始まりが終わり終焉の開始
憧れは抱くものーーー
才能は備わっているものーーー
技術は磨くものーーー
理は創られ壊されるものーーー
さあそれでは 回目の絶望を始めようか?今回はどんな事が起きてどんな結末が待っているのかな?
『うぷぷぷぷ!楽しみだね~』
『そうですねえ〜とても楽しみですなあ!うっぷっぷ!』
ープロローグー
<始まりが終わり終焉の開始>
幼少期、偶々テレビで流れていた内容に俺は釘付けになった。一番大切にしていた大好きなおもちゃを放り投げてまでテレビに齧り付いた。何故なのか、何で夢中になったのか自分でも分からないが、特集されていたテレビに映し出される学園に時間を忘れて見続けた。
「ちょっと太郎…テレビに近付き過ぎよ?目が悪くなるじゃない」
自分でも知らず知らずの内にテレビに近寄っていたせいでそれを見た母親に注意される。しかしその時、テレビに夢中だった俺の耳には全く届いていなかった。そんな俺の様子に訝しみながら母親もテレビを覗き込む。
「何をそんなに夢中になってるのよ……あら、ここって希望ヶ峰学園じゃない」
テレビに映っていた場所を見てそう口にした母親に、俺はゆっくりと母親の方に視線を投げて、母親が口にした学園の名前を聞き返した。
「……きぼうがみねがくえん?って…なにそれ?」
それが俺が初めて希望ヶ峰学園を知った瞬間だ。そこから俺の世界は広がり始まったんだ。
ーーーそして時は流れ…俺は今日から高校生だ。
「……おおぉ…す、すげえな」
俺の目の前を彩る景色に感動し立ちすくみ放心状態となる。遂に…念願のこの日がやって来たんだ。待ち望んでいた、夢にまで見たあの学園が…
あの日母親から聞いた学園の名は
都内の一等地に聳え立ち、壮観で圧倒される程のオーラを放つ世界に名を轟かす超有名校。その学園に入学し、卒業する事が出来ればそいつの将来は約束された光り輝く栄光の未来への道がひたすらに続いていく。嘘の様だが本当の話だ。
事実、希望ヶ峰学園の卒業生は須く成功の道を歩み進み続けて、世界に名を轟かせている。誰もが入学したいと憧れを抱く学校だが勿論選ばれた少数の者しか入学を許されない。
希望ヶ峰学園に通える方法ーーー大きく分けると二つある。…まあ実態を知れば内容は天と地程の差があるが。
先ず一つ目、俺含めた世の現役学生達が望む方法とは…スカウトだ。単純な理由だが決して簡単な事ではない、むしろ最難関の条件だ。
その最難関であるスカウトをされるにはまず現役の高校生である事…そして自分が誇れる各分野で超一流である事。まあ詳しく言えば各分野で超一流になり何かしらの実績、又は希望ヶ峰学園が一番大事にしている未来への希望となり得るか…を判断されてスカウトの通知が届く。
才能をただ無意味に伸ばすのではなく、希望の象徴となれると認められなければスカウト通知はそいつには届かねえ。だから時々、何でそんな才能を入学させた?って話題になる事があるが、希望ヶ峰学園的には琴線に触れたのだろう。
と、そんな凄い学園に俺は今日から通えるんだ!ワクワクし過ぎて入学が決まった日から中々寝付けなくて寝不足の生活が続いちまったぜ!……って言っても俺はスカウトされた訳じゃあないんだけどな…。もう一つの方法で入学したんだけど…まあその一つについては後で言うとしよう。
でも…へへへ、遂に俺は希望ヶ峰学園の生徒になれんだな、と気持ちが盛り上がっている俺に横から声が掛かる。
「君、そこのにやけ面の君だよ君!」
「…へ?」
「さっきから校門の前で立ったまま笑ったかと思えば苦しそうな顔を浮かべて、考え込んだと思えば唸って…挙げ句にやけ始めてからに…不審者かと思ったぞ?」
うおっ!しまった…めちゃくちゃ早く学園に着いて油断してた。奇妙な奴を見る目で俺を見てくる警備員さんに恥ずかしさを必死に隠しながら挨拶をする。
「お…おはようございます…です……」
「ぶぶっ、くくくくくっ!先輩この新入生スゲー顔真っ赤ですよ!ぶふっ!」
隠しきれない赤面を警備員さんの後ろに居た後輩らしき若い警備員さんに思っくそ笑われた…。そんなに今の俺の顔は酷いのかよ?
