赤い野良猫は海を行く   作:ペペック

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赤髪海賊団ともなると、やっぱりこの娘とも絡ませたくてやらかしました。


少女とネコ

「〜〜〜♪ 〜♪」

 

となる小さな港にて、漣をBGMにしながら一人の少女が木箱に腰掛けて上機嫌に歌っていた。

少女……ウタにとってこの時間はシャンクス達の荷運びを待つだけのものだが、大好きな歌を好きなだけ歌えるので気に入っている。

 

 

 

 

「ウタ〜! そろそろ出るぞ!」

 

そこへ荷運びを終えたであろうシャンクス達が呼ぶ声に、ウタは振り返って手を振る。

 

 

 

 

 

「はーい! ………じゃあ行こう、()()()()()()

 

そしてウタは傍らで丸くなっていた大きな毛玉に語りかけると、毛玉はもぞもぞと動いて頭をだした。

 

「みゃう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのあとシャンクスの船に無事潜入できた私は、まず服を海に捨ててから猫の姿に化けて船内を探索した。

赤髪海賊団のメンバーに鉢合わせしないように、見聞色で周囲を探知しつつ自分自身の心を隠す。言葉で言うだけなら容易いが、赤髪海賊団という強豪に対し常に神経を張り詰めながら彼らの住処を彷徨うのは、正直生きた心地がしない。

ならばなぜ散策するかというと、ネコネコの嗅覚を頼りに成人男性の中に混じった()()()()を辿るためだ。

 

人の気配がすれば、隙間や空き樽に隠れてその場をやり過ごす。緊張感からか早打ちする心臓が苦しくて仕方がない。それでも懸命に探していけばようやく目当てと思われる扉を発見した。普通なら猫の体格では開けられないからと一旦人間に戻るだろうが、私にそんな必要はない。軽くジャンプしてノブにぶら下がれば重みでノブが回って扉が開き、開いた隙間からスルリと中に入る。

子供らしいオモチャが並べられたそこは、見ただけで子供部屋とわかる。

 

やった、当たりだ。

 

キョロキョロと辺りを見渡せば、ベッドの上でスヤスヤと眠る女の子がいる。

ワンピにわかの私でもよく知っている子。

 

 

 

 

 

 

 

まだ幼い歌姫ウタが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

将を射るならばまず馬を射よ。

赤髪海賊団の可愛い娘であるウタを味方に付ければ、シャンクス達から見逃されるかもしれないと睨んだ私は、彼女を探していたわけである。

 

 

「んう……」

 

おっと、どうやら彼女の枕元にピョンと飛び乗った僅かな刺激で、ウタが目を覚ましたようだ。

 

「あれ……猫?」

 

どこから入ってきたんだろうと眠い目を擦りながら起き上がるウタに、私はまずお腹を見せて甘えてみる。

どうだ、人間としてのプライドを投げ捨てたこの完璧なるにゃんこムーヴは。

 

ウタは目を瞬かせ、恐る恐るお腹に触ってみる。

 

 

「ふわあ〜、もふもふ〜」

 

モンスター以外の動物と触れ合う機会などなかなかないのだろう。ウタは私を抱きしめて毛並みを堪能したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その甲斐あってか、私は早くもウタに気に入られた。

シャンクス達はいつの間にか船に乗り込んでいた野良猫を訝しんではいたが、娘が喜んでいるのを無理やり取り上げるのもかわいそうと思ったのか、ジッと見つめるだけで特に何もしなかった。

 

 

 

 

 

 

野良猫はいく先々で、色んな名で呼ばれる。

だから、ここでの私の名は『にゃーちゃん』だ。

 

 

 

 

 

船に向けて駆け出すウタの横を並走するように、私も四つ足で地面を蹴って小走りで駆ける。

 

 

 

「うわ〜ん、お姉ちゃ〜ん!」

 

ふと途中で視界の端に子さな男の子が泣いている姿を見つけ、ウタと私は思わず立ち止まる。

膝から血が滲んでいるのを見るに転んだのだろう。

 

「大丈夫?」

 

そこへ男の子の姉と思われる少女が歩み寄ってきて、ハンカチを差し出して涙を拭う。

 

早く帰ろうねと優しく語りかける少女はぐずる男の子と手を繋ぎ、仲良くならんで歩いていく。

 

「………」

 

私は黙ってその後ろ姿を眺める。

ありきたりな、だけどこの世界では眩しいほどの、穏やかな風景。

二人のその姿が、子供の頃の風景をいやでも思い出させるのだった。

 

 

(…………そうか)

 

 

私はもう、みんなに会えないんだ。

あの日からすでに時間は経っているはずなのに、今さらのようにその事実を痛感する。

 

 

 

 

 

 

『俺と付き合え!』

 

 

 

次いで思い出すのは、ジャブラからまさかの交際を迫られたあの日。あの時は自分の気持ちがよくわからず、流されるように受け入れたけど……。

 

 

ああでも、なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私も、ジャブラのことが好きだったんだ)

 

 

 

 

 

 

時間差で実感する感情に、乾いた笑いを抑える。

 

 

「にゃーちゃん?」

 

それでも目からはポロポロと涙が溢れてきて止まらない。

まだ幼いウタが今の私の姿に何を感じたのかはわからない。ただ彼女は慰めるように、黙って私を抱き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見張り以外の船員が寝静まった頃、ウタの部屋をコッソリ抜け出した私は周囲を警戒しながら暗い廊下を進む。

