第4自衛隊 作:クリフ
今日は志崎から言われたことが頭の隅にこびりつき高村は訓練に集中できなかった。ラペリングの訓練では途中で手を離してしまい宙吊りになってしまった。その後、教官激しく叱責された挙句、連帯責任として訓練生全員で腕立てをさせられた。他の訓練生からは恨まれたような目で見られて嫌な気分になっていた。
(チクショウ、志崎のやつめ俺になんであんなこと言いやがった)
思わず心の中で志崎に対して文句を垂れながら歯を食いしばって腕立てをする。乳酸が溜まりに溜まった腕はどこか閉められた感じがして最低の気分だ。
嘔吐が込み上げるほどの訓練が終わった後だった。教官が俺を名指しで呼び出した。なにを言われるのかと思いながら教官に近づくと「ついて来い」と言われたので、高村は恐る恐る教官の背中について歩いた。教官室につき中に言われるがままに高村は入った。そして、教官が高村がドアを閉めたの確認した後に口を開く。
「高村訓練生、お前に当てて本部から命令がおりている。今から聞くように」
高村はビシッと敬礼をきめて直立不動となった。しかし、その額には汗が流れていた。緊張から来るアブラ汗だ。肌の下の神経も緊張もあってか汗が垂れていくのがはっきりわかる。教官が唇を少し噛んだ後に命令を読み上げた。
「高村訓練生には第一空挺団員としての適正がないことを判断し、本日をもって訓練からの離脱をここに命令する」
高村の目の前は一瞬にして暗転する。それから、元から早くなっていた動悸がさらに酷くなりふらついてしまった。高村は急いで教官に問いただす。
「ど、どういう意味ですか!訓練からの離脱?俺がなにをしたと言うのですか!」
教官は帽子のツバをつかみ目が隠れるくらい深くかぶった。
「命令通りだ。荷物をまとめてもといた駐屯地に戻ってくれ」
高崎は少し反抗しようと思ったが、その気もすぐ無くった。とても、悲しい気持ちになった。ついには涙も溢れてしまいそうになったので、上を見上げた。少しの音が出るほど呼吸を行った後に背を教官に向けてドアを開けた。その時に教官は何かを口にした。
「命令だ、強くなって必ず戻って来い。お前が一番根性あるから絶対に空挺団に入れる」
そういった教官の声は震えていた。教官もこの命令に納得できていないのだろうか。高村のほおは熱くなり涙が落ちてしまった。
「了解しました」
高村は振り返り教官に向けて自身のできる最大限の敬礼をした。涙で視界がぼやけて上手く教官の顔が見えない。敬礼をおろした後に高村は部屋をあとにした。
荷物をまとめ終わり、寮からできる限りの自身の痕跡を消したあとに駐屯地の出入り口まで向かった。門の前には高機動車が一台止まっており、これが自分への迎えの車だろうと思った。
「高村二等陸士か?」
高機動車の窓が開き中から額に大きな傷の入った男が顔がドスの効いた声でそう言ってきた。ヤクザのような顔をしているせいで傷が酷く目立っている。むしろ、本当に自衛官か疑ってしまう。「はい」と返事をして高機動車に乗り込む。自分がもといた市ヶ谷駐屯地まではおおよそ四十分、それまでに短い間の地獄のような訓練が頭に浮かんで消えていく。
「悔しいな…」
口に出したくなかった言葉が漏れ出てしまった。さっきまでどうにかして保っていた気持ちが激しく揺らぐ。第一空挺団に入りたかった。ただただ悔しい。涙を流しているのをバレないようにうつむいた。
「そう気を落とすな、人には適材適所がある。仕方がないことだ」
その男は励まそうとしてくれるのだろうが、今はマイナスな意味でしか受け取れない。それじゃあ俺が最初から第一空挺団に向いてなかったみたいじゃないか。しかし、男は言葉を続ける。
「だから、俺は今からお前を一番適した場所に連れていく」
うつむいていた頭を思わず上げてしまった。どういうことだ、一番適した場所だと。理解が追いつかない。なんとなく嫌な予感がして窓から外を見る。
