秋の大会で県大会に進出するも、県大会の途中で尾崎と清原が喧嘩になり、それを制止する夜月は自分が主将で大丈夫だろうかと不安になった。
その結果、秋の大会で敗退し、チームの雰囲気は過去最悪なほどに落ち込んだ。
夜月は練習でもチームワークに亀裂が入ってることを感じ、とても自分ではまとめられるような雰囲気ではなくなっていた。
それも授業中でも何度も溜息を吐くくらいには引きずっていた。
その様子を見ていたあおいは、どうやって声をかけていいのかわからずに涙を流していた。
それを見ていた女子のクラスメイトは、あおいに声をかける。
「あおい!? どうして泣いてるの!? まさか夜月くんに意地悪された!?」
「そんなんじゃないよ! 夜月くんは今もこうやって一人で抱え込んで悩んでるのに、私じゃ何も力になれないの……。マネージャーとして情けなくて……何もできないのは悔しいよ……」
「そっか、野球部は今、雰囲気が悪いもんね……。私たち友達だから気軽に相談しに来てね。力になれるかわからないけど」
「ありがとう、それだけでも嬉しいよ」
あおいはクラスメイトに心配され、このままではいけないと思っていた。
しかし夜月は一人で抱え込んで悩みやすい性格なので、あおいは何としても力になりたいと思っている。
練習の時間が訪れ、今も連携の声がバラバラで統一されていない。
そのせいでエラーも続いていて、盗塁失敗も多くなっている。
それでも榊と川口、松田、津田は声出しを頑張っていて、夜月はこいつらに負けないように声を出そうとする。
「みんなもっと声を出せー!」
「そんな空気で野球なんてやりたくないぞ!」
「空元気でもいいから気合入れていくぞ!」
「おー!」
「お前ら……!」
「夜月、お前また一人で抱え込んでいるぞ。俺たちチームメイトを少しは信じてくれよな? これでも俺たちはお前の声を頼りにしてるんだからな」
「悪いな榊、前の試合のトラブルですっかり弱気になっちまってた」
「お前がいないと俺たちはチームとしてもっと崩壊してたと思う。だから夜月には感謝してるぜ。さあどんどん三振奪うぞ!」
夜月は榊の励ましで少し元気になり、あおいも榊の熱血に救われていた。
園田と山田も夜月の肩をグローブで軽く叩き、二年生たちは夜月を本気で心配していたのだ。
石黒監督も夜月が自ら立ち上がるのを期待していて、あえて何も言わず見守っていた。
全体練習を終えて自主練習の時間に入り、それぞれの課題を課して練習に入った。
自主練の時間も終わりに近づくも、夜月は今日の部室や球場の戸締りの担当なので少しだけ残る。
部室の掃除や鍵や照明の確認、そしてゴミが落ちてないかを見て戸締りをする。
全てを終えて夜月は部室で一息つくと、あおいが男子更衣室のドアをノックする。
「夜月くん、入ってもいい?」
「ああ、いいぞ」
「急にごめんね。夜月くん一人じゃ大変だと思ったから私も少し手伝ったんだ」
「だからゴミ一つ落ちてなかったし、少しだけスムーズに進んだんだな。悪いな手伝わせちまって」
「いいの、私も残ってやりたいことあったから」
「やりたいこと……? なんだそれは」
「う、うん……今から話すね?」
「ああ……」
あおいは自ら戸締り担当として残り、やりたいことのためにあえて夜月をこっそり手伝っていた。
あおいは夜月をジッと見つめ、夜月も異性と二人きりなのでドキドキする。
するとあおいは突然相談を始めた。
「あのね、私……野球部内に好きな人ができちゃったんだ。それも同い年の同級生でね、私はいつもその人に励まされてきたんだ」
「そうなんだ」
「でもその好きな人は今も悩んでいて、何も力になれない自分が悔しかった。マネージャーなのに何もできない自分が情けなくて、何度もマネージャーに向いてないのかなって悩んでたんだ。それでもその人は前を向いて努力している。だから私もマネージャーをやめずに続けようって思ったんだよ」
「高坂、何が言いたいんだ……? まさか悩んでる好きな人って……!」
夜月はあおいの好きな人がいて、その人が悩んでいるという話を聞き、最初は何が言いたいのかわからなかった。
しかし次第に話を聞いていると、何も力になれなかったことに悩んでいて、天童だけでなく榊や園田でさえあおいを励ましているところを見たことがなかったことを思い出す。
そして結論はあおいは自分のことが好きなんだと夜月は察知したが、あえて黙っておくことにした。
夜月が黙った瞬間、あおいから告白の言葉が送られる。