「制服を見るに…君が来る場所はここではないと思うが?」
うっ…やっぱりそう言われるよな。分かっていたが直接言われると辛いもんがあるよな。笑いを必死に耐えていた若い警備員さんも先輩警備員さんの言葉を聞いて、俺の制服をジロジロ見ると開いた掌の上をもう片方の拳でポンと打つ仕草をした。
「あっ、本当ですね!何だ何だせめて本校舎だけでも見ようって考えか?それとも本校の生徒を見に来たって感じだろ?」
にやにやと笑う若い警備員さんにそう言われる。先輩警備員さんも毎年の恒例行事だな…と呟いてるから同じ事を思ってるんだろう。だが俺はそんな事で早起きして誰よりも早く本校舎の校門前に居座ってる訳じゃねえ!
俺は顔をグッと引き締め少しばかり睨めつける様な目をして二人の警備員さんに言い放つ。
「そのどちらでもないですよ!俺は貴方達にあるお願いをしにここで待ってたんです!」
「お願いだと?一体何なんだそのお願いとやらは?」
「俺の予想的に~絶対こいつ突拍子もない事を言いますよ先輩!」
「お前は黙ってろ!すまないなうちの後輩が…それで聞かせてくれるか?」
「い、いえ…えっとですね」
若い警備員さんに馬鹿にされてる気がするが気にしない事にするか。
「単刀直入に言うんですけど本校舎に入らせて下さい」
「なるほど……は?な、何を言っとるんだ!?」
「おおお!?ほらほら先輩やっぱり突拍子もない事じゃないですかー!」
俺の言葉に心底驚いたと一歩後退る先輩警備員さんに驚きながらもどこか楽しそうな若い警備員さん。驚かれる事は分かってたさ。
「…君は校則を知らないのか?」
「そんな事は知ってます。校則が載ってる生徒手帳が配られた時から穴が空く程読みましたから」
念願の希望ヶ峰学園生徒手帳をこの手に持てたんだ。そりゃあ毎日欠かさず読む位当たり前だ。
「知っている上で俺は本校舎に入らせてほしいってお願いしているんです。なのでどうか許可を下さいお願いします!」
俺は今まで生きてきた中で一二を争う程丁寧で綺麗なおじきをした。全力の誠意を真正面からぶつければ多少の我儘を聞いてくれるかもしれねえ。普通なら絶対に断られるだろうが今は早朝だ。来てる奴なんて居ても極少数だろうから入らせてくれるかもしれねえ。
緊張で心臓がバクバクと高鳴らせながら恐る恐る顔を上げて警備員さん達を見る。
「……どうやら本気の様だな…だが当然許可する事は出来ない」
俺の本気を分かってもらえたが、冷たい目を俺に向けてきて否定される。だけど一度や二度断られても諦める訳にはいかねえんだ!相手が折れてくれるまで頼み続けてやるってこちとら決めてんだ!
