それいけ! 東光学園IF~高坂あおいルート~   作:赤月暁人

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第1話 渡辺世代引退

 第1991回夏の高校野球神奈川予選は金浜(かなはま)に決勝で敗れ、渡辺世代の引退式を行った。

 

 次の主将が中田になり、新チームとして結成される。

 

 練習試合を重ねながらも新チームは成長し、次の秋の大会でも結果を残しつつあった。

 

 しかし夜月(やつき)が急激な打撃不振に陥り、一人で悩んで寮で素振りを続ける。

 

「くそっ! このままじゃ俺、レギュラーどころかベンチすら怪しいぞ! そりゃあ人数がギリギリだからベンチには入れるけど……だからって甘えてられねえ!」

 

 夜月は焦りのあまりに素振りのフォームが乱れ、少し疲れが見え始める。

 

 寮長の声も届かないほど集中していて、時間を忘れるくらいには素振りを続けていた。

 

 そんな中で夜月を止めたのはあおいだった。

 

「夜月くん! そろそろ寝ないと明日の部活に響くよ?」

 

「高坂か。悪い、今ここで練習をやめたらみんなにレギュラーを取られてしまう。それだけはどうしても嫌なんだ」

 

「そっか、夜月くんは一人でプレッシャーを感じてるんだ……。夜月くんの努力家なところ、私は好きだよ。でも周りが見えなくなるほど頑張りすぎるのはちょっと嫌かな」

 

「高坂……」

 

「実は私ね、大輔くんと夏樹くんと野球をやってて、三人でトリプルエースと呼ばれてたんだ。でも私は女の子だから男の子の二人には力で敵わないって感じてて、もっと頑張らなきゃって焦ってた。でもその結果――私の肘は限界を迎え、ついに投げれなくなったんだ」

 

「高坂にそんな過去が……」

 

「本当は女子野球部を設立して、私がエースになるはずだったけど、故障しているのもあって、憧れの高校野球のマネージャーになったんだよ。だから夜月くんも自分を追い詰めすぎて壊れるところを、私は見たくないんだ」

 

 あおいの壮絶な過去を話し、夜月は思い直したのか素振りをやめ、水を飲んで休憩する。

 

 そしてあおいの頑張りすぎた結果の故障を聞き、夜月は素振りをやめることを決めた。

 

「そうか……わかったよ。今日はこのくらいにするよ。だがそれでも俺は――」

 

「やっぱりプレッシャーはあるよね、夏ではレギュラーだったんだもん、無理もないよ。夜月くん、気分転換に神宮球場に行こう? プロの試合を見て勉強になるかもよ」

 

「神宮球場? 構わないが、まさか東京神宮スワローズのファンか?」

 

「うん、そうだよ。私は小さい頃からスワローズファンで、よく応援に行ってたんだ」

 

「なるほど、俺と同じか」

 

「えっ? 夜月くんも同じスワローズファンなの?」

 

「まあな。じいちゃんに神宮に連れてってもらって、優勝の瞬間を見てから好きになったんだ。今はあまりいい調子ではないが、いつか黄金期がもう一度来るのを信じてる」

 

「わかる! 私も優勝した瞬間が忘れられなくてずっと応援してるもん! それなら話は決まりだね! 二人で神宮球場に行こう!」

 

「わかった。監督に連絡入れないとな」

 

「うん! じゃあ夏休みだし、来週の金曜日とかどうかな?」

 

「わかった、その日にしよう」

 

「うんっ!」

 

 あおいと夜月は二人で神宮球場で野球観戦の約束をし、早速監督に休みの連絡を入れた。

 

 翌日になり監督から『マネージャーちゃんとデートか? 付き合ってないとはいえちゃんとエスコートしろよ?』と茶化した返信が来た。

 

 あおいはこの返信を見て、嬉しそうに微笑んだ。

 

 神宮球場の当日になり、夜月は白いポロシャツ姿であおいを待っていた。

 

 するとようやくあおいと合流し、神宮球場へ入る。

 

「お待たせ!」

 

「大丈夫だ、俺も今来たところだ。それよりも高坂の私服、すごく似合ってるぞ」

 

「ありがとう。夜月くんも珍しく前髪上げたんだ。すごくカッコいいよ」

 

「サンキュ。じゃあ入るぞ」

 

「うん!(これって夜月くんとデート……! しっかり女の子としてアピールしなきゃ!)」

 

 あおいは夜月とデートしていると意識し始め、ドキドキしながら席に着く。

 

 東京神宮スワローズと関西タイガースの試合で、エースの館山がマウンドに立つ。

 

「高坂、スワローズは今は3位にいるが、クライマックスシリーズに行けそうか?」

 

「このペースなら行けると思う。後は主力がケガしやすいチームだからケガさえなければってところかな」

 

「だよな。スワローズはケガさえなければ強いからな」

 

