「先生お願いがあるんだけど」
「んー、なんだいオトギ?」
某日。シャーレの午後3時。
先生と一緒に書類の手伝いをしていた私は、世間話も含めて先生に話しかける。
「いやさ、明日なんだけどさ、訓練を手伝ってほしくて」
「訓練?大丈夫?先生2日間ぐらい動けなくなっちゃうよ?」
「それはクルミのやってる訓練でしょ?私のはそうゆうんじゃないんだって」
「まぁ私にできるものなら協力するけど、どんな訓練なの?」
「狙撃訓練なんだけどさ…」
「それ私必要?」
「先生のためでもあるんだよ?」
「私のため?」
「だって先生スナイパーに狙われることが多いでしょ?」
「…そんな物騒な世界で生きてたっけ私」
「ギヴォトスは基本物騒でしょ?」
「否定はできない…」
先生と話しながら、私は外に面している執務室の大きい窓の向こうを注視する。
「2人…いや、3人かな…?」
「なんの話?」
「今外でこっちを狙っているスナイパーの数」
「わーお…」
捕まっていたとはいえSRT。外からの視線や気配、スコープから反射光。
様々な理由と私もスナイパーであるため、他のスナイパーの存在に気付くのは容易であった。
しかしおかしいのは、どのスナイパーも敵意がないこと。
どのスナイパーもこちらに…先生に危害を与える気がなかったため、今まで黙っていたが。
「例えば向かいのビルの屋上」
「向かいのビル?」
先生と一緒にスナイパーにバレないよう、横目で向かいのビルを確認する。
屋上では時折キラッとスコープからの反射光が輝いていた。
「ほら、狙われてるでしょ?」
「あーあれはスナイパーじゃないよ」
「え?スナイパーじゃなかったらなんなのさ?」
「あれは妖精だよ」
「…大丈夫先生?休憩する?」
「丁度いいからオトギにも教えておこうか。あれはレッドウィンター・オンセン・ムッツリ。お気に入りの望遠鏡で暮らしを覗……見守ってくれる妖精さんだよ」
「あ、知り合い?ていうか覗くって今言った?」
「24時間暮らしを見守るがキャッチコピーのセコムみたいなものだよ」
「絶対見守るの意味が違うと思うけど。じゃぁ、あっちのビルにいるスナイパーは?」
私は別のビルを指さす。そこにも誰か隠れているようだが、隠れきれずに大きな尻尾が見え隠れしている。
「あれもスナイパーじゃないよ。あれは忍者さんだよ」
「忍者…?」
「主のために人知れずこうして主に、危険がないかどうか確認してるんだね。けなげだね」
「……いいように言ってるけどソレさっきの子と同じ覗きじゃ」
「最後は…あ、あの子かな?」
「あ、うん一番隠れるのが上手かった子」
先生がさらに別のビルを指さす。
一番隠れるのが上手く私でさえ視認できていないが、敵意こそないにしろ禍々しいオーラを纏っていたため気付くことができた。
「あれは災厄の狐」
「災厄の狐!?」
「そうそう。ほら、手を振ってみ?」
先生が手を振ってみると、向こうのビルから手だけを出し照れくさそうに手を振ってくる。
「先生ヤバいよ?」
「全然ヤバくないよ。君たちが来る前は怪しい人が来たら(勝手に)追い払ってくれるし、私がピンチになると(どこからともなく)助けてくれるし、買い物のメモを机の上に置いておくと(いつの間にか)用意してくれる。そんな頼りになる存在だよ」
「先生ヤバいよ?」
これでシャーレのセキュリティを上げないのだから、生徒思いというか、肝が座っているというか…。
「あ、それで狙撃訓練だっけ?」
「…うん、実際先生にもスナイパー対策は知っていて欲しいし。私も先生に教えることで、基本をもう一回おさらいできるしでいいかなって」
「確かに必要かもなぁ…」
銃弾飛び交うギヴォトス。その中でも先生はその銃弾1発で命の危機に陥る。
自分の命を守る手段はできるだけ知っておいた方がいいだろう。
「よし、私も協力するよ。私のためにもなるしね」
「よろしくね先生!」
そうして私は先生との約束を取り付けるのであった。
「あ、そう言えばオトギ。スナイパーの人数、間違ってたよ」
「え?そんなことないと思うけど…。気配もさっきの子達以外しなかったし」
「あと1人いたんだよ、私もさっき窓を見て気付いたけど。えっと…オトギの銃借りるね」
そう言って先生は私のSRのスコープの倍率をカチカチと変え始める。
「このぐらいで見えるかな。オトギおいで」
