この学校を、守る。その言葉を復唱する俺。
「ちょっと。どういう意味なんですか」
低い声で訊ねる月夜美に、弦巻さんの父は答える。
「この学園には、爆弾魔……テロリストがいる」
俺は、ぞわっと悪寒のようなものが走る。月夜美は驚きの声を、口をおさえて目を見開くことで押し込める。
彼のそばに居るSPのような人から、1枚の紙を渡される。学校の藁半紙のような素材で出来ているその紙を見ると、まず『爆破予告』という言葉が目に入る。
内容を要約すると、こうだ。『より善い文化の発展と、この国の明るい未来を願い、この学校の文化の象徴を破壊する。爆破時刻は15時、これは誰も止めてはならない』とのこと。
縦読みか何かが仕込まれているわけでもない。いや、俺はその可能性に少し賭けてしまっているところがある。
なにせ、思想が滲み出た狂気の塊のような文だ。俺が要約しているからいいものの、強い言葉とデカい主語の塊のような文なので、見る人によっては気分を大きく害するだろう。
なので、せめてこれはハリボテで、本音らしき暗号がどこかに紛れているという事実にすがりたくなってしまっている自分がいるのだ。
隣でドン引きしている月夜美をよそに、俺は自問自答をする。信じるのは簡単だが、安請け合いをしていいものなのだろうか。
俺はまず、一番の疑問を投げかける。
「何故、俺を頼ったんですか」
「信じてくれるんだね」
「なに、リアル謎解きゲームだったら楽しむだけです」
彼は「噂通りだね」と笑い、タブレットを操作しながら言う。なんの噂だ。オカルト時計屋の噂か? いや、今回は関係無さそうだが。
「それらしき情報が、都内の喫茶店で聞こえたらしいんだが……なんでも『時計』と『花咲川』という言葉が頻出したと」
この会話から、と前置きをして、彼は真剣な眼差しでこう言う。
「この学園のどこかに、爆弾時計がある」
「はあ……あの、ホントなんですね?」
月夜美は、完全に疑いにかかっている。仕方ないといえば、仕方ないか。こんなことをいきなり初対面の人に告げられるなんて。
「実際にそういう会話が行われていたという情報がある。月夜美くん、君にも信じてもらえると嬉しいのだが……」
「……むむむ」
俺は、情報量の多さに痛むこめかみを押さえつつ、彼に質問を続ける。
「爆弾の形は分からないんですか」
「ある程度の予測はついている。爆弾と時計が、一体化しているとのことだ」
「爆弾に時計がくっついているのか、それとも……」
どうやらそこまでは分からないようで、彼は「すまない」とだけ答えて、タブレットをこちらに渡してくる。
そこに映るパワーポイントには、多数の推測、推理が記されている。
後ろの方には、『何年か前の似たような事例』も載っているが、これに関しては今回は分からないことが多すぎて参考にならないだろう。
「あの、ここに入るのは止められなかったんですか?」
「顔が分からない。人となりさえも分からないのだ……すまない」
月夜美はもどかしそうにしながらも、腕を組みながら唸る。彼女も彼女なりに、信じているところと考えていることがあるのだろう。
「ただ、その喫茶店を出る時、それらしき人物は支払いを断って、店員を気絶させたらしい」
「ええ!? どうやって!?」
「……おそらく、スタンガンやテーザー銃の類だ」
今回の事件に関係のないヤバい奴だとしても、怖い言葉が出てきた。何だそれ。
「財閥の人員に任せればいい、という考えは無かったのですか?」
「……君に任せたいのだ」
彼は至って据わった目で、俺たちを見ている。
その眼差しは、彼を大富豪足らしめるカリスマと、威圧感にも思える信頼があるように思えて、メドゥーサに見つめられたように固まってしまいそうだ。
そんなガチガチの俺に、月夜美は耳打ちをする。
「怪しいですよ、店長」
「ああ。とんでもなく、な」
臆することなく、俺は信用できるような情報を探る。
