赤い野良猫は海を行く   作:ペペック

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時系列あやふやですが、とにかく年下達とワチャワチャしているのが見たかったんです。


私のかわいい兄妹達

今回私は後輩達の特別講師として、久々にグワンハオに戻ってきていた。船から降りて島を見渡せば、島の景色に変化はない。

 

(懐かしいな…)

 

あそこの塔は全く変わっていないなと感傷に浸っていると、ガサガサと草を踏みしめる音が遠くから聞こえてくる。

 

「姉さん!」

 

「姉ちゃん!」

 

「ん姉者ぁ! お久しぶりぃ、でございやすっ!!」

 

視線を向ければ案の定、船に気づいたブルーノ達が駆け寄ってきたのだ。

 

「みんな、久しぶりだね」

 

みんなに会うのは二年振りになるけど、だいぶ背が伸びて体格もガッシリしてきている。クマドリは半年中にサイファーポールに来るだろうってヤマンバ子先生も言ってたし、これはそろそろフクロウとブルーノも卒業しそうだな。

 

「風邪引いたりしてない?」

 

「チャパパ、そんなの平気だ!」

 

「ん未来の~~サイファアポォルがぁ! 風邪なんざっ、あ引けられねぇい!」

 

「姉さんこそ、仕事は大丈夫そう?」

 

「大変だけど、まあなんとかやれてるよ」

 

今のところ命は拾えているけれど、精神的に大丈夫かどうかは断言しづらい。でもみんなに心配をかけるわけにはいかないから、培った演技力を駆使して私は笑顔を繕う。

 

「そうそう、最近すごいやつが来たんだぞ」

 

「すごい子?」

 

とここでおしゃべり好きなフクロウが、ここ最近の出来事を教えてくれた。

なんでも最近、平均道力よりもはるかに高い道力を持つ男の子がグアンハオにやってきて、注目を集めているらしい。

 

「さすがにルッチほどじゃないだろうけど、多分ジャブラより強いかもしれないよ」

 

ブルーノも同意するように頷くので、私はぱちくりと目を瞬かせる。

 

(ジャブラより……?)

 

グアンハオにいた頃のジャブラだってかなり高い数値だったはずなのに、そのジャブラを超えて尚且つルッチの次に高い子だなんて。

 

もしかして……

 

 

「あ、ほら。あの長い鼻の男の子だよ」

 

 

ブルーノの視線の先を見れば、ピノキオみたいに長い鼻にパッチリしたまん丸の目をした男の子が、こっちに向けて走ってくるのが見えた。

 

「先生、よろしくなのじゃ!」

 

風のような速さで私達のもとにやってきたその男の子は、幼い見た目に反して老人めいた口調で喋る。

 

 

 

ああ、やっぱりカクだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は特別講師としてCP9の心得や必須スキルなどを教えたり、実際に任務先で起こった笑える話を交えてみんなと距離を縮めていき、簡単な組み手をして実戦において何が重要かを可能な限り伝授していった。

 

 

 

 

その後の休憩時間で、怪我した子の手当てをするために常に持ち歩いている絆創膏が切れてしまったので、予備を取りにちょっと船まで戻ってきた。

 

「……?」

 

船が見えてきたところで近くに人影があるのに気づいた私は、ゆっくりと近寄って様子を伺う。そこにいたのはカクで、彼はジッと船を見つめていた。

 

「なにしてるのかな?」

 

「あ、先生……」

 

声をかけながら歩み寄れば、カクは私に気づいて俯く。その姿にふと私は彼の気持ちを察した。

 

「船が好きなの?」

 

「ふえ!? あ、いやそんな……」

 

否定する口とは裏腹に、カクは恥ずかしそうに視線を泳がせている。そういえばジャブラ達も初めて船を見た時、すごくはしゃいでいたような気がするし、やっぱりカクも子供心に興味があるんだろうな。なんとも微笑ましい限りだ。

 

「乗ってみる?」

 

「い、いいのか!?」

 

「その代わり、大人しくしててね」

 

