「これでよし…」
誰もいないトレーナー室で私、グラスワンダーは、ある雑誌をテーブルの上に置き設置しました。
その雑誌は女性用下着のカタログ。
なぜこのような雑誌をトレーナー室に設置しているかというと、話は昨晩まで遡ります。
『このキングがカタログを持ってきてあげたわ!』
昨晩夕食を食べ、黄金世代のみんなで集まり、女子会なるものを開いていると、ふと下着の話題で盛り上がりました。
「ちょっと最近下着がきつくなっちゃって、買いに行きたいんだけど…、やっぱり都会の下着は高いんだべか…」
「え~それって成長っていうより太ったんじゃないの~?」
「ちっ違うもん!トレーナーノートにも微減って書いてあるもん!」
「あれだけ食べていて微減はおかしいデース…」
「レースの後はパクパク食べているでしょうに…」
そうこう話しているとキングちゃんが一回自分の部屋に戻り、下着のカタログを持ってきてくれました。
そこは女の子、一人一人がカタログを片手にコレ可愛い!コレ派手すぎじゃない?とキャッキャしながら読んでいると、誰かが言いました。
『トレーナーさんはどんな下着が好きなんだろう』
誰が言ったか覚えていませんが、その一言で部屋の空気が一瞬で変わりました。
あんなにはしゃいでいたみんなが、食い入るようにカタログを読み始めたのです。
…私もその一人ですが。
どこか殺伐とした女子会も終わり、各自部屋に戻っても私はカタログを読み込んでいました。
私が持っている下着はどれも白や水色といった清楚めな物ですが、はたしてトレーナーさんは清楚な方が好きなのでしょうか?
そ、それともカタログにあったような黒や赤の派手な方が好きなのでしょうか?
…いえ、私らしくありませんね。悩むより行動あるのみ。
そうして私はトレーナーの好みを知るために準備をするのでした。
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作戦決行日、私は昼休みにトレーナ室に訪れました。
「トレーナーさ~ん」
「グラス?どうしたんだ?」
「いえ~もうお昼の時間ですから、ご一緒にと思いまして~」
「あーもうそんな時間か…じゃぁ一緒に食べようか」
お互い椅子に座り、私はお弁当を、トレーナーさんはコンビニで買ったサンドイッチを出す。
「トレーナーさん、サンドイッチだけでは栄養が偏ってしまいますよ?」
「いやー、どうにも朝は時間なくてな」
「だから私がお弁当を作って来ますと言ってるじゃないですか」
「中等部の子にお弁当を作ってもらうのはちょっとね…」
「もう!倒れてからじゃ遅いんですからね!」
「わかったわかった、気をつけるよ」
そんな会話をしながら昼食を食べ終わると、トレーナーさんはまた仕事に戻って行きました。
どうも急ぎの仕事があるみたいで、たづなさんの所に行かなくてはいけないみたいです。
「ちょっと仕事があるから俺出てくけど、ゆっくりしてっていいからな?」
「はい~ありがとうございます」
「あと今日のトレーニングは休みだからゆっくり休めよ?」
「………」
「休めよ?」
私に念押しをした後、トレーナーさんは行ってしまいました。
ですが私には好都合。
これで安全に策を弄することができます。
私がする策は、さりげなくトレーナー室に女性用下着のカタログを置いておくこと。
しかもテーブルの角に合わせてピッタリと置くことによって、もし読んだら位置がずれて、すぐに分かるようになってます。
でもこれではトレーナーさんがどのページを気になって見たかわからないですって?
心配ご無用です。
私ぐらいの独占力持ちともなると雑誌のページについた匂いの濃さで、どのページをどれくらい読んだかぐらい楽にわかります。
そうして策を仕込んだ私は足早にトレーナー室を後にするのでした。
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次の日の昼休み。私はまたトレーナー室に訪れました。
果たしてトレーナーさんはカタログを気にして、読んでくれましたでしょうか?