「この予告は学校に来たものですか?」
「そうだね。それも、つい十数分前」
「……じゃあ、爆弾があることは確か。それを任せたのは、あなたの独断なのですか」
すると、彼は後ろの方、つまり体育館を見てから、こんな状況に似合わない微笑みを浮かべながら言う。
「こころの推薦だ」
俺は思わず「はあ!?」と声を上げる。あの人、知ってるのかよ。
「私が笑顔を失っているのを見て、何かを察したようでね……気づいたらこの紙も読まれていた」
「彼女は、なんと?」
恐る恐るといったふうに聞くと、彼は依然として笑いながら言う。
「時計のことなら、香月進という人に任せれば大丈夫、と言っていたね」
「!!」
「だから、この依頼は……娘と私の依頼だ」
俺のプライドに火がつくのが、自分で分かった。俺を頼りにして、学校の平和を任せてくれているのだ。
これが本当であれ嘘であれ、その期待に答えないのは、なんだか間違っている気がして、俺は拳をぎゅっと握りしめる。
「起爆は15時。それまでに解除することを目的としてくれ。警察も来るようだが、どうやら本気にしていないようで爆弾解除班のようなものは来ないみたいだ」
「無理もないです。爆破予告なんて、実際に遂行された方が少ない」
「うちの人員も呼んだが、怪しまれないかどうか……という所もある。君たちは言わば先陣を切る形で、爆弾を見つけてくれ。解除はあくまでも、君に任せる」
大きな手が、俺の肩に乗る。彼の期待、横の月夜美の緊張、俺の不安、全てが俺自身の肩に乗っている。
だが、俺は逃げない。こんな嘘みたいな状況でも、弦巻さんとその父が、俺を信じて、俺に託してくれているのだ。
昨日までの平穏な日々が遠くなる感覚がある。エヴァンゲリオン初号機に乗る時、碇シンジはこんな心境だったのだろうか。
俺は自分の胸を叩き、少し泣きそうなくらいに震えている手を突き出す。
「やります」
「……店長」
「俺を誰だと思ってるんですか」
弦巻戴勲さんは、そんな俺を見て、歯を見せて笑う。
「青美堂の店長、香月先介の息子。そして、もみじ屋店主の弟子にして、弦巻こころのお墨付き職人。香月進ですよ」
月ノ森生徒御用達、流星堂専属修理士、不可思議故障でもドンと来いの青美堂。嘘だろうがなんだろうが、こんな所で退いてたまるか。
「頼んだぞ。私も捜索してみる。見つかったら君たちの所に、見慣れた黒服が来るだろう」
「はい。お願いします」
「ほ、ホントにお願いしますよ! 頼んだのそっちなんですからね!」
彼はSPと共に去っていく。その背中に向かって、月夜美は「そっちがしっかりしてくれないと、うちだって出るとこ出たり出なかったりしますよ!!」と叫ぶ。
爆弾は怖いのに、あくまでも日本有数の財閥のトップに、指をさして大声でそんなことは言えるんだな。
怖いのは分かる。俺だって怖いさ。ただ、今まで見てきた不可思議な時計たちだって、科学的かつ時計屋的な視点で見ると原因不明の故障だ。
それに比べれば、爆弾がついてきただけのただの時計なんて、ずっと簡単に直せるはずだ。デジタル式じゃあないといいが。
「……13時48分」
「えっ!? もうそんな時間!?」
俺がジャガー・ルクルトを見て言うと、月夜美は持ち前の大きな声を出して驚く。
そして、ハッとしてからしゃがみこんでしまう。何も周りの目を引いてしまったとか、そんな理由じゃあない。
「ダメだ……完全に信じきっちゃってる……」
あの嘘みたいな話を信じている自分に落ち込んでいるのだ。かと思えば、頭を掻きながら唸ってその場でスクワットをし出す。
彼女はこの店で数年、アルバイトとして働いてきた、ただのフリーターだ。突然こんな現実味のない話をふっかけられて、普通でいられる方がおかしいまであるのだ。
仕方ない。心苦しいが、俺は、そんな彼女に向かって本心混じりの願いを言う。
「俺が探すよ」
「……」
