赤い野良猫は海を行く   作:ペペック

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ささやかながら育ちはじめております。
なにが、とは言いませんが


天才猫がやってきた

月日が流れ、15歳を迎えた頃。

近々私達のクラスに潜在能力の高さから、飛び級でとある訓練生が入ることになると教官から通達があった。おそらく………いや間違いなくルッチのことだろうと私は確信していた。

彼は私達より一回りも年下でありながらジャブラと同期だったと原作でも言われていたし、そんな中での年下の編入など彼しか考えられない。

 

 

そして自己紹介の日。

黒いシルクハットを被り、正義の文字が書かれたTシャツを着て、肩には白い鳩を乗せた、随分無表情な男の子を教官は連れてきたわけである。

 

(やっぱりルッチだ………)

 

私はある程度予想できていたので落ち着いていたが、ジャブラを初め同年代の訓練生は年下といってもせいぜい三、四ぐらいの差だと想像していただけに、予想以上に幼い子供の編入に驚愕を隠せないでいる。まあ自分達のクラスの平均道力を理解しているからこそ、こんな年の子が自分達と同じ道力を秘めているというのがにわかに信じられないのだろう。

 

その後紹介が終わり、さあ今日の鍛練に行こうとするさなか。

 

「お前がロブ・ルッチか。天才って言うからには強いんだろうなあ?」

 

同期の中でも意地悪な子達が早速ルッチに絡みに行く。彼らにとってはからかう程度のものだろうが、並みの人からすれば新人いびりに相当するそれを見た私は、三人を………ではなくルッチを止めようとした。なぜルッチかというと、彼が三人を殺すんじゃないかと冷や冷やしたからだ。しかしその心配は無意味に終わる。

次の瞬間、三人が地面に叩き伏せられたのだ。

さすがに教官が見ている前で彼らを勝手に殺すことまではしないらしく、三人は気絶にとどまっている。

 

それにしても速い。

ルッチにとっては本気にも値しない力だろうが、間違いなく私達よりも強いとわかる。

 

 

以降、ルッチを恐れた同期達で彼を冷やかす者は現れることはなかった。

ジャブラ以外は、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ジャブラがルッチに勝負を挑んでみたものの、先の三人よりは食い下がってはいたが結局負けてしまった。私も試しに一度だけルッチと組み手してみたが本当に強く、ジャブラにはなんとか勝てていたけど、正直彼には敵う気がしない。

 

「ちくしょう! 負けたー!」

 

今までジャブラと互角だったのが私だけだったのに、今度は年下に負けたのが相当悔しかったらしく、苛立たし気に大木を殴っている。

 

「ジャブラ」

 

とはいえ何度も殴り続ければ手の甲から血が滲んでいき、さすがにこれ以上やると手が傷つくだろうと思った私は、それを止めようとジャブラを抱き寄せる。

これは孤児院にいた頃から行っていた、ケンカする子を宥めたり泣きじゃくる子を慰めたりするための私の対年下特効技だ。

 

「っ!?!?」

 

胸に顔を埋められたジャブラは目を見開いて硬直する。

 

「ジャブラが頑張っているのはみんな知っているよ」

 

むしろ明確な目標ができたと思えばモチベーションに繋がると思うよと、頭を撫でながら彼を励ます。

 

「バッ………子供扱いすんじゃねえ!」

 

しかしジャブラは真っ赤な顔で私の腕を払いのけ、そのまま脱皮の如く逃げてしまった。その反応に私は軽くショックを受けるが、冷静に考えたら年齢的にジャブラももう14歳だから、さすがにいつまでも

女の子に優勢にされるのは嫌なんだろうと納得した。

それにしてもだいぶ身長伸びたな……このあいだまでは私のほうが背が高かったのに。原作のフーはジャブラよりも背が高かったはずだけど、私が女だからかな?

 

なんだか幼なじみが物理的にも精神的にも遠くに行ってしまったようでちょっとだけ寂しいけど、ここは立派に成長したと前向きに捉えておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(柔らかかった………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は鍛練の合間にはいつもみんなと一緒におやつタイムを設けているのだが、あいにく今日はジャブラ達と時間があわなくて1人で食べることになった。

 

グアンハオでお気に入りの場所である綺麗な川が眺める大きな岩に腰かけ、膝の上に包みを広げていく。今日のおやつはイチゴのジャムサンドだ。

 

私はサンドイッチを食べようとした時、ふと視界の端に見覚えのある白い影が動いたことに気づく。

 

(………あれ?)

