第4自衛隊 作:クリフ
ハンドガンのセーフティにかけた指先が微かに震える。今から人を撃つ、撃たなければならない。たとえ火薬の量が調整されていても、もし貫通してしまったら…。
「撃つんだ」
ハンドガンを持った右手が震える。左手で右手を抑えてセーフティを外した。誰を撃てば良いのだろうか。周りを見渡す。
「おい、やめろ!」
隣の方から叫び声が聞こえた。一人の自衛官が向けられた銃口に手を前に出して制止しようとしている。
「なぜ
酷く冷たい声で前に立つ自衛官がいた。そいつの髪色は白髪で目が青い。俺を含めた他の自衛官は日本人らしい黒髪黒目なので一際目立っている。
火薬が炸裂する無機質な音が聞こえたと同時に撃たれた自衛官はその場に倒れ込んでしまった。そして、うめき声を上げてうずくまる。
「情けない」
そう言って白髪の自衛官は去っていった。
「グラナード・エイジ、ロシア系の父親と日本人の母親のハーフ。俺がスカウトしたんだ」
トライアルを別の場所から見る志崎に一人の男が話しかける。
「特殊作戦群の中で一番実力がある新人だよ」
男は話し続ける。その口調はどこかこの状況を楽しんでいるように聞こえる。
「君が連れてきた高村とかいう奴、なんで
高村をバカにしたような質問に志崎は答えた。その声はどこかとても低かった。
「あいつはあの訓練生の中で一番イカれてた、これ以上の私語は許さない須本」
須本と言われる男は拍子抜けしたような顔をしたあとに、小さく笑って志崎の後ろに下がった。
(あいつ、本気で撃ちやがった)
高村はどうにかして表情を崩さないようにしたが心の中までは動揺を誤魔化せなかった。あの白髪の自衛官はなんのためらいもなく撃ったのだ。信じられない。
日本という国では他国と比べて銃と関わる機会が少ない。たとえ銃の所持する警察や自衛隊などでも撃つのはせいぜい人の形を模した的だ。実際に人を撃つ、銃殺するというシチュエーションも限られている。銃を撃つということは
高村は一度深呼吸をして動揺を落ち着かせようとこころみる。たいして効果はない。どうする、その焦りが体調に表れ始めた。額にはどの時よりも多く汗が吹き出る。
(俺は撃つんだ、人を。撃たなければいけない)
両手で持つハンドガンが震える。クソと心の中で叫ぶ。白髪の自衛官の言葉が頭に浮かぶ。そうだ敵は待ってくれない。
「なあお前のこと撃ってええか?」
肩をたたかれた次にすっとんきょうな質問が飛んできた。後ろを振り向くとツーブロックの自衛官がいた。そいつは俺より一回り二回り大きい背をしていた。百九十はあるんじゃなかろうか。話し方も標準語じゃないおそらく関西弁だろう。
「え、あ。ああ」
あまりにもおかしな質問でうまく答えられない。ツーブロックは俺に銃口を向ける。
「ちょ、ちょっと待て」
急いで止める、まだ心の準備ができていない。そもそも撃つことを許可していない。
「なんや撃って良いんちゃうんか」
ツーブロックは肩をすぼめる。いきなり撃たれたらたまったもんじゃない。ツーブロックは片手で首を掻きながら銃口を下ろす。
「じゃあこうしよう、サンカウントで撃つんや。そうすれば腹決めれるやろ」
ツーブロックはサン、ニと数え始めた。俺はそれを急いで止める。
「ちょっと待てよ。タイミングは俺に決めさせろよ」
ツーブロックは呆れたように口を開く。
「ちんたらせんといてくれや」
お前が頼んできたんだろとイラついてしまった。しかし、俺が撃たれることをビビっているような言い草でそっちの方が腹が立つ。
「いいぞ、早く撃て」
そう言って腹に精一杯力を入れる。そうだ俺はここにきたのはここが俺の一番適した場所だと言われたからだ。絶対に耐えてやる。ツーブロックはサン、ニともう一度数え始める。
「イチ、ゼロ」
炸裂音と共にお腹に強い衝撃が走る。アーマーを着ていてもとても痛い。
「ウッ」
思わず声を漏らしてしまったが転んだりすることはなかった。一度深く呼吸をする。
「次はお前が俺を撃てや」
そういってツーブロックはハンドガンを床に置いた。そう言った顔は引き締まっていた。
「は、お前なに言ってんだ」
俺は思わず問い詰める。それを聞いてツーブロックはまた呆れたような顔をして答える。
「俺はお前に頼んで撃った。今度は俺が撃たれないと筋が立たんやろが」
だから構わず撃てとツーブロックは言った。こいつ本気かと内心思いつつ、肝の据わった奴だと感心してしまった。ツーブロックの覚悟を無下にしたくなかったこともあり、俺はトリガーに指をかける。
「撃つぞ、いいか?」
そう言って銃口をツーブロックの腹に向ける。万が一、貫通しても致命傷を避けたいからだ。
「はよせえ。待たされるのは嫌いやねん」
手のひらに力を込めて手の震えを抑える。もう一度深呼吸をしてトリガーを引いた。
次の瞬間、肩まで反動が来た。火薬の量が減らされているとはいえ手がじんわりする。
「おー怖かった…」
ツーブロックは軽くそういった。だが、額は酷く汗ばんでいた。分かってはいてもやはり怖いのだ。銃で撃たれることなどそうないのだから。
「そこの二人は別室に移動しろ」
近くにいた試験官らしき目出し帽をした自衛官が俺たち二人にそう言った。ツーブロックは早くしろと言わんばかりに俺に視線を向けて目出し帽について行った。俺もツーブロックに追いつくために早歩きでついて行く。二つ聞きたいことがるのだ。
「どうして俺に声をかけたんだ?」
ツーブロックは口をぽかんとさせた。まるで俺が理由を分かりきっているんじゃないかと言いそうな顔だ。
「そんなん一つだけに決まっとるやん」
一つだけ?どういうことだ。
「お前が俺の次くらいに根性ありそうな顔しとったからや」
自信に満ちた笑みをこちらに向けてくる。もう一つ聞きたいことを言おうとした矢先向こうから聞いてきた。
「忘れてたけどお前名前なんや?」
少し焦らしてから声を出す。相手にはっきり覚えてもらうためだ。
「
名前を言い終わるとツーブロックは笑いはじめた。なにがおかしいのだといぶかしむ。
「守って、めっちゃ自衛官な名前やん。最高やな!」
口を大きく開きながら笑ったため、目出し帽から注意されている。しかし、目出し帽も若干笑っているようで布ごしで隠された口角が上がっているのがわかる。
「俺の名前も教えたるわ、俺は
そう言って握手を求めてきた。俺はその手をガッチリ掴む。
「こちらこそ」
清治の手の皮は岩のように硬かった。
次話もなるべく早く投稿できるように励みます。