「トレーナーさん?」
トレーナーさんを外から呼びかけ、ガチャリとドアを開けます。
「あれ?」
部屋には誰もおらずどうやらトレーナーさんは外出中の用でした。
トレーナーさんがいないのは残念ですが、まずはカタログの確認です。
トレーナー室から遠目でカタログの有無を確認すると、まだテーブルの上にカタログはあり、なおかつカタログは遠目でもわかるぐらいに、元置いてあった場所からずれていました。
「さっそくかかってくれましたね…」
私の作戦がうまくいったことにウキウキしながらカタログを確認すると、テーブルの上には、
『日本の甲冑大全~戦国時代の名将特集~』
「………なぜ?」
疑問を持ちながらも、甲冑大全を手に取って中身を確認してみる。
…甲冑って各武将ごとに結構違うんですね。
…あ、イラストや写真がたくさんあってわかりやすい。
…へぇ胴の部分は鉄砲の弾丸を反らすために、曲線や傾斜が多用されてるんですね。
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・
…ふぅ読み応え抜群でしたね。
名将の裏話やちょっとした甲冑の豆知識なども知れて大変満足でした…。
でもこれはあれですね、そうこれは間違いなく、
「はめられましたねぇ」
トレーナーさんに。
多分、トレーナーさんはカタログを見た時に気づいたのでしょう。
私が何かを意図してカタログを置いて行ったことを。
そして私達ももう三年の付き合い、私が何を言いたいかもわかっていたのでしょうね。
だからその話題を避けるべくこの雑誌を代わりに置いて行った。
……落ち着いて状況を確認したらイライラしてきましたね。
確かに多少の悪戯ごころはありましたが、こんな露骨に反らさなくてもいいじゃないですか。
どうにかしてトレーナーさんにぎゃふんと言わせたい。あわよくば少し困らせたい。
どうにか心を鎮めようと雑誌をパラパラとめくっていくと、
「…これは?」
どうやら先ほど読んでいた時にはページがくっついていてわからなかったですが、これはなかなか…。
この日私は初めてトレーニングをサボり、あるものを調達しに行ったのです。
あとで考えると負けず嫌いな性分とはいえ、なぜあそこまでやってしまったのかと、後悔しきれません…。
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「昨日は突然今日はトレーニングをサボりますなんてメールが来てびっくりしたなぁ」
昨日他のトレーナーとの談笑が思ったよりも盛り上がっていると、俺の担当であるグラスワンダーからのボイコットメール。
何を送っても明日楽しみにしていてくださいとしか返って来なかった。
なんの理由もなしにサボる子じゃないからたまにはいいけど、果たして何があったのだろうか?
気になりつつも今日もパソコンとのにらめっこをしていると、
ガチャ
「ん?はーい?」
突然トレーナー室の扉が開いた音がしたため、反射的に扉の方を向く。
来客だろうか?と思いながらも扉の方を向くと、
そこには黒い甲冑を着た誰かが立っていた。
「誰!!??」
ちなみに仮面もかぶっているため、本当に誰かも判別できない。
しかし俺が驚くのもまたずに、甲冑を着た誰かは部屋に入ろうとする。
「あれ?あら…、あれれ?」
だが、鎧の横幅と兜に生えた立派なつの飾りのせいで、入るのに難儀しているようだ。
「ていうかその声…グラスか?」
「グラスワンダー、参ります」
「それは何度も聞いたわ。……え?何してんの?」
立派な甲冑姿が我が愛バ、グラスワンダーなのはわかったが、それでもなぜそれをしたのかという疑問は当然残る。
「わかりませんか?」
「どっちかというとわかりたくない」
「ではヒントを差し上げましょう」
「遠回しに関わりたくないって言ってるのに…」
「私たちウマ娘にとって『どうやってやったか』『誰がやったか』に意味はありません。『どうしてやったか』を考えてください」
「聖杯戦争に参加してた?しかも君マスターよりサーヴァント側だろ、ランサーの」
「薙刀をご所望なら言ってください、すぐに準備しますから」