「うん。あのね夜月くん、いっぱい野球の勉強しようね!」

 

「おう!」

 

 夜月とあおいはスワローズの応援をしながら野球の勉強をする。

 

 プロのプレーは高校とは桁違いなので、夜月もあおいもいい刺激を受ける。

 

 あおいはメモを取りながら熱心に試合を見ていて、夜月もバッティングの様子を見ていた。

 

「夜月くん、青木選手のバッティング方法って知ってる?」

 

「確かテニスラケットでボールを打つように、点でとらえるんじゃなくて線でとらえるんだったな。それも力いっぱい叩くんじゃなく、ボールとバットの接触時間を長くして押すように打つってやつだな。それがどうかしたのか?」

 

「実は夜月くんの今までのバッティング方法だと、力任せで押すというより当てようとしすぎて余計な力が入り、バットの軌道が遠回りしちゃってるって気づいちゃったんだ。どこかで長打を打とうとしてるんじゃないかなって思うんだけど、夜月くんはどんな考えでバッティングしてる?」

 

「えっと……とにかく長打を打って点を稼ぎやすくしたいと思ってた。あ……」

 

「やっぱりね。引退した先輩たちが長打も打てる選手が多かったし、新チームで一発があるのは中田先輩と本田先輩くらいだからね。夜月くんもパワーがあるからそれでプレッシャーに感じちゃったのかも」

 

「そうかもな。自分らしく打つって意識を忘れてしまうとはな……高坂、ありがとな。お前がマネージャーでよかったよ」

 

「ううん、夜月くんがスランプから抜け出せてよかった!」

 

 夜月はあおいの言葉をヒントに本来のバッティングを取り戻す。

 

 夜月はパワーだけでなく技術も本来はあるのだが、新チームに長打を打てる選手が少ないことで、ある程度打てる自分が頑張らないとと力が入っていたのだ。

 

 その事を知った夜月は自分らしいバッティングを思い出し、あおいに感謝を伝えた。

 

 するとその参考になった青木選手が放った打球が客席に飛んできて、あおいを目掛けて行った。

 

「高坂! 危ないっ!」

 

「きゃっ!?」

 

 夜月はファールボール対策に持ってきたグローブを取り出し、ファールボールをキャッチした。

 

 しかし急だに立ち上がったのでバランスを崩し、そのままあおいを押し倒すような形で倒れた。

 

 慌てて起き上がろうとすると、夜月の左手に何やら柔らかいものが当たった感触がした。

 

「何か当たってる……?」

 

「あ、あの……夜月くん……」

 

「え……!? うわっ! わ、悪いっ!」

 

「う、ううん。大丈夫……わざとじゃないって知ってるから……。それよりも、守ってくれてありがとう……」

 

「あ、ああ……(高坂のやつ、あんなに柔らかく……いやいや、嫌らしいこと考えるな! マネージャーだぞ、部内恋愛は怖いって!)」

 

(守ってくれた夜月くん、すっごくイケメンだった……。顔も近かったし、ドキドキしたよぉ……! それにあの体、男らしくてカッコいいよぉ~……)

 

 二人はファールボール以降はドキドキして、井互いの顔を見ることができなくなっていた。

 

 それでも試合は進み、結果はスワローズの逆転勝利となった。

 

 神宮球場を後にして夜月と高坂は寮に戻る前に夕食を食べるために洋食店に入る。

 

 食事しながら試合の様子を話し、夜月にとっていい刺激となった。

 

 寮に戻ってそれぞれの部屋でベンドに入り、そのまま眠りについた。

 

 翌日、夜月のバッティングは何かつかめたのか調子を取り戻した。

 

「ふむ、夜月もバッティングの調子が戻ってきたな。誰か参考になった選手でもいたか?」

 

「はい、スワローズにいる青木選手のゾーンで打つっていうバッティング方法がヒントになりました」

 

「そうか。君の本当のバッティングはパワーと技術の両方が兼ね備えていたんだが、新チームの長打率の低さからか、長打をそれなりに打てる君は俺が俺がって焦ってしまったんだ。君は頭がいいからあえて言わなかったが、高坂のおかげで気づけて良かった」

 

「高坂には感謝してます」

 

「ところで夜月、君は高坂に何かしたか? あの子、夜月を見る度に顔を赤くするんだが?」

 

「べ、別に何も……」

 

「まあ高坂も『何でもない』って言ってたし、何かしたわけでもないか。とにかく、復活してよかったよ! これからも新チームの一年の代表として引っ張ってくれ!」

 

「はい!」

 

 あおいのサポートのおかげで夜月はスランプから脱却し、そこから夜月とあおいの二人で一年生の実力アップに貢献する。

 

 天才と言われた天童もその様子を見て安心したのか、自分一人で何でもするのはやめようと思った。

 

 そしてこのまま秋の大会へ挑むのです。

 

 つづく!

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