つよつよ未来サンとよわよわ響ちゃん(仮)   作:望月エト

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 今回は少し長くなったので二話に割って一気に出しましたので、先に一つ前の話を読んでからこちらをお読みください。
 少し間が空いた上に、タイトルが良いの思いつきませんでした……。

 励まし(叱責)、励まされるお話です。


やるべきこと、『力』の考え方、そして一段落

 

 時は少し遡り響が悪夢から目覚める十数分前。

 潜水艦内住居区の一室、未来に与えられた部屋にて。

 

「——ん……」

 

 昨夜、司令室でキャロルによって意識を落とされてから約九時間。

 未来は自室のベッドで目を覚ました。

 

(ここは……私の部屋か。みんなが運んで来てくれたのかな……あ)

「~♪」

 

 横になったまま視線だけを動かした未来はベッド脇に置かれたイージーチェアに座るクリスの存在に気がつく。

 スマホで動画を視聴しているらしく、未来の耳にも入ってくる聞き慣れた歌声と微かな歓声から翼のライブ映像だということが分かる。

 

「ん? 起きたか。おはようさん」

 

 戦士としての感か、未来の視線に気がついたクリスは動画を止めてスマホをポケットに仕舞うと、やれやれといった表情で朝の挨拶を未来へ送る。

 

「おはよう、クリス……なんでいるの?」

「はぁ……お前、昨日はメッチャキレてたからな。夜中に起きて錬金術師どもを襲撃されるかもしれねーと思ったから、センパイたちと相談して交代でお前を監視してたんだよ。で、今はあたしの番ってワケだ」

「……」

「昨日のお前、頭に血が昇り過ぎててマジでヤバかったぞ……で、一回寝て怒りは収まったか?」

 

 クリスは自身がこの部屋にいる理由を説明した後、最後に未来へそう問い掛ける。

 

「……今はね。でも、響を傷つけたあの人たちは許せない。胸の奥で怒りの感情が燻ぶってるのを感じるの」

 

 クリスからの問い掛けに対し、未来は上半身だけを起き上がらせてから視線をクリスには向けずに正面の壁を見つめながら答えた。

 その表情は暗く、しかし薄っすらと怒りが滲み出ているように見える。

 

「はぁ……別に忘れろって言うつもりはねーよ」

「……」

「まぁ、それは置いておいて……だッ」

 

 大切な幼馴染を傷つけられた未来の怒りを否定せずに聞いていたクリス。

 そんな彼女は一言置いてから突然、未来の胸倉をグイッと掴んで顔を自分の方へ強制的に向かせるという蛮行を見せる。

 

「ぅッ⁉」

「あたしの時に目ぇ覚めてくれてよかった。お前に言っておきたいことがあるから聞きやがれ」

 

 困惑する未来の瞳を見つめたクリスはいつも通りの荒い口調ながら真面目な声色で言い聞かせる。

 

「冷静になって考えてみろ。クズ共をぶっ〇すことがお前のやるべきことなのか? お前が人ゴロシになっちまったら流石のあたしたちも庇えねぇ。そんでムショとかに逮捕されることになったら、(アイツ)はまた大切な幼馴染と離れ離れになっちまうんだぞ?」

「ッ」

「……お前は大切な人と再会できたんだ……その奇跡をムダにだけはするなよ」

 

 どこか悲しげな表情でそう言ったクリスは未来の額へ目覚めのデコピンをお見舞いし、胸倉を掴んでいた手を放して踵を返す。

 

「クリス……」

 

 未来はハッと思い出す。

 クリスには大切な人……大好きな両親を内戦に巻き込まれた際に反政府ゲリラによって殺されてしまった辛い過去がある。

 未来とは違い、世界中をどんなに探しても、どんなに願っても彼女は両親に会うことができない。

 辛い過去と変えられない事実を有するクリスが放った言葉は重みが違った。

 

「……」

「ほら、もう七時だぞ。アイツ、今んとこお前にしか心開いてねーんだから、起きて一人だと混乱しちまうぞ。とっとと起きてアイツのところにいってやれ。」

「うん……ありがとう、クリス。私が本当にやるべきことが分かった」

 

 クリスなりの激励を受け、自分が本当にやるべきことを理解することができた未来。クリスの背中を見つめるその顔は先程と比べて明るく、声も憎しみ無しのいつも通りのものである。

 

「そりゃあ、上々……ふわぁ……あたしは寝るわ。流石にねみぃ……」

 

