響はいるけど響の存在は薄いという……。
潜水艦内第二鍛錬室にて。
徹夜明けで変にギアが入ったキャロルによって半ば強引に行われた響の解析が始まって早三時間。
『——ッ』
『……わッ……え、えいッ!』
「——……」
シンフォギアを身に纏った響がシミュレータールームで仮想エネミーと戦っていた。
潜水艦内でもできる解析はある程度行った後、キャロルの「折角だ、戦闘データも取っておくか」の一言で響は模擬戦闘を行わされているのだ。
ちなみに、シミュレーターでは普段ならば仮想エネミーはノイズに設定されているのだが、今回は抵抗がある響のために人型でカラフルなのっぺらぼうに設定されている。
「響、動きが危なっかしい……あ! あぁ、避けれたぁ……ふぅ……」
「小日向未来、煩いぞ…………ふわぁ……」
シミュレータールームとは特殊強化ガラスを一枚隔てて隣接されたモニタールームにて、未来は心配そうな表情で、キャロルは眠そうな表情で響の模擬戦闘を観戦していた。
「ふわぁ……結社の研究施設に囚われていた時はガングニールが交代して戦闘していたというのは本当のようだな……動きが、初心者過ぎる……ふわぁ……」
「まぁ、響は別に誘拐される前も武術を習っていたワケじゃないからね……それはそうと、キャロル、凄い眠そうだね。大丈夫?」
未来は欠伸を漏らし続けるキャロルにそう問いかけながら彼女へ視線を向ける。
「……すぅ…………すぅ……」
「!」
視線を向けた先ではキャロルはリクライニングチェアに座った状態で眠ってしまっていた。肩が微かに上下に動いており、寝息も立てて深い眠りに入ってしまっているようだ。
キャロルは自身の肉体にエルフナインの魂を移植し、一つの体に二人の魂が入った特殊な二重人格者。
そのためか精神的疲労が溜まりやすいようで、魔法少女事変以降は徹夜をすることは何日もできていたようなのだが、現在は一徹が限界になってしまっているのだ。
「あらら……徹夜明けだったみたいだし、仕方ないか。えっと、毛布が確かあっちに……」
寝落ちしてしまったキャロルのために未来が毛布を探し出す。
数分後、戸棚に仕舞われていたそれを起こさないようにキャロルに掛けてあげたのと同時にモニタールームの自動式の扉が開かれた。
「失礼する」
短い挨拶と共に入室してきたのは翼であり、その手に黒い機械仕掛けの筒状の容器が握られている。
「翼さん。おは……あ、もうお昼か。こんにちは。どうしたんですか?」
「どうやら、当の本人は夢の中のようだが……キャロルがコレを貸してほしいと司令に申告したようでな。私がその配達を任されたんだ」
翼はすやすやと眠るキャロルを一瞥してここに来た理由を説明する。
そして、説明を終えると筒状の容器にパスコードを入力して開錠し、中に納められていたモノ——真紅のペンダントを取り出して未来に見せた。
「それって、確かマリアさんの……」
「あぁ、もう一振りのガングニールだ」
未来が目を見開いて見つめ、翼が懐かしそうにガングニールの名を口にした、その時。
『ッ!』
シミュレータールームにて仮想エネミーの相手をしていた響が何かを察知したのか急に動きが止まり、瞼が無意識に閉じられると……意識が切り替わり、バッと勢い良く開かれ露わになった瞳は金色に輝いていた。
『——あは♪ じゃまッ』
『『『——……』』』
雰囲気が変わった響(?)は一息で周囲の仮想エネミーを薙ぎ倒してしまうと、“ナニか”が現れたと感じ取った先であるモニタールームへ向かって駆け出し……。
『みーつっけた!』
シミュレータールームとモニタールームを隔てる特殊強化ガラスにビタッ!!と音が立つほどの勢いでヤモリのように張り付いた。
「響ッ⁉」
「立花ッ⁉」
未来と翼は響の襲来にビクッと肩を震わせて驚きの声を漏らしてしまう。
普段のオドオドした態度は何処へ、そんなガラス越しの二人のことなど気にも留めず、妙に明るい響(?)は翼が持つペンダントへ視線を向けながら笑みを浮かべながら話し掛ける。
『あはは!
