赤い野良猫は海を行く   作:ペペック

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いくら心構えをしていようと、簡単に割りきれるものではないのです


飼い猫暮らし

あれからまた月日が経ち、六式を習得した私達三人はついに正式にサイファーポールに入ることが決まった。

 

「お姉ちゃん!」

 

「姉さん……」

 

一足先にグワンハオを出ることにブルーノ達は寂しいと泣いていたが、最後にみんなで力強くハグをしあう。

 

「みんな、先に行っているからね」

 

「絶対追い付くよ!」

 

「頑張って!」

 

 

世界政府の船に乗った私達は、笑顔で送り出すみんなの姿が見えなくなるまで笑顔で手を振り続けた、

 

 

 

 

 

………そう、笑顔でいるんだ。

絶対にみんなを不安にさせてはいけない。

 

 

私達がこれから行くのは、血にまみれた修羅の道なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分がフーズ・フーに転生したと気づいた日から覚悟はしていたつもりだった。でも、いざ自分の手で誰かの命を奪うのは本当に辛かった。

グアンハオにいた頃、同期の死は何度も見ていたから死体には慣れたつもりだったけれど、やっぱり殺す時のあの胸の奥から伝わってくるような寒さは、どうにも慣れることができない。初めての暗殺を行った夜、私だけじゃなくジャブラも相当参っていて耐えきれず、嘔吐してしまったくらいだ。

それに命の危機だって数えきれないほど遭遇した。

とるに足りない海賊を始末するだけの任務かと思っていたら、たまたまその地域に滞在していた大物海賊が絡んでいたりと、ギリギリの綱渡りを進んだことがどれだけあったか。

命の危機がない任務もあるにはあるが、やっぱり女の私が受けるのはそういった仕事ばかりなので、男の人にベタベタと身体を触られるのもはっきり言って気持ち悪い。あまりにも耐え難い不快さを拭う目的で、ついジャブラにそういった方面で付き合わせてしまうことも度々あり、本当に申し訳なく思う。

 

 

 

 

 

 

今日もなんとか任務を完了し、生きて帰ってこれた。長官に報告し終え、執務室に入ると同時にようやく緊張の糸が切れて壁にもたれ、ズルズルとその場にしゃがみこんでしまう。

 

「お疲れ」

 

そんな疲れきった私の上から声をかけられたかと思えば、温かいカフェオレが差し出される。

 

「………ゲルニカ先輩」

 

彼はグアンハオにいた頃から教官として何度かお世話になった恩師であり、現在はCP9の先輩としても何かと気遣いを見せてくれる。確か原作だと五老星の無茶振りに苦労するはめになるんだけど、CP9時代からもその多忙さは変わっていなかったらしい。

 

カフェオレを受け取れば、カップから伝わるほどよい温かさに気持ちが幾分か楽になる。

 

「………お前、人殺しあんまり得意じゃないだろ」

 

「え?」

 

しかしここで急に話を振られて、私はつい目を見開く。

 

得意じゃない?

確かに私は暗殺そのものはできることはできるが、まだ精神的に耐えることは難しい。そういった意味では苦手と言えるかもしれないけれど、なんで急にそんなことを聞くんだろう?

 

質問の意図が理解できず、先輩の顔とカフェオレを交互に見て困惑する私の心中を察してくれたのか、先輩は一度ため息をついてからさらに続けた。

 

「なんでCP9に来たんだ。お前、絶対殺し屋向いてないぞ」

 

「………」

 

もしかして、心配してくれているのかな?

 

サイファーポールは万年人手不足に悩まされている。それでも誰しも才能の限界というものがあり、戦闘員としての資質がない者はギャサリンみたいにエニエスロビーの一般職員になるという道もある。

確かにインペルダウン行きを免れる方法として、そういう道もありだっただろう。

 

(でも、私は……)

 

ここは下手に誤魔化すよりは、本当のことを言っておこう。

 

「……どうしても、強くなりたかったんです」

 

そう呟けば、先輩はほんの少しだけ目を見開き私を凝視しだし、私はその視線から反らさないように先輩に向き直った。

 

嘘ではない。あまりにも命の価値が軽いこの世界では、六式も満足に使えない人間などあっさりと死んでしまう。今回の任務で私が消した標的のように、ある日突然身に覚えのない理不尽が襲いかかることだってある。

