キャメロットからの旅行者。彼の秘密の目的とは。

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当作は、樽見京一郎先生著作『オルクセン王国史 ~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』の二次創作品です。ネタバレ要素を含みますので、WEB版読了後の閲覧を推奨します。
また、当品はフィクションでありますので、実在する人物、国家、組織などは無関係です。またそれらを貶める意図は一切ありません。閲覧時はご了承ください。



【オルクセン王国史二次創作】戦雲の匂い

 キャメロットの首都ログレス。霧の都とも呼ばれるが、詩的、あるいは情緒的なものではなく、冬場など灰色に塗り固められたときには、まことに陰鬱な気分にさせてくれる。魅力的なコンサートや芝居でもなければ、暖炉を離れようとする気力さえ奪い去ってしまう。まるで冷たい手をした幽鬼の群れのようなものだ。

 そんなある冬の日、思い切って我が友『H』と二人で、古巣の物置に当分使わないものを片付けようとしていたときのことだ。うっかり引っかけて落としてしまった物の中に、数冊のスケッチブックがあった。偶然開いたページには、なんと大陸に住む魔種族であるオークの姿が描かれていた。Hは手に取ると少し懐かしそうに眺めた。

 

「それは誰のものなんだい? オルクセンの依頼人が置いていったとか」

 

「いや、キャピュレット街に住んでいた頃の事件、いや、調査の産物さ。僕が描いたんだ」

 

「てっきり画家が描いたものかと思ったよ」

 

「そう言ってくれるとうれしいね。Wくん。おや、あの足音はH夫人がお茶を入れてくれたようだ。長い話にはならないし、休憩がてらこのスケッチブックにまつわる話でもしようか」

 

 クッキーと紅茶で一息つくと、Hはページを捲りながら、語ってくれた。

 

「この依頼は兄のMの知人である、サー・アストンからのものなんだ」

 

「へぇ、あの魔種族研究家でもある?」

 

「星暦八七六当時は、オルクセンの駐箚(ちゅうさつ)公使を後進に譲られたばかりだったんだが、新任のマクスウェル公使が持ち帰った文書が問題になった。オルクセンのグスタフ王直筆のメモなんだが、『エルフィンドを攻めるつもりは毛頭ない』というものだったんだ。だが、その後の外交文書事件、それに続いた宣戦布告と鮮やかな奇襲は君も知ってることだと思う。

 どう考えてもキャメロットが欺されたことになるんだが、それに薄々気付いていたのが外務省と前公使のアストン卿だったのさ。それで、あのメモが手に入った時点で、改めて裏取りをする方法がないかと相談されたが兄なんだ。」

 

 私が、Hの兄『M』が政府で果たしている役割について詳しく聞かされたのは、あの『設計書にまつわる事件』の最中だった。M氏は数字に対する才能から重宝され、今では外交も含めた()()()まで相談されるような立場なのだという。にわかには信じがたかったが、H曰く「時には政府そのもの」といった様子らしい。

 

「兄は相談されると、一計を案じた。オルクセンは、グロワール、アスカニア、オスタリッチ、ロヴァルナ、エルフィンドと囲まれているが、最新装備を全方向に均等に配置するような真似はしないはずだと。

 奇しくも前々年に制式化されたエアハルトM874小銃、オルクセン流に言えば、Gew74が重点的に装備されている部隊が判れば、オルクセンの()()()()()()()が自然と明らかになるだろうとね。ただ、ここからが問題だ。

 

 キャメロットは友好国だといっても手を抜かないから、当然旅行者などを装った間諜(スパイ)はオルクセンにいる。ただ、()()は目立つから、工員や鉄道員になるっていうのは不可能に近い。買収なんてしようものなら、逆に弱みを握られる可能性まであるんだ。加えて、銃の工場から駐屯地の引き込み線まで()()直通で武器が運ばれてくるものだから、貨車に何が積まれているかまでは判らない。エアハルトの工場から出る貨車を全てを新型小銃と見なすしかないかという結論になるところだったんだが、ここで僕のところへ電報が舞い込んだのさ。

 アストン卿の山荘に呼ばれた僕は、オルクセンの新式を模した銃と弾薬、そして旧式のエアハルトM861を直接目にすることができた。旧式のほうはキャメロットにも輸入していたから、簡単に準備出来たろう。

 

『おまえなら、きっと良い案を出してくれる。使えるかどうかは私が判断するから、どんどん言ってくれ』

 