 クリスは未来の言葉に満足げに笑みを浮かべると歩き出し、大きな欠伸を漏らしながら手を振って退室していった。

 そして、ドアが閉まると同時に未来は響の病室へ向かうべくベッドから降りて簡単な身支度を始めるのだった。

 

 

―――

――

 

 

 自室を出た未来はそのまま医療施設がある区画までやって来ると、迷いない足取りで響の病室の前まで移動してきたのだった。

 

(クリスに……いや、みんなにはあとで謝らないと)

 

 そんなことを考えながら病室の扉の横に設けられたタッチパネルへパスコードを入力していく。

 

(そういえば響にパスコードを教えてなかったっけ。あとで教えておこ……あ、笑顔でいかなきゃ。昨日の私、なんか凄い顔してたみたいだし……)

 

 開錠を知らせる電子音を聞いた未来は自動式の扉の前へ立とうとしたが躊躇い、表情の確認をするべくポケットから二つ折りの手鏡を取り出す。

 

「よし、オッケー!」

 

 そして、五秒ほど笑顔の練習をした後に改めてドアの前へ立つと、未来に反応して扉が勝手に開いた。

 

「おはよう、ひび——」

「……はぁッ……はぁッ……」

「ッ⁉」

 

 開くと同時に挨拶をしながら入室した……のと同時に未来の鼻孔を酸味を帯びた嫌な臭いが刺激し、瞳はベッドの上で上半身だけを起き上がらせて苦しそうに息を荒げる響の姿を映し出す。

 

「響ッ⁉ だいじょ——」

来ないでッ!

「ッ」

 

 

 明らかな異常事態に未来は苦しそうに震える響の元まで駆け寄ろうと一歩踏み出す。

 しかし、再開してから初めて聞く本人の大声による制止の訴えによって彼女の足は止められてしまう。

 

「……来ちゃ、だめ……」

「……どうして?」

 

 涙声で近づくことを拒む響に対し、十数分前のクリスとのやり取りがあったためか未来は焦ることなく冷静に尋ねる。

 

「……わたし……未来を、傷つけちゃう……かもしれない、から」

「……」

「……思い出したの……わたしのからだ、普通じゃない……この手は……いろんなものを壊して、人を傷つけちゃう……」

 

 響は未来から視線を外し、自身の吐瀉物で汚れた両手を見つめながら辛そうに涙を流す。

 

(思い出した? 何を? いやそれは置いておいて、響の体……普通じゃない……ガングニールのことかな……)

 

 未来は心の中で響の発言内容から彼女が苦しんでいることを想像しつつ、気づかれないように数ミリ単位でじりじりとベッドへ近づいていく。

 

「……わたしなんか、助けられちゃダメだったんだよ……わたしは未来の傍には……いや、そもそも、生きてちゃダメなんだ……」

「ッ!」

 

 更に大粒の涙を流し、響の胸の奥から湧き上がってくるのは罪悪感と絶望。

 それが言葉となり響の口から苦しげな声となって漏れ出してしまう。

 

「はぁー……すぅー……——」

 

 響の言葉を聞いた未来は慎重に動かしていた足を止め、酷い臭いなど気にせずに勢い良く肺一杯に息を吸う。

 

「——響ッ!!!!

「ッ⁉」

 

 未来がとった行動は、響に対する一喝。

 その強烈な行為は負の感情に苛まれ俯いてしまっていた響の顔を反射的に跳ね上げることに成功する!

 

「……」

「……み、未来?」

 

 大声から一転、無言になった未来はそのまま唖然とする響の元まで彼女の目を見つめながらズカズカと歩み寄る。

 

「響」

「……あ、あぅ……」

「言いたいことがいっぱいあるけど……とりあえず、なんでそんなこと言いだしたのは聞かせて」

返事!

「ひゃいッ……え、えっと……その……」

 

 有無を言わせない未来からの一喝と圧により負の感情が吹っ飛んでしまった響は裏返った声で返事をすると、ポツポツと拒絶した理由を話し始める。

 悪夢を見たこと。

 それが研究所で実験体として過ごしていた時の記憶であったこと。

 その中で小さく無垢な命を奪ったこと。

 その悪夢が引き金となり、他の実験体たちと戦闘実験を受けさせられ相手を傷つけてしまったことなど、先程からずっとそんな嫌な記憶が止めどなく思い浮かんでしまっていること。

 響はベッド脇に腰を下ろした未来に見守られながら辛く苦しいことを全て話し尽くす。

 

