ドラゴンクエスト 陰の実力者があらわれた! 作:暇乃 ゆり(お)
僕にはどうしても欲しかったものがある。それは『陰の実力者』プレイが出来る環境! 最近拾ったエルフの女の子、アルファと一緒に『シャドウガーデン』を築き、仲間を集めた。こうして僕はみんなから『盟主シャドウ』と呼ばれ彼女たちは『七陰』と名乗り、全てを我らの手中に収めるため動き始めたのだーー!
シャドウガーデン設立から3年が経った。アルファが各地から同じ境遇の子を見つけては連れ帰ってくるものだからメンバーがかなり増えている。まあ『陰の実力者』の舞台が整っていく事は問題ないから良いけどね〜。
さていきなりだけど、実は僕には2つ歳上の姉さんがいる。本来ならもう少しモブとして馴染む為に家にいて欲しかったけど、僕が5歳になる前かな。ここから北にある『ギルドメイン大陸』の『カール王国』からの使者がやって来た。姉さんの剣術の腕前が大陸を渡って伝わっていた様で騎士団の候補生として学園に招待されていた。姉さんは断ろうとしたみたいだけど使者の方が上手く丸め込んだらしく、数日後には家から荷物を持って旅立っていった。もちろんお見送りはしたけれど、涙目で睨まれたから遠くを見つめて知らないふりを通した。
僕はすっかりその事実を忘れていた。昨日父さんと母さんが15歳になった姉さんの正式に見習生として騎士団入りをしたとの手紙を貰ってはしゃいでいたのを見て思い出せたぐらい。
それでわざわざ大陸を渡り観光も兼ねてお祝いをしに行くらしい。僕としてはどちらでも良かったけれど『破邪の洞窟』って数々の『呪文』を取得可能なダンジョンがあるらしく、それを狙っている。どこか母さんたちと離れられる時があれば潜りたいな〜。
「というわけでアルファにベータ、ガンマ、デルタ、イプシロン、ゼータ、イータ、ちょっと『ギルドメイン大陸』の『カール王国』まで行ってくるから少しの間だけお留守番よろしく。僕が戻ってくるまでに何かあったら『スラりん』ボディスーツで連絡してね」
「ええ、気をつけてね」
「はい! シャドウ様も旅路にお気をつけてくださいね!」
「どうか心配なさらず。私たちがしっかりとお守り致します」
「主様、戻られるのを楽しみにお待ちしております」
「ボス、デルタもいく! デルタも行くなのです!」
「こら雌犬、主を困らせない。主、行ってらっしゃい」
「……気を、つけて」
この子たちならきっと大丈夫でしょ、僕が教えてたから自衛最低限出来るからね。あーでもガンマとデルタはちょっと心配。お互いに方向性は違えど突っ走ってしまう節があるからね。そこだけは周りの子達たちでカバーしあって欲しい。
「わぁ〜! ここが『カール王国』かぁ〜! 大きい〜!」
船に乗って辿り着いたのは『ギルドメイン大陸』西側にある『カール王国』領の港。
「うふふ、シドったらあんなに目を輝かせて」
「シドも男の子だからな! 初めて見る景色に喜んでるんだろう」
これぞモブの男の子によくある、とりあえず船とか建物とか見て「大きい〜!」って言うやつ! 完璧に決まった、これは僕のモブポイントも上がった事だろう。
それにしても本当に大きいね。前世と比べてしまえばなんて事は無いけれど景観もよく僕はこういう街は嫌いではない。だって『陰の実力者』をするのにはもってこいの美しい街だもの。
船から降りた僕たちは宮殿を目指して商店街を歩く事になった。姉さんからの手紙によると、宮殿近くにある『カール王国騎士団』の寮があるらしくそこを下宿先としているらしい。
昔こそ姉さんは荒くれ者だったけど、今は騎士団の方に揉まれて優しくなっていると良いなぁ。なんて考えていたら。
ーー風に吹かれて悪い人たちの声が耳に届く。どうやらこの街にも居てくれてるみたいだ。その事実に僕は思わず口角が上がってしまう。是非とも狩って未来の資金源にしたい!
