小説書くって……ムズカシイ………。
「──もうあの二人だけで良くないですか……?」
「おつかれ〜夏油」
「……硝子」
救護室から出てきた硝子を待っていた傑が出迎える。
「それはこちらのセリフだろ……二人の容体は?」
「なんとか持ち直したよ。よくある災難だけど、勘弁してほしいよね〜。七海もやってらんね〜ってさ」
呪術の世界ではよくある災難だ。等級、敵数、人質、そうした不確定の現場で呪術師たちは……仲間たちは命を張って戦っているのだ──誰のために……?
パチパチパチパチ──。
「そうか……」
「なんで落ち込んでんの?らしくねー」
「いや……」
今回は運良く間に合った。しかし、次は──?
こんなことを続けていればいつかは仲間が死んでいく。この道の先にあるのは──仲間の尸だけだ。
ふと、傑の脳裏に九十九の言葉が過ぎる。
『──知ってる?術師から呪霊は生まれないんだよ。術師の中で呪力が回るからね、漏洩が少ないんだ』
(なら、非術師を皆殺しにしたら──どうなる?)
その思考が傑の脳に浮かんだ瞬間、ブルリと身体を震わせた。イカれた思考だ。有り得ない!!しかし、それをどこか望んでいるような自分が──。
「夏油?ゲト〜!!」
思考が危ない方向に向かいかけた時、グラグラと身体が揺り動かされる。ハッと顔をあげると硝子が少し心配そうに傑の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?夏の時と同じくらい顔死んでるけど」
「ああ、大丈夫だ、問題ない」
「あっそ、ならいいケド〜」
そう言うと、硝子は心配そうな顔を引っ込め、ひょいっと離れていく。相変わらず猫みたいなやつだなと、傑が内心思っていると。
「七海がさ〜──もうオマエら二人でいいんじゃね〜ってさ」
「そうか……」
廊下の窓を開け、カチッ、カチッとタバコに火をつけながら硝子は続ける。
「でもさ、私はダメだと思うんだよね。だって、オマエらみたいなクズ二人だけに世界任せるとか、それこそもう世界の終わりじゃん。でも、万年呪術師は人手不足で、一人一人の負担が大きいからやっぱり、今回みたいなことはどうしても起きる。オマエらはさ、強さだけが取り柄だけど、二人しかいないし。だからさ──」
そこで、硝子は一呼吸空ける。そうして告げられた提案は、傑の運命を大きく変えた。
「二人で教師にでもなれば?」
思わぬ提案に傑の思考が止まる。
「……は?教師?私達が?」
「そ、オマエら強さしか取り柄ないんだし、その取り柄を活かして皆んな強くしちゃえばいいじゃん。案外、適職だったりして?」
その提案は傑にとって目から鱗であった。
術師というマラソンゲーム。それを解決する根本的な解決策ではない。それの根本的解決であれば、やはり先ほど脳裏に浮かんだ非術師の皆殺しの方が適している。──しかし、今は九十九と研究している別の根本的な解決策がある。それに何より──未来が見えた。非術師を皆殺しにした世界を想像した時には見れなかった、悟と、みんなと、ポケモンたちと自分が笑い合えている。そんな未来が見えたのだ。想像でしかない。でも、この未来を見たくなった。その未来を傑は掴んでみたいと、そう思った。
「──いいね、それ」
「へぇ、案外乗り気じゃん」
「まあね──私達が後輩を導くというのも悪くない」
そう言うと、硝子はタバコを消し、「まだ見ぬ後輩に素でマウント取ろうとするあたり、やっぱクズじゃん。心配して損した〜」といつもの様に、イタズラ猫みたいなニヤリとした笑顔をみせ、去っていった。
それを見送った傑の顔には、彼が辿っていたであろう未来で見せていた胡散臭い笑顔とはかけ離れた、清々しい笑顔が浮かんでいた。
迷いはもうない。決意を力に変えて、傑は進み続ける。有り得たかもしれない道を辿ったときと同じ様に、歩むべき道を定めた傑の心はもう折れることはない。
既に傑の脳裏に浮かんだ危険な思想も拍手の音も綺麗さっぱりかき消されており──その生涯で二度とそれらが浮かんでくることはなかった。
高専の校舎から出た傑は、目的の人物に会いに高専の出口にある石造りの階段にやってきていた。
その人物は、階段の中腹あたりにドテッと座り、憮然とした顔をしているであろうことが、その後ろ姿からでも傑には伝わった。