 

見ればハットリが川の向かいに一羽だけいた。いつもルッチの肩か頭に乗っているのに珍しく彼と一緒じゃない。

川の向こうから軽く羽ばたき目の前に飛んでくると、ポッポと鳴きながらちょこちょこと隣に近寄ってくる。私が食べているサンドイッチに興味津々らしくジッと見上げてくるので、食べやすいようにパンを少しちぎってあげれば小さな嘴で啄む。

食べ終わったハットリは私の肩に乗ってくると、嬉しそうにすりすりと自分の頭を私の頬に擦り付けてきた。

 

「クルッポー」

 

「ふふ、くすぐったいよ」

 

人差し指で頭を撫でてあげれば気持ち良さそうに目を細めるハットリに、つい顔が綻んでしまう。

やっぱり動物はかわいいな……。

 

 

その時背後からガサガサと草を掻き分ける音が鳴りだして、私はなんの気なしに振り返る。

動物の気配じゃない、人間のものだ。ジャブラ達かな?

 

そんな私の予想に反し、しげみから現れたのはなんとルッチだった。

 

「!?」

 

思いもよらぬ人物の登場に思わずギョッとしてしまう私をよそに、ハットリは小さく羽ばたいて彼の肩に戻っていく。

 

 

 

 

確かネタバレ記事によれば、血と殺人を好む生粋の殺戮兵器という未来のCP0総監。

しかし先の組み手以降は特に絡むこともなかったので、私は現在の彼の人となりなど知らない。無表情の顔は何を考えているのかわからず、ただ私をじっと見つめてくる姿に言い様のない緊張感が走り、蛇に睨まれた蛙のごとく身動きが取れない。

 

大丈夫これ?

表情筋死んでない?

 

 

「………」

 

「えっと……食べる?」

 

ひとまずこの空気を変えるべく、ひきつった笑みを作りながら私はまず恐る恐るもう一切れのサンドイッチを差し出してみる。

 

怒っているのか喜んでいるのかわからないが、ルッチはそれを断ることはなく無表情で受けとると、何を思ったか私の隣に座ってきた。挙動の一つ一つにビクリと肩がはねる私をよそに、ルッチは隣に座って静かにサンドイッチを食べ始める

 

………どうしよう、話題がない。

目的も感情も読めない少年の存在感に、さっきまで美味しかったイチゴジャムの味がわからなくなってくる。

 

「えっと………ルッチくん、だったよね? どうしてここに?」

 

なにか、なにか話題を繋げなければ。

無難に目的を探ってみてもルッチの目はじっと私の顔を凝視するだけだ。

 

え、私なんか失言した!?

 

せめて何か答えてほしいと胸中で慌てる私の背中を冷や汗が流れる。

 

『お姉さん、今日は一人なのかポー?』

 

「……ん?」

 

と、急に甲高い声が聞こえてきて私は周囲を見渡す。

 

『いつも年下の子達とおやつ食べてるっポー』

 

声の発生源がルッチからだと気づいた私は、数秒の思考ののちそれがルッチ本人による腹話術だと気づいた。

 

 

「………ぶはっ!!」

 

次いで私は思わず吹き出してしまい、背中を丸めて小刻みに震える。

いやルッチがハットリを介して腹話術するっていうのは知ってたけど、こう実際に目の前でやられると………いかにも感情が欠落してますみたいな無表情の子が、こんなかわいい喋り方で腹話術するとか………。

 

ダメだお腹痛い!

