ウタのペットとしての地位にしがみつく私は、現在冬島のとある港町に寄っていた。
シャンクス達が物資を調達している間、暇を持て余したウタは暖かそうな服を着て真っ白な雪にはしゃいでいる。
「にゃーちゃん! こっちこっちー!」
私に手を振るウタを追いかけるけれど、その足取りはおぼつかない。
(寒い……)
毛皮があるとはいえ、肉球が冷たくて仕方がない。
それに毛に雪がくっつくことで毛が重くなって動きにくくなるし、毛が濡れて体温を奪われてしまう。
それでも必死にウタを追いかけていけば、ウタは何かを見つけたらしくその場で立ち止まっていた。
そこは廃教会だった。
そこそこ大きいけれど建物のところどころが汚れたり、ガラスが割れて中が吹き抜けになっている。
「うわあ……なんかワクワクするね!」
ウタは廃墟独特の雰囲気に好奇心を刺激されたのか、キラキラした目で周りを観察していく。
………そういえばこの世界の教会って、何を奉っているんだろう?
少なくとも太陽の神ニカじゃないはず……ないよね?
「?」
ふと、廃教会を一周して最初の場所に戻ってくると、ウタが裏手から見知らぬ足跡が二人分伸びていることに気付いた。
さっき見た時はこんな足跡なかったはず。
足の大きさから見て大人と子供のものだ。
ウタと一緒に辿っていくと、足跡の先は草むらに向かっている。
こっちから向こうに行ったのかなと思っていると、
ガサガサ
草むらから音がして、私達の視線がそっちに集まる。
ズテン!!
「!?」
そこから誰かが飛び出してきて、ウタと私は思わず飛び上がった。
「っ〜! やべえ、ドジった!!」
現れた人影は雪で滑ったのかお尻を擦りながら痛がっていて、その人の顔を見て私は目を見開いてしまう。
黒い羽のコートに、ピエロみたいな派手なメイクをした
大柄な男の人。
彼が片腕に抱き抱えているのは、雪のように白い肌の少年。
「………白鉛病」
ウタが思わず呟くと、少年が私達を睨む。
まさかこの子は……というかこの二人は……!
(コラさんとロー……!?)
にわかの私でも知ってるくらい、『ONE PIECE』では有名なキャラクターだった。
(どうしてここに!?)
私の動揺は一瞬だった。
そこへ先ほどから発動させていた見聞色が、近づいてくる人間の気配を察知してしまったから。
「どうしたウタ?」
「!」
まずい、ルゥとヤソップが来る。
白鉛病の子供なんて見つかったら、いくら温厚な二人でもなにをするかわかったもんじゃない。
どこか隠れられるところは……。
必死に辺りを見渡すと、教会裏の古びた物置小屋が目に入った。
「と、取り敢えずこっちに!」
「「!?」」
慌てた私はつい二人の前で喋ってしまうが、ウタも反射的にコラさんの袖を引っ張って誘導してくれる。
私は少しだけ変化の波長を変えて体長を伸ばし、二足歩行かつ前脚を人間の手に近い形にし、急いで小屋の扉を開けて二人を中に押し込んだ。
(!)
しかし辺りを見渡して小屋の前の足跡に気づく。
ウタと私だけじゃない、二人の足跡がハッキリと残っていた。だめだ、これだと誰か来たことがバレる。
(月歩!)