どこかのビルに向けて、SRを構える先生。
先生に呼ばれ、私は先生とSRの間に入る。
……私のすぐ後ろに先生がいて少し恥ずかしい。
「見える?」
「…どこ?」
「一番向こうのビルの非常階段。8階ぐらいの高さかな?」
「非常階段…」
スコープの最大倍率でやっと見える程遠くのビル。
「オトギ集中して」
先生が丁度耳元で声を出すため、びくっとなるがそれを振り切るために私はよく目を凝らす。
「……………いた」
非常階段の踊り場のような場所で、匍匐前進のようにしてこちらに銃を構える人物。
長い長髪、小柄な体躯、極めつけは頭につけたウサギ型のヘッドギア。
「………何してんの、ミユ」
私がミユに気付くと、彼女は嬉しそうに手を振って笑っていた。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
『オハヨーオハヨー』
翌日、私たちは近くの山林へ訓練をしに訪れた。
着くなり私は今日訓練で使う銃や装備の点検を行う。
先生相手に訓練でも実弾が使えるわけではないので、今回はいつもの私のSRではなく、ペイント弾が出るモデルガンを用意した。
先生もごそごそと今日の訓練で使う物を装備しているようだ。
点検も無事終わり、いざ訓練開始。
の前に。
「先生、もしかして形から入るタイプ?」
「だって狙撃訓練だって言ったから…」
『オハヨーオハヨー』
私は訝し気な視線で先生を見る。
先生はまるで身体中に植物を纏った格好をしており、つまり…ギリースーツを着ていたのだ。しかも結構本格的なやつ。
「それどうしたの?」
「シャーレの倉庫漁ってたら見つけたんだよ」
「それが倉庫にある組織って何なの?」
まぁ百歩譲ってギリースーツはいい。
実際この山林ともカモフラージュがあっていて、実際の作戦にも有用だろう。
だが何よりも突っ込みたいことは別にある。
「ねぇ先生……」
『オハヨーオハヨー』
「その肩にとまっているオウムなに!?」
なぜか先生の肩にはミドリ色のオウムがとまっていた。
「狙撃って言ったらオウムは欠かせないでしょ?」
「知らないよそんな常識。見たことある?ギヴォトスで肩にオウムをのせた狙撃者?」
『オジイチャンオジイチャン』
「えーダメ?せっかく借りてきたのに」
「ダ…メだね。ダメじゃないって言おうとしたけど、ダメなとこしか考えられなかったよ」
『オハヨーオハヨー』
「こんなに可愛いのに……」
『オジイチャンオジイチャン』
「可愛さは別にいらないんだよ…。どうするのそれ?」
『オハヨーオハヨー』
「どっか置いておくしかないねぇ」
『オハヨー!オハヨー!』
「どっかって……うるっさいなぁ!!さっきから凄いうるさいんだけど、このオウム!?何とかなんないの!?」
『………………DL6号事件を忘れるな』
「こわっ!?何いきなり!?」
「あーあ怒っちゃったじゃん」
「これ怒りの感情なの!?すごく怖い!!どっか置いてきて!」
「そのうち慣れるって。じゃぁ訓練始めようか」
「…そうだね。まずは基本の対策から教えるね」
私は昨日あらかじめ作っておいた狙撃への対策について纏めた教本を先生に手渡す。
「はい、まずはコレを一通り読んでみて。都度わからないところは遠慮なく私に聞いていいから」
「ありがとうオトギ。わざわざ作ってくれたの?」
「たいしたことないよ。本当に基本だけだしね。じゃぁ先生が読んでいる間に」
私はよいしょっと用意する。
「このオウム捨ててくるね」
「生態系って知ってるオトギ?」
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「大体わかった」
「本当に?大丈夫そう?」
「バッチリ」
「そしたら次は実践訓練に行こうか」
「実践?」
「うん。これから先生はこの山林で自由に隠れてもらう。制限時間までに隠れ切れたら先生の勝ち。それを私が見つけてこのペイント弾で先生を撃てたら私の勝ち」
「かくれんぼみたいなものか」
「そうだね。でも私から隠れきるのは難しいよ~?」
「お手柔らかにお願いするね…」
・
・
・
「ん、訓練開始か」
私は手持ちのタイマーを確認しながら、自分の隠れ場所を探す。
オトギの提案した狙撃訓練。
前半は講義のように、教本を一緒に見ながら実際に隠れるお手本や狙撃からの射角などの注意点を教えてくれた。
