるよ」

 

「だから、謝るって」

 

「分か(桐谷)ってるよ」

 

桐谷は、頬杖をついて真っ直ぐ僕を見つめて言った。なんだコイツ……僕の親か何かか??………親友か…。

そのあと朝礼が始まるまでは、普通の雑談をしていた。ゲームの話とか桐谷と楓がイチャイチャしていたという恋バナとか。

 放課後になった。桐谷は「ガンバ」とだけ言って先に帰った。桐谷が帰った後、僕は美術室で、先輩を待っていた。と言っても、先輩が今日来てくれるかは分からないが。

 10分程経った。僕は美術室で絵を描いていた。いつもなら、先輩はとっくに来て、絵を教えている時間だ。

 

「……今日は、来ないかもな………」

 

もう少し待ってみようと思い、描くのを再開した時、『ガラガラ』と、扉が開く音がした。入ってきたのは、先輩だ。先輩は俯いたまま部屋に入ってきたが、一瞬、顔を上げ僕と目が合った。

 

「あっ(恋石)…」

 

そしてまた、俯いた。

 

「どうしたんですか?」

 

まるでいつもの先輩じゃないみたいで、……僕はいつも通り声をかけた。

 

「……先輩」

 

「!!(恋石)

 

僕の声に反応して、また顔を上げた。

 

「イラスト、描きますか?」

 

その言葉に、先輩は目を見開いて、また、俯いて…言った。小さいくて、元気のない…昨日の、低い声とはまた別の声で。

 

「怒っ(恋石)て……ないの?」

 

「怒る……?なんで…?」

 

先輩の言葉に対して出たのは、疑問。どうやら先輩は、僕が怒っていると思っているらしい。なぜだと考えているうちに、先輩が話し出す。

 

「だっ(恋石)て……昨日私、勝手に不機嫌になって…雰囲気悪くしちゃったし……、それに教えてもらってるのに急に帰っちゃったし……」

 

「だか(恋石)ら……もしかしたら、…もう来てくれないかもって……思って…」

 

「………」

 

………先輩は僕が思っていたよりもずっと、繊細な人らしい。いつも元気……というかマイペースというか……そんな感じの人だと思っていたから、意外だ。

 

「怒ってないですよ」

 

そう、怒っていない。そりゃそうだ。先輩のあの反応は、嫌なことを聞かれた人なら当たり前だ。むしろそれを聞いてしまった僕の方がやらかしたと思っている。

 

「すみません、昨日。先輩にとって嫌なことを聞いてしまいました」

 

「いや(恋石)!私も……」

 

………

 

「ごめ(恋石)んなさい」

 

「急に(恋石)………あんな感じ、出しちゃって…」

 

それから少しの間、沈黙が流れた。

 沈黙を破ったのは先輩だった。先輩は深呼吸をして

 

「よし(恋石)!昨日のことは…水に流そう!」

 

「いいんですか?」

 

「もち(恋石)ろん!私も君も、昨日のことは謝ったんだから!これ以上は無し!」

 

そう言っていたのは、いつもの先輩だった。明るくて大きい声の先輩だ。

 

「ただ(恋石)あの話はこれから聞かないってことで!!お願いね?」

 

あの話……なぜ一度絵をやめたか。……釘を刺されてしまった。まぁ僕自身、もう一度それを聞く勇気はないけど。

 

「はい」

 

「じゃ(恋石)、夜野くん!今日もイラスト、教えてもらおうか!!」

 

そう言って先輩は、道具を机に並べた。その言葉に僕は

 

「はいはい」

 

と、返すのだった。

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