私は咄嗟に廃墟の屋根に飛び上がり、積もった雪を軽く蹴って下に落としていく。次いで剃の高速移動で落ちた雪を広げて、コラさん達の足跡を隠した。
「ウタ、なにかあったのか?」
ヤソップとルゥが壁の向こうから顔を覗かせる。
ちょうど全部隠し終わったところでギリギリ間に合った。
「え、えっと……屋根から雪が落ちてきちゃったから、びっくりしちゃって」
ウタも尻餅をついたように見せかけてなんとか取り繕ってくれた。
「そうか、怪我がなくて何よりだ」
「にゃーちゃんが一緒だからって羽目外すなよ」
「は〜い」
二人が顔を引っ込めるのを見届け、見聞色で遠くに行ったことを確認してから、私達はようやく胸を撫で下ろすのだった。
改めて物置小屋に振り返り、隙間を開けて声をかける。
「もう大丈夫だよ」
「あ………ありがとう」
コラさんは戸惑ってはいたけれどお礼を言ってくれて、ローは警戒心むき出しで私達を睨みつける。
私がローに歩み寄って手の甲に触れると、ビクリと震えて振り払おうとするので優しく声をかける。
「伝染病じゃないのは知っているよ」
私の反応が意外だったのか、二人は目を見開いて互いに顔を見合わせるのだった。
以降出航予定日まで私とウタは、買い物の合間を縫って二人に食事を与えにいった。ローにパンを差し出せば、彼は渋々といった顔で受けとる。
そういえばローってパンは好きじゃないって言ってたっけ。でもこんな状況のせいか普通に食べているな。
「そうか、君は能力者なのか」
「はい……どうか内緒にしててください」
私の本当の姿は人間であること、今は諸事情あって猫の振りをしていること、ウタ以外には正体が知られていないことを核心に触れない範囲で説明し、私がコラさんに能力者であると明かせば彼は納得したように頷いた。
一方のローは未だに私が信用できないのか、コラさんの後ろから睨んでいる。
(………大分肌が白くなっている)
原作の時系列はいまいち覚えていないけれど、私の記憶が確かなら彼は……コラさんはもうじき死ぬはず。
(そうか……この子はあと半年で、彼と永遠にお別れするんだ)
まだ幼いながら一人置いていかれるだろう少年に、今は遠くにいる弟達を思い出す。
私達は、もしかしたら再会できるかもしれない。
でもこの子は……
おもむろに私は、コラさんの片手にそっと手を置く。
「なに?」
「長生きできるおまじないです」
私がそう言えば、コラさんはきょとんとしていたけれど柔らかく笑ってくれた。
「ははは、君は優しいんだな」
そして……いよいよ明日には出航することが決まった。
私はウタが寝静まったのを見届けてから、夜中こっそり船を抜け出して二人のところに向かう。
物置の扉を少しだけ開けて、隙間から二人の様子を確認してみるとコラさんはぐっすり眠っていた。
対するローは物音に気づいて目が覚めたようで、私はスルリと隙間から中に入る。
「ごめんね、起こしちゃったかな」
「………何の用だ」
相変わらず彼は、警戒心剥き出しで私を睨んでいる。
「私達ね、明日この島を出るの。だからお別れを言いに来たんだ」
「そうかよ」
だからなんだとぶっきらぼうに顔を反らすローに、私は意を決した。
「ちょっとごめんね」
「?」
久しぶりに人獣形態になるけど、寒いので毛並みは気持ち増量にしておこう。
「な!?」
姿が変わった私に身構える彼を、私はギュッと抱きしめる。
「いい? 一度しか言わないからよく聞いて」
何すんだと藻掻くローに構わず私は耳元で囁く。
「これから君は、辛くて苦しい道を歩くことになると思う。でもきっと、いつか太陽が君を照らしてくれるよ。だからどうか諦めないで」
言うだけ言った私はローを離して猫に戻る。彼は私の言葉を理解したのかわからないけれど、呆然とした目で私を見ていた。
「………さようなら」
私は最後に微笑んで、扉の隙間から外に出ていった。
翌日。
目が覚めたローはコラソンを起こすと港に行きたいと頼んだ。彼の少し急いた様子から、あの二人を見送りたいのだと察したコラソンはそれを承諾し、周囲を警戒しながら見晴らしのいい場所を探し当てた。
「………コラさん」
「なんだロー」
小さくなっていく船を眺めながら、ローはコラソンの手を握る。
「あのガキと猫、俺を怖がらなかった」
ローの顔は俯いていて見えないが、コラソンは彼が何を思っているのかを察して優しく微笑む。
「………そうだな、凄く優しい子達だ」
あの夜の抱きしめられた温もりが、ローには酷く懐かしく思えた。
(………母様)
私は離れていく島を見えなくなるまでずっと眺めていた。今頃二人は次の目的地に向かったのだろうか。
「にゃーちゃん、ご飯だよ〜!」
だけどウタに呼ばれてしまったので、ひとまず気持ちを切り替えて船内に入ることにする。
うまくいくかはわからない。
あるいは運命に負けるかもしれない。
それでも、できれば笑顔で再会したほうが……いいよね。
コラさんがどうなるかはまだ未定です。