 

『ボクはハットリ、ルッチの親友だッポー。ルッチはかなり無口なだけだから気にしないでほしいッポ』

 

「そ、そうっ………うんっ…、わかったよ……ハットリ…!」

 

とりあえずそういうていでいくことにしたルッチは、私が落ち着くのを待ってから会話を続けてくれた。

 

『お姉さんはあの四人と仲良しなのかポー?』

 

「うん、ジャブラとブルーノはここに来る前からの仲だし、クマドリとフクロウもかわいい弟みたいな感じだね」

 

ハットリを介したおかげか、緊張感が抜けた私はスムーズに会話ができるようになり、最近の鍛練に関する相談をルッチにしてみたりする。天才と呼ばれるだけあって、ルッチのアドバイスはなかなか為になる。

 

 

 

 

 

 

「ねえハットリ、ルッチって笑わないの?」

 

『特に楽しいこともないから、笑うことに意味を見い出せないって言ってたッポー』

 

「そっか………でもルッチも将来はCPに入るつもりなんでしょ? CPは潜入任務とかもするんだから、愛想笑いの練習くらいしといたほうがいいと思うよ」

 

これから一緒に仕事するかもしれないし、ある程度は仲良くなっておいて損はないだろう。ほら笑顔笑顔と頬をムニムニと引っ張ってみるも、ルッチは特に嫌がる素振りは見せずされるがままだ。

 

とここで演習場の鐘が鳴り、おやつの時間が終わることを悟る。

 

「じゃあねルッチ、もし次に組み手する機会あったらよろしくね」

 

最後に彼の頭を軽く撫でてから、私はその場をあとにするのだった。

 

 

 

 

 

「………」

 

「クルッポー?」

 

残されたルッチは不思議そうに首を傾げるハットリを撫でながら、彼女の後ろ姿が見えなくなるまで眺めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあった数日後。

 

「な、ななな………」

 

いつものおやつの時間、全員が揃う中ジャブラは震える手で指差していた。

 

「なんでそいつがここに!?」

 

その先ではルッチが、さも当然という態度で私の右隣に陣取っている。

 

「このあいだちょっとだけお話してみたんだ」

 

午前の鍛練が終わるタイミングで、なんとルッチ(ハットリの腹話術)のほうから声をかけてもらえたのだ。今日のおやつに一緒にいてもいいかと。

 

ならみんなへの紹介も兼ねてでも構わないかと確認してから、こうして連れてきたわけである。

わざわざ私の隣に座ってくるあたり、少しは気を許してくれたということなのだろうか。事前にルッチの評判を耳にしていた三人も最初は不安そうに遠巻きに眺めていたが、彼が腹話術を通して面白おかしく話すおかげか早くもみんなと打ち解けてる。

 

「お前なあ! 天才だかなんだか知らねえが、いい気になるんじゃねえぞ!」

 

唯一ジャブラだけは納得いかないと噛みつくが、ルッチはつーんとそっぽを向いてそれを無視する。

まるでお前なんぞ眼中にないといわんばかりの態度は、ジャブラの神経を逆撫でするには十分だった。

 

「こんがきゃあ!!」

 

「まあまあジャブラ、そんなムキにならなくてもいいじゃない」

 

とはいえ私もそうなることはある程度予想できていたので、すかさずジャブラの肩を抑えて宥めに入る。

 

「ほら、今日はシュークリームをもらってきたの。一緒に食べよ」

 

「ぐぎぎ………!」

 

笑顔でシュークリームを差し出せば、ジャブラは悔しそうに歯ぎしりしながらルッチと私の顔を交互に見るも、根負けしたのかドスンと私の左隣に座り込んだ。

私を挟んでバチっと火花が散った気がしたが、なんだかめんどくさいことになりそうな予感がしたので気づかぬふりをする。

 

ここもだいぶ賑やかになってきたなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。

 

 

「あのガキ絶対負かす!」

 

「こ、こ、こいつぁ! ん面白く~、なってぇきやしたなあ!」

 

「チャパパ、無理しない範囲で頑張れ」

 

「勝てるといいね……色々と」

 

「うるせえ!!」

 

明らかに面白がるクマドリとフクロウ、どこか哀れみの眼差しを浮かべるブルーノに、ジャブラは声の限り怒鳴り散らすのであった。




フーちゃん:エッグヘッド編序盤で死んでしまったので、ルッチとカクの絆の深さを知らない。

ジャブラ:ただいま思春期真っ只中。

ルッチ:本編の動向次第ではキャラがかわるかもしれない。

どっちがくっつきそう?

  • ルッチ
  • ジャブラ
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