どうにも気分は悪いらしい。まあ、後輩たちがあんな事になってたのだから当然ではあるが──悟には見えないのをいい事に、うへぇとした表情を傑は浮かべた。
しかし、伝えぬわけにもいかない。これは自分一人ではできないのだから。
意を決して、傑は悟に声を掛けた。
「なあ、傑」「──悟」
おっと残念。被ってしまったようだ。
少々気まずい空気の中、振り向いた悟に傑は無言で先を促す。促された悟も無言で礼を告げ、話を切り出す。
「俺たちってさ、最強じゃん?」
「ああ、そうだね」
「でもさ、俺たちだけ強くてもダメっぽいよ」
そこで、ふと悟も同じ事考えてるんじゃなかろうかと傑は察した。
「きっと俺たちなら──いや、どっちかだけでも簡単にこの国を滅ぼせる。でもさ、簡単に皆殺しにはできるのに、みんなを守ってやることは……できない」
「そうだね。きっと私たちに救えるのは、他人に救われる準備がある人たちだけだ。自分から危険に向かい立ち向かう仲間達を、僕たちだけでは救うことは難しい」
「だからさ俺は──いや、僕は聡くて強い仲間を育てようと思ってんだよね。僕らに置いていかれないぐらいの、傑もどう?」
途中まで真面目な感じで話していた癖に、「今日飲み行くけど、お前どうする?」みたいな軽いノリで誘われた事に少々呆気に取られた傑だが、その想いと、何だかんだ似た者同士なのだなという、不思議な共感を覚え、クスリと笑って悟の提案に返じる。
「へぇ、悟がそんなことを考えるとは珍しいこともあったものだ」
「は?おい、僕は割とマジメに言って──」
クスリと笑いながら茶化された悟は、ムッとなって言い返そうとし──。
「でもまあ、偶然私も同じことを考えていたのでね、その提案には賛成だ。これからもよろしく頼むよ、悟」
傑の返事を聞いて口を閉じた。少しの沈黙の後、意味を理解した悟は、半ギレの顔から表情をを徐々に変化させ、最終的に気持ち悪いものでも見たかの様な顔となっていた。
「──え、何照れ隠し……?流石にキモイぞ傑。僕でも引いた」
本気でそう思っていそうな顔の悟は、オッエェェ!!と仕草を交えて傑を煽る。──果たして、照れ隠しはどっちなのであろうか?
ピキッときた傑は、悟の口撃にすぐさま殴り返した。
「先程から思っていたんだが、一人称僕はやめた方がいい。少なくとも私の前ではね。見たまえ、君が似合わないキショい言葉遣いをするからサブイボが出来たじゃないか」
──どっちもであった。
ピキピキッと悟のこめかみから音が鳴る。
「──言葉遣いは傑が指摘したことだったよな?お前が自分の発言も忘れる様な猿頭だとは……思わなかったよ」
「猿はどっちだ悟。私は目上の人相手に対しての言葉遣いとして提案したんだ。そんなことも覚えていないとは……それとも私のことを目上の人だと思っていると?なるほど……では、君は今日から私の格下だな。それでは、今からパンを買ってきたまえ…3秒で」
「……」
「……」
不意に静寂が訪れた。
嵐の前の静けさ。それはザァーと木々の葉を撫でる穏やかな風により砕け散った。
「虚式──」
「パルキア!亜空──」
「お前達、そんなところで何をしている?」
突如として聞こえてきた、傑でも悟でもない男の声に二人はビクッ!!と身体を跳ねさせ、行動を中断した。
その声の主は──。
「──もう一度聞く。お前達はここで何をしようとしていた?」
「「あ……ッスゥーー……いや、何もしてませんでしたよ(してなかったっすよ)?」」
夜蛾先生であった。
──最初から全てを見ていた夜蛾先生の額は、既にピキピキであった。
「お前達は、ここで暴れたらどうなるかも想像できんのか!!そもそも──!!!」
先生は二人を石造りの階段の上に二人を正座させ、小一時間の説教を行い二人を解放した。
解放された二人が、フラフラと精魂尽き果てた様子で帰って行く様子を眺めながら、夜蛾先生は──。
(今度の個人面談では教師としての心得でも伝授しようか……)
と、考えながら残してきた仕事を終わらせに校舎へと踵を返すのであった。
灰原が助かったのは、原作と違って夏油がワープ手段(パルキア)があったので家入さんの治療が間に合ったからです。本当は作中に入れたかったんですけど、どうにも上手く入らなかったので、後書きで補足させていただきました。