第4自衛隊 作:クリフ
2018年4月1日、陸上自衛隊習志野駐屯地
冬も明けて暖かくなり小鳥が飛び回る空には似つかわしくない怒号が飛ぶ。
「おい高村、なにチンタラしてんだ!!」
高村と呼ばれる青年は苦悶を顔に浮かべながら必死に足を前に出し走り続ける。高村の足はついさっきからすでに限界を超えていて神経という神経は今にもちぎれてしまいそうなほどに痛い。息切れも激しく、水もほとんど摂れていないためか脱水症状で目の前が若干白く濁っているように見える。
「なんだ、もう苦しいのか?弱い奴はいらないんだよ!」
しかし、教官からは体調を気遣うこともなく追加の怒号で殴られる。それでも高村は必死に走り続ける。横隔膜が痙攣して吐き気が込み上げてきても足を止めない。体も心もすでに限界を迎えようとしていも高村は走り続ける。なぜ彼はここまでして訓練に励むのだろうか。答えは一つしかない、それは高村の狂気とも受け取れる愛国心が彼の体を動かしているのだ。高村は大して残っていない残りの体力を限界まで絞り出し走る速度を上げる。
「できるなら最初からしろよ!」
けれど帰ってくるのは賞賛ではなく、追加の怒号だ。高村は心の中で絶叫しながら必死に足を動かす。その姿はメロスでも腰を抜かしてしまいそうなほどだ。
その後も高村は常人なら一瞬で白髪になってしまいそうな程の厳しさの訓練を怒号を飛ばされながらなんとか乗り越えた。訓練後に装備の点検をしていると高村に人影が一人近づいてくる。高村は点検に集中しながら人影に声をかける。
「誰ですか?」
人影は高村の後ろで止まった。そして、何者かを答える。
「士崎だ」
高村は士崎が何者かを脳に保存されている記憶から導き出す。確か士崎というこの男、二十九歳と三十路に近い年齢でありながら訓練生の中で上位の成績を叩き出している。だが、成績が優秀な男が高村に話しかけてくる理由がわからない。少し不審に思いながら質問をする。
「なんのようですか。士崎さん」
今度は点検を中断して志崎の顔を睨むように見つめる。士崎は皮が何度もめくれて再生を繰り返し岩のように固まっている手で自信の顎をさすりながら話しかけた理由を答えた。それは実に高村にとっては意外なものでもあった。
「いや、疲れてると思うからな。点検を手伝ってやろうと思って…」
思いがけず高村は首をかしげる。そんな理由でこの男は俺に話しかけたのかと逆に不信感が増してしまった。それと同時に士崎という男が一体どういう奴なのか、そんなふうにも考えてしまった。
「気持ちはありがたいのですが大丈夫です。もう少しで終わります」
それを聞いた士崎は微笑を浮かべる。多分、迷彩柄の服を着ていなければただの好印象の
「後、点検も訓練の一環なので手伝れると技術の習得が遅れます」
点検した装備をもとあった場所に戻しながら士崎に伝える。士崎はその言葉に驚いたのか目をぱちくりさせながら高村に対して言葉をかける。
「真面目だな、実技の成績を除けばトップクラスで優秀かもしれないなお前」
士崎の言葉に高村は馬鹿にされていると一瞬思って少しむっとするも、寮に戻る準備をする。そんな高村を引き止めるためか士崎は追加で何かを言ってくる。
「どうしてお前みたいな若い奴が空挺団志願したんだ?まだ二十三だろ」
高村はその言葉がどういう意味か考えた。一つは自身が空挺団に志願した理由を聞いているのか、それとも自身を
「有事の際に多くの人を助けるためです。
高村は自分が七年前に地震によって唯一の肉親である父親を亡くしている。高村自身も瓦礫の下敷きになり死にかけていたところ派遣された自衛官に救出されたのだ。高村が自衛官になることを決めたのはその時だったかもしれない。そんな過去をどこかで察したのか士崎も気遣った言葉を返す。
「そうか、立派な
それと同時になぜ士崎が空挺団に志願したのかと高村は思った。その疑問を晴らすために今度は高村が志崎に質問する。
「逆になんで士崎さんは空挺団員に志願したんですか?」
士崎は頬を人さし指で掻きながらクチビルを舌で尖らせて少し黙る。おそらく答えを考えているのだろう。十五秒かそれくらいたった時志崎は口を開いてこういった。
「俺は、俺は守りたい人のためにここにいる」
守りたい人とは一体誰かを予測する。恋人か、それとも母親や父親か。解答が返ってくるまでそう時間はかからなかった。
「来年に子どもが生まれるんだ。だから、妻と子どもを守れるようになりたい」
その言葉は意外であった。士崎が既婚者という事実自体が衝撃ではあるが、それに子どもまで付随するとまでは予想だにしていなかったからだ。既婚者の男性なら話し方や雰囲気でなんとなくわかる。けれども、この男からそういった雰囲気が全くない。遠くから見ても近くから見てもただのアラサーの男といった感じだ。
「そうなんですか、士崎さんらしい理由ですね」
だが解答がいかにもな優男といったこともあって、ある意味では士崎らしいと思えばそう感じる。そろそろ、寮に帰らないと教官にどやされる可能性もあるのでゆっくりと疲れきった足で寮に向かって歩く。地面を踏むたびにかかとから痛みが走る。士崎もそれがわかっているのか寮に向かって歩き始めながらまた何か高村に話しかけた。
「なあ、面白い話があるんだが聞いてくれないか」
士崎がそう言ったがその声の奥には得体の知れないなにかを高村感じとった。いや、感じとってしまったという表現の方が正しいのかも知れない。深入り危険だと脳が警告するが怖いもの見たさといった興味の方が強く思わず質問してしまう。
「どんな話ですか?」
士崎は食いついたなと言わんばかりに口角を少し上げた。しかし、その目は笑っていない。それがなんとも形容しがたい不気味さを放っている。
「ちょっとした都市伝説だ、まあ半信半疑で聞いてくれ」
半信半疑とは言ったが、士崎が話す前から高村にはそれが事実のような気がして仕方がない。今ならまだ引き返せる気もするが、どうせなら最後まで聞いてしまおうという考えが頭のどこかにあった。
「自衛隊には陸海空、どの部隊にも属さない極秘の部隊があるらしいんだ。噂だとその部隊は国内外で法外的な活動をしているらしい」
でたらめの話だなと高村は思った。しかし、心のどこかでそれが実在するかもしれないと疑ってしまう。確かに自衛隊には特殊作戦群や特別警備隊などの世間一般的に特殊部隊と言われるものは存在する。だが国内外で法外的な活動をするなんてことはありえない。けれど、そういうことを行なっている部隊がいたとしてもおかしくはないはずだ。むしろ存在しない方世界的に見ておかしいのだ。
寮に戻り就寝するまで高村は士崎から聞いた話について考えていた。考えれば考えるほど事実であるような気がしてやまなかった。疑問もあったなぜ士崎はそんな話を知っていてわざわざそれを自身に教えたのかということだ。なるべく気にしないようにしながらその日高村はなんとか眠りについた。
投稿が遅れてしまいすいません。