 兄に、こうまで言われてはね。銃については一通りの知識はあるつもりだったが、最新式と言われると正直自信はなかったよ。

 

『この新式銃の弾薬は本物ですか?』

 

『ええ、銃のほうは流石に手に入りませんでしたが。撃てるようにはしてあります』とアストン卿。

 

 この後、数時間は色々方法を考えたものだが、やはり兄を納得させるものは浮かばなかった。見かねたアストン卿が気分転換に試射してみてはどうかと言ってくれたんだが、これが功を奏したんだ。

 先ずは新式の模造(レプリカ)。続いて旧式銃。軍医だった君には言うまでもないけど、当然、拳銃とは火薬の量が違うからね。撃つたびに大量の硝煙が立ちこめることになるんだ。だけど、僕は違和感を覚えた。

 

『アストン卿、同じサイズの小部屋を二つお借りしても?』

 

『その目は、核心を捉えたようだな』

 

『内装を駄目にしてしまうかもしれませんが、やってみる価値はあると思います』

 

 結果は明白だったよ、Wくん。数発ずつ、密閉した部屋で発砲してみると、硝煙の匂いが全然違うんだ。後に科学者が正確な分析をしてわかったことだが、褐色火薬に含まれる硫黄の量は黒色火薬の三分の一以下だった。黒色火薬の煙の刺激臭、実は主成分は硫化水素だからね。

 あとは早かったよ。オルクセンは、結構演習や射撃訓練をやるからね。小銃の大規模な撃ち合いもやるんだ。流れてくる硝煙の『匂いの濃さ』を見極めることも不可能じゃない。早速間諜(スパイ)たちに号令が出され、調査された。

 

 僕は、この機会に兄に頼んで、オルクセンに行かせてもらったのさ。美術学生としてね。そのときに持って行ったのが、このスケッチブックだよ。最初は片言だった低地オルク語もかなり上達したし、各地の駐屯地近くに宿を取って、自分なりに調査もしてみたんだ。時には酒場で兵士達の軍服の匂いを嗅いでみたりしたこともあった。

 オークたちは朴訥なところがあって、『僕の曾祖父がデュートネ戦争で亡くなった』と騙ると心底気の毒がってくれたし、肩を組んで歌ってくれたりもしたんだ。一番難儀したのはね、Wくん、何だと思う? 実は宿屋の()()()さん連中さ。僕を痩せすぎだと思い込んだ彼女たちは、朝から山盛りの食事を用意してくれるんだ。()()はそんなに食べないんだと納得してもらうのに、骨が折れたよ。『コボルトの量で』と頼むようになってからは、随分ましになったがね。」

 

 私は、酒場でオークたちに揉みくちゃにされる若かりし頃の友人を思い描いて、自然と笑顔になった。そういえば、彼の調査結果はどうなったのだろうか。気になって尋ねてみた。

 

「当時は若かったから本職並みとはいかなかったろうが、やはり猛将と謳われたシュヴェーリン将軍が率いる北部軍に重点的に配備されているという匂いはあったね。惜しむらくは、現地の食事や空気を味わい尽くすには、四週間は短すぎたことだろうか。」

 

 

 

 




あとがき



 キャメロットに会計検査係の「M」が居るなら、パン屋通りに「S」が居るだろうJK(常識的に考えて)ってことでひとつSS書いてみました。キャピュレット街は、モンタギュー街の裏返しです。どうしてロミオなの?
 ホームズの年齢ですが、ベレリアント戦役前夜で二十二歳前後になる計算になります。ヤングシャーロック。マイクロフトのほうは7つ上なので、二十九歳ですか。まだまだ若いですね。グロリア・スコット号事件が1874年らしいので、Gew74制式の年になります。

 褐色火薬や黒色火薬は実際に嗅いでみたことがないので、話の根幹が嘘っぱちであるとも言えます。成分を調べた時点ででっち上げた話ということで。リアリティは薄めということで許して頂けると。
 現実問題として、演習用の空砲が全て黒色火薬だった場合は話が成立しませんし。

 黒色火薬 = 硝石:硫黄:黒色木炭=75:10:15
 褐色火薬 = 硝石:硫黄:褐色木炭=79: 3:18

 イギリス海軍が使った『ライ麦のわら』を使った褐色火薬は、硫黄分2%だそうで、更に少ないですね。

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