マスターが亡くなった
特異点、異聞帯と、2度も世界を救ったマスターが亡くなった
魔神柱、それを使役する魔神王ゲーティア、異聞帯の王やクリプター、侵略者ORT
数々の強敵との戦闘によってゆっくりと、だが確実にマスターは自分の命を削って戦ってきた
その結果私たちは元居たカルデアで人類白紙化した元凶を下し、再び南極でカルデアを再開することができた
だがそんな嬉しいことを長くは続かず、カルデアを奪還した後、急激にマスターが体調を崩し始めた
人理を救う際にはアンプルを打ち、使命感で戦い続けていたのだろう
戦いが終わり、気が緩むと同時に今まで限界で何とか耐えていたものが、崩壊したのだろうと中国の軍師様が言っていた
初めてその兆候が見られたのは、私シャルロット・コルデーと一緒にいた時だった
二人で通路を歩いている際にマスターが突然口から血を吹き出し、床に崩れ落ちた
私が急いで医務室に連れて行くと、マスターの身体がもうすでにボロボロであることが診断された
詳しい寿命は教えてくれなかったが、あまり永くないことを医神の先生から聞いた
マスターと聞いた私は呆然としてしまった
ショックで身体が思うように動かなく、否定したくても口をパクパクさせるだけでうまく喋れなかった
だがマスターは落ち着いた様子で
「やっぱりそうか」
と言った
まるで分っていたみたいに
みたいにではなく彼はわかっていたのだ
自分の身体がボロボロだということを
長い戦いですでに文字通り命を削って戦っていたことを
そして自分がもうすでに永く生きられないことを
そのことに私が気づくと彼の胸に飛びつきわんわん泣いた
本当に泣きたいのは彼のはずなのに
しかし彼は子供みたいに泣く私の頭を撫でて慰めてくれた
そんな行動に情けなくなってしまいさらに泣いてしまった
次の日、カルデアにいるサーヴァントや職員を集めて自分が永くないことを彼自身から語った
話を聞き、悲しみ泣いてしまう者、慰めようとする者、狼狽して取り乱す者
そんな姿を見て当然だが彼はやっぱり愛されていたんだなぁと思った
中でも彼の一番最初のサーヴァント、マシュは私と同じ様に泣き彼に飛びついていた
自分のことを話した彼はその後亡くなるまで医務室や自室で過ごすことが多くなってきたものの、たくさんのサーヴァントと関わり、自分の最後の時間を過ごしていった
亡くなる際には回りに多くのサーヴァントが集まり、私とマシュはそれぞれ彼の手を繋ぎ話しかけていたが、彼はそんな中で惜しまれながら死んでいった
だんだんと手が冷たくなってくる感触が、なおさら彼がいなくなってしまったという実感を嫌でもさせてくる
それでも認めたくないもので、マシュと二人で何度も彼の名前を呼んだ
当然彼が返事をしてくれることもなく、他のサーヴァントが部屋から出ていく中しばらくの間、声をあげながら泣いた
その後気持ちの整理をする時間もなく、ダヴィンチちゃんから彼の死体を特別な霊安室に運び、1か月後に火葬する旨を伝えられた。
それと同時にサーヴァントの全員には、このままカルデアに残るか否かを伝えられた
つまり1か月の間に彼との別れを済ませ、カルデアの残るか還るか決めろということだ
当たり前だ
人理も修復され、マスターもいない為、カルデアにいる必要はない
魔術協会からは新しいマスターを送ると言っていたが、従うサーヴァントは少ないはずだ
どんなに力が弱くとも、優秀でなくとも、藤丸立香だからと契約して力を貸してきたサーヴァントはたくさんいる
物分かりが良いサーヴァント以外は、もし新しいマスターが素晴らしい性格でも、容易に契約をする方はほとんどいないだろう
それほどに彼はサーヴァントにとって心地よい存在だった
もちろん私もそうだ
彼以外と契約する気など毛頭ない
多くのサーヴァントはカルデアに残らず還るだろう
思った通り20日も経つとクーフーリンオルタさんや新宿のサーヴァントさん達を始めとして多くのサーヴァントが、もう動かない彼に別れを言って還って行った
今残っているサーヴァントは1/3ぐらい残っていて、彼の救った人理を守るという名目でカルデアに力を貸してくれている
私はというと彼のいる霊安室から動けないでいた
別れを言いに来たサーヴァントが来た際には席を外すようにしていたが、それ以外には彼に寄り添い時折話しかけたり、触れたりしていた
話しかけたら返事をしてくれるのではないか?触ったら冷たい彼が動いてくれるのではないか?