「キミは帰ってくれ。なにせ、ただのアルバイトだからな」
いつものからかうような口調で言う。巻き込むのは申し訳ないので、俺はあえてこう言った。
ならば、何が心苦しいのか。
「……帰れですって?」
こう言ってしまうと、俺の一縷の望み、『少しでも多い人数で捜索したい』という気持ちが叶ってしまいそうだからだ。
俺という男が大好きな、死戻月夜美という人間の、本来の性格である、持ち前の単純さが目を覚ます。
「私、ステージの方を見てきます」
勢いよく立ち上がり、背中を向けてそう言う彼女の足は、かすかにではあるが、震えていた。
当たり前だ。予定の時刻だって守られるかどうか分からないし、少し触れただけでも起爆するようなものだったら、彼女は真っ先にその爆発に巻き込まれかねない。
震える太ももを叩きながら、涙声でそう言う彼女を利用しているようで、今日一番の罪悪感が俺にのしかかる。
「……いいのか」
「青美堂の一員として、絶対に見つけてみせます」
「そうか。無理は、するなよ」
彼女の足は、一歩踏み出したところで、少し止まってしまう。そして、こちらに振り返って抱きついてくる。
やはり荷が重かったか。と言おうとしたが、彼女は半べそをかきながら、俺にこう言う。
「見つけたら、キスしてください」
涙こそ出ているが、いま彼女が浮かべている笑顔は、強がりでもなんでもない、心からの笑顔だった。
「……おじさんでよければ、何でもしてやる」
俺が『何でも』と言った瞬間、彼女は俺から離れ、渡り廊下からスリッパのままでグラウンド方面に全力疾走していく。
「うおおおお─────ッ!! フリーター舐めんなーッ!!」
と、叫びながら。
彼女のああいう所には、実際俺は何回も救われてきたな。そう思い、俺は渡り廊下の来た道を戻っていく。そして、弦巻さんに貰ったパンフレットの地図を見てみる。
文化という言葉が引っかかるが、なにせここは文化祭だ。どこに仕掛けられていてもおかしくない。
とりあえず、藁にもすがるように、俺は文化部のいるエリアにやってきた。ここの廊下や、文化部の生徒たちのいる教室を探ろう。
俺はまず、渡り廊下の出入口に近い階段を登ったところにある文芸部の門を叩く。
「いらっしゃーせェ」
「どうです? 部誌。これでも人気なんですよ」
「ちょ、これでもとか言うなし」
部の名前から連想するパブリックイメージというか、イデアというか、それからは程遠い巻き髪ギャルが、俺の元に来る。
軽く笑い合いながら小突き合う2人は、明らかに文芸部と言うよりも野球部のマネージャーだ。部内にとんでもないイケメンがいないと成り立たないぞ、この構図。
部誌なら後で買おう。しかし気の毒なことに、彼女たちが一生懸命作ったであろう部誌は、俺がこの部屋に来た本来の目的ではない。
すまない、と心の中で言ってから、俺はずんずんと教室を利用した文芸部の即売会ブースの奥に進む。
怪しむ視線が後ろからするものだから、いけないいけない、と俺は愛想良く振り返る。
「すみません。少し、時計の点検に来た者です」
「点検ン? こんな日に?」
「どうしても日付がずらせなくて……」
時計と言うのだから、黒板の上にある掛け時計にでも仕掛けられているのだろうか。と思い、俺は教室の本来の正面、つまりドアから入って右にある時計を慎重に取り外す。
カバンを開け、素早く、かつ丁寧に時計を開けてみるが、それらしき機構はどこにもない。
「ちぇー、お客さんじゃないのか」
「ま、いいじゃん。邪魔してくるわけでもないし」
「そりゃそうだけどさー……なぁんか現実に戻されるわー」
すまない。それに関しては本当にすまない。楽しんでいるところに水を差すような行為をしている自覚はある。
しかし、爆弾を見つけないと、水を差すというか冷めるというか、それどころではなくなる。最悪の事態を考えれば、俺が顰蹙を買うだけなのだから安いものだと自分に言い聞かせる。