目指すは風呂場だ。

 

あの日から猫として生きると決めたとはいえ、こう何日も身体を洗わないとやはり気になってしょうがない。やっぱり女子としては最低限清潔でありたいのだ。

 

風呂場の扉にたどり着き、獣化を解いて久々に人間の姿になってシャワールームに入った。

物音を立てないよう気をつけながら、石鹸で軽く泡を立て身体を包む。ある程度擦りつけてからシャワーのスイッチを捻ると、ノズルから温かい水が流れて肌を伝っていく。

 

心地よい温度に私は思わず深く息を吐いた。

 

(あ~、やっぱりシャワー浴びるだけでも違うなぁ)

 

身体の汚れだけでなく心も洗われるような気分だ。

 

 

 

 

 

 

が、

 

 

 

 

 

 

 

「誰かいるの~?」

 

可愛らしい声とともに、ガチャリとシャワールームの扉が開かれた。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

扉を開けたのはウタだった。

どうやら私は久々のシャワーに気が緩んでしまい、見聞色が疎かになっていたらしくウタの接近に気づけなかった。

そして驚いたのはウタも同じだ。

 

「え……誰…?」

 

明らかに赤髪海賊団のメンバーじゃない見知らぬ女に唖然としているウタに、互いに無言のまま……気まずさと焦りから時が止まったように硬直する。

 

 

 

 

 

 

「ウタ、どうしたんだ?」

 

 

 

そしてその空気を壊すように、今度は違う声がウタの後方から近づいてくる。

 

「!?」

 

この声はルゥだ。

まずい、今見つかったら今までの苦労が水の泡になってしまう。

私は咄嗟に爪だけを獣化して飛び上がり、天井に張り付いた。ウタも慌ててシャワールームの扉を閉めてルゥが入らないようにしてくれる。

 

髪から滴り落ちる水の音で気付かれないかと冷や冷やする私は息を殺し、扉越しに成り行きを見守る。

 

 

「なにやってんだ」

 

「えっと、あの………なんでもないよ! 顔洗いに来ただけ」

 

 

どうやらウタは私のことを誤魔化してくれるらしく、声色だけでも笑顔でルゥと対面しているとわかる。これはなんともありがたい。

 

「そうか?」

 

怪訝そうにしながらもルゥは風呂場を後にし、彼の足音が聞こえなくなったのを確認してから私はふわりと床に下りる。

同時にウタが扉を開けて再びシャワールームに入ってきた。

 

 

「………」

 

 

またお互いの間を気まずい沈黙が包む。

ひとまず私のことを話さずにいてくれたけれど、この状況をどう説明したものだろう……。

悩む私をよそに、まず口を開いたのはウタだった。

 

 

「お姉さん……もしかしてにゃーちゃん?」

 

 

「!?」

 

まさかの一言に心臓が止まるかと思った。

 

「な、なんでそう思うの?」

 

どう考えても猫の時と人間の時とでは容姿が違う。

なのになぜ、この子は私がにゃーちゃんだと見破った!?

 

「目元が似てるもん」

 

「…………」

 

目元………そんなに似てるかな?

むしろ前髪のせいで目立たないと思うんだけど。

いやそれよりも、今はウタに正体を他言しないよう頼まなくてはならない。

 

「お願い………このことは誰にも言わないで!」

 

私は必死に土下座してウタに頼みこむ。

 

「…………」

 

ウタは腕を組んでうんうん唸るっていたけれど、私の想いが伝わったのか笑顔で頷いてくれたのだった。

 

「わかった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………んで、なんでこうなってるんだろう。)

 

 

とまあ少し前のことを回想して黄昏る私は、現在進行形でウタに抱きしめられていた。

ウタはニコニコと幸せそうに私の毛並みを堪能していて、私は嫌がるのもあれなのでされるがままになっている。というかもし今ウタに見限られたら私はおしまいなので、可能な限り媚びるようにしなければならない。

それにいざ赤髪海賊団のメンバーに怪しまれたときに、ウタが私の誤魔化しをしてくれるようになったのでだいぶ気が楽になったと思う。

 

「でも、なんでにゃーちゃんはネコのまんまなの?」

 

だけどそんな無邪気な疑問にだけは答えられない。

 

「色々事情があるのよ……」

 

ついお茶を濁せば、ウタは「ふ〜ん」と呟いて私の背中に顔を埋める。

………どこの世界でもネコを吸う人はいるんだなと、他人事のように考えているとふいに鼻先に冷たい感触が乗る。ウタもそれを感じたらしく空を見上げれば、灰色の空からチラホラと雪が降り注いでくる。

どうやら船は冬島に近づいているようだ。

私は正体がバレないよう周囲を警戒してばかりだから、目的地を調べる余裕なんてなかった。

 

 

「お〜い、そろそろ目的地に着くぞ」

 

 

シャンクスの呼びかけを耳にし、私達は一度船内に引っ込むことにした。

ただでさえこの能力になってから寒いのが苦手になっつしまったというのに、雪に晒されるのは辛抱ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、どうか次の島では何事もなく終わりますように。

 

 

 

 

そう切に祈るしか私にはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人、それをフラグという。
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