そんな淡すぎる期待は何度も何度も崩れていく
始めは何度もここを訪れていたマシュも、今では前を向き奮起しているらしい
驚いたことにランスロットさんもカルデアに残り、マシュのサポートをするらしい
まだどこか二人に距離はあるが時間の問題だろう
そんなマシュの姿を見て自分がとても弱いことを痛感する
私はまだ彼の死を受け止められず、ここにいる
アサシンという命を奪うことに特化したクラスなのに、こうも一つの命に執着していることに皮肉を感じる
そんな私は今日も彼の傍らに座り、話しかける
「マシュもランスロットさんに話しかけようと頑張ってるんですけどやっぱり恥ずかしいらしくて、もじもじしながら話しかけていて、それをダヴィンチちゃんが見守っていてですね……」
そんな何気ない話を彼に話していく
「聞きました?エミヤさん、職員の食生活が不安でカルデアに残ってくれるそうですよ?ムニエルさんなんて泣いて喜んでいて……」
そんな何気ない話を彼に話していく
「ネロさん…なんか…なんとかみんなを…元気にしようとして…他のサーヴァントと…ライブを……」
そんな何気ない話を彼に話していく
「何で死んじゃったんですか…立香さん……」
ついに、我慢できなくなり涙を流してしまう
彼が亡くなってからも毎日泣いていたのに、涙が枯れないなんて不思議だ
「私が傷に…なりたいのに…私に傷を残してどうするんですか……」
それは私の願望なのに
「こんなに強くなっても立香がいないならいらない…、立香の為にお料理もお裁縫もたくさん覚えたんですよ…立香がいなければ…強さもスキルも何もいらないのに…」
私は勝手だ
どうにもならないから、彼のせいにしようとしている
だけどいらないなんて言ってもどれもかれも立夏の為に、身に着けたものだ
生前も今も私は自分勝手だ、そんなのわかっている
しかし私がサーヴァントになったのもそんな自分勝手が原因だ
自分勝手に生き、自分勝手に死に、今自分勝手に彼を責めている
何で置いて行ったの、と
だがどんなに自分を悔いても、彼を責めても立夏が生き返ることはない
何もかもわかっている
私の何もかもを捧げても彼を生き返らせるという願いが叶わないことを
・
・
・
願い…?叶える…?
何を見落としていたのだろうか?
願いを叶えるものならあるじゃないか
私たちの始まりにして最初の目的
聖杯
ある特異点では私と同じく聖女を生き返らそうとしていた
失敗したが、その者は別の側面の聖女を呼び出すことはできた
なら私にもできるはず
彼はサーヴァントではないから聖女よりは簡単なはずだ
さらに私の身には20個の聖杯がある
強さを求め、ひたすらに彼のためにと研鑽した日々は間違っていなかった!
私は自分勝手だ
なら最後までこの命尽きるまで自分勝手に生きてやる!
「さぁ立香いきましょう、私が救ってあげますよ」
霊安室、そこにはもう絶望に濡れる目はなく、希望に満ちた目だけがあった
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「そうして行動に移した私は襲ってくるカルデアに残ったサーヴァントをちぎってはなげ、ちぎってはなげ、ついでに保管庫にあった聖杯も強奪し---」
「いや、ちょっと待って」
そう言って話していたシャルロットコルデーの話を聞いていた藤丸立香が止めた。
「……ていう、夢の話だよね?」
「そうですよ?さっきまで見ていた夢の話ですよ」
「な・ん・で、朝4時に叩き起こされて無駄に細かい夢の話を聞かないといけねえんだ?あ?」
「痛い痛い!ちょっと!?過去の比じゃないくらい痛い!!」
有無を言わさずシャルロットのこめかみを指の関節を使って思いっきりグリグリしてやる。
この女、いきなり寝ている俺の部屋に入ってきて、『起きてください!聞いてください!』と言って無理矢理俺を起こし、今の話をなっがながと聞かせてきやがった。
最初の方は寝起きで大人しく聞いていたが、意識が覚醒するにつれだんだんとイライラしてきた。
ていうかサーヴァントって夢を見ないんじゃなかったっけ?
「すいません…目が覚めたら、すぐにでも話したくなって…」
「だからって普通起こすか?てめぇみてえな2つもでけえコブがあれば、しばらく栄養に困らねえかもしれねえが、人間様は日々の睡眠っていう栄養が大切なんだよ。保管室送りにすんぞこのたわわの化身が」
「ラクダじゃないですかそれ!?あと、セクハラです!!」
「何がセクハラだ!…もぅマジで4時じゃねぇかよ…ほんとだったら、まだあと3時間寝れるぞ…」
「じゃあ眠るまで読み聞かせします!!」
「いや普通に出てってくれればいいけど」
「ほら布団に入ってください!」
コホンッ!
「第2章、カルデアを脱出してからの話。そうして聖杯を奪取したわたしは…」
そうして堂々と夢の話の続きを話始めた彼女に拳骨を思いっきり振り下ろした。
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拳骨を喰らった彼女は夢と同じように泣いて部屋を出て行った。
「もう5時…」
シャルロットとのドタバタですっかり時間がたってしまい、気づいたら起床時間まで2時間を切っていた。
「はぁ少し布団の中で休むか」
半ば睡眠を諦め、布団の中でゆっくりしていると、突然扉が開いて誰か入ってきた。
「…先輩、起きてますか?」
マシュだ。
「……なに?」
「お、起きてたんですか!?」
「うん、色々あってね」
「えっと…聞いてほしい話が…」
「……………………夢の話?」
「流石先輩です!なんでわかったんですか!?」
「お前と同じ奴がいたからだよ」
「あっ(察し)」
その後しかたなく、シャルロットを呼び戻し、午前中は休みにすることを条件に二人の話を聞いた。
FGO作品19作目
某弁当を求める小説をリスペクトした作品ですが、今回は少し重めです
そんな拙き作品ですが宜しくお願いいたします