「夜月くん。私、高坂あおいは……夜月晃一郎くんのことが……好きです! いつも一生懸命で、誰よりもチームのことを考え、そしてマネージャーにも気を使ってくれる優しくてカッコいい夜月くんのことが好き。だから私もマネージャーとしてだけでなく、一人の女性として夜月くんをサポートしたい。だから……私と付き合ってください!」
「っ……!?」
あおいからの告白に夜月はドキッとし、そして夜月もあおいからの告白で自分もあおいのことが好きなんだと確信した。
しかしドキドキが強すぎてなかなか返事が出ず、部室は少しだけ気まずい空気となった。
あおいは返事が来ないことで自信を無くしたのか、下を向きながら部室を出ようとする。
「ダメ、だよね……。チームのことを考えて、選手とマネージャーが付き合うのは気まずいよね……。ごめんね、夜月くんの迷惑を考えないで告白なんかして……。ごめんね……」
「高坂……そんなことはない! チームのことは確かに大事だ。だけど俺も一人の男子だ。女子から告白されて嬉しいに決まってるさ。それに告白されてようやく気付いた。俺も高坂と話していくうちに惹かれていて、本当は高坂の好きな人は榊や園田なんじゃないかと不安になり、何度もあいつらに嫉妬していた。幼なじみだから二人の方がチャンスがあると思って諦めてた。だけど高坂はその二人をㇷって、俺にもチャンスがあるって思えた」
「それって……!」
「まわりくどい言い方はもうやめた。俺も高坂……あおいのことが好きだ! 選手とマネージャーの関係とか関係ない。告白されてすごく嬉しいぞ。俺なんかでよければ……これからは恋人としてよろしくお願いします」
「っ……! 嬉しい……! やっと……初恋が叶った……!」
あおいは夜月の返事に嬉しくて泣きだし、夜月はあおいに思いをぶつけるべく抱きしめた。
あおいも嬉しさのあまりに夜月に強く抱きつき、二人はこれで晴れて恋人同士となった。
二人は喜びのあまりに唇を重ね合い、ついにファーストキスをしたのだ。
ファーストキスの味はとても甘く、そして嬉しさとドキドキでいっぱいの味だった。
しかし二人ともまだ制服に着替えてないので、思い出したのか少し冷静になり着替えることにする。
「なあ高坂、俺も着替えたいけどどうする?」
「じゃあ、一緒に着替えようよ? せっかく恋人になったんだし」
「うっ……! 好きな人と一緒に着替えるとか恥ずかしいんだけど……?」
「み、見ないようにするから夜月くんも見ないでね……?」
「そうだな、カバンももうここにあるんじゃ仕方ないな……」
二人で同じ部屋で着替えることになり、お互いの着替えを見ないように背を向けて着替える。
制服に着替え終えて部室の鍵も閉め、照明を消して完全に戸締りを終える。
球場を出て池上荘へ向かうバスに乗り、バスの中で恋人らしい会話をする。
「なあ高坂、俺たち恋人になったしさ、下の名前で呼んでみないか?」
「そ、そうだね。恥ずかしいけど、いいよ」
「じゃあ早速……あおい、好きだ」
「う、うん……。私も大好き、晃一郎くん」
「なんか恥ずかしいな……」
「私も……」
「「……。」」
名前で呼び合うと二人は甘く気まずい空気になり、お互いの顔を見るだけでドキドキした。
それでも夜月は積極的にこっそり手を握り、あおいは夜月の行動に気付いて、もっとドキドキする。
池上荘に着いて二人は手を繋ぎながら戻り、夕食を食べてそれぞれの部屋へ戻った。
翌日を迎え手を繋いで登校し、授業を終えてすぐに二人で野球場へ向かった。
するとチームからこんなサプライズがあった。
二人が揃ってグラウンドに入ると、榊と園田の二人がクラッカーを鳴らす。
「「わっ!?」」
「よっ! お二人さん!」
「ようやく恋人になれたな」
「お前ら……どうしてわかったんだ!?」
「登校中に手を繋いでたら普通に目立つと思うぞ」
「それに俺たちを差し置いてあおいと付き合ったんだ。泣かせたりしたら許さないからな?」
「わかってる、あおいのことを絶対に幸せにすると約束する。そして……あおいと一緒に甲子園に行って優勝する。だからお前らも付き合ってくれないか?」
「もちろんだ! 夜月の恋の悩みももうなくなったし、俺たちはこれで野球に集中できるな!」
「さあ夜月キャプテン、ここからは全力で練習に励むぞ」
「ああ! あおい、これからも俺と一緒に野球を頑張ろうぜ」
「うん! 一緒に頑張ろうね!」
あおいは夜月が元気になったことを喜び、榊と園田の祝福もあってチームの雰囲気は少し良くなった。
あおいもいつもより声が出るようになり、夜月もいつものチームメイトに声をかけながら的確なアドバイスを送る司令塔として復活した。
そして文化祭のシーズンとなり、夜月とあおいは文化祭の準備をする。
つづく!