 

そして私には、もしかしたら避けようがないほど過酷な『運命』がふりかかるかもしれないのだ。

今までの任務とは比べものにならないくらいの危険、きっとこれから私の前に立ちふさがるのは、もっと辛くて苦しくて怖いものばかりなんだろう。

だから何があってもそれらを退けるように、大切なものを奪われないように、強くなれるうちに強くなりたいとハッキリ告げた。

 

「………そうかい」

 

ただ短くそう答えた先輩は、まるで眩しいものを見るように目を細めてから空を眺め、そして思い出したように教えてくれた。

 

「そうそう、彼氏が待ちくたびれてたぞ」

 

 

彼氏………まあ関係だけ見ればそうなんだろうか。

今回は一ヶ月程度で済んだけど、やっぱり寂しがってるだろうなと他人事のように思う。私はカフェオレを飲み干してから先輩にコップを返すと、立ち上がってその場をあとにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かった先は私の部屋ではなくジャブラの部屋。

CP9に配属されてからの私は、任務から帰るとまずジャブラに顔を見せるのがある種のルーティーンと化していた。

コンコンと扉をノックしてから見聞色で内部の気配を調べると、部屋の主はすでに扉の前に立っているらしい。

 

「ただいま」

 

ガチャリと扉を開ければ無言で抱きつかれ、それに対し私は慌てずに両手を広げて抱き締め返すと、ジャブラの背中を優しく撫でる。

 

「………おかえり」

 

よほど嬉しかったのか、獣化していないはずなのにぶんぶんと大きく振っている尻尾を幻視する。まるでお留守番してた飼い犬みたいだなと、ついふふっと笑みを溢してしまう。

 

あの約束の通り私達は正式に交際することになったのだが、予定では半年までだったはずがわざわざ別れ話を持ちかける理由もなかったため、なんかズルズルと数年も続いてしまっていた。

 

本来ジャブラはギャサリンに片想いするはずだけれど、これは大丈夫なんだろうか?

 

そんな私の疑問を余所に、ジャブラは首筋や髪に顔を埋めてすんすんと鼻を鳴らしている。普通なら「セクハラです」って言うところなんだろうけど、別に私は気にしない。

 

「………嫌な匂いがする」

 

しかしある程度私の匂いを嗅いでいたかと思えば、途端にそこ冷えしそうな声で呟く。どうやら今回の任務で馴れ馴れしくしてきた成金親父の匂いをかぎ分けたようだ。さすがイヌイヌゾオン、鼻が利く。

 

まあ私もこうなるのは慣れているので、すでに長官には今日から明日にかけて休暇をもらっている。

 

ジャブラの顔は見えないが、きっと凄く不機嫌な表情になっていることが想像でき、その証拠に抱きしめる力が強くなっていく。

 

(ああ……これは今夜、離してもらえなさそうだな……)

 

取り敢えずまずシャワーを浴びたいと言えば、ジャブラは名残惜しそうにしながらも、ようやく腕から解放してくれたのだった。

 

 




CP9になって間もない頃。


ルッチ「おいジャブラ、ちょっと面貸せ」

ジャブラ「あん?」



ルッチ「」無言で顔面を殴る



ジャブラ「ぶべらぁ!? なにしやがる!!」

ルッチ「だから言っただろ、『面貸せ』って」

ジャブラ「意味間違えてるぞお前! そんでなんだよ急に!?」


ルッチ「お前、いつからあいつと付き合っていた?」


ジャブラ「………ああ、なんだそういうことか」

ルッチ「どうなんだ? どこまでいった?」

ジャブラ「お前がCP9に行くのが決まったくらいの年齢からだ。もうとっくに最後までいった」

ルッチ「そうか。………で、どうだった?」黒いオーラ剥き出し


ジャブラ「………最高だったぜえ?」ドヤ顔

ルッチ「ーーーーー」





この時のルッチは、とても人様に見せられないような恐ろしい顔をしていた。
対してこの後すぐ重症を負ったジャブラは、医務室のベッドでそれはそれは勝ち誇った笑みを浮かべていた。
そう運悪く居合わせたゲルニカ氏は語ったという……。
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