ブルアカF   作:あまいろ+

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狐とハンドサイン

 

「あら?ニコまだ起きてたの?」

 

「あ、クルミちゃん」

 

日付も変わって任務も終わりいざ就寝、と思い自分の部屋に向かう道中、シャーレのキッチンに灯りがついているのを発見し顔を出した。

 

キッチンを覗くとFOX小隊の副小隊長であり、みんなの母的存在であるニコがキッチンで何やら作業をしていた。

 

「何してんのよ、夜遅くに」

 

「朝ご飯とかの準備だよ」

 

「あ…悪いわね。こんな時間まで準備させちゃって…」

 

「気にしないでクルミちゃん。それにみんな良く食べるから、作りがいがあって嬉しいし」

 

「それならいいんだけど…ありがとね」

 

「うん!」

 

「………まぁそれはいいんだけどさ」

 

「?」

 

あのさ、と一言クルミは言い、朝の仕込みをしているニコの手元を覗き込む。

 

そこには、

 

「明日も、お稲荷さん…?」

 

煮汁の中に漬けこまれた大量の油揚げを見て、明日の献立を予想するクルミ。

 

「なにか…文句でも…あるのかな?クルミちゃん」

 

「な、ないわよ!?ないけど、あんたが調理担当になってから毎日お稲荷さんじゃない!?」

 

「もう、私のお稲荷さんに、飽きちゃったの?」

 

「飽きてはないけど、ちょ怖い怖い!!包丁こっちに向けるんじゃないわよ!?」

 

飽きてはないけど、…ごめん嘘ついた。いくらニコのお稲荷さんのバリエーションがあるとはいえ、ちょっと飽きていた。

 

だとしてもラーメンや鍋といった1品料理や、炒飯などの米料理にもお稲荷さんをつけるのはやめて欲しい。

 

そんな光彩が無くなった目で包丁を向けてくるニコを何とかなだめていると、

 

「あれ?なにしてるの、喧嘩?」

 

「「先生」」

 

シャーレの主である先生が声をかけてきた。

 

「先生!クルミちゃんがもう私のお稲荷さんに飽きたって言うんですよ!」

 

「言ってないわよ!」

 

まだ。

 

「あぁ明日のご飯の準備してくれてたんだね。ありがとうニコ」

 

「はい…どういたしまして…。先生…」

 

「なに?」

 

「もしかして先生も私のお稲荷さんに飽きちゃったとかは…ありませんよね?」

 

「飽きてないよ」

 

「本当ですか!?」

 

「うん、それこそ毎日食べたいぐらいだよ」

 

「先生…!」

 

「いや毎日食べてるじゃない」

 

文字通り毎日食べている。何なら朝昼晩と3食出されてる。

 

「それで?先生は何しに来たの?」

 

「ん?そうだ思い出した。ちょっと小腹が空いてね。今日の昼頃に放課後スイーツ部から貰ったケーキのあまりでも食べようかなって」

 

「夜中に甘いもの食べてると身体に悪いですよ?」

 

「普段の食事はニコが面倒見てくれてるからさ。ちょっとぐらい、ね」

 

「食事はいいとして先生普段運動とかしないじゃない。健康とか大丈夫なの?」

 

「心配してくれるの?クルミ」

 

「心配なんかしてないわよ!?ただ警護する対象がフラフラだと迷惑なのよ!で、どうなのよ!?」

 

「シャーレの仕事で運動できる時間がないんだよなぁ」

 

「ストレッチからでも始めてみます?」

 

「私身体固いんだよね…」

 

「そしたら私も手伝いますよ?では…はい先生、ケーキとお茶と…お稲荷さん」

 

「いやお稲荷さんは…」

 

「先生も飽きちゃったんですか……」

 

「ありがとうニコ。美味しくいただきます…」

 

そうして先生はお菓子(とお稲荷さん)を持って、そそくさとキッチンをあとにした。

 

そんな背中を見て私は呟いた。

 

「ふむ、運動ね…」

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

「これからSRT式訓練を始める!準備はいいかー!」

 

「「了解!!」」「…了解」

 

「そこ!返事が小さいわよ!」

 

「了解」

 

「最初は子ウサギ公園の外周2周!そのあとは休憩を挟んで腕立て、プランク、スクワットの筋トレ!まずはこれを3セットするわよ!」

 

「「了解!!」」

 

「ごめんちょっといいクルミ?」

 

「この場では教官と呼びなさい」

 

「クルミ教官」

 

「何先生?」

 

「これどんな状況?」

 

「SRTでの訓練ですよ先生」

 