決意固く俺は再度深々と頭を下げてお願いする。
「そこを何とかお願いしますっ!!ほんの少し見て回れるだけで良いんです!夢だった希望ヶ峰学園をこの目で、間近で見たいんです!」
「そう言われてもな…残念だが規則なんだ」
「お願いします!校舎の中までは入りませんから!」
「いやすまんが無理なものは無理なんだよ」
「無理は承知の上でお願いしているんです!頼みます憧れの景色を見させてください!!」
そこから何度か頼み込み、断られての問答を繰り返していると黙って聞いていた若い警備員さんが口を開く。
「先輩…一応学園長に聞いてみても良いんじゃないですか?」
「なっ!?学園長にってお前…」
「先輩が嫌なら俺が連絡しますんで駄目ですかね?」
「それでお前に何かあったらどうするんだ…」
「だってここまでの熱量で必死に頼んでたら見学位は許可したくなりません?」
「…まあ……そりゃあな…」
「それに俺の勘が言ってるんですよ、入れた方が良いって」
「お前の勘が?……ふむ…分かった、なら俺が学園長に連絡するから、君はそこで待ってなさい」
「え、はい分かりました!ありがとうございますっ!!」
「学園長が駄目と言ったら諦めるんだぞ」
若い警備員さんの助けのお陰で首の皮一枚繋がった。でも若い警備員さんの勘になんかあんのか?それを聞いた先輩警備員さんは渋々納得してくれたが…?
「……ええそうです………はい……」
玄関前にある警備室から先輩警備員さんの電話している声が聞こえてくる。電話先の相手は希望ヶ峰学園の学園長だろう。電話が終わるまで酷く緊張するな…と落ち着かない様子で警備室を見る俺に若い警備員さんが話し掛けてくる。
「にしても見学したいからってこんな早くに来たって、相当希望ヶ峰学園が好きなんだな?」
「そ、そりゃあ好きですよ大好きです!!小さい時にテレビで見てから憧れになって絶対に通ってやるんだって決意してたんですから!!」
「お、おう…スゲー熱量だなほんとに…まあ後は祈っとく位しか出来ねえな」
「はい!頼みます頼みます頼みますっ!!お願いしますお願いしますお願いしますっ!!!」
手を合わせ希望ヶ峰学園へ向けて祈り続ける俺に若い警備員さんが声を掛ける。
「おーいなんか先輩がお前を呼んでんぞー?」
「神様仏様どうかおねが…へ?呼んでるって…」
「ほら、先輩が手招きしてっから行ってこい」
若い警備員さんが指差す方を見ると、確かに先輩警備員さんが受話器を片手に俺に対して手招きしていた。訳が分からねえけど俺はそちらの方へ小走りで向かう。
「あの、なんかあったんですか?」
「ああ…学園長に経緯を説明したら君と話したいと言ってな」
「え?学園長が!?」
「そうだ、くれぐれも失礼のない様にな?…頑張れよ」
優しく微笑まられ激励の言葉をくれた先輩警備員さんから受話器を手渡される。先輩警備員さんの激励のお陰で少しは緊張が和らいだけど、それでも胸の鼓動は激しく脈打ち暴れていて全身が震える。あの希望ヶ峰学園の学園長と電話越しだが話す事が出来るなんて夢の様だ。
「もしもし、電話変わりました…」
『やあ初めまして、急にすまないね』
受話器から聞こえてきた声は力が籠ってはいるが威圧的には感じず、むしろ聞いていて心地の良い暖かい優しい低めの声だった。
学園長なりに緊張を和らげようとしてくれているのだろうが、今の俺には全くと言っていい程の逆効果で増々緊張が増してしまう。
「は、初めましてっ!」
『我が校に憧れていて好きだって話を聞いたら嬉しくてね、是非君とお話をしたくて』
「勿論大好きです!子供の頃から入りたいって思ってた憧れの場所です!」
そこから余すことなく希望ヶ峰学園への想いを語り、時折学園長から質問が飛んできてそれに答えていった。
『うんうん、真っ直ぐで熱意伝わる言葉をありがとう。でも君の熱意はそんなものじゃあないだろう?』
「へ…?」
先輩警備員さんも心配そうに見てきており、自分でもやっちまった!?と思ったが学園長は特に気にした様子もなく…むしろ好意的な感じだ。
『君の熱量…先程軽くだけど君が希望ヶ峰学園へ入学しようと頑張っていた記録を拝見したよ』
「え!?俺のって…いつの間に?」
『校門前に監視カメラがあるのは分かるね?』
「そりゃあ…勿論分かりますけど…」
超有名校たる希望ヶ峰学園なら校門に警備員さんを配置するだけな訳はなく不審者が校内に入って来ない様進入防止として監視カメラをそこら中に設置しているのは当たり前だろうな。でもそれと何が関係あんのか……ってそうかっ!