「!」
『あ、ヒビキ、ごめん。もう一カケラのワタシがいたからおもわず、カッテにかわっちゃった』
「あなた……ガングニールなの? 喋れたんだ……」
軽快な口調と表情で笑う響(?)が漏らした自身へ向けた呟きから、未来は正体が意識を交代したガングニールだと察し、驚愕の表情のままマイクを入れて尋ねる。
『うん? そう……ん? おぉッ⁉ ワタシ、しゃべれているのか!』
未来からの問いにガングニールは彼女へ笑顔で答えようとし、その途中で自分が言葉を発していることに遅れて気付いたのだった。
以下は後々になって分かることである。
実は響とガングニールの融合は肉体面では完全に融合を果たしたのだが、精神面……心はそうではなかったのだ。
それは響が敵ではないと理解しつつもガングニールの『力』を無意識に恐れていたからである。そのため、響とガングニールは心身ともに完全融合することはなく、あと一歩のところで止まってしまっていた。
しかし、つい数時間前に未来の激励を受けたことで響が『力』に対する認識を改め、向き合い受け入れる決心をした。
それにより響とガングニールは残りの一歩を埋め、遂に心も一体化したのだった。
「お~! しゃべるとはこういうカンジなのか! あはは! ジブンのことばがつたわるのはいいモノだな!」
(ガングニール、昔の明るい響みた……いや、昔の響以上に明るいかも)
「……」
「あ、ヒビキ。もうすこしだけ——〈……自由に使っていいよ〉——ッ。えへへ。ありがとう!」
ガングニールはシミュレータールームからモニタールームへ移り、ギアを纏ったまま未来と翼の前で胸に手を当てて元気に独り言を話している。
よほど疲労が溜まっているのだろう。キャロルは騒がしいガングニールが近くにいるのに一向に起きる気配がない。
「ん? オマエは……ツバサか?」
『内側』での響との会話を終えたガングニールは胸から前方へ下げていた顔を上げると翼へ視線を向けて問い掛ける。
「あ、あぁ。私は風鳴翼だが……」
「おー! ひさしいな、ツバサ! むかしはカワイイしゃべりかただったのに、どうしたんだ? かたっくるしいな!」
響の口と声で、けれども響とは違う幼稚ながらもどこか知性的な口調でペラペラと喋るガングニールは翼の喋り方に対する率直な感想を述べる。
「ッ、ガングニール、お前……一緒にいた時の……奏と、共に戦っていた時のことを覚えているのかッ?」
翼はガングニールが自分のことを覚えていることを知り、先ほど飛びついてきた時よりも大きく驚いて目を見開いてしまう。
「んー? ナニをあたりまえのことを……
翼からの問い掛けにガングニールはさも当然の表情で答え、最後に響との相性の良さを自慢するかのように付け足して口にする。
「そう、か…………そっか……奏がいた記憶がアナタにもしっかり残っているのね——良かった」
ガングニールの言葉を聞いた翼は目尻に涙を溜め、無意識に素の口調に戻ってそう呟いた。
塵と化して消えた奏のことを彼女が使っていたガングニールが響と一体化した今でもしっかりと覚えていてくれた。
どんな形であれ、天羽奏という少女が確かに存在していた“証”が新たに一つ残っている事実が翼には心の底から嬉しくて堪らないのだ。
(翼さん、昨日からたまに素の口調になってる……やっぱり、こっちの翼さんも可愛い)
翼のファンである未来は頬を緩めながら目元を拭う翼を横目で見ながら、一緒にいる時は滅多に見ることができない別口調の推しに内心で合掌して喜ぶのだった。
~プチオマケ~
➀体
ガ「うーん……やっぱり、『カラダ』ってヘンなカンジだなー」
未「やっぱり慣れないの?」
ガ「うごかすのにテイコウはないけど、ワタシは『ドウグ』だからやっぱりツカわれるほうがイイかな!」
➁天羽々切
ガ「お、アメノハバキリ。オマエもひさしいな!」
[——]
ガ「あはは! そういえば、こうしてカイワするのはハジメテだったな。なんかコウハイもふえてて、オマエもツバサもいつのまにかセンパイになっててうらやましいぞ!」
[——]
➂もう一振りのガングニール
ガ「もうひとつのワタシもよいツカいテにめぐりあったみたいだな」
[——]
ガ「ワタシか? ふふふ。ワタシとヒビキはウンメイテキなデアイをしたんだ! まぁ、ヒビキからしたらサイアクなデアイだっただろうけどな……」
➃すやすやキャロル
キャ「Zzzz……」
ガ「ねてる。えいッ」
キャ「ぅ」
ガ「ほっぺ、ぷにぷに~」
未「あ、コラッ。起こしちゃダメだよ?」
ガ「はぁーい」
➄主導権の有無
翼「立花とお前、どちらの意思が強いとかはあるのか? 主導権をどちらが握っているのか、教えられるのなら教えてほしい」
ガ「んー……そのかんがえはまちがっている。イマはもう、ヒビキはワタシで、ワタシはヒビキ。だから、ワタシたちのアイダにシュジュウカンケイはなく、ゆえにシュドウケンというモノもない。かわりたいのならジユウにかわることができるぞ」
翼「成程……仲が良いようで安心した」
ガ「あはは♪」
頭の中で宙ぶらりんな小ネタを何とかくっ付けたらこんな話になってました。
翼はどうしようか悩んだ末にガングニールと話させよう!となり話を書いた結果、これ響とは交流を深められてないですね……。
ガングニールの喋り方は少しオートスコアラーの「ミカ・ジャウカーン」っぽい感じにしました。猟奇性はないです。
『響はガングニールであり、ガングニールは響である』ので彼女たちの中に主従関係というものは一切なく、今はもう同一の存在。(人間でも聖遺物でもある稀有な存在)
そのためガングニールが勝手に出てくることも、響がそれを抑え込むことも自由に可能。とは言え、ガングニールは聖遺物としての意識が強く、『使われる/振るわれる』ことが好きなので基本的に響の許可無しに交代することは“あまり”ないです。
例外は響のピンチや響が意識を失った際など、余ほどのことがあった時です。
今回はもう一振りのガングニールの気配を感じて思わず出ちゃった感じです。これくらい簡単に代われちゃいます。
ここまで読んでくれてありがとうございました!