みんなには内緒だよと人差し指を口元に当てて笑えば、カクは目に見えて嬉しそうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

「わ~! これが世界政府の船なのか!」

 

カクと手を繋いで一緒に船の甲板に踏みいれば、年相応に目をキラキラさせ床やマストをペタペタ触り始める。

 

なんか癒されるなあ……。

 

「カクは船が大好きなんだね」

 

「もちろんじゃ!」

 

ついほっこりしてしまう私の言葉にカクは笑顔で元気に頷く。なんでも彼はここに来る前に、港に来た大きな船に感動して以来、船に夢中になったのだという。

 

「じゃからワシ、本当は船大工になりたかったのじゃ……」

 

そうポツリと呟いた彼は笑顔を引っ込ませ、残念そうに俯いている。

そういえばカクって、本当に船大工の仕事を楽しんでいたんじゃないかってファンの間で噂されてたんだっけ。

 

世界政府に引き取られる前ならばまだ望みはあったかもしれないが、現在のカクは世界政府のお膝元であるグアンハオにいる。

サイファーポールに関する機密情報を漏らさないために、この島で育った子供達は世界政府以外の道には行けない。

ましてやカクは潜在能力が高い。

よほどのことがない限りサイファーポールは彼を手放そうとはしないだろう。

 

「………カクはグアンハオに来たことを、後悔している?」

 

「………」

 

肯定も否定もしないということは、多分カクもわかっているのだろう。私はカクと目線をあわせるようにしゃがみこんで、彼の頭を撫でる。

 

「そう悲観しなくてもいいと思うよ。ここならご飯も食べれるし、暖かいベッドで眠れるから」

 

サイファーポールの仕事は確かに過酷だが、だからと言って政府の加護を受けずに平穏に生きられる保証だってない。

海賊はもちろん、天竜人の理不尽な仕打ちを受けて死ぬことだってこの世界では珍しくない。そういった意味では早い段階で世界政府に引き取られたカクは、まだ運がいいほうなんだろう。

 

「それにもしかしたら、潜入先とかで大工になれるかもしれないよ。その時だけでも楽しんでみたら?」

 

「なるほど……それはいいのう!」

 

その発想はなかったと嬉しそうに笑うカクに、笑顔で返すしかなかった。

 

 

私は、なんて残酷なことを言っているのだろう。

その時の彼は、最悪の形で同僚達と決別しているというのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして私にはCP9全員との縁ができた。

あれから特別講師の仕事を自ら志願してカクとカリファに会いにいけば、二人とも嬉しそうに駆け寄ってくれるほど私に懐いてくれている。

 

「姉者! 抱っこしてほしいのじゃ!」

 

すでに剃をものにしているカクは、誰よりも早く私の元に駆け寄ってくる。そのキラキラした笑顔が眩しくて仕方がなくて実に尊い。

一方の出遅れたカリファは、そんなカクを見てリスのようにほっぺたを膨らませている。

かわいい…。

 

「カクずるい! 私だって姉さんに抱っこしてほしい!」

 

「末っ子の特権じゃ!」

 

いわゆる甘え放題の権利を巡り、チビっ子同士の仁義無き戦いが始まった。といっても、やいやいとほっぺをつねりあうものだけれど。

 

やだ、この子達かわいい……。

 

目の前の微笑ましい光景にキュンキュンするも、当人達にとっては真剣な戦いだ。

なのでこういう時の私の選択も決まっている。

 

「おいで」

 

椅子に座って両手を広げれば、二人はケンカを止めて両膝にそれぞれ乗る。膝が重いけど二人の笑顔を見れば幸せな気持ちになれる。

 

ああ、下衆長官のパワハラで溜まったストレスが癒されていく……

 

と、ふいに視線を感じて振り返れば、ブルーノ達がジッと私達を見つめていることに気づいた。

すでにCP9になったみんなは背も伸びて逞しい体格になり、すっかり大人びてしまっている。

 

「みんなも抱っこする?」

 

「いやいやいやいや! もうそんな子供じゃないから!」

 

