さて思い立ったはいいが、まずどうやって26歳の破滅イベントを回避するかを模索する必要がある。
一番手っ取り早そうなのはゴムゴムの実の護送任務を受けないことだが、世界政府………引いては五老星直々の命令をいちCP9が断るのは難しそうである。下手に逆らったらどんな目に会うかなど、天竜人の横暴を見れば明らかだ。
となるとシャンクスと交戦する場合の備えをしたほうが無難そうだが、どう行動するべきか………。
小船に乗って一足先に逃げる?
いや、それだと敵前逃亡したことが明白だし、脱走してすぐ指名手配されるのは色々と面倒くさそうである。それに事件当時は嵐のはずなので、小舟なんて瞬く間に海の藻屑間違いなし。となるとまずは自分の死を偽装したほうがいいだろう。
ではシャンクスの船についていく?
しかしCP9の……それもついさっきまでゴムゴムの実をかけて戦っていたエージェントを、彼らが安易に船に乗せるはずがない。しつこく奪還に来たと思われ海に放り投げられたら、投獄する間もなく終わりだ。
となるとシャンクス達に気づかれることなく船に忍び込み、侵入しても私だとバレずにすむ方法………。
そんな美味い話があるだろうかといろいろと考えに考えた末、ふと思い出したのがチョッパーのランブルボールだった。
確かアレは変化の波長を歪めて動物系の基本である三形態とは別の形態になれると言っていたはず。さらにチョッパーは二年後、鍛練によってランブルボールなしで変化できるようになっていた。
私の悪魔の実のモデルはサーベルタイガー。巨大な猫科猛獣になれる能力であるが、その能力をコントロールできるようになれば、応用して逆に小さな身体になることはできないだろうか?
そうすれば積み荷に紛れ込んだ野良猫の振りをして、船に隠れ住むことができるかもしれない。
まだネコネコの実を食べていないから出来るかどうかはわからないし鍛練のしようもないが、確かベガパンクによれば悪魔の実の能力とは人間の理想を具現化したものだと言っていた。
トリケラトプスの襟が回転したり、キリンの首と手足が伸び縮みしたりするくらいだし、私も「サーベルタイガーはそんなことができる」と思い込めばできるようになるかもしれない。
だったら今から予行演習をしておいてもいいかもしれないと考えるも、作中では肝心の修行方法は描写されていなかった。しかしそれに代わる修行方法について、私には一つだけ
修行するにはもってこいな晴れた日、私はグアンハオの訓練場に隣接する川を辿り上流に向かっていた。苔むした岩を飛び越え、生い茂る木々の間を進み、やがて大きな滝がある広い空間に出た。
崖の上からザアザアと勢いよく降り注ぎ、滝壺からはねる冷たい水しぶきが肌を撫でて精神をリラックスさせる。その下で滝行をしている少年の姿を確認し、滝壺の周囲を見渡せば近くの岩場から胡座をかいている一人の大人を見つける。
(よかった、今日も来てた)
目当ての人物の姿を確認した私は、声をかけるべく岩肌を難なくよじ登っていく。
「ヤマンバ子先生!」
「まァ~た来たのかい!? この、ぁお転婆が~!」
歌舞伎めいた口調で見栄を切るのは、傾いた格好の中年女性。
この方はクマドリヤマンバ子さん。クマドリのお母さんで若い頃はCP9で活躍していた殺し屋だ。
クマドリに母親がいることは彼の設定記事で知ってはいたが、どんな性格かまでは知らない。しかし口調とか顔とか仕草は間違いなくクマドリの血筋であるとわかる。現在は一線から退き、後釜である息子に生命帰還の稽古をつけている最中だと聞いている。
「クマドリ~!」
岩場から手を振って少年の名前を呼べば、寒さから震えていた彼は私の姿を認識した途端に嬉しそうに手を振り返してくれた。
そう、私が悪魔の実のコントロール方法として目をつけたのは、クマドリの生命帰還だ。
熟練すれば内臓や髪の毛さえ自在に操れるというこの能力を応用すれば、自身の体格を変えられないかと私は考えたのである。