俺はある希望ヶ峰学園の事が書かれているネットの掲示板の内容を思い出して思わず声を出す。それに先輩警備員さんは驚いていたが、学園長は小さく笑いながら俺の言葉を待つ。
「希望ヶ峰学園の監視カメラには映った人の顔や着ている服とかを瞬時に判別して即情報が管理室や学園長に届くって機能…この事ですよね?」
『うん正解。生徒だけに非ず教師や勿論警備員等の人達の情報も筒抜けさ。だから君の事も監視カメラから私の元に送られているって訳さ。不審者が映り込めば各警察や警備係に映像と一緒に送られる様になってるよ』
「あの情報は本当だったんですね…」
『未来ある若者達の邪魔はさせない様に常に最新の防犯設備は整えているのさ。それで君の今までの事を拝見してね、我が校への熱意は凄く伝わったよ』
「なるほど…でもそんな重要な事俺に話して良かったんですか?」
自分で言うのも何だが不審者と間違えられても無理はない程の怪しい行動をしていたと思うし、昔のあの事件の事もあるし希望ヶ峰学園の生徒ではあるが事情が違う俺に話すのはおかしくねえか?
『……そう思うのも無理はないだろうね…けど私は君の尋常ならざる熱意に興味を惹かれてね。本当は駄目だけど今はまだ人も少ないし入学式までまだ大分時間があるからね。特別に良いかなって、ね?』
「え…な、なら…つまり!?」
『君と話して、君になら言っても良いかなって思えた。生徒を信じなくて希望ヶ峰の学園長は務まらないから。だから特別に入学式までの間は見学を許可するよ』
お…おおおぉぉぉやったぞ!諦めないで良かった!駄目もとだったが当たって砕けろ精神でお願いし続けたお陰で警備員さんと学園長に熱意が伝わったぞ!
「あ、ありがとうございますっ!!」
『君も希望ヶ峰学園の生徒に変わりないからね。それに君なら過去数少ない本校編入者になれるかもしれないからね。でもあまり変な事はしない様にお願いするよ』
「勿論です!気を付けますので!」
おおおお!つまりは学園長から見て俺は光るものがあるって事か!おいおい希望が輝いてんなあ!
『うん良い返事で宜しい。それじゃあ側に居る警備員の人に変わってくれるかな?』
「分かりました!あの、学園長から変わってくれって言われたんで返します!」
そう言って受話器を先輩警備員さんに手渡す。
「ああ、ありがとう。それで…君の様子から見るに許可は下りたみたいだな」
「はい警備員さんが学園長に話してくれたお陰です!」
「ははは、気にするな。それじゃあ君はもう行って良いぞ」
「え、でも…」
「良いから外に居るあいつに校門を開けてもらいなさい。早く行きたいってウズウズしてるのが丸分かりだ」
言われて自分の体を見ると確かに嬉しさで体を小刻みに震わせていた。それにきっと顔は笑顔を浮かべているだろう。
「じゃあお言葉に甘えて行ってきます!色々とありがとうございましたー!」
先輩警備員さんにお礼を言い、若い警備員さんの元まで急いで戻り事情を説明した。
「ほーう!許可貰えたとはお前中々やるなあ!よっし分かったちょっと待ってろよ!すぐに開けてやっから」
楽しそうに俺の頭をわしゃわしゃと撫で回してから校門を開けてくれた。元々の癖毛気味な頭が更にボサッとしちまったじゃねえかと若干不服な気持ちになるが、後少しで希望ヶ峰学園に足を踏み入れるんだ!そんな細けえ事は後回しだ。
「ほれよ、校内に入れる様に入口も開けてやったからはよ行け!」
「ありがとござます!」
「おー元気で良い事だ」
若い警備員さんに見送られ、全力で走って校門を潜り待ち望んだ希望ヶ峰学園へ進んでいく。ちょっと進んだだけなのに圧倒される希望ヶ峰学園に身震いしながら目を忙しなく動かして見ていく。やべーすげー楽しい!テレビで何度も何十回も何百回も見てきたが生で見ると興奮度が段違いだー!豪華って訳じゃねえのに溢れ出る煌びやかなオーラに感動だぜ!
