赤い野良猫は海を行く   作:ペペック

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サラブレッド系CP9てどんな扱いなんだろう?
スパルタ?
可愛がり?


妹ができました

この世界の知識を蓄えていくべく、私は暇な時間を見つけてはエニエス・ロビーの図書館に積極的に通いつめている。

案の定、歴史に関する本は世界政府発足以降のものしかなく、内容は世界政府の偉大さや海賊がいかに愚かかをやや大げさに書き記したものばかりだ。この辺りは子供を洗脳教育するためのプロパガンダでしかないので流し見していく。

 

(………やっぱりゴッドバレーに関する資料はないんだな)

 

ロックス海賊団の名前はちらほらと載ってはいるものの、具体的に彼らがどんな悪行をしたのかは詳しく記されていない。

私はエッグヘッド編が始まった直後に死んでしまったので、それ以降物語がどう進んでいくのか知らない。可能であれば物語の顛末を知りたい気持ちはあるが………まあ今は長生きすることを優先しよう。

 

 

チラリと時計を見ればそろそろ次の業務が始まる時間になる。読んでた本を返すために立ち上がり、私は本棚の間を歩いていく。

 

 

 

 

「う、う~……!」

 

「?」

 

と、小さな唸り声が耳に入ってきた。

声自体はそんなに大きくはないが、図書館内が静かなためかよく響いてくる。通り過ぎた本棚に戻り声の出所を確かめてみれば、必死に爪先立ちして本棚に手を伸ばしている女の子の後ろ姿があった。明るいブラウンの髪に黒いワンピースという、小綺麗な身なりから推測するに職員の子供だろうか。

 

限界まで手足を伸ばしているようだが、それでも届かないのか指先は背表紙を掠るだけだ。

周囲を見渡しても脚立は見当たらないので、誰かが使っているのかもしれない。

 

「ねえ君」

 

さすがに困っている子を放っておくわけにはいかないので、私はまず少女に声をかけてみる。

 

「え、あ………」

 

対する彼女は急に現れた私にびっくりしたのか、おろおろと本棚と私を見比べる。メガネにカチューシャという、いかにも真面目な委員長タイプの女の子だ。

 

………あれ、なんか既視感が。

 

 

「どれを読みたいの?」

 

「あ、青い背表紙の……」

 

彼女が指差す先にあるのは一冊だけある青い本で、タイトルから察するに計算式に関する教科書だ。確かこの年の子供が読むには難しい本だったはずだが、なんて勉強熱心な子供だ。

私は代わりにそれ取ってあげると、目線を合わせて優しく手渡す。

 

「これ?」

 

「あ……ありがとうございます……」

 

少女は両手で受け取ると恥ずかしそうに本で顔を隠す。

 

(………やっぱりこの子、見覚えあるな)

 

どこで見たんだっけ? と記憶を引っ張りだしてみる。

本………それにメガネ……

 

 

「あ」

 

「?」

 

 

そうだ、この子カリファだ。

 

 

とここで休憩時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

 

「じゃあ私はそろそろ行くから」

 

そろそろ次の仕事に移るべきと判断した私は、多分カリファと思われる少女に軽く手を振りその場をあとにするのだった。

 

 

 

 

 

そんなことがあったのがちょうど一週間前。

カリファ(仮)とはそれっきりになるかと思われたのだが、再会の日は意外と早く訪れた。

 

その日、上官であるラスキー副官に呼び出され、主に新人を紹介するのに使われる小さな応接室に私はいた。場所が場所なので、てっきり新人の指導を命じられるのかと思っていたら、彼の用事は予想と全く違っていた。

 

「娘さん?」

 

「ああ」

 

なんでもラスキー副官の次の任務がだいぶ長くなりそうなので、その間一人娘を預かってほしいのだという。

 

「君は年下の子供をあやすのが得意だと聞いている。私が帰ってくるまで、面倒を見てやってはくれないか?」

 

「それは……構いませんが」

 

まあ実際子供と遊ぶのは得意だから、断る理由もなかったので私は引き受けることにした。

 

 

あれでも、確かこの人の娘って……

 

 

「入ってきなさい」

 

ラスキー副官が扉に視線を向けて入室を促すと、カチャリと静かに開かれる。

 

「おじゃまします………え!?」

 

「あ……」

 

 

やっぱり。

 

 

「あ、貴女は……」

 

「図書館の娘だよね? 久しぶり」

 

軽く手を振って少女に優しく微笑むと、ラスキー副官が意外そうに目を見開く。

 

「なんだ、すでに会っていたのか?」

 