幸いクマドリはすでにグアンハオで修行していたため、彼を経由してヤマンバ子先生にお目通りができた。彼女は私の弟子入りを最初は渋っていたものの、しつこいくらい土下座した甲斐があってご教示を頂けることになったのである。
というわけで現在は六式習得の片手間、生命帰還も修行している最中だ。
とは言え修行は厳しい。
内容は主に座禅を組んで精神統一し、自身の体内の神経を研ぎ澄ませて肉体の感覚を掴むといった感じだが、これがなかなか難しいのだ。
座禅の最中にたまに居眠りしてしまい、ヤマンバ子先生に警策で頭を叩かれることもしばしばである。実の息子相手でも容赦しないあたり、さすがはサイファーポールの元エージェントだ。
まあ自分も一朝一夕で習得できるとは思っていない。クマドリだって山奥で修行してあの域に達したくらいだもの、こればかりは地道に研鑽あるのみだ。
そうやって一緒に修行していると、必然的にクマドリと仲良くなっていった。私のほうが二つ年上だからか、現在ではクマドリから姉者と呼ばれ慕われている。
「あねじゃ~~! いたいでございやす~~!」
「はいはい、次がんばろ?」
今日も大きなタンコブをこさえてお~んおんおんと
泣きつくクマドリを、優しく抱きしめてヨシヨシと頭を撫でてあげる。口調等はすでに本編の歌舞伎キャラになってはいるが、こうして見るとまだ子供なんだな………。
「クマドリ、教官が呼んで……あ」
とここで茂みの向こうからジャブラが現れた。
彼の後ろからはブルーノも顔を覗かせている。
「なんだよお前、またクマドリと修行かよ」
「まあね」
呆れたように腕を組むジャブラに苦笑で返す。
「あねじゃはじつにぃ~! あ努力家でぇ~ございやす! こいつはあっしもォ、ぁ負けちゃあ、ならねえ!」
「なにが姉者だよ、お前ら二個しか年離れてないだ狼牙」
「あねじゃにはぁ~! おっかさんにはないっ、ぬくもりと~優しさがァありやす! どうしてもぉ、あねじゃには甘えたくぅ、なっちまいやすので!」
「なんだそりゃ」
………まあ実際中身は享年27歳の成人女性だったからね。私の前世は一人っ子だったから、正直兄弟というものに憧れていたのでつい世話を焼きたくなってしまう。孤児院にいた頃も率先して年下の子の面倒を見てたから、同世代のジャブラ達から見れば私は年のわりに大人びて見えるのだろう。教官達もあまり子供らしくないとヒソヒソ話をしているが、まだここにはいないルッチよりは正直マシだと思う。
「姉さん、六式と生命帰還だけじゃなくて覇気も学びたいって言ってたけど、そんなにたくさん修行して大丈夫なの?」
ブルーノが言う通り、現在の私のスケジュールを考慮するに、まだ10にも満たない子供には過酷な修行内容である。その内身体を壊すんじゃないかと心配なのだろう。無論私もペース配分を考えて修行しているつもりだが、知らず知らずの間に彼を不安にさせてしまっていたらしい。
「大丈夫だよブルーノ、心配かけてごめんね」
謝罪しながらブルーノの頭を撫でてあげれば、彼は照れくさそうにしながらも破願する。まあどのみち覇気を教わるのはもっと成長してからになるだろうし、今後はもうちょっとスケジュールに余裕を持たせたほうがいいかもしれない。
「別に六式だけでも極めれば十分じゃないのか?」
納得できないという面持ちのジャブラにゆるく首を振る。
「………まだ足りないよ」
そう、こんなものじゃ全然だ。世界政府の手から離れ、一人で新世界を生き抜くにはまだまだ足りない。唇を引き結び自身の両手を眺める私に、ジャブラは少しだけ目を伏せる。
「………しゃあねえな、俺もやってやる!」
私の熱意から競争心に火が点いたらしく、自身を鼓舞するように声を張り上げる。
「あっしもォ、日々精進でございやす!」
「ぼ、僕もがんばるよ」
「………ありがとう」
言外に一緒に頑張ろうと言ってくれる友人達にふっと柔らかな笑みを浮かべる。
私は原作でのフーズ・フーが、彼らとどんな関係だったのかは知らない。
ただ少なくとも、私は彼らのことを大切な友人達だと思っている。
だから………できればまだ彼らと、一緒にいられたらいいなと思う。
クマドリのセリフ難しい…