ーーー校門前、二人の警備員。
「…行ったか」
「お?先輩、学園長との話終わったんですね」
「ああ」
「しかし先輩もですけど学園長もまた珍しい事をしましたねー」
「ふむ…学園長が仰っていたあいつの熱意に俺も心動かされたって所だな」
「規則は良いんですかー?」
「……規則も大事だが相手の想いも大事に判断してやらんとな」
「へへへへ、流石は元"超高校級の審判"ですね」
ーーー
入学式までまだ時間はある事を携帯の時計で確認してまた歩き出す。校内も見て回りたいが広大過ぎて時間が足りなさそうだ。まずは校庭内を見て回る事にした。
希望ヶ峰学園の学園図はある程度記憶している。こちとら先に配られていた学園地図を毎日眺めていたんだ。覚えてなきゃおかしな話だよな。
色んな才能を持った生徒に見合ったグラウンドが沢山あって一つ一つ見るだけでも時間を消費していってしまう。今の俺は時間制限ありの状況な訳だし計画的に動かねえと。
せっせか急ぎ足で見て回っていくと校舎の裏側にある小さな中庭に着いた。薄暗さを感じるが嫌な雰囲気ではなく落ち着く。真ん中に一番大きく生えている木に近付いてみる。
「立派だなあ」
特に植物に詳しい訳ではないのでそれ以外何にも言えねえがその他に気になる物はねえな…と思いふと木の上を見上げた。
「は、はあ!?」
「…っ!?」
「どわぁっとお!!!?」
何気無しに上を見上げると木の枝に人が居た。その人もこちらを見てきてて俺と目が合うと俺と一緒で互いに驚きあう。相手は声は上げず目を見開きながら驚き、するすると木から降りてくる。
対して俺はまさか人が登ってるなんて思ってなかったもんで完全に油断して後ろに後退り見事に転けた。
「…大丈夫?」
派手に尻餅をつき痛みで顔を歪める俺に謎の人はおずおずと声を掛けてきた。
「まあ…何とか大丈夫ですけど…」
「…それなら良かった」
何故こんな朝早くに木の上に登っていたのかとかここに居るのならあなたは希望ヶ峰学園の生徒なのかとか生徒なら名前は才能はとか次から次へと疑問が沸き上がってくる。
「あの…」
まあ先ずは自己紹介からだなと口を開いた………その瞬間……。
ーーー視界が、
「ん?あれ?な、なんか…回ってね?」
ーーーー大きく揺らめき始め、目まぐるしく螺旋回転を描く………。
「な…んだこ…れ?」
気持ち悪い、苦しい、胸が痛い、頭に激痛が走るーーー様々な感情が雪崩の様に俺を襲う。
そして俺はーー
「あ……」
倒れた。体の感覚が失われ、ただ自分が倒れた事だけは分かり意識を手放した。
……………………。
………………………………。
…………………………………………………。
………………………………………………………………………………。
………遂に憧れてた希望ヶ峰学園に足を踏み入れた俺は幸せだったし希望に満ち溢れていた。
だけど次に俺が目を覚ました時、そんな気持ちは無惨にも非情にも絶望的に消し飛ばされる事となる。
希望から一転絶望へと続く修羅の道を俺は、俺達は無理矢理に歩まされる事になる。
紡がれた絆は簡単に解かれ。
築いた想いと記憶は奪われ。
理不尽と別れを嘲笑いながら与えてくる。
……。
…………。
………………ねえ…。
……………………起き……ねえ。
…………困ったな………どう…よ……ねえ、起きてくれないかな?