JKの顰蹙を買う30歳という構図は、とうてい見ていられないが。彼女たちも、この文芸部という日本の文化の象徴を体現したような部で頑張っているというのに。
俺は自然に見えるように、それと自分の中にある申し訳なさを減らすために、せっかくだからと試し読みをしてみることにした。
ギャルは「どぞどぞ! 全然見てっちゃってください!」と、先程と比べて明らかに機嫌がよく、試し読み用の冊子を渡してくれる。
こんなことをしている場合では無いのだが、あまり不審がられると捜索に支障が出かねない。探しづらく、動きづらくなるのは俺だ。
試し読みの冊子のページを少し捲ってみると、一行目から思ったよりも純文学的な入りだった。内容としては、井伏鱒二あたりに影響を受けていそうな物語だ。
なるほど、これは面白い。俺は1分ほど読んで、自分の動きやすさのための忖度ではなく、心からこの部誌の購入を決めた。
「あざーす! 500円でーす!」
「小説、好きなんですか?」
「マジ好きです! なんか、文化の最高峰って感じしません? 昔からずーっと続いてて!」
素晴らしい心持ちだ、日本の宝とはキミたちのような者を言うのだろう。と、オジサンらしい褒め言葉が浮かんだ1秒後に、俺はふとピンと来るものがあった。
「文芸部……か」
俺は教室の中をぐるっと見渡し、『それらしきもの』が隠れていそうなところを隅から隅まで見てみたくなった。点検と言えば大体は誤魔化せるだろう。
「すみません、点検の続きをしても?」
「あえ? あー、どうぞぉ?」
「終わってなかったんだ」
「聞こえんぞバカ」
予告状にあった、『文化の象徴』という言葉。もし、このギャルが文芸部をやっているという場所を犯人が知っていたとしたら。
そういう小説などといった文化が好きそうな頭の固いオジサンオバサンが、一番毛嫌いしそうな場所だ。皮肉を込めて文化の象徴という言葉を使ったとしたら、納得がいく。
まずは大きなものが入りそうなところからだ、と掃除用具入れのロッカーをばんと開けると、靴を入れる黒い箱があった。
有名なスポーツ用品を生産・販売している企業の靴箱を開けると、そこには時計と、それにくっつくベルト、さらにはそのベルトに巻かれている五本の木製らしき木の棒。ダイナマイトを模しているのだろう。
「……これか?」
なんだ、ひどくアッサリ見つかるな。それも、かなり爆弾らしい爆弾が。まあ、ここで見つからなければ俺の奇行がさらに目立つが。
一見変な造形だが、なんだか人をおちょくったような爆弾だな。懐中時計をとってつけたように正面に置いて。まるで小学生の工作だ。愉快犯みが増すな。
俺は月夜美に、見つけた旨の連絡をスマートフォンでSNSの個人チャットに打ち込む。
さて、どこからいじったものかと、効き手である右手をわきわきさせていると、後ろから何かが落ちる音が聞こえた。
見ると、スマートフォンを落としたとみられる、これまた爪から化粧から派手派手なギャルが立っていた。
血色よくメイクした顔は、俺、もしくは俺の持っている爆弾を見て真っ青になっているが。
「ひっ……!!?」
よくこんな爆弾爆弾した爆弾にビビれるな。俺はなんだか拍子抜けして、依頼を受けた時よりも肩の力が抜けているというのに。
まあ、時計も実際に動いているしな。信じてしまうのも分からなくもない。
よく見ると、その女の子は、先程まで接客をせずに部屋の奥でひとり、携帯をいじっていた子だった。
「あまり大きな声をあげないでください」
思わず犯人のような言葉を発してしまったがために、その女の子はかなり動揺しているようだった。
彼女は口をパクパクさせながら、俺を震える人差し指でさしながら、たどたどしくも言葉を発する。
「なっ、ななな、な、な! 何するつもりなの?! テロリスト!!」
「だから大きな声を……はぁ、違うんです。むしろその逆……俺は爆弾を解除しに来たんです」