「とゆうか知らずに参加しているのか?」

 

「違うんだよミヤコ、サキ。私が聞きたいのは、何故私がSRTの訓練を受けてるんだい?」

 

「簡単なことよ。昨日先生が運動してないって言っていたから運動する機会を与えただけよ」

 

朝、朝食を食べた後にクルミから、

 

『運動するわよ!』

 

と言われ、子ウサギ公園まで半分拉致のような形で連れてかれたのだが、子ウサギ公園につくとすでに訓練の準備を終えていたミヤコとサキが待っていた。

 

FOX小隊がシャーレ所属になってから、クルミがRabbit小隊の所へ通い、先輩として後輩たちに訓練を行っていることは分かっていたが、昨晩言った運動不足という話題で、まさか自分も巻き込まれるとは思わなかった。

 

「いや、でもほら私運動って言っても、いつもの格好であんまり運動に適した格好じゃないし」

 

朝食を食べ、仕事をしようとしていた私はいつものように、黒のズボン、Yシャツに黒のベスト、白衣とどう見ても長時間運動するのには適さない格好だ。

 

「だから私はまたの機会に…」

 

「大丈夫です先生。先生の運動着はきちんと準備してあります」

 

「えぇ…ありがとうミヤコ。あれコレ私が普段使っている運動着と一緒だ…」

 

とっさに思い付いた言い訳が一瞬で霧散したため、ミヤコから新品ではない運動着を受け取る。

 

彼女は自分のサイズとは違う運動着を何に使っていたのだろうか?

 

「じゃぁ先生が着替えて準備が終わったら早速訓練に移るわよ!」

 

「「了解!!」」

 

 

「………」

 

「先生…大丈夫ですか?レッスン終了後に息も絶え絶えになって床に倒れている小学生アイドルのようになっていますが…」

 

「ダメ…乳酸が…」

 

「だらしないわね。いくら普段運動してないからってバテすぎじゃない?」

 

「大人と子供の体力に違いがありすぎるからね…」

 

「そんなんじゃいつまでたっても体力つかないぞ?」

 

「私は晩成型だからいいんだよ…」

 

流石現役の学生である彼女たちは、クルミの指定していた時間までに訓練を終わらせてなお、息を切らしておらず、サキなんかはむしろ笑顔で生き生きしている。

 

それに比べて私は2セット目の外周の時点で脱落。

 

脱落してからはRabbit小隊のキャンプ地で休ませてもらっていた。

 

「これ…明日、筋肉痛確定だ…」

 

「先生…」

 

だらしないことを言いながら寝そべる私を見下すようにクルミが呆れた視線を向けてくる。

 

今のうちにセリナに連絡しておこうか…。

 

「そういえば今更なんだけど、ミユとモエは?」

 

「ミユは任務で朝早くから出ています」

 

「松井さんのとこのおばあちゃん家の草むしりだったな。モエは…多分サボりだ」

 

「あぁ…そう…。SRTっていつもこんな訓練してるの…?」

 

「そうですね、今は学校のような設備の整ったところがないので最低限のことしかできませんが、それでもSRTではこれよりもっときつい訓練を行っています」

 

あらゆる自治区への介入を可能とし、普通では対応できない困難な任務をこなすためのエリートを養成する、SRT特殊学校。

 

そこの出身である彼女たちにとってこんなことは朝飯前なのだろう。

 

「凄いねみんな…」

 

「そうでしょう?訓練以外の他にも任務に対応するために色んな事を習っているわよ」

 

「へぇ?どんなことを習ってるの?」

 

「例えばそうね…。射撃や爆薬のような基本的なことから、地形や陣形での立ち回りとか…」

 

「先輩たちとの模擬訓練では、立ち回りを嫌って程叩きこまれたな…」

 

「その経験は今のRabbit小隊でもいかされていますがね」

 

「あとは…ハンドサインとかかしら?」

 

「ハンドサイン!?」

 

「うわ!急になんだ!?」

 

「だってかっこいいし気になるでしょ?」

 

ハンドサイン。軍隊などで手を使って味方に無言で情報を与える手段。

 

そして男子がかっこいいと思うことランキングに入っていることでもある。

 

「どんなものがあるの?」

 

「そうですね、人差し指と中指で自分の目を指さすことによってこれで『こっちを見て』という意味になります」

 

「なるほどねぇ」

 

「ちなみに先生と会うときは、心の中で私はいつもこのハンドサインをしています」

 

「なるほどねぇ」

 

「流していいの?今の情報?」

 