「そう……ガングニールと融合したせいで力が強くなっちゃってるのね」

 

 未来もまた昨夜、司令室にて皆と一緒に諸々の検査結果を聞いたこと。

 その次にガングニールと完全に融合してしまっている事実を知っていることを響に話した後に、成程と理解した内容を口に出した。

 

「んー……でも昨日は私に普通に触れられてたし、ここに来てからも物を壊すようなことはなかった。だから、たぶん制御はできてるんじゃないかな?」

 

 半日前、響を研究所から救出した時から今までの様子を思い浮かべ、未来は気にせずとも問題はないのではないかと言うが当の響は納得できない様子。

 

「……で、でもッ……もし力加減を間違えて、未来や他の人たちを傷つけちゃったら……私……」

 

 響は再び自身の吐瀉物で汚れた両手に視線を落とすと、最悪の未来を想像し顔を青くしながら不安を吐露する。

 実際に力加減を誤ってしまった結果を既に知っているせいか、恐怖が再び湧き上がってきてしまいまた震え出してしまう。

 そんな響に対し、未来は慈しみに満ちた表情を浮かべながら距離を詰めて更に少し近づいた。

 そして、吐瀉物など気にせずに彼女の手を包み込むように握り締めて諭し始める。

 

「確かに響のこの手は誰かを傷つけてしまうのかもしれない……けど、今みたいに最初からそう思って震えているだけでいるのはダメだよ」

「……」

「昨日はガングニールが勝手に出てきてたみたいだけど、響の意志でもガングニールの力……シンフォギアを扱えるの?」

「……しんふぉぎあ……う、うん……できる……ガングニールが教えてくれるたから……」

「そう……ガングニールは響が求めて手にした『力』じゃないけれど、それはもう響の中にあって、響が扱えるもの……なら、それをどう使うかは響が決めるべきだと思う」

「……私、が?」

 

 未来の言葉に雷に打たれたような衝撃を受け、響は思わず目を見開いてしまう。

 ライブ会場の悲劇の際に胸にガングニールの破片を受け、その後、誘拐からの体を弄られてガングニールと完全に融合を果たし、常人ならざる『力』を運命が重なるという半ば無理やりな形で手にしてしまった。

 響にはこの並外れた『力』に対しての感情は恐怖しか抱けない。

 辛くて大変な怒涛の日々を送る中で響は一度もコレと向き合おうとしなかったのだ。

 向き合っても意味がないと、振るえばただ誰かを傷つけるだけの『力』にそんなことをする意味はないのだと思っていた。

 しかし、それは響が勝手に思っていただけのことだった。

 

「確かに強過ぎる『力』は怖いとは思う。でもね、これは師匠(センセイ)の受け売りなんだけど、どんな『力』もそれそのものは無害なものなの。それを扱う人によってもたらされる結果が良いものにも、悪いものにもなるんだよ」

「!」

 

 “使わない”という選択肢だけを取る必要性はどこにもない。

 仮に誰かを簡単に傷つけ、積み上げてきたものを壊すための『力』だとしても、その強さを別のところで活用してもいいのだ。

 未来の言葉を受け、響は理解する。

 自分の中の『力』がどんなに強大でも扱うことが可能ならば、己自身で使い方を決めるべきなのだと。

 

「響のこの手は誰かを傷つけたり、ものを壊すことしかできないワケじゃない。きっと誰かを助けたり、大切なものを守ることだって絶対にできると私は思うな」

「……なんで……なんで、未来はそう言い切れるの?」

「ふふ。だって響は誰かを想いやることができる、命を大切に想える私の自慢の幼馴染(優しい子)だもん」

 

 優しく穏やかな口調でそう言うと、未来は微笑みを浮かべる。

 未来は響の優しさを理解し、信じている。

 そもそも響が身に余る大き過ぎる『力』に対して恐怖心を抱けていること自体が彼女の優しさの証明なのだ。

 誘拐に人体実験、そして聖遺物との融合という濃い三年間を過ごしているのにも関わらず、響は自分の苦しみよりも誰かを傷つけてしまうことを気にしている。

 傷つけてしまっても自分は悪くない、と踏ん反り返って不貞腐れるのは簡単だ。

 けれど、響は辛い体験をしてもそうなることはなく、自分が奪ったラットや傷つけてしまった他の実験体たちを想いやっている。

 人型聖遺物と化そうとも、性格が控えめになろうとも、今の響も未来が昔から知っている優しい女の子の響なのだ。

 