「ええまあ……」

 

先週のことだから忘れようがないし。

 

「あの、すみません」

 

「ん?」

 

私のそばまで歩み寄ってきた少女がおずおずと声をかけてきたので、目線を合わせるために少し屈む。

 

「このあいだは、ありがとうございました」

 

少女はやや緊張気味ではあったが礼儀正しくお礼を言う。さすがエリート諜報員のご息女、その辺の子供よりも育ちが全然違う。

 

「私、カリファっていいます」

 

「カリファちゃんだね、よろしく」

 

本当は知ってるんだけど、名前を聞くのはここが初めてなので頷いておくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでカリファとも縁ができた私は、一応これも勤務時間として扱われているらしく彼女のお世話に努めている。

カリファは最初こそ恥ずかしそうにしていたけれど、孤児院時代から鍛え上げられた私の対年下あやしスキルのおかげで、ほどなく懐いてもらえた。

 

 

今日も膝の上に乗って絵本の読み聞かせをしてあげている最中だ。

 

「いいよな~、ガキの世話するだけで給料出るんだからよ」

 

そんな私達を見て、向かいの席に座るジャブラは羨ましそうに頬杖をついてぼやいている。

確かに命を張ることもしょっちゅうないつもの任務に比べれば、子供のお世話なんて随分楽である。

 

 

ただ、私が読んでいる本の種類によっては、結構な重労働になる場合もあったりする。具体的な例としては、懐かれてから二日目ぐらいの話になる……

 

 

 

 

 

『じゃあ、なにしたい?』

 

『でしたら本を読んでもらってもいいですか?』

 

『いいよ、なに読む?』

 

本を読んで欲しいというカリファの要望に、読み聞かせなら得意だからと二つ返事で承諾したのだが、彼女が手提げカバンから取り出した本というのが………

 

『これです!』

 

ドンッという効果音が聞こえてきそうなほどデカい本だった。予想してたのと全然違うタイプの本に思わずギョッとする。

 

(いや、分厚いな!?)

 

辞書と間違えてない!?

読み聞かせで読むやつじゃないよこれ!?

 

しかし頼まれた手前断るわけにもいかず、試しに持ってみると見た目に違わずズッシリしている。

 

(重い……)

 

チラリとカリファを見れば嬉しそうに待っている。

………これは裏切れないタイプの笑顔だ。

 

やや葛藤してから私はカリファを膝に乗せて本を開き、だいたい三日かけてそれを読んであげたわけである。正直あの時期の私の両肩と両脚を褒めてやりたいくらいだ。

 

今日読み聞かせる本は厚みこそ普通だからまだ楽である。

 

「だったらジャブラがこの本の読み聞かせする?」

 

「いや……それはちょっと……」

 

冗談混じりに振ればジャブラは気まずそうに目を泳がせる。おのれ、都合が悪いとすぐ逃げる。

ジャブラは男児相手なら笑顔でからかったりするが、年下の女の子相手だとどう接したらいいのかわからないらしい。ましてや相手はおしゃまさんなカリファだしな……さぞ絡みにくいのだろう。

 

「せくはらです」

 

「なんもやってないだ狼牙! ていうかどこで覚えたそんな言葉!?」

 

「ぶふっ………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ベッドに横たわり天井を眺める。

 

それにしてもこう立て続けにCP9のメンバーと関わるってことは、原作のフーズ・フーも彼らと面識があったってことなのだろうか。

あとまだ会っていないのは、カクくらいかな?

これがシナリオの強制力ってやつなのかと小さく息を吐き、ごろんと寝返りをうつ。

 

(いやだな……せめて投獄だけでもなんとかしたい)

 

これはなおさら逃亡計画を綿密に練らなければならないと、うんうん唸っていた時だった。

 

 

コンコンと扉をノックする音が響く。

見聞色で反応を感知すれば、部屋の前に誰かが立っている気配がする。

 

(こんな時間に誰だろう?)

 

時計を見ればすでに本日の業務時間は終了しているが、報告書の記入ミスでもあったのだろうか?

いや、今回のは急ぎではなかったはずだし、それくらいならば明日の朝に連絡するだけで十分なはず。それに諜報員の誰かにしては気配の殺し方が杜撰だ。

私達が住んでいる場所はエニエス・ロビーだから外部の賊が侵入できるはずがないし……

 

 

念のため息を殺して扉に近づき、いつでも剃を発動できるよう身構える。

ガチャリと扉を開ければ、そこに立っていた人物に驚いた。

 

「………カリファ?」

 

その人物は、涙目で枕を抱きしめているカリファだった。

この辺りは諜報員専用の居住区画で、分類的には一般人寄りのカリファが寝泊まりしている区画はここではないはずなのに、どうして彼女がここにいるんだろう?