なんだ?誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてくる…俺はゆっくりと目を開けるとどうやら机に突っ伏して寝ていた様だ。
「ぅ…うう……あ?」
「…あ、気が付いた?あの、大丈夫?」
何だか長い間眠ってた気もするしそんな事はない気がするが…目を開けて俺を呼んでいた人を見ると見知らぬ目付きが悪い男子が俺の顔を覗き込んでいた。
まだ目を覚ましたばかりでぐらぐらと目眩がするが、とりあえず目の前の人に話し掛けようと俺は突っ伏していた上半身をゆっくりと起き上がらせる。
「…まだ気分悪いでしょ?…無理して起きなくても良いんだよ」
「いえ、大丈夫です。それよりも…すみませんここってどこなんですか?」
「…ごめん、僕も目を覚ましたばかりで全く分かってないんだ」
「そんなあなたが謝る必要はないですよ」
目の前の人も状況が分からないらしく申し訳なさそうにしているが、この人も俺と同じ様なんだ。ていうかなんかこの人の事…どっかで会った事ある気がすんだけど思い出せねえな。
「ちなみに何ですけど、どこかでお会いした事ありませんか?なんか見覚えあるんですけど…」
疑問を聞いてみると少し考える様な仕草をすると首を傾げ、覚えていないと首を降った。
「そうですか……それにしてもここってどこなんでしょうね?さっきまで希望ヶ峰学園に居た筈なんですけど」
そう言いながら今自分が居る場所を見渡す。どっかの教室でこの人と一緒に寝ていたみたいだ。教室内を見るに希望ヶ峰学園の教室に似てるけど真似した教室ってだけか?それとも本当に希望ヶ峰学園の教室か?
「…えっと……僕も希望ヶ峰学園に居たんだけど急に目の前が真っ暗になったと思ってたらここで君と同じ感じで寝てたんだ」
「え!?と言うことは貴方も希望ヶ峰学園の生徒!?才能は!どんな才能でスカウトされましたか!お、俺は今日入学したばかりで新入生なんですけど…先輩ですか?それとも貴方も新入生!?」
目覚めたばかりにも関わらず希望ヶ峰学園という単語を聞くだけで俺は思考が希望ヶ峰学園一色に染まり、大興奮して見知らぬ男子にマシンガンの如く話し掛けた。
もしかしてそうかもと思っていたがやっぱり合ってたぜ!遂に俺の目の前に選ばれたエリートの超高校級の在校生に会えた!
しかし俺は喋り終わって気付いたが、希望ヶ峰が好きすぎて暴走してしまったよなこれって!?初対面の人にこれは引かれてしまう。
「…え?え?その…いきなりどうしたの?ちょっと待って、落ち着いて!」
目付きの悪い男子は目覚めたと思いきや矢継ぎ早に質問を投げ付けてくる俺に戸惑いながらも律儀に答えてくれた。
「…えっと、僕も君と同じ今日入学予定の新入生だよ。…だから敬語とかいらないから。…それで君の言う通り希望ヶ峰学園の生徒で僕の名前は
【超高校級の???】
龍野は焦りながらも自己紹介をしてくれた。低めの身長に自身の体より大きめの真っ黒なコートを着ているので小動物の様な印象だな。それに所謂女顔ってやつで凄い綺麗な顔してんな。
でも目付きの悪さと目に掛かる前髪に上も下も黒色のコーディネートも相まって雰囲気暗く感じるな。
後目立つのが長めの揺れる髪からキラリと光る右耳に十字架のイヤリング、左耳には銀色のピアスを付けてる。格好良いなあれ…俺もイヤリングとかしてみたくなるな。
「同じ入学生か!」
まあ…俺と龍野は入学生として決定的に違う所があるんだけどな。って今は俺の事なんか気にせずに龍野が名乗ってくれたんだし、俺も名乗らなきゃだと慌てて俺も名乗る。
「俺の名前
「…うん、
俺の名前を口にする龍野に、恐らくいつも通りの事が起きてんだろうなと思いながら龍野の言葉を訂正する。
「あー…すまねえ龍野、多分だけど今俺のさとうって名前の漢字を
俺は龍野に分かるよう空中で文字を書きながら説明した。
「…え、そうだったの?…間違えてごめんね」
「いや龍野が謝る事はねえよ。皆やっぱり佐藤の方で捉えっからお決まりの流れになってっしよ」
そう、俺の名前は
龍野みてえな特徴ある容姿はしてねえけど強いて言うなら癖毛で少々ボサッとした髪型の中に周りからアンテナの様だと良く言われるアホ毛が俺の頭の頂点にぴょこんと生えている。直してえんだけど針金でも入ってんのかって位の頑固さで精々風呂上がり位しかペタッとならねえ。
俺の事はさておき一番気になる事を聞かなければだ!