「……でも……私にできるかな……また誰かを傷つけちゃったら……」

「まぁ、最初は不安だよね。慣れないことだろうし、失敗もするかもしれない……でも、大丈夫。そうならないように私がずっと傍にいて見守って、もし響が誤って力を使ってもすぐに止めてあげる」

 

 自分が付きっきりで傍にいるので力の使い方を誤ってしまっても周囲に被害を出させない。失敗しても次に活かせる経験にさせると未来は豪語する。

 

「……でも未来に負担が……それに、その……」

「あ、私だと力不足だと思ったでしょー? 心配しないで! 私、三年前からいっぱい鍛えてて、ちょっと……いや、かなり強いんだよ? お月様(の破片)だって壊せれるんだから♪」

 

 未来は手を一度放すと「ふふん♪」と鼻を鳴らしながら、響に向けて腕を曲げて力こぶを作るジェスチャーを見せた。

 

「……あははッ……なぁに、それ」

(あ、冗談だって思われた……本当にやったことなんだけどなぁ。どうしよう……言った方がいいかな。うーん……まぁ、今すぐ言うことでもないから、いっか!)

 

 約一年前、フィーネによって引き起こされたルナアタック。

 それを翼、クリスの三人で特殊なリンカーを用いることでエクスドライブを発動して、地球へ落下する月の破片を破壊することに成功し、未来たちは事情を知る者からは英雄と言われるようになった事件。

 その事実を響が知ることになるのは、もう少し後のお話……。

 

「ふふ」

 

 荒唐無稽な話だったが故に未来の冗談だと思い響は笑みを漏らす。

 その笑い方が少しだけ昔の、諸々の悲劇の前はよく見せていた彼女らしいものだったため、それを見た未来もまた自然と笑顔を浮かべ、二人で手を握り合いながら暫く笑い合う。

 

「……未来」

「なぁに?」

「……ありがとう……私、頑張る」

「!」

「……あ、その、言ってなかったから……昨日、あそこから助けてくれたのと……今日、『力』の考え方を変えてくれて……なんか、ちょっと気持ちがスッキリ……した気がする」

「そっか……ふふ。それならよかった♪」

 

 響からの感謝の言葉と自分のお陰で気分が良くなったという報告を聞き、未来は更に笑みを強めて噛み締めるように明るい声色で返事をする。

 今から約一時間前に未来がクリスに言った「自分が本当にやるべきこと」。

 それはまだ不安定な響の傍に立ち、病める時も健やかなる時も常に隣にいて見守り、支えること。

 今日はそれの開始日。

 そして、響もまた自分が得てしまった強大な『力』と向き合うことを決意した、二人にとって一つのターニングポイントとなった朝だったのだった。

 

 

―――――

――――

――― ~オマケ~

――

 

 

「……ところで……『力』を良いことに使うって、具体的に何をすればいいの?」

「え? あ……うーん……とりあえず師匠に相談、かなぁ」

「……センセイ……知らない人……うぅ……」

(まずはここの人たちに慣れてもらわないといけないかな)

「……が、頑張るって決めたから……未来のセンセイだから、大丈夫……大丈夫……」

「ふふふ。まぁ、まだいろいろとやることが山積みだけど、とりあえずは……」

「?」

「響、体汚れてるし、お風呂入ろっか!」

 




 急用と体調不良が重なって少し遅くなってしまいましたが、なんとか書けました。
 久しぶりに少し長い文章を書いて途中からよく分からなくなったり、最後は雑に締めちゃったりしましたが、書きたいシーンは書けました。
 この話でシリアスパートは一時的に終えて、次からは他キャラたちとの絡みを描くほのぼのパートを書けたらいいな……などと思ってます。

 未来が響を支えるのはどの世界でも同じ、ということです。未来なら吐瀉物で汚れていようと苦しむ響の手を迷いなく握れるのです。
 未来さんのお陰で響が戦えちゃいます。(それは当分先ですが……)

 大切な人を失っているのは翼とマリアもなのですが、大切な人を失う気持ちに加えて、独りぼっちの悲しさと苦しさも知っているクリスを未来の叱責役として今回は選びました。

 ガングニールに意思があろうとも響が大好きなので基本的に邪魔はしないため、実は最初から響が使いたいと思うタイミングで自由に扱えます。
 未知の力ゆえに、またそれで傷つけてしまった経験があるがゆえに、響は恐怖し使うことは悪だと思っていましたが、守るも殺すも響の思うがままです。気持ちが大事。

 ここまで読んでくれてありがとうございました!
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