 

「どうしたの、何かあった?」

 

ひとまず事情を聞こうと片膝をついて両肩にそっと手を置くも、ふとある考えが過り背筋が凍りつく。

男が多い職場ともなれば、いかがわしい性癖の輩も大なり小なり存在する。カリファはまだ小さいが見目麗しく、その手の下卑た趣味のやつに狙われないとも限らない。

 

もしかしたら私が目を離していた間に、カリファがそんな恐ろしい目に……!?

 

上司に任された身でご令嬢を危険な目に合わせたかもしれないという、CP9職員としての自責。

純粋にかわいい妹分を守れなかったかもしれないという、年上の姉貴分としての恐怖。

 

その両方からくる不安に青ざめている私を見ていたカリファだったが、私の心配を察した彼女は首を振って否定した。

 

「あの………眠れなくて」

 

「え………あ……」

 

どうやら単純に夢見が悪かったようで、不安から私のところまで来たらしい。

なんだそんなことかと安堵する反面、基本しっかり者のカリファがここまで不安そうにしているなんてと、私は少し驚いていた。

 

しかしこの手の相談は孤児員時代から経験してきたので、対処方法も熟知している。

 

「おいで」

 

私はひとまず彼女を落ち着かせるべく、部屋に招くのだった。

 

 

 

 

 

 

常夜灯をつけてからカリファをベッドに座らせ、私はその隣に座る。

 

「それで、どんな夢を見ちゃったの?」

 

優しく声をかけて背中を撫でれば、カリファは俯いていた顔を上げて私の目を見る。

 

「……悲しい夢を見たんです」

 

「悲しい夢?」

 

コクリと頷く。

 

「お友達だった男の人と女の人がケンカしちゃう夢です」

 

 

 

 

カリファが語る夢の具体的な内容はこうだ。

その二人は恋人という仲ではなかったけれど、お互いを信頼していた。

そして男性には女性とは別の親友がいて、女性は家族を大切にしていた。

でも男性の親友と女性の家族は仲が悪くて、ついには互いを傷つけ合う事態にまで発展してしまったという。

結局女性は家族とともに逃げるしかなく、男性は親友のために女性と決別するほかなかった。

 

 

「男の人も、女の人も、本当は仲良しで……これからも友達でいたかったのに……」

 

夢の内容を思いだしながら涙を流すカリファの肩を、私は黙って優しく抱く。

 

「………ごめんなさい、こんなことで相談して」

 

たかだか夢の話なのにと申し訳なさそうに項垂れる彼女に私はゆるく首を振る。

 

「いいよ、それでカリファが安心できるなら」

 

 

そっか……カリファは優しいんだね。

夢の中の人達がケンカしちゃうことに泣いてあげるくらい。

 

………こんな子が、将来暗殺者になってしまうのかと、改めて世界政府の理不尽さに歯噛みする。

 

 

 

「………もう一つ、相談してもいいですか?」

 

「なに?」

 

「私って長女だったから、ずっとお姉さんが欲しかったんです」

 

ここでまさかのカミングアウトに私は目を見開いてしまう。

 

「……え、カリファって妹いたの?」

 

「はい。いつも『お姉さんなんだからしっかりしなさい』って、大人達から厳しく躾られてて……だから

妹みたいに誰かに甘えたりするの、羨ましかったんです」

 

そんな話聞いたことなかったな…。

ラスキー副官との関係も質問コーナーで初めて明かされてたみたいだし、これも裏設定ってやつ?

 

「あ、あの……だからその、お父さんが帰ってきたら私も帰らないといけないんですけど……」

 

その挙動に、なんとなくカリファが私に何を望んでいるのかを理解した。

 

「これからも貴女のこと、姉さんて呼んでもいいですか?」

 

恥ずかしそうに目を泳がせている彼女に、私が断るはずがなかった。

 

「もちろんだよ」

 

微笑んでそう返せば、カリファの表情がパアッと明るくなる。

 

「………姉さん大好き!」

 

「ありがとう、私も大好きだよ」

 

嬉しそうに力強く抱きつくカリファを受け止め、優しく抱きしめて背中をポンポンと叩く。

安心したのかカリファはそのまま眠りについてしまい、私は彼女を起こさないようにベッドに寝かせてから、そのまま一緒のベッドで眠ったのだった。




こういう年上お姉ちゃんとちっちゃい妹分の距離感っていいよね!
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