響救出から数時間後。
巨大潜水艦——国連超常災害対策機動部タスクフォース、通称S.O.N.G.の医療施設区画にて。
医療スタッフによるメディカルチェックに加え、キャロル&エルフナインによる錬金術による身体検査を流されるがまま一通り受けた響。
新たに用意された新品の病衣に着替え、昔よりかなり伸びた後ろ髪を未来の予備の白いリボンで一つに束ねてもらった彼女は、未来に手を引かれ自分のために用意された病室の前までやって来ていた。
「えっと、パスコードは……よし、開いた。さ、響。入ろっか」
「……」
響は未来に背中を優しく押されて初めに入室する。
小綺麗な室内は個室ながらそれなりに広い空間が設けられており、電動式で大きめのベッドや小型の冷蔵庫、テーブルとソファー、モニターなどいろいろな物が設置されている。
「……すごい」
「病室っていうよりちょっとしたホテルの部屋みたいだよね」
こんなに良い病室を与えてくれるとは思ってもいなかったため部屋に入ってすぐに固まってしまった響に対し、未来は微笑みながら自分も思っていた感想を口にする。
「ここに来てからずっと検査続きで疲れたでしょ? おにぎり持ってきたんだけど、お腹は空いてる?」
未来はおにぎりが入った大きめのランチバッグを掲げて見せる。
拉致され酷い日々を過ごしていた響だが、検査の中で胃腸が弱っていることはないだろうと医療スタッフから診断が出たのだ。
なので、未来は響の大好物であるお米を食べさせてあげようと検査が終わるまでの間に食堂を借りて愛情をマシマシで込めておにぎりを握ってきたのだった。
「……おにぎり……ぁ///」
響がランチバッグに視線を向けると同時に彼女のお腹から、くぅー、という可愛らしい音が鳴る。
「ふふ、お腹空いてるね。じゃあ、食べよっか!」
「……うん」
食欲があることが分かった未来は響をテーブルまで移動させてソファーに座らせる。
次にランチバッグから使い捨てのお手拭きを取り出して響に手渡し、響が手を吹いている間にテーブルの上にアルミホイルで包んだおにぎりを並べていく。
「これが塩おにぎりで、こっちは梅干しでこれは昆布、鮭の切り身もあったから鮭おにぎりも作っちゃった。どれから食べる?」
「……えっと、えっと……じゃあ、塩おにぎり……食べたい」
「塩おにぎりね……はい、どうぞ」
未来は響が少し悩んだ末に指差して選んだ塩おにぎりを手に持つと、包装を半分まで剥がして差し出す。
「……ありがとう……いただきます」
「ふふ、召し上がれ♪」
「……あ、む」
未来に対してしっかり食前の挨拶をした響は受け取った塩おにぎりを小さな口で頬張る。
モグモグ、ごっくん。
ゆっくりと咀嚼して飲み込み、また一口、二口と響は食べ進めていく。
そして、響が食べ終えたタイミングで、未来はペットボトルから注いだ緑茶が入った紙コップを差し出しながら感想を尋ねる。
「どう? おいしい?」
「……ん……あたたかくて、おいし——ぇ?」
未来からの質問に彼女の方を向いて返そうと顔を向けた響だったが、その瞬間、無意識に涙が溢れ出して驚きの声を漏らす。
「……なんで、涙……あれ……あれ……止まらないや……」
拭っても拭ってもポロポロと溢れ出て止まらない涙に困惑しながら泣く響。その声は徐々に震え出し、流れる涙の量も更に増えていく。
響は助け出されるまでの約三年間、見知らぬ場所で自分のことを道具扱いする怖い大人たちに非人道的な扱いをされつつ、肌寒い牢屋で一人孤独に冷たい食事を食べて過ごしていた。
そんな地獄からようやく解放され、やっと再会できた大好きな幼馴染と、恐らく安全だと言える場所で、三年ぶりの温かい食事、しかも大好物である米を食べたのだ。
涙が溢れ出して止まらないのも当然だろう。
「響」
「……ぐすッ……みく?」
「もう我慢しないでいいんだよ。今は思いっ切り泣いていいの」
未来はまだ響が受けた仕打ちを知らない。
しかし、実験なのかは不明だが響の首や手足に残る装着されていたであろう拘束具が擦れて付いたと思われる赤茶色の痛々しい傷跡を見れば、彼女がどんな扱いをされていたかなど一目瞭然である。
