赤い野良猫は海を行く   作:ペペック

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大事なことに気づくのは、いつだってなにもかも手遅れな時だ。


「何か」が欠けた日

エニエスロビーの訓練場で身体を動かしながら、一人ジャブラは考える。

なぜ自分は、彼女に拒絶されたのかを。

 

久しぶりのデートで突如別れ話を告げられてからは何もする気が起きず、無気力なまま日常を送っていたジャブラだったが、そんな彼を見かねたのかブルーノ達がそれとなくアドバイスをしてくれた。

 

 

『姉さんは、待っているんじゃないかな』

 

 

たったそれだけ。

彼らはそれ以外何も言わなかったが、ジャブラは一人何度も考えに考えぬいた末に結論を見いだした。

 

 

 

もしかしたら彼女は、自分にチャンスを与えてくれているのだろうか、と。

 

 

まだ子供だった自分は、日ごと自分以外のやつらと仲良くなっていく彼女を引き留めたい一心で、交際を迫ってしまった。

特に嫌がる素振りこそ見せなかったが、面倒見が良いあいつは単に身内である自分を邪険に扱えなかっただけかもしれない。

約束の1年が経っても側にいてくれたことから、調子に乗ってしまったのかもしれない。

一体彼女は本心では、どんな気持ちで自分を受け入れてくれたのだろうか。

いやそもそもな話、自分が彼女を本心から愛しているというのを理解されていないのではないだろうか。

思えば……自分から明確に愛を伝えたこともない気がする。

もしかしたら彼女にとって自分との関係は、セフレの延長でしかないのかもしれない。

 

(………これじゃ身体目当てみたいじゃないかよ)

 

改めて考えると、己のダメダメな部分を嫌でも理解せざるを得なくなる。

 

 

これではダメだ。まず自分から変わっていかなければならない。

だから今度こそ、真っ向からハッキリと伝えるんだ。

自分は、彼女のことが好きなんだと。

 

「……よし!」

 

一汗流したおかげか気分が晴れたジャブラは、気持ちを切り替えるように訓練場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま会議室に戻っていくと、すでに同僚達が何人か集まっていた。

 

 

「っ……! ……!!」

 

 

しかし何やら騒いでおり、様子がおかしいことにジャブラは気づく。どうやら彼らは電々虫で誰かと会話しているようだが、ジャブラがいる位置からでは声が途切れ途切れになってしまい、内容が上手く聞き取れない。

 

「嘘だ! そんなわけ…!」

 

さらにはあのルッチまでもが、必死の形相で上司に掴みかかっている始末である。

 

一体なにごとだ?

 

遠巻きに眺めていると、ふと騒ぐ彼らの中からブルーノがこちらに気づき慌てて駆け寄ってきた。

 

「ジャブラぁ!!」

 

悲痛な叫びと共に迫ってくる彼は、その勢いのままジャブラの肩を掴み涙を流して震えている。

 

「お、おい落ち着けって。一体どうしたんだ?」

 

ひとまずブルーノの背中をさすって宥めるジャブラは戸惑いを隠せない。

普段冷静なこいつでさえこのザマなど、どんな緊急事態が起こったというのだ。

 

ブルーノは必死に言葉を選んでいるのか嗚咽を漏らしながら俯いていたが、バッと顔を上げてジャブラにこう伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さんがっ………姉さんが! ()()()()()()()!!」

 

 

言葉はあまりにも短かった。

しかしそれはジャブラの頭を真っ白にさせるほどの衝撃を与え、同時にルッチ達の動揺の理由としてはこれ以上ないほどに納得のいくものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ジャブラの中で何かが音を立てて砕けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………わかりました。では引き継ぎに関してはこちらで処理いたします」

 

電伝虫を切り、背もたれに体重をかけてため息をつく。ちらりとテーブルに置かれた写真立てに視線を向ければ、幼い自分とジャブラ、そして彼女が写っている。

 

彼女とはグアンハオ時代から一緒に学んだ同期であり、当時数少ない女子であった。

 

(………そう、死んだのね)

 

別に特別なことではない。

CP9に属する者であれば、よくあるありふれた出来事。

 

ただ……彼女はその中でも、ステューシーから見てやや異質と言える存在だった。

年の割りに大人びた雰囲気は、本当に同年代かと疑うほど落ち着いていて……かと思えばどれだけ暗殺任務を重ねても、擦りきれない人間性は常に罪悪感として彼女自身を苦しめる。

さっさと割り切れるようになってしまえばいいのにと、ステューシーが呆れながら呟いたことが一度だけあったけれど、それでも彼女は今にも泣き出しそうな悲痛な笑顔で首を振った。

 

『わかっているよ、私の考えが甘いってことくらいは。それでも……「しょうがなかった」とか、「運が悪かった」とか、そんな言葉で自分の罪をなかったことにはしたくないよ』

 

忘れないことが……罪を背負って生きることが、せめてもの責任なのだと彼女は決まって言う。

 

綺麗事だ、などと思ったことも幾度もあった。

 

しかしそんな彼女だからなのか、幼少期から面倒を見てもらっていた年下達からは姉さん姉さんと慕われていた。かくいう私もあの子のそばにいる時だけは、普通の人間でいられるような気になれた。

 

(………もう、あの笑顔を見れないのね)

 

エニエス・ロビーの太陽みたいな目映い輝きではなく、例えるならば暖炉の炎のような温もり。

 

 

 

「………?」

 

ツキリと何かが胸を締め付ける感覚にステューシーは少しだけ戸惑うも、これから始まる仕事に向き合うべく胸の奥に空いたなにかをすぐ忘れるのだった。

 

 

 




はたしてジャブラくんはどうなったかな?
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