初めて知ることも多く、とても為になる時間であった。
後半は前半で習ったことを活かす実技訓練。
15分の間にオトギから見つからなければ私の勝利だが、FOX小隊相手では難しいだろう。
だがあんまり早く見つかってオトギに失望はされたくない。
前半に教えてもらった知識を活かして隠れなければ…。
「最初はそうだな…」
せっかくギリースーツも着ていることだし、近くの木々に隠れてみるか。
残り13分。私は匍匐前進しながら、木々と同化する。
この山林は川、高台、広場で構成されているまあまあ広い山林だ。
隅々まで探すのは大変だろう。
残り8分。地面にうつぶせで隠れていると、鳥や虫の鳴き声が良く聞こえる。
普段の喧噪の中で聞かない音を楽しんでいると、カシュンという音と共に左腹部にちょっとした衝撃。
気になって見てみると私の左腹部からジワッとペイント弾のインクが赤く染みていた。
「いやー私の勝ちだね先生」
撃たれたことに気づき驚いていると、ガサガサと木々をかき分けながらオトギが現れた。
「え!?オトギいつの間に…」
「先生、ギリースーツを使って隠れるのは良かったんだけどねー?」
「どうしてわかったのオトギ?」
「簡単だよ」
オトギはほらっと言って私が隠れていた周辺を指さす。
「先生が隠れたところとギリースーツの色が地味に合ってなかったんだよ」
「あ、本当だ…」
よく見ると私のギリースーツは周りより少し薄い。
素早く隠れるために、適当なところに隠れた私の落ち度だった。
「あちゃぁ…気を付けないとなぁ」
「私の1勝だねー?」
「流石オトギだなぁ。…ん、あれ?あーインクがギリースーツ貫通して中まで染み込んじゃってる」
「え?あ、本当だ。ごめん先生インクの調整ミスったみたい…」
「いいよいいよ着替え持ってきてるし。これも洗濯すれば落ちるしね」
「ならいいんだけど…」
「どうせなら次はギリースーツ脱いでやろうかな」
「それがいいかも。普段は持ってないからね」
そう言って私はギリースーツを脱ぐ。
「ふー暑かった」
「先生その中、白いTシャツだったんだね」
「外で訓練するって言ってたからね。うへぇTシャツも赤くなってる」
「さっきインクが貫通したって言ってたからね…」
「まるで撃たれたみたいになってるね」
「いやペイント弾で撃たれてはいるんだけど。でも縁起でもないこと言わないでよ」
「ははは、ごめんごめん。着替えて訓練の続きしようか」
「早く着替えないと、今の先生の姿を誰かが見たら驚いちゃうよね」
「大丈夫だよ。ここに私たちがいるのはFOX小隊のみんなしか知らないし」
「しかもこんな山林めったに人も来ないしね!」
「「はっはっはっは!!」」
一般通過ヒナ「……先生?」
突然の来客に世界が凍る。
「ヒナ…?ヒナさん…?」
突然現れたヒナは私と目が合いながらも微動だにしない。
このまま続くかと思えたがヒナは、
バターーン!
真横にぶっ倒れた。
「ヒナーーー!!」
「ちょっと大丈夫!?倒れちゃいけないような倒れ方したよ!?」
「せんせい…せんせい…」
「私無事だから!!ほら無傷だよ!?」
どうやらシャーレに遊びに来たヒナは、残っていた小隊の面々に私たちの場所を聞き、やってきたようだ。
その後マナーモードみたいに震えるヒナを放置はできないので訓練は急遽中止。
ヒナは2週間程先生の背中に貼りついて離れなかった。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「先生質問があるんだけど」
「んー、なんだいオトギ?」
某日。シャーレの午後3時。
先生と一緒に書類の手伝いをしていた私は、世間話も含めて先生に話しかける。
「いやさ、向かいのビルなんだけどさ」
「ビル?向かいのビルがどうしたのさ」
「向かいのビルの屋上にさ、こっちを見守ってる人いるじゃん」
「……いるね」
「あれって……」
「丁度いいからオトギにも教えておこうか。あれはゲヘナ・シロ・モップ」
「………」
「新しい妖精さんだよ」
明けましておめでとうございます
ブルアカF作品5作目
ついについにのオトギ回
これでFOX小隊は全員書いたのですが
オトギむずかったー!実はオトギ回3回プロット練り直してます
それでもうまくオトギを活かしきれていない気がする…
拙き作品ですがよろしくお願いいたします