「市ヶ谷じゃない…、どこだよここ」
男は間髪入れず答える。
「神奈川だよ。今は横須賀米軍基地に向かっている最中だ」
なぜ米軍基地なんかに向かっているんだ。説明がつかない。俺の一番適した場所に向かっていると言ったな。なぜ在日米軍基地なんだ。
「おい、どういうことだ。答えろ!」
男はしばらく沈黙したのち、手短に答えた。
「着けばわかる。そして、今からのことは他言無用だ」
高村はこの傷の入った男のことを疑う。本来なら市ヶ谷に向かうはずが横須賀米軍基地に向かっている。そして、これから起きるなにかを他言無用だと言った。なにか怪しいことをしようとしているのではないかと高村は思った。
「これ以上が質問に答えない」
男はそう言って黙ってしまった。高村もなにが起きるかを考えて黙った。そして、一時間と三十分ほど経った頃、横須賀米軍基地に到着した。警備兵も高村の乗る高機動車を気にする様子すら見せず中に入れた。
「これで目を隠せ」
そう言って麻袋を頭に被せられる。人質にされた気分だ。ここまでされるということはよほどなにかを隠したいのだろう。ますます疑う心が強くなる。
「外していいぞ」
体感で五分ほど移動したあとにそう言われて、目の前をさえぎる麻袋を外す。すると、そこにはざっと百人程度の人間がいた。そして、各々がこれからなにがあるのかと話し合っている。しばらくして前に一人の男が出てきた。俺はその男を知っている。
志崎だ。なぜここにいる。そんな疑問を考える暇なく志崎は話し出す。
「ここに集められた者にはある部隊に入るためのトライアルを受けてもらいたい」
その時に志崎に言われたことを思い出した。陸海空、どの自衛隊にも属さない部隊があると。 まさか、そのまさかだ。俺は今からその部隊のトライアルを受けさせられるのではないか。そう感じた。
「受けたもらいたいと言ったが嫌なら帰ってくれて構わない」
その言葉が発された途端に周囲がざわめく。そりゃそうだ。こんなところに連れてこられた挙句、トライアルを受けろなどめちゃくちゃだ。
「だが一つだけ保証できることがある」
ざわめきが少しおさまった。それを確認すると志崎は言った。
「その部隊に入ればどの自衛隊よりも職務を全う出来るだろう」
俺はその言葉を耳に入れた瞬間、鼓動が激しくなった。なぜだかわからない。けれど、それは間違いなく俺の意思を握っていた。トライアル受ける、それしかないように感じた。
「今から帰りたいものは後ろにいる者に伝えてくれ、それ以外はその場に残れ」
誰一人として動かなかった。不気味なほどにみんなその場に直立していた。頬を紅潮させている者すらいた。なんとも言えない緊張感がそこにあった。そしてその状態は意図的かどうかはわからないが一時間続いた。
「残った者はトライアルへ進んでもらう。こちらに来てくれ」
そう言って誘導された部屋にはアーマーとハンドガンが置かれいた。
「各自アーマーを着用してハンドガンを取れ」
志崎に言われるがままに俺はアーマーを来てハンドガンを持った。
「今からすることは一つだ」
そういうと志崎は手に持ったハンドガンで近くにいた自衛官を撃った。撃たれた者は酷く驚きその場で倒れ込んでしまった。
「アーマーに向かってハンドガンを撃て、それがトライアルだ」
途端に当たりがあわて蓋剥き出した。いくらアーマーを着ているからといってそう簡単に撃てるものではない。的ではないんだぞ。
「貫通はしないように火薬の量は調整してある」
そう志崎が言った。それでもどよめきは収まらない。みんな人を直接うったことなんてない。ハンドガンを持つ手が震える。撃たなければ、出ないとトライアルは合格じゃない。呼吸は荒くなる。
「どうする…」
ハンドガンのセーフティーに指をかける。
「どうする…」
俺はもう一度そう呟いた…
大変遅くなり申し訳ございません