響がどんな目に遭ってきたのか。
聞きたくないがメンタルケアなどのためには知らなければならないだろう。
だがソレはまた後日でいい。
そう考えた未来は涙を止めようと拭い続けている響に近づくと、抱きしめて我慢せずに泣いていいと語りかけながら優しく頭を撫でる。
「ッ……ぐすッ、ひぐッ——うわぁああああんッッ!!?」
未来の言葉を聞いた響は必死に涙を拭っていた手を止め、抱き締められたまま泣き始める。
さっきまでは声量が小さかった少女とは思えないほど大きな声で、体中の水分を出し尽くすほど大量に涙を流し、泣いて、泣いて、泣きまくる。
「本当に、生きててよかった…………あ」
泣き続ける響の体温を感じながら改めて生存していたことに安堵した未来は言っていなかったことを思い出し、抱擁を解いて響と向き合い微笑みながら口を動かす。
「おかえりなさい、響」
「!」
救出作戦で研究所を襲撃する前、約三年前に自分で絶対に見つけ出そうと決心した日から、響を助け出した後に言おうと思っていた言葉。
「……ぐすッ……えへ……ただいま、未来」
未来が約三年の月日を経てようやく言うことができた挨拶を聞いた響は涙で潤んだ目を見開き、そして一度涙を拭ってからゆっくりと笑みを浮かべて挨拶を返す。
それは誘拐される前の響がよく見せていた太陽のように明るい笑顔ではないが、それでも純粋で可愛らしい、未来が大好きな響の笑顔だった。
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二時間後。
おにぎりを食べた満腹感と安心感から寝落ちしてしまった響をベッドに寝かせてから病室を後にした未来は司令部に続く通路を歩いていた。
「~♪」
上機嫌に鼻歌を奏でながら歩く未来の手にはスマホが握られており、十秒に一度のペースで電源を付けてロック画面を確認し頬を緩ませるという行為を繰り返す。
未来のスマホのロック画面に設定されている画像は響の寝顔。
数分前、病室を出る直前に思い立ち、起こさないようにその場で無音カメラアプリをインストールして響の寝顔を写真に収めたのだ。
「ふふ♪ 響の寝顔かわい~♪」
何度も響の寝顔の画面を見て機嫌が上がりまくりの未来はついに嬉しさ・尊さを声に出してしまう。
(あー、それにしても…………パヴァリア光明結社、だったかな? 響を苦しめたんだから、それ相応の仕返しはしなきゃよね)
先程までのルンルンだった未来はどこへやら。
一瞬で笑顔から無表情へ切り替わった未来は響の首や四肢に刻まれた傷跡を思い出すと、
スマホを持つ手に力を込めながら心の中で新たにやるべきことを決める。
復讐……“やられたらやり返す”ことは良くないことだろう。
仲間たちもきっと止めてくるだろう。
響も喜ばないと思う。
だがしかし、嫁を傷つけられた未来本人が何らかの形で仕返しをしないと三年前から胸の奥で静かに燃え続ける怒りの炎が消えないのだ。
「——絶っ対に許さない……」
未来の口から再び言葉が漏れ出る。
それはさっきの喜色のモノとは違い、冷たく強い怒りが込められていた。
―――
――
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そんな未来の漏れ出た言葉を耳にしてしまった二名……切歌&調。
「「あわわ……ッ!?」」
後方からやって来て未来の背中を前方に見つけ声を掛けようとした切歌と調だったが、彼女の冷たい声色を聞いてしまい二人で抱き合って震えてしまうのだった。
抱き合ってばっかりの二人です。
この世界の未来さんは割と過激。だって唯一の逆鱗に触れられて(響を傷つけられて)ますから、仕方ないですね!
現在の響は、未来の白リボンでローポニーテールにしたハイライトオフ弱々ロングビッキー(病衣姿)。
精神面はボロボロ、肉体も拘束具で擦れた傷跡アリ(体も開かれてます)。
長髪の響はpixivなどで『響ママ』などと調べれば長髪響のイラストを描いている絵師さんがいらっしゃるのでそちらで見てみるとイメージしやすいかもです。
ここまで読んでくれてありがとうございました!