「……はっ??」
説明をしている暇は無い。俺はカバンから先程も使った道具を取り出し、正面の風防を取り外し、文字盤を取ろうとする。
中を見ると、ぜんまい式らしき構造だ。懐中時計がアンティーク調だったので、もしかしたらと思ったが、やはりか。
電池で動いているわけじゃあないのか。これは歯車をひとつひとつ外していっても、それなりの時間がかかる。ぜんまい式なので、慎重に解体しないと歯車がイカれかねない。
後ろから、震えた声が聞こえる。
「それ……本当に爆弾……」
「らしいですよ。解体しないと分からないですけど」
「適当なこと言わないでッ」
「逃げた方がいいです」
彼女の顔をちらりと見ると、ますます青ざめている。先程、依頼を受けた時の俺の顔色も、こんな感じだったんだろうか。
「ねえ〜、沙霧。その人なにやってんのー?」
「えっ!? ……そ、その、なんというか……」
先程のギャルに質問された、沙霧という名前らしい生徒は、あわあわと言葉を紡ごうとしているが、なかなかそれらしい言い訳が出てこないようだ。
沙霧。先程試し読みした小説を書いた人だ。確か、フルネームは『神坂沙霧』。
オイオイ誤魔化すの下手かよ、と思ったが、バカ正直に話されるよりはマシだな。俺はにっこりとギャルに向かって話す。
「修理ですよ、彼女の時計の」
「え? マジ? 時計なんか持ってたっけ?」
「……お……おじいちゃんの形見」
神坂さんも俺に話を合わせて、下手な演技で返す。
「すげー、オジサン時計直せるの?」
「はい。なので、出来れば集中させてくれると助かります」
「なるほどね〜。ま、あーし達は売り子やってるんで。頑張ってくださいねえ〜」
「手元狂ったら『爆発』したりして! キャハハッ」
対応からして、根っこはいい子なのだろうが、ふと発された『爆発』という言葉に、思わず俺と神坂さんは同時にビクッと反応する。
最初に誤魔化しのフォームに入ったのは、神坂さんだった。
「そ、そう! 爆発するよ! マジ梶井基次郎!」
「えっ、檸檬なん? キャハッ、ウケる! ここ丸善じゃねーし!」
文学ジョークで誤魔化してくれて助かった。俺はやっと、一つ目の歯車を外し、百均で買った部品ケースにそれを入れる。
「……あのさ、オジサンッ」
「オジサン、オジサンって……あのですねえ」
いい加減に名乗ろうとしたところに、彼女は目の前にパンフレットを無造作に差し出してくる。手元が狂ったらどうするんだ。
しかし、そこには派手な蛍光グリーンのマーカーで、線が引いてあるところがあった。そこを見てみると、ガールズバンドのライブのセットリストがあった。
彼女は不躾なふうに、そこを指さして話す。
「……14時からライブなの。今から始まるから、その……人は多少いなくなるかも。それでも目立たないように、あーし達も気をつけるし……だ、だから! 絶対、正確に解除して!」
俺はそんな彼女を見て、ふっと微笑む。
「俺を誰だと思っているんですか」
先程、戴勲さんに言ったように、俺は名乗ってみせる。
「時計ならなんでも直すでお馴染み、青美堂店主。香月進ですよ」
神坂さんはそれを聞いて、少し呆気にとられていたが、その後「いや、知らねーし」と笑う。その顔には、ほんの少しだけの安堵の色が見えた。
何も知らない生徒が横にいるという事実が、秘密裏に爆弾を解除しているという重苦しいシチュエーションをより肉薄させてくる。
さて、2つ目の歯車に手を伸ばそうとした時、教室のドアが勢いよくスライドされて開く。
バンッという大きなドアの音と、聞き覚えのある大きな声。
「店長!! 爆弾、もう見つかったってホントですか!?」
凍る教室の空気。固まるギャル。再び慌て出す神坂さん。そして、口をおさえて「……あっ、やば」と青ざめる月夜美。
やば、じゃあないんだよ。俺は眉間をおさえ、声を殺して毒づいた。
「バカ……ッ!!」