「なあ龍野!さっそくなんだけどお前が希望ヶ峰学園に選ばれた超高校級の才能を教えてくれよ!」
普通なら現状の確認とか優先だろうけど俺はやはり目の前に居る龍野に、あの希望ヶ峰学園がスカウトした超高校級のこいつの才能を知りてえんだ!だって遂に初めて会えた現役の超高校級の人と喋れてるんだからよ!
しかし俺の嬉しそうな態度とは裏腹に龍野は渋い表情を浮かべて言葉を詰まらせる。
「…さ、才能?…それはちょっと……それよりもさ!…今はこの状況とか話し合わない?」
明らかに話を逸らされちまったけど…どうやら龍野は才能の事を言いたくねえ様で訳ありって事だな。俺も初対面で相手が嫌がるまで聞くつもりはねえので深く踏み込む事は避けた。
「まあそりゃあそうか。それじゃあ今の状況って事なら俺等が居るここってどう見ても希望ヶ峰の教室だよな?」
テレビや雑誌で誰よりも見てきたって言える自信がある程だ。だけど普通の教室にも希望ヶ峰の特集されたテレビや雑誌にもなかった物が俺の視線の先にはあった。龍野もそちらの方を向いて呟く。
「…変だよね?…僕もすぐに気付いて変だって思ったんだけど、固く打ち付けられた鉄板に教室の四方向の角には監視カメラ…流石に希望ヶ峰学園でもここまでするかな?」
龍野の言った通り、窓があった場所には厚い鉄板が打ち付けられていて教室四隅の天井角には監視カメラが吊るされて俺達を視ていた。
「そりゃあ厳重な防犯設備を整えている希望ヶ峰学園なら監視カメラ位は付けてるかもだけど…鉄板は意味が分からね…って龍野見ろよ、黒板になんか貼ってあるぞ」
「…本当だね。…鉄板とか砂糖君の事で黒板は全然見てなかったよ」
俺と龍野は黒板の真ん中に目立つ様に貼ってある紙に近付き書かれていたメッセージを読んだ。
「…えっと……『希望ヶ峰学園新入生のオマエラ!良く眠れたかい?目が覚めたんならとっとと先に進みたいから至急体育館に集まってください。体育館までの道順は裏に地図書いてあるから早く来てよね!』……って事らしいよ?」
紙を剥がして裏返すと確かにそこには今俺達の居る現在地である教室から体育館までの地図が簡略的に書かれていた。
「ちょいちょい気になる言葉遣いだし、めちゃくちゃに汚え字で読みづらいな。先生とかならこんな言葉遣いしねえし字だってもう少し綺麗に書けるだろ」
「…うん、でも今はこの紙の通りに従うしかなさそうだよね」
「まあ明らか希望ヶ峰学園の校舎だし、趣向を凝らした粋な入学式イベントとかじゃね?」
「…本当にそうかな?」
俺の言葉に龍野は考え込む様に少し顔をうつむかせ思案顔で疑問を呟いた。
「どういう事だ龍野?」
「…これが本当に希望ヶ峰学園のイベントなのかなって思って」
「んなの考えすぎだって!とりあえずこの紙に書いてある通り体育館に向かってみようぜ!誰かしらは居んだろ!」
「…うんそうだね。…僕の考えすぎかな」
一応目覚めた教室を調べてみたが特に何もなかったので俺達は地図を見ながら体育館へと移動を開始した。その道中俺達は軽く話しながら歩く。
先ずは目覚める前は何をしてたかを話したが龍野は希望ヶ峰学園に入った瞬間から記憶がないらしい。俺は見学の許可を貰って楽しく見て回ってた記憶はあるんだが…途中から失くなってやがる。中庭で誰かと会った様な記憶があるんだが……駄目だ思い出せねえ。まあ後で思い出せんだろ!