「最近オープンになってきたなコイツ」

 

「その他にも、握りこぶしを自分の顎くらいの高さにあげることで『動くな』、手を銃の形にしながら手をあげると『ライフル』、など様々なハンドサインがあります」

 

その後もミヤコによるハンドサイン講座は続いた。

 

 

「大体わかった」

 

「本当に分かったのか先生?」

 

「バッチリ」

 

「そしたらきちんと覚えているかテストしようかしら?じゃぁ先生この仕草は?」

 

そう言うとクルミは、左手を肩ぐらいに上げてから、手のひらを下に向け、それを水平に下におろす。

 

何かを上から押すような仕草『伏せろ』の合図。

 

「基本ですね」

 

ミヤコとサキはクルミのハンドサインを読み取り、先生の答えを待っていた。

 

「手を上から下に下ろす、何かをプッシュするような仕草……。これは『私の使っているシャンプーがきれそうだから買っておいてくれないか?』のハンドサインだ!」

 

「何その生活感が漂うハンドサイン!?そんなのあるわけないじゃない!!次はこれ!」

 

次にクルミは手で銃の形を作った後に、手を顔まで持っていき、上下にスライドさせる。

 

ポンプアクションの動きを模した動き『ショットガン』のハンドサイン。

 

「銃の手をした後に、上下にスライド……。『追撃法の手入れを手伝ってくれ』のハンドサイン?」

 

「なぜ先ほどからやけに具体的なハンドサインなのですか?」

 

「まるで実際に誰かに言われたことがあるようなリアリティね…」

 

「いやなんか既視感があって」

 

「………」

 

「…最後にこれは?」

 

手の平を相手に見せつつ胸のあたりまで持っていき横にスライド。

 

生活でもたまに使うハンドサイン『わからない・不明』のハンドサイン。

 

「『任務中は鉄帽を脱がないからな』のハンドサイン」

 

「全部私のことじゃないか!!??」

 

「サキ…あんた先生にシャンプー買わせてんの…?」

 

「違うんだ先輩…!?先生に何か足りないものあるかって聞かれたからつい!?」

 

「何も違くないじゃない!」

 

「やはり真の敵は味方にいましたか…」

 

「敵って何言ってんだミヤコ!?」

 

「Rabbit3とRabbit4が帰投次第、軍法会議ですね…」

 

「マジで止めろ!!」

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

「クルミ」

 

「…なによ」

 

「身体が動かないんだけど…」

 

「…悪かったわよ」

 

翌日。私はシャーレの仮眠室で目を覚ますと、身体の痛みを感じすぐに自分の状況を理解した。

 

身体が重く、動かすと痛い。まごうことなき筋肉痛である。

 

まだ筋肉痛が翌日に来るだけマシなのだろうか。

 

「…迷惑、だったかしら?」

 

「迷惑って?」

 

「先生に運動を強いたことよ」

 

「強いたって自覚あったんだ…」

 

「うるさいわね!どうなのよ!?迷惑だったの!?」

 

「逆切れ…?まぁいいけど、迷惑じゃないよ」

 

「本当に…?」

 

「本当だよ。私のことを心配して運動に連れ出してくれたんでしょ?実際に今は筋肉痛で辛いけど、久しぶりに運動してすっきりしたよ。それになかば、背中を叩いてくれないと自ら運動なんてしないしね」

 

「ならいいんだけど…」

 

「それにあの後も、水分補給のドリンクを用意してくれてたり、運動後のストレッチに付き合ってくれたりしたでしょ。クルミのそういう気遣ってくれるとこ好きだよ」

 

「なっ何言ってんのよ!?」

 

「ただ…次はちょっと私向けにしてくれると嬉しいかな…」

 

「もう……わかったわ。次も私が面倒見てあげる。その時はよろしくね、先生!」

 

 

「て、ことがあってね!それからも筋肉痛で動けない先生の世話をしてたんだけど…まったく先生は、私が面倒見てあげないとダメね!」

 

「あぁ…そう…」

 

お昼も過ぎ、多少、先生の筋肉痛も治まったころ。

 

クルミは屋上での哨戒任務に当たっているオトギの横で、嬉しそうに昨日今日での出来事を嬉しそうに語っていた。

 

そんな上機嫌なクルミの話を死んだ目をしながら聞いているオトギは、この言葉を小声でも、出さざるをおえなかった。

 

「………チョロい」




ブルアカF 3作目
今回はクルミ回
FOX小隊での推しはニコなのですが、なかなか書けぬ…
拙き作品ですが宜しくお願いいたします
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