でも父さんや母さんがいる状況でどう離脱しよっか。いつもは寝ている時に更に<ラリホー>かけて擬似睡眠薬を再現し抜け出せてる。でも今回ばかりはそうはいかない。モブとしての心得はあるつもりだ、今こそ解き放て!
「あっ! あんな所にかっこいい仮面のお兄さんが風船持って立ってる! わーい!」
「あ、こらちょっと待ちなさいーー!」
「まぁまぁあなた。初めて来た場所ではしゃいでしまうのは仕方の無い事よ。シドーあんまり遠くに行かないように〜」
「はーい!」
「シドが攫われてしまったらどうするつもりなんだ!」
「周りを見てみなさい。『騎士団』の人たちが一般の民主に紛れ込んで巡査をしているわ」
「海に面した街というのは交易が盛んで、その分犯罪の巣窟とも言われている。そんな場所だから何十人、何百人の『騎士団』の兵士さんが見守ってくれている。それにシドが向かった方向に目配りで兵士の方を向かわせているから、シドに何かが起きる事はまず無いわ」
「お、おお」
「だから私たちは買い物デートを一緒に楽しんでからクレアの元に向かいましょうか、あ・な・た♡」
「は、はい……」
「よし撒いたかな」
母さんたちは何とかなったけど、誰かが後を付けてきたから<モシャス>を使って通行人が僕の姿に見えるようにした。そこから尾行する気配が無くなったからまんまと罠に引っかかってくれたようだ。
さっきの『盗賊』たちの声はこの辺りからしたような……。
路地裏の角で4人の『盗賊』が居た。居たのはいいんだけど誰かを囲んで金目の物を寄越せと脅している。どうやら犯行現場に立ち会ってしまったみたいだね。
「だから何度も言ってるでしょう? 私はなーんにも持ち合わせがない、しがない家庭教師だと」
「そんな訳ねえ! その身なり、上級貴族か何かだろう!?」
「そうだ! 一般人がそんな洒落た服着てねえよ!」
「「そうだそうだ!」」
「これは教える立場として、最低限の身嗜みをしているまで。貴族だからとか関係ないんですよ」
「胡散臭ぇ、コイツはとっととやっちまうか!」
「とほほ、私ってそんなに胡散臭いですかね」
うーん胡散臭いね。喋り方が特に。でも『盗賊』さんたちも可哀想だ、絡んだ相手があまりにも悪いというか。
「「「「オラァ!」」」」
4人で一斉に飛び掛かっていく。でもその攻撃って案外意味ないんだよね〜。
「ほ〜〜〜〜〜〜っ!!」
眼鏡をかけた胡散臭い男は一瞬にして自分を囲む男たちを回転切りで制圧。男たちは全員意識を失って倒れている。
「これに懲りたら、恐喝なんてしないようにしましょう! って聞こえてないですよね〜」
僕の獲物だったけど今回は君に譲るよ。そう僕はスマートにこの場を去るのさ……。
「ーーそれでそこの陰に隠れている君は、私に何か用ですか?」
あれ、気配を完全に溶け込ませていたはず。見破られるなんて予想外だ。相手が相手なだけに仕方ないか。次こそは必ず欺いてやろう。
「あちゃ〜バレてましたか」
僕は少しおちゃらけながら姿を見せる。シャドウとして対応しようか悩んだけど、まだ早い気がする。ネームドキャラに正体がバレるのは彼が死ぬ間際だって相場が決まってるから。
「いえいえ、中々に素晴らしい隠密でしたよ。昔の仲間を思い出します」
「それで君は何故こんな場所に?」
「いやーなんというかたまたま迷い込んでしまった形でーー」
「なるほど、迷子ですか。なら私が表通りまで案内してあげましょうか?」
「いや結構です」
「かびーん! ですが、私は決して怪しい者ではありませんよ。 私の名前は『アバン=デ=ジニュアール3世』、勇者育成のため東西南北、色々な場所に出向き家庭教師を行っている者です!」
『シャドウ』が不在になってから私たち『七陰』のメンバーは自主訓練に励んでいた。