冗談混じりにそう聞けば、ブルーノを筆頭に三人とも慌てて首を振る。弟分達の成長が嬉しい反面、距離を感じてしまいちょっと寂しくなってしまう。

 

「それに……」

 

フクロウがチラリと後ろを振り向けば、背後の壁からルッチが無表情でこちらを睨んでいる。殺気……というほどではないが、明らかに不満そうな眼差しの彼はおそらく年下二人が羨ましいのだろう。

 

「ルッチ」

 

しかしこれもある意味いつものことなので、私が笑顔で手招きすれば無言で歩み寄ってくる。

 

「ルッチもまだまだ甘えたがりだね」

 

ふふふと顔をほころばせながらルッチの頭を撫でてあげれば、表情こそ変わらないが喜んでいるのが雰囲気でわかる。

私達の関係に詳しくない同僚達から「よくあんな無愛想なガキに話しかけられるな」って度々驚かれていたが、ルッチって慣れない人には分かりにくいだけで普通に喜怒哀楽があると思う。

 

 

「おいおい、相変わらずガキにモテてんな」

 

 

そこへジャブラが割って入るようにルッチの頭を鷲掴み、無理矢理私から遠ざけてしまう。

ちょっと、いくらなんでも大人げないよ。

 

(……今夜部屋行っていいか?)

 

そして私だけに聞こえるように耳元で囁く内容は大人向けで、私はまだ幼い二人に聞こえないように素早く耳を塞いであげた。

 

「セクハラだよ」

 

私が真顔で注意してもジャブラはニヤニヤと笑うだ。

ドヤ顔でルッチに視線をやれば、その一瞬だけルッチの目からハイライトが消えた気がする。もしジャブラが身内じゃなかったら多分瞬きの間に殺されていたかもしれない。

 

 

 

 

「チャパパ~、ジャブラも一皮剥けたもんだ。付き合いたての頃は手を握るのも一苦労だったのに」

 

「んジャブラも~、ぁいつまでもガキじゃっ、いられないわけでさあ!」

 

「いや、あれは単に調子に乗っているだけだと思う」

 

「聞こえてるぞてめえら!?」

 

 

 

そんなやり取りを遠巻きに眺めていたブルーノ達はひそひそと話しているものの内容は丸聞こえで、キレたジャブラが三人を追いかけ回すのだった。

 

 

 

 

 

 

「姉者~、みんな何の話をしておるのじゃ?」

 

「カクは知らなくてもいいことだよ」

 

本当に知らなくていいよ、二人ともまだ綺麗なままでいてちょうだい。

そう心の中で祈りつつ潜入捜査で使う作り笑いを保ち、二人の頭を優しく撫でる。

 

 

こんなやり取りが、いつしか当たり前になっていた。

ここが暗殺者の総本山なのかわからなくなるほど、随分と穏やかな時間を過ごした気がする。

あと数年もすれば、二人も正式にここへ来るだろう。

 

でも……

 

(お願い、まだこっちに来ないで)

 

そんな日が、来ないことを切に願ってしまう。

せめて二人だけでも、汚い世界を知らずに幸せになってほしいと願ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の日まで、あと三年。




フーちゃん:まさかCP9組全員と仲良くなるとは思わなかったな……。Xデーまであと三年だけど、出来ればみんなとずっと一緒にいたいな…。

ジャブラ:童貞期間を乗り越えて、やっと余裕が出来る。でも肝心のフーちゃんは『色々と都合がいいから付き合ってくれているんだろうな』と思われていて、ジャブラがガチであると気づいていない。

ルッチ:すでに殺戮兵器の才能を開花させているが、お姉ちゃんの前では猫を被っている。

カリファ:最近末っ子ポジションの男の子が現れてしまったので、仁義なき戦いを繰り広げる妹。

カク:末っ子の特権を遺憾なく発揮する恐ろしい子。

ブルーノ・フクロウ・クマドリ:ジャブラが必死に外堀を埋めようするのをからかったり蔑んだり、ルッチの嫉妬がこちらに向くことを恐れながら日々を穏やかに過ごす。
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