「しっかし俺まで参加させられてんのは可笑しな話だよなー」
「…え?…砂糖君が参加してる事の何が可笑しいの?」
「龍野は希望ヶ峰学園の本校舎…つまり学園から直接スカウトされただろ?」
「…うんまあ……その通りだね」
「だけど俺は希望ヶ峰学園からスカウトはされてねえんだよ。学園に多額の学費を親に払ってもらって入った所謂
希望ヶ峰学園からのスカウトが来なかった俺が憧れの希望ヶ峰に入れる二つの内残された一つの方法である、予備学科として入学しかなかった。希望ヶ峰学園という大きなブランドに釣られた、平々凡々な俺達の親が払ってくれた多額の学費により、予備学科としてだが入学を許される。
有難い事に家が裕福な家庭だった為、両親も俺のこれまでの頑張り等を見てくれていたお陰もありお願いをしたら許可を貰えた。本当に家族には感謝の気持ちで一杯だ…いつか必ず恩返しして親孝行すると固く誓った。
「…そうなんだ……あの、ごめんね」
「何でお前が謝んだよ!別に気にしてねえし予備学科でも在籍中に何かしら実績があれば本校舎に転入出来るって話だし俺はまだ諦めてねえよ!」
「…あ、そうなんだね」
まあ転入出来たって奴は早々居ねえらしいけど、まだ道があるんなら諦めたくはねえ。
「まあ予備学科って言っても一応は希望ヶ峰の生徒なんだし、同じ学年なら会おうと思えば会えるだろ!なんか分かんねえけど龍野とは話しやすいし飯とか一緒に食おうぜ!」
「…え…えっと、僕と?…良いの?」
龍野は戸惑い不安げに言った。何でそんな悲しそうなんだよ?
「良いに決まってんだろ!むしろ龍野の方こそ俺と食ってくれんのかって不安だよ」
「…そ、そんな僕は嬉しいよ!…僕はあまり人と話す事が得意じゃないからさ、でも砂糖君とは話しやすくて仲良くなりたいって…思って…さ」
凄く嬉しい事を言ってくれるが龍野の顔が真っ赤になってんのを見てギョッと驚く。恥ずかしがり屋なんだな龍野の奴は。
そして、これからの学園生活を一層楽しみに思いながら話していると体育館の扉が見えてきた。
「着いたな」
「…うん」
「よっしゃあ早速開けるぞ!」
ワクワクしてくる気持ちを抑えきれずに俺は直ぐ様体育館の扉を手に取り、開け放つ。
「…砂糖君楽しそうだね」
「当たり前だろ!ほら龍野早く入ろうぜ!」
「…うん、行こう!」
俺と龍野はドキドキした気持ちとワクワクした気持ちを抱えながら遂に入学式が始まるであろう体育館へと足を踏み入れた。
ー続くー
ー登場人物ー
【予備学科】
【超高校級の???】
【挿絵表示】
こちらはPicrewの【うちのこハーバリウム】をお借りして作りましたハイパワーダンガンロンパの表紙です。
砂糖の立ち絵はココナラにてちきぼんさん(@geseiaka)にご依頼お願いして描いて頂きました。
龍野のイメージ姿はキャラ作成アプリ、【Oppa Doll】【Unnie Doll】を使い作成しております。