「ベータ、私に合わせて欲しいんだけど!?」
「合わせるのはイプシロン、あなたの方では!?」
私に2人で攻撃を仕掛けてきているベータとイプシロン。この子たちは普段から些細な事でいがみ合っている。もちろん理由はお見通しだけれども。しかし私はそれを咎める事はしない。仲が特別悪い訳でもないし、認め合ってるライバルの様な関係。仲間同士でそういった存在が居るのは互いの成長に繋がるから。
今もベータは『魔法力』と『スラりん』を使った『弓』で私を狙って矢を発射してきているが、それを利用してイプシロンは間合いを詰め手にした『鎌』で急所を突こうとしている。互いを意識しているからこその無意識の連携。
これからこの子たちにはその連携を意図して行えるようにしてもらいたいのだがーー。
「ちょっと、あなたの矢が少し胸を掠ったじゃない!」
「それだけ至近距離に居たら当たるに決まってるじゃないですか?」
まったく。仕方ない子たちね。私は剣を形作り、彼女たちに反撃をしようと静かに構える。そして視線がこちらから互いの目に移った瞬間にーー。
「ーーそこ、貰ったのです!」
意識の外、デルタの爪による攻撃。なんとか私は剣を背の方にやり爪を受け止め弾き返す。とてもいい攻撃だったけれど……。
「デルタ、不意に攻撃を与える時は声を出してはいけないのよ。それでは相手にバレてしまうわ」
「だから言ったじゃん、アルファ様は簡単には倒せないよ……って!」
上空からの奇襲。おそらく獣人特有の身体能力の高さを活かした跳躍かしら。しかしあなたもデルタと同じ様に声が漏れているわよゼータ。
『短剣』を私の首元に振りかざそうとしているゼータに向けて『呪文』を撃ち放つ。
「<バギマ>」
「くっーー!」
ゼータはすぐさま短剣を盾に変化させ私の『呪文』を防ぐ。それでも威力は殺しきれずに後方に押し出される形となったが、彼女は一旦体勢を整えるためそのまま私から距離を取る。判断能力もさる事ながら器用ね。
「やっぱりアルファ様凄いね。剣を奮いながら『呪文』の使用なんて」
「そうかしら。貴方だって同じ事が出来るでしょう?」
「……それはどうかな」
「雌猫、デルタを置いてアルファ様と戦うなーー!」
「シュシュシュシューー!」
「ちょっ、待ちなさい! デルタは兎も角、ガンマは何故ーー」
攻めあぐねていたデルタが正面から飛び出してくる。そこに周囲の警戒をイータと共に任せていたガンマも剣を手にして突っ込む。
ガンマが手に持っている剣からはかなりの『魔法力』が込められており、それがイータによって製造された物であることをすぐに理解した。
「ガンマ……私の研究してるマスターの『魔法剣』に興味を示してくれた……」
ガンマの背後からかなり離れた所でピースをしているイータ。嫌な予感しかしないわ……!
「2人とも動き止めなさい、その『魔法剣』は今にも起動しようとしてーーーー!」
私の目の前で、剣が大爆発を引き起こし言葉を遮られる。この場にいる『七陰』全員が爆風で吹き飛ばされる。
「ーームッ、この強力な『魔法力』と爆発。もしや近くで戦いが起こっているのか?」
日も暮れ始めた『魔の森』で男は確かに感じ取っていた。強者の気配を。
「南の島に行く前に寄った森。何か収穫があると良いのだが」
背中に携えた剣を抜こうと『竜』の彫刻がなされた柄に手をかける。
その時、大きな物体が地面に着弾した。
「〜〜〜〜うぅ、痛いなのです」
「……天空から獣人の娘が降ってくるとはな。奇妙なこともあるものだ」
竜の戦闘力、魔族の魔力、人間の心を併せ持つ究極の生物。その牙をシャドウガーデンへと向ける。
次回 襲来、シャドウガーデン! 最強の男登場……!の巻