「その姿で薙刀持ったら完成しちまうだろうが」
そんなことになったらこの令和に武士が誕生してしまう。
「えーその、あれ…カタログの事でしょ?」
「その通りです、よくわかってるじゃないですか」
「原因はわかったけど、それで何で甲冑着てきたのさ」
「…何でこの私がカタログをトレーナ室に置いて行ったかわかりませんか?」
「あぁやっぱりあれわざとなんだ…。なんか怪しいゲロ以下の匂いがプンプンしたんだよね」
「私はその罠を使ってトレーナーさんに好みの下着を聞こうとしたんですよ」
「掛かっていますね(断言)」
「しかしトレーナーさんは、そんな私の気持ちを無視して代わりに『日本の甲冑大全~戦国時代の名将特集~』を置いていきました!全216ページの!甲冑の経歴や図解がよく分かる本を!」
「あれそんなに気に入ったの?」
「大変気に入りました!……それと同時に思ったんです。これはトレーナーさんが私に甲冑を着てほしくて、この本を置いて行ったんじゃないかと!グラスワンダーのきわどい下着よりも、たくましい甲冑姿を見たいのではないかと!」
「グラスの中では俺は中等部のきわどい姿見て喜ぶ人だと思われていたの?クビにしてぇのか?」
「そして私は『日本の甲冑大全~戦国時代の名将特集~』の自分で作った甲冑を投稿しよう!のコーナーを見て思いました。甲冑って割と手軽に用意できるんじゃ?と…」
「はぁ………え?それ自作!?」
「いえ、残念ながらこれは通販で買ったものです。一般の方が作っていたので安く買えました」
「それを昨日買うために休んでたのね」
「えぇ申し訳ございません」
「ちなみにいくら?」
「45万円です。トレーナーさんのおかげでレースの賞金もあったので割と楽に手に入りました」
「よーし後で予定空けとけよ?親御さんと緊急三者面談だ」
「何でですか!?」
「中等部の金銭感覚としてバグってやがるからだよ!場合によっては返品するからな!?」
「嫌です!せっかく今日1日この姿で過ごしたんです!もう愛着があるんです!」
「1日って学校でもその姿だったのか!?」
「もちろん授業でもこの姿でした!悪いですか!?」
「悪いわ!!何も言われなかったのかそれで!?」
「えぇ何も言われてないですね。でも今日はほとんど誰とも話していませんね」
「バリバリ避けられてるじゃん…、同室のエルコンドルパサーは何も言ってこなかったの?」
「そうです!聞いてください!エルったら酷いんですよ!?朝エルが遅刻しそうだったので起こしてあげたら、私の顔を見るなり、挨拶もしないで部屋から出てっちゃたんですよ!?」
「そりゃ逃げるよ、寝起きに鎧武者は。下手したら悪霊の類だもん」
教師、クラスの子、エルコンドルパサー、とどんどん謝りに行かなくては行けない人が増えていく。
ここまで会話して大体わかった。
多分だが俺に話題を反らされたあげくに、からかわれたことによって、いつもの負けず嫌いが現れたのだろう。
「はぁ~~、分かった、俺が悪かった。グラスをからかって悪かったよ」
「ぎゃふんですか?」
「え?」
「ぎゃふんって言ってください」
「……ぎゃふん」
俺の言葉を聞くと同時に、グラスは仮面の下からでもわかるぐらい嬉しそうな様子を見せた。
彼女との付き合いも長いが、彼女の負けず嫌いには困ったものだ。
しかし多少やりすぎなところもあるが、こんな子供っぽい姿もまたグラスの可愛いところだ。
「満足したので教室に戻りますね」
「じゃぁ俺も行くか」
「どちらか行かれるんですか?」
「どこかの武士のせいで謝罪行脚だよ」
「たいへんですね…」
他人事かこの愛バは。
「あ、あとトレーナーさん、1つお願いしてもいいですか?」
「今日は随分と要求の多い日ですね。で?何がご所望ですか?」
「今日もお休みしてよろしいでしょうか?」
「…また甲冑買うの?」
「いえ、ここ最近色々な事を考えて寝不足気味で…」
「もしかして今深夜テンション?」
「はい…今も眠くて…」
「今日はもう授業とかいいからとっとと帰って寝ろ」
その後ぐっすりと寝た私は、改めて昨日自分が起こしたことを思い出し、トレーナーさんや私が迷惑を掛けてしまった方々に